第245回:ネットを「ながら見」できるアプリキャストが便利
ネットワーク機能が充実したソニーの液晶テレビ「BRAVIA J3000」



 ソニーの新型BRAVIA「J3000」「J5000」シリーズは、DLNAガイドライン準拠の「ソニールームリンク」、テレビポータルサービスの「アクトビラ」に対応し、さらにネットワーク経由で情報コンテンツを閲覧できる「アプリキャスト」を搭載した、ネットワーク機能を重視した液晶テレビだ。その機能を実際に試用した。





差別化が求められるテレビ

 これからテレビを買うとしたら、何を基準に製品を選ぶだろうか? 大きさ、価格は当然の基準として、デザイン、ブランドイメージ、液晶かプラズマかといった方式、さらに言えば最近ではフルHDかどうかといったところが一般的な基準ではないだろうか?

 ただ、こうなるとメーカーとしては次第に製品の差別化ができなくなり、価格競争に突入せざるを得なくなり、最近では1年間で2~3割ほども価格が下がる傾向にある。もちろん、価格の低下は消費者にとっては歓迎すべき事態だが、価格競争が激化し、体力勝負に陥れば、シェアが低いメーカーは市場からの退場も考慮せざるを得なくなってしまう。

 最近のフルHDの訴求は、そういった意味で低価格化に歯止めをかける付加価値の提供とも言えるが、普及サイズのテレビへのフルHDパネル搭載が進んできた今、果たしてフルHDが差別化を実現する技術と言えるかどうかも怪しくなっていきている。各メーカーともに何らかの方法で製品の差別化を図らないと、どんどん苦しい立場に追い込まれることになるわけだ。





ネットワーク機能に活路を見い出すテレビメーカー

BRAVIA「J3000」「J5000」シリーズ

 差別化と言っても、その方法はさまざまだ。たとえば、液晶テレビで高いシェアを誇るシャープは、液晶パネルの品質を「AQUOS」でブランディングすることで、差別化を図ることに成功した。一方、機能的な差別化の方法としては、東芝や日立のようにテレビに録画機能を搭載する方法もある。そして最近になって目立ちはじめたのが、ネットワーク機能の利用による差別化だ。

 本コラムでも以前に取り上げたが、東芝からはネットワークを利用してNAS録画機能や、DLNAに対応した製品が発売されている。また、今年の2月からテレビポータルの「アクトビラ」がサービスが開始され、テレビで手軽に情報コンテンツを閲覧することが可能となった。

 今回、取り上げるソニーの新型液晶テレビ「BRAVIA J3000シリーズ」も、このようなネットワーク機能を特徴とした製品の1つだ。前述したDLNAやアクトビラに対応しているのはもちろんのこと、専用のコンテンツサービス「アプリキャスト」という新機能を搭載することで、他社製品との差別化を図っている。


1,366×768のパネルを搭載したBRAVIA J3000シリーズ。今回利用したのは20インチの小型モデル「KDL-20J3000」

側面に100BASE-TX対応のLANポートを搭載。DLNA、アクトビラ、アプリキャストなどのネットワーク機能を利用できる




ソニールームリンク、アクトビラに対応

 実際に機能を見ていこう。まずは、DLNAに関する機能だが、これはBRAVIA X1000シリーズですでに搭載されていたのと同等の機能だ。同社ではDLNA対応のメディアレシーバー「ルームリンク」を発売しているが、これがテレビに内蔵されたと考えるとわかりやすい。

 同一ネットワーク上に、VAIOシリーズやレコーダーのスゴ録シリーズ、オーディオ機器など、DLNAガイドラインに対応した製品が接続されている場合、それらに保存されているデータをネットワーク経由で再生できる。残念ながら筆者宅にはソニー製のDLNA対応サーバーが存在しないため、アイ・オー・データ機器のDLNA対応NAS「HDL-GT1.0」、さらにWindows Media Player11のメディア共有機能(ファイアウォールの設定が必要)を利用してテストしてみたが、何の問題もなく、写真や音楽、ビデオを再生できた。

 具体的にはリモコンの「ホーム」ボタンを押してXMB(クロスメディアバー)によるメニュー画面を表示。ここからビデオやフォトなど、見たいメディアのジャンルを選ぶとネットワーク上のサーバーが表示される。サーバーにアクセスしてフォルダから写真やビデオなどを選べば、それがテレビの画面に表示されるというわけだ。


ビデオやフォトなどのジャンルからサーバーを選択してアクセスする方式。ソニー製品以外でもDLNA対応なら問題なくアクセス可能

 なお、サーバーにVAIOシリーズを利用した場合、フォーマット変換などによって多彩な形式のファイルを再生できるうえ、DTCP-IPによるデジタル放送の再生も可能だが、汎用的なDLNAサーバーを利用した場合、再生できる形式は限られる。試した限りでは、映像ではMPEG2、音楽ではMP3とWAV、画像ではJPEGの再生が可能だった。他の形式のデータを再生したい場合は、VAIOシリーズやソニー製のレコーダーなどを利用すべきだろう。

 一方、アクトビラの閲覧だが、これもXMBから操作を行なう。メニューからインターネットブラウザを起動すると、アクトビラのトップページが表示され、そこからリモコンでコンテンツを選択していくという手順だ。以前、本コラムで紹介したときに比べると徐々にコンテンツが充実してきてはいるが、まだ若干さみしい印象を受ける。


アクトビラはメニューからブラウザを起動すると表示される

 なお、他社製のテレビの場合、リモコンにアクトビラ用のボタンが用意されるなど、ポータルとして積極的な位置付けがなされているが、ソニー製テレビでは、あくまでもブラウザで表示するコンテンツの1つという位置づけになっている。このため、メニューなどにアクトビラという文字は表示されず(お気に入りには登録されている)、あまり目立たない存在になっている。こういったメーカーによる考え方の違いもなかなか興味深いところだ。





“ながら”が便利なアプリキャスト

アプリキャストのサービスイメージ

 このように、DLNAとアクトビラを使ってみたが、これらの機能は他社製のテレビでも利用可能な場合があり、自社内のラインナップ上の差別化という点では意味はあるが、他社との差別化というと弱い面がある。

 そこで登場するのが、ソニー独自のコンテンツサービスとして、今回のJ3000シリーズ、上位機種のJ5000シリーズに新たに搭載された「アプリキャスト」という機能だ。

 このアプリキャストは、前述したアクトビラのようなコンテンツサービスと、地上デジタル放送やBSデジタル放送のデータ放送を足して2で割ったようなサービスだ。ネットワーク上のコンテンツをテレビの画面で閲覧するという点ではアクトビラと同じだが、アクトビラのように全画面表示ではなく、データ放送のようにテレビ画面の横に情報が表示される。つまり、テレビを見ながら、同時に文字や絵のコンテンツを表示することができるわけだ。

 現状、提供されるコンテンツは、天気予報の「ウェザーニュース」、占いの「PostPet占い」、オンラインにアップロードした写真を閲覧できる「So-net Photo」、ニュースの「日経ニュース」、「Yahoo!オークション」などとなっており、このほかAmazon.co.jpと楽天による商品検索サービスも提供予定となっている。

 アプリキャストは、実質的にはコンテンツサービスだが、位置づけとしては、その名の通り「アプリ(ケーション)」となっている。このため、コンテンツは前述したYahoo!などの他社から提供されるようになっており、その開発も可能となっている。

 メリットは何と言っても、“ながら”で楽しめる点だ。アクトビラのような全画面表示のサービスは、放送中のテレビ番組との関係が排他となるため、提供されるコンテンツがテレビ番組よりも魅力的でないと、なかなか見る気になれない。結果としてネット機能は見たいテレビ番組がないときのヒマつぶし的になってしまい、その場合はPCでコンテンツを閲覧するという選択肢もあるため、なかなかユーザーに使ってもらうのが難しい。

 これに対して、アプリキャストはテレビを見“ながら”同時にコンテンツを楽しめる。XMBからアプリキャストを起動すると、テレビ画面が左側に縮小され、右側に登録したアプリが表示される(事前に選択可能)。たとえば、ニュースなら最新ニュースが定期的に表示されたり、天気予報では指定した地域の天気が表示される。Windows Vistaのガジェットとほぼ同じイメージだ。


XMBであらかじめ表示したいアプリを選択(登録)。これでアプリキャストを起動したときに、登録したアプリが画面右側に表示される

 しかも、このアプリは何段階かの表示形式を持っており、たとえば占いであれば初期表示から占いを選択すると、左側に全面表示され、さらに選択するとブラウザを使ってサイトへとアクセスする(携帯サイトへの誘導もある)。


占いアプリを選択すると、占いの内容が表示され、さらに選択するとブラウザを使ってサイトへとアクセスする

 筆者宅では、ケーブルテレビのコンテンツサービスを利用して、よく天気予報のチェックをするが、この場合、見ているテレビ番組を中断せざるを得ず、表示にも時間がかかる。しかし、アプリキャストはテレビ番組を中断することなく、さっと必要な情報が表示される。これは考えていた以上に便利だ。

 しかも、アプリからサイトへの誘導経路がしっかりと考えられている点に感心した。3次元バーコードによる携帯電話サイトへの誘導も考慮されているなど、単に情報を提供するだけでなく、その後の展開まできちんと考えられている。確かに、アプリキャストから現在テレビで放送されている商品の検索ができたり、その商品を購入できるとなれば、これは利用される可能性が高いだろう。


 唯一の欠点は起動が面倒な点だ。現状はXMBからアプリキャストを起動する必要があるため、リモコンでホームボタンを押し、メニューからアプリキャストをわざわざ選ばなくてはならない。リモコンにアプリキャストボタンを用意して、サッと情報が表示できるようにしてほしいと感じた。


シンプルで操作しやすいリモコンだが、できれば「アプリキャスト」ボタンを用意して欲しかった




混沌としてきたテレビ向けコンテンツ市場

 ソニーの新型液晶テレビBRAVIA J3000シリーズを利用してみたが、同社独自の機能である「アプリキャスト」は、思いのほか便利で、これなら普段も使えるという印象を受けた。通信と放送の融合などという言葉が言われ続けている中、このアプリキャストによるテレビ画面への通信情報の配信とサイトへの誘導は、かなり現実的で、しかも実用的なアプローチと言える。

 まだコンテンツが少なく、コンテンツの表示が面倒(XMBから起動する必要がある)なのが欠点だが、今後、コンテンツが増えてくれば将来的な発展の可能性は非常に高いと言える。むしろ、コンテンツ事業者側は積極的に参入したいと考えるのではないだろうか。


 ただ、その一方で、テレビ向けコンテンツ市場はすっかり雲の中に突入してしまった印象だ。せっかくアクトビラという共通の方向性が見えてきたかと思ったら、その一方で、こういった独自の方向性を各メーカーが捨て切れていない。ユーザーにしてみれば、一体、どのサービスを使えば良いのか、その選択に迷ってしまうだけだろう。

 もちろん、理想はアプリキャストのような機能がメーカー共通の規格として採用されていくことだろう。その方が利用者にとっても、そしてコンテンツを提供する事業者にとってもありがたい。しかし、これは一方で、冒頭で触れた差別化を難しくする原因でもある。各メーカーがこのジレンマをいかに解決していくのが興味深い。


関連情報

2007/5/22 11:11


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。