第273回:コンパクトになったIEEE 802.11n ドラフト2.0無線LANルータ
有線LANもギガ化したNECアクセステクニカの「AtermWR8500N」



 NECアクセステクニカから最新の無線LANルータ「AtermWR8500N」が発売された。IEEE 802.11n ドラフト2.0準拠の製品だが、従来モデルから大幅に小型化され、さらにギガビットイーサネット対応を果たしたのが大きな特徴だ。その実力を検証しよう。





容量比50%のコンパクトボディ

WR8500N

 歴代のAtermシリーズの中では、今回の製品がもっともスタイリッシュなデザインと言って良いのではないか? それがWR8500Nを初めて見たときの率直な感想だ。

 本製品では従来のAtermシリーズから大きくデザインが変更されており、そのサイズも大幅に小型化されている。すでに発売されているAtermWR8400Nと比べて容量比で約50%まで小型化されているという通り、並べて比べてみるとかなりコンパクトだ。

 厳密に比べると、高さが若干低く、厚さはほぼ同等、横幅で2/3程度とさほど大きさは変わらないのだが、エッジ部分のラウンド処理が巧みなのだろうか、デザイン上の工夫により、イメージとしてはかなり小さく感じる。デザインの印象も、どちらかというと線が細く女性的だったWR78xx/66xxシリーズと、少々無骨なイメージを受けるWR8400Nのちょうど中間といったところだ。

 特に印象的なのは、アンテナレスになったことだろう。11n対応の無線LAN製品は、MIMOによるアンテナ訴求のイメージもあるのかもしれないが、とにかくアンテナが大きく、それが無骨なイメージを演出していた。

 これに対して、アンテナレスのWR8500Nは非常にスッキリとした印象となっており、家庭内に設置しておいても違和感を受けにくい。従来のWR8400Nは、リビングなどに設置することを家族から反対されるのではないかと感じるほどの大きさと外観だったが、これなら部屋の中においても馴染むのではないだろうか。素材の質感も高く、なかなか好ましいデザインと感じる。


WR8500N前面ランプ下に「らくらく無線スタート」ボタン

背面。壁掛け設置にも対応するLAN/WANポートのほかにルータ/アクセスポイント切り替えスイッチを搭載

前モデル「WR8400N」との大きさ比較暑さ比較。下がWR8400N、上がWR8500N




ギガビット対応で高速化を実現

 一方、スペック面ではギガビットイーサネットに対応した点が最大の特徴だ。側面に用意されている4つのLANポートおよびWANポートのいずれもが、新たに1000BASE-Tに対応した。

 今回のWR8500Nは、従来のWR8400N同様、IEEE 802.11n(送信3×受信3の2ストリーム)とIEEE 802.11a/b/gに準拠した製品で(2.4GHzと5GHz帯は切り替え式)、40MHz幅を利用して最大300Mbpsの通信が可能なデュアルチャネルにも対応している。このため、条件さえ整えば実効速度で100Mbpsを越えることも可能だが、従来のWR8400Nのように有線部分が100Mbpsのままでは、その実力を発揮させることができない。そこで今回有線部分がギガビット化されたというわけだ。


AtermWR8500Nの設定画面。WANポートの速度を設定可能だが、1000BASE-Tは一覧にはない。自動設定(標準)にすることで1000BASE-Tで通信可能となる

 これにより、実際の値については後で詳しく紹介するが、同社が好評しているデータによると、無線LANのスループットで約150Mbps、有線LANのFTPスループットで約770Mbpsが実現できたとしている。

 なお、このほかの仕様については、従来のWR8400Nとほぼ同等で、IEEE 802.11b/gの2.4GHz帯とIEEE 802.11aの5GHz帯を同時にサーチして最適なチャネルを自動選択する「オートチャネルセレクト」、インターネット接続回線を自動で判別して設定する「らくらくネットスタート」、無線LAN設定をボタン操作で行なう「らくらく無線スタート」を搭載。ネットスターのフィルタリングサービス「インターネット悪質サイトブロックサービスfor BBルータ」にも対応する。


無線LANは2.4GHzと5GHzの切り替え式。5GHzのデュアルチャンネルはW52のみで有効となる。チャネルのサーチが賢く、2.4/5GHzを横断的にサーチして空きチャネルを選ぶことができる悪質サイトブロックサービスも利用可能。60日間の無料体験が可能で、その後は有料となる

 さらに、ポータブルゲーム機向けにAES/TKIP対応のSSIDとWEP対応のSSIDを2つ設定できるマルチSSID機能も搭載している。これにより、WEPにしか対応しないニンテンドーDSのためだけにネットワーク全体のセキュリティレベルを落とさずに済むようになっている。現状、2つのSSIDは相互に通信できるだが、将来的にはネットワーク間の通信を遮断して隔離することも検討しているとのことだ。


マルチSSIDによってセキュリティレベルの異なる2つのSSIDを設定可能。WEPにしか対応しないニンテンドーDSなどの接続に利用できる




アンテナレスでも十分なパフォーマンスを実現

 それでは実際の環境でのテスト結果を見てみよう。木造3階建ての筆者宅の1階に親機を設置し、1階、2階、3階の各部屋でFTPによる速度を計測してみたのが以下の図だ。



 筆者宅は周辺に2.4GHzを利用するアクセスポイントが多く存在する関係で5GHz帯の方がパフォーマンスが出る傾向があることに加え、Atermシリーズが採用しているAtherosチップの特性も関係するかもしれないが、やはり今回も36chと40chを利用した5GHz帯のデュアルチャネル構成のパフォーマンスが良好な結果となった。

 印象的なのは1階の速度だろう。PUTはわずかに及ばなかったがGETで101.8Mbpsと、100Mbps越えを見事に実現している。サーバーやクライアントをチューニングすれば、さらにパフォーマンスが向上する可能性もあるが、やはりギガビット化の恩恵によって、デュアルチャネルの実力が存分に発揮されるようになった。

 遮蔽物があったり、距離が遠くなった場合のパフォーマンスも良好で、筆者宅では2階(床を1枚)でも2.4GHzで70Mbpsオーバー、5GHzで90Mbps前後の速度での通信が可能となった。3階になるとさすがに速度は低下傾向になるが、それでも最大で70Mbpsオーバーでの通信が可能だった。

 ちなみに、従来モデルとなるWR8400Nと比較した場合の速度は以下の通りだ。いずれの場所でも従来モデルを凌ぐパフォーマンスが発揮できており、アンテナレスと言えども同等以上のパフォーマンスが実現できていることがわかる。

機器フロア2.4GHz 11n(7ch+11ch)5GHz 11n(36ch+40ch)
GETPUTGETPUT
WR8500N1F95.483.3101.899.5
2F76.371.686.491.6
3F46.840.261.173.9
WR8400N1F73.369.591.676.3
2F57.358.466.459.5
3F47.740.959.554.5
※サーバーにはAMD Sempron 2600+/RAM2GB/HDD400GB搭載PCを利用。OSはWindows Home Server、IISのFTPサーバを使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad T60(CoreDuo T2400/RAM2GB/HDD160GB)、Windows Vista
※コマンドプロンプトからFTPによるPUT/GETを実行し、極端に高い値と低い値を除いた5回の平均を計測
※クライアントの無線LANアダプタはいずれもAterm WL300NC


 アンテナがないと、どうしても電波が遠くまで届かないのではないかと不安になってしまうが、本製品ではその心配はあまりしなくて良さそうだ。





そろそろ11nも実用段階へ

 このように、11n ドラフト2.0対応の新Atermをテストしてみたが、基本的な使い安さや機能の高さはそのままに、製品としての完成度がさらにワンランク向上した印象だ。

 個人的には、ゲーム機やPCは2.4GHz、映像配信サービスなどのSTBは5GHzと使いわけたいため、やはり2.4GHzと5Ghzの同時利用ができる製品が欲しいのだが、コストを考えると現状では切り替え式を選ぶ方が効率的だろう。

 いずれにせよ、11n製品はドラフトと言えども、その互換性や安定性がかなり高くなりつつあり、まだハイエンド機中心とは言えPCへの内蔵も増えつつある。また、今回のWR8500Nのように、デザイン上の工夫がなされた製品も登場したことで、ようやく一般的な家庭でも使える実用段階に入ってきたと言える。

 そろそろ11n製品を中心に無線LANを選んでも良い時代になってきたのではないだろうか。


関連情報

2007/12/11 11:09


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。