第272回:ビデオチャットの新しい用途を開拓できるか?
「Skype 3.6」と200万画素Webカメラで実現する高画質ビデオチャット
VGA表示、30fpsの高画質ビデオチャットに対応したSkype 3.6と、200万画素クラスの高画質Webカメラの登場によって、ビデオチャットの新しい用途が見えてきた。いわゆる「Fece To Face」のコミュニケーションだけでなく、“モノ”を介した新しいコミュニケーションの登場だ。
●Face To Faceから“モノ”を介したコミュニケーションへ
Webカメラを使ったビデオチャットを実際に利用している人はどれくらいいるだろうか? 筆者もそうだが、過去に使った経験はあっても、日常的に利用している人はあまり多くはないのではないだろうか?
理由は単純で、「相手がいないから」に尽きるだろう。恋人同士ならまだしも、家族でも顔を見て話をするというのはなかなか照れるものだ。まして仕事でということになれば、むしろ顔が見えない方が話を進めやすい場合もある。
とは言え、顔を見ながら会話をする、いわゆる「Face To Face」のコミュニケーションが欠かせないシーンは、実生活では数多く存在する。
たとえば筆者の場合、先週の火曜日の朝がまさにそうだった。今や大抵の用事はメールベースで済ませることができるのだが、たまにどうしても会って話をしたいというケースがある。代表的なのは書籍などの紙媒体の仕事で、紙面のラフイメージ(仮にレイアウトを組んだもの)を見ながら、「ここにはどんなネタを書くか」「ポイントとして何を伝えるか」「このイラストはどうするか」などと言いつつ、その場でメモを書き入れながら打ち合せをする。
PDFをPCで見ながら電話で「何ページの右上の……」などと打ち合せをすることもできるが、こういったコミュニケーションは実際に会って話をする方が手っ取り早いし、コミュニケーションミスによる誤解なども発生しにくい。
そう考えてみると、前述したようにいわゆるテレビ電話的な顔をつきあわせたオンラインのコミュニケーションというのはなかなか実現しにくいが、こういった”モノ”を介したコミュニケーションは前述したビデオチャットに向いているのではないだろうか? と思えてくる。ラフを見ながらの打ち合せがオンラインでできれば、時間と労力をそれこそ大幅に節約できそうだ。
もちろん、これまでのビデオチャットでも、カメラでモノを映せば同様のことはできた。しかし、詳しくは後述するが、ここには画質という大きな問題があった。それが新しくリリースされたSkype 3.6、および高画質化した200万画素のWebカメラによって現実的になってきたというわけだ。
●高画質ビデオチャット対応ソフトとWebカメラで実現
今回登場したSkypeの最新版である「3.6」の最大の特徴は、新たにVGA、30fpsの高画質ビデオチャットに対応したことだ(Mac版は2.7で対応)。
もちろん、この高画質ビデオチャットはソフトウェアだけでは実現できず、ハードウェアの環境も整える必要がある。具体的には、ロジクールの高画質なWebカメラが必要になる。たとえば、今回取り上げたロジクールの「Qcam Orbit AF」や「Qcam Pro 9000」などは200万画素のCMOSを搭載しており、最大1,600×1,200のHD映像を撮できる(このほかカールツァイス社製レンズの採用やメカニカルトラッキングなども搭載している)。
Qcam Orbit AFに付属のソフトウェア。静止画や動画を撮影することも可能。解像度でHD(960×720)なども選択できる |
解像度が高いということが、どんなメリットがあるのかというと、ここで先ほどの話に戻る。つまり、”モノ”を鮮明に映し出すことができる点だ。
これは実際に映像を見ればすぐに理解できる。たとえば、以下はいくつかのサンプルを従来のWebカメラとQcam Orbit AFで比較した結果だ。なお、従来型のWebカメラにはマイクロソフトの「Lifecam VX-6000」を利用した。マイクロソフト製のWebカメラにも200万画素の高画質製品は存在するが、今回は画素数の違いによる比較をするためにあえて動画130万画素(静止が500万画素)の解像度の製品と比較している点はご理解いただきたい。
左側がロジクールのQcam Orbit AF、右側がマイクロソフトのLifecam VX-6000の映像。拡大画像を見るとその違いがよくわかる |
サンプルを見ればわかるとおり、従来型のWebカメラを利用した場合は全体的にぼやけた印象の映像になってしまっているのに対して、Skype 3.6にロジクールの高解像度カメラを組み合わせた場合、全体にシャープなイメージの非常にくっきりとした映像が得られた。
これにより、たとえば印刷物(画面はA5サイズの小冊子)のサンプルでは文字がはっきりと判別でき、携帯電話のようなモノの映像でも画面やボタンの文字などを判別可能となっている。
この違いは、まるでアナログ放送とハイビジョンのデジタル放送の違いのようだ。はじめて見たときに、今までとは比べものにならないほど美しい映像に驚き、それを一度でも体験してしまうと元に戻るのがイヤになってしまうほどだ。
なお、同じカメラをWindows Live メッセンジャーで利用した場合のサンプルも参考として掲載しておく。画面サイズが小さくてわかりにくいが、Skypeを利用した場合ほどではないものの、この場合でもロジクールの高画質Webカメラを利用した方が画質が鮮明となった。
左側がロジクールのQcam Orbit AF、右側がマイクロソフトのLifecam VX-6000。Windows Live メッセンジャーでもSkypeほどではないが高画質に表示される |
●高画質化でさまざまな活用が可能に
このようにビデオチャットで鮮明な映像が得られるようになると、前述したラフイメージを見ながらの打ち合せなどのほかにも、さまざまな活用ができそうだ。
たとえば、ショップの店員にカメラごしに商品を見せて貰いながら買い物をするといったように、オンラインショッピングの活用に利用するのも良いだろう。もっと言えば、試作品や芸術作品といった複製できない”モノ”についてのビジュアルと意識を共有するというのにも使えそうだ。
造花の置物を撮影。左側がQcam Orbit AF、右側がLifecam VX-6000の映像。若干構図が異なるが、やはり高画質Webカメラの方が細部まで忠実に表現される |
もちろん、質感までは伝わらないので、最終工程としては人の五感に頼らざるを得ないかもしれないが、ある程度モジュール化された製品開発などに利用すれば、工場などで作った試作品をオンラインでチェックして、その場で修整するといった使い方もできるだろう。そうすれば、実際の打ち合せや会議などの前段階のチェックプロセスに利用したり、前回の会議で指摘した部分が修正されているかを確認したい場合などに活用すれば、全体の開発期間の短縮にも役立つはずだ。
高い解像度のビデオチャットやWebカメラという技術だけでは、果たしてそれが本当に便利なのかが判断しにくいが、このような用途とメリットを考えると、マーケットは小さいかもしれないがそこには確実にニーズはありそうだ。BtoCというよりは、実際のソリューションと組み合わせてBtoB的な用途に活用するとなかなか面白いのではないだろうか?
●相手のために高解像度カメラを用意するというジレンマ
しかしながら、このソリューションには1つ致命的な問題がある。自らが高解像の映像を見るためには相手に環境を整えてもらう必要がある、もしくは自分が投資した高解像度カメラは相手のためでしかないという点だ。
高解像度のビデオチャットを利用するため、自分のPCにSkype 3.6とロジクールの高解像度Webカメラを用意しても、その映像が映し出されるのは相手側になり、自分側には相手側のWebカメラの性能に応じた映像しか表示されない。つまり、この投資に対して自分が得られる表面的なリターンはほとんど期待できないことになる。
このため、筆者の場合のように打ち合せで利用するといったように両者の間での合意が得られれそうな場合、もしくはオンラインショッピングの例のように相手(消費者)のためという一方的なメリットでかまわないという場合でないと、実際にはなかなか導入が難しい可能性がある。
とは言え、高画質化によってテレビ電話的な単純な使い方から一歩脱した応用的なコミュニケーションが実現できそうな点は高く評価したい。個人的には、ラフや書類などを写しやすいようにプロジェクター的に使える書類スタンドなどがあると便利そうだと感じたが、これなら実際に紙面を見ながらの打ち合せも十分に可能だと感じた。
用途として活用できる範囲は狭いかもしれないが、使い方次第では非常に便利な使い方ができそうだ。
関連情報
2007/12/4 11:14
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