地図と位置情報
3次元人流データで「すごい世界が見られる」という話になりがち→実は「2次元の分析精度が上がる」。“階層分離”技術として明確に
国土交通省が成果報告会
2026年3月18日 06:55
スマートフォンからユーザーの許可を得て収集される位置情報ビッグデータをもとに生成される“人流データ”。この人流データは2次元(緯度・経度)の位置情報であることが一般的だが、近年ではこれに高さ情報を加えた“3次元人流データ”を活用する取り組みが始まっている。
国土交通省では、地理空間情報の自治体における利活用を推進するとともに、地理空間情報を活用した新産業・新サービスの創出を推進。その一環として2024年度より、3次元人流データに着目した実証業務を行っている。
2年目となる2025年度はMetCom株式会社、株式会社ホロラボ、KPMGコンサルティング株式会社の3社が担当企業となり、東京の池袋エリア、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリア、八王子エリアの3地域において3次元人流データを活用した地域行政の課題解決に向けた実証を実施。この実証業務の成果報告会を、2026年2月に都内で開催した。

都内3エリアで高さを持つ3次元人流データの実証事業を実施
成果報告会では、国土交通省の岡村聡氏(地理空間情報課 国土情報係長)が実証業務の概要を説明した。国土交通省は従来の2次元人流データの活用推進に7年前から取り組んでいる。しかし、地下街や駅ビルなど複層構造の都市空間では高さ情報のない2次元人流データでは実態を捉えきれず、分析の精度が低くなってしまうことに課題を感じていた。そこで、近年では高さ情報を持つ3次元人流データが技術的に取得可能となったこともあり、「3次元人流データを活用することで2次元人流データでは難しかった現状把握やシミュレーションが可能となり、それを地域課題解決に応用できるのではないか」と考えて実証業務を開始したという。
1年目となる2024年度は、高さ情報を含む3次元人流データを取得し、都市のデジタルツインの整備プロジェクト「Project PLATEAU」の3D都市モデルデータを活用して可視化に取り組んだ。さらに、この実証結果や関係者とのヒアリングをもとに3次元人流データの有用性や実現性などを検討し、活用が期待される分野として下記の3つのユースケースを整理した。
- 観光・まちづくり(人々の回遊行動や歩行者導線の把握)
- 商圏分析(消費者行動や滞在箇所の把握)
- 防災・防犯(施設全体の災害時の避難計画や避難誘導)
そして2025年度はこれらの成果を踏まえて地域行政の課題解決に向けた実証を都内3地域で実施し、さらなるユースケースの創出に取り組んだ。池袋・大丸有・八王子の3エリアを選んだのは、駅ビルなどの商業施設やペデストリアンデッキなどを含む駅周辺のエリアや、地下街が張り巡らされた複雑な都市構造を持つエリアであることが理由だという。
高さ情報をもとに階層を分離することが可能に
3次元人流データを生成する方法としては前年度に引き続き、都市部に気圧センサーを内蔵した「基準点」を設置し、スマートフォン内蔵の気圧センサーの情報と近隣の基準点が測定した気圧情報を比較・分析して高精度な高さ情報を取得できるMetComの垂直測位サービス「Pinnacle」を活用。スマートフォンからユーザーの許可を得て収集した気圧情報を含む位置情報ビッグデータをもとに生成した。今回の成果報告会では、3次元人流データの生成(測定)および分析を行ったMetComの一之瀬春人氏が登壇した。
一之瀬氏は3次元人流データの活用可能性として以下の3つを挙げた。
(1)高さの異なる人流を区別する
街中を歩く人の人流データを地下・地上1階・2階以上など階層別に分けることにより、各階層に絞って人の動きを分析することが可能となる。例えば池袋駅のように地下と地上で駅の形が異なる施設において、階層ごとに異なるポリゴンを用いて人流を分離できる。また、八王子駅前のようなペデストリアンデッキでも、地上を歩く人とペデストリアンデッキの上を歩く人を分離できる。
(2)緯度・経度ずれのデータクレンジング
高層ビル街の谷間にある道路を行き交う人の動きを調べる場合に、地上の人流データに、ビルの中にいる人の位置情報がGPSの誤差などによって混ざってしまうことがあるため、高さ情報をもとにそのような誤差のあるデータを除外することにより、地上にいる人だけを高精度に抽出することが可能となる。
(3)高さ方向も含めた移動の分析
商業施設の中においてフロア間の回遊状況を分析可能となる。例えば百貨店において地下の食料品コーナーを利用した人がその他のフロアをどのように回遊しているかを把握できる。また、池袋サンシャイン60のような展望台のある施設において、展望フロアを訪問した人が街をどのように回遊しているかを把握できるほか、逆に池袋を訪れている人がどのビルの何階を訪れているのかも把握できる。
一之瀬氏は上記の3つの中でも、特に(1)および(2)の活用事例に注目している。
「3次元のデータということで、つい3次元的な分析が必要であると思っていたのですが、例えば駅で地下の人流だけを分析したい場合は地上の人流がノイズになってしまうので、高さ情報を活用して階層を分離することで『地上を歩く観光客は少数がゆっくりと滞在し、地下は駅を利用する人が多いので多数の人が短時間で行き交う』といった実態が分かるようになります。大丸有エリアの分析では、平均滞在時間が地上では274.5分であるのに対して地下では90分と、大きく異なる結果となりました。今までは地上も地下も区別がつかなかったのですが、高さ情報を使うことで精度の高い2次元データとして分離できるというのが今回の実証の大きな成果の1つだと思います。」(一之瀬氏)
3次元人流データの可視化により議論が活発に
特定の階層の人流だけを抽出することで、従来の2次元人流データの手法で分析することが可能となり、これまでの人流データ分析のノウハウが活かせる。一方、上記の「(3)高さ方向も含めた移動の分析」を行う場合は、3次元の可視化ツールを使うことが必要となる。今回の実証事業では、可視化ツールとしてホロラボが提供するデジタルツインプラットフォーム「torinome(トライノーム)」を使用した。
成果報告会ではホロラボの丸居久仁男氏(ディレクター/プロジェクトマネージャー)が登壇し、3次元人流データの可視化について解説した。torinomeはウェブブラウザーで利用可能なWeb3DのGISプラットフォームだ。Project PLATEAUの3D都市モデルや多種多様な2D/3DのGISデータを3次元的に重ね合わせて可視化・共有を実現できる。3次元人流データの可視化では、以下の3つの表現方法を使用している。
(1)高さの色分け
3Dでどの角度から見ても階層を色で把握できるようにする。
(2)トレイル(軌跡)表示(短時間軌跡)
人の短時間の移動軌跡を線で表現することで方向性を時系列で把握しやすくする。
(3)トレイル(軌跡)表示(終日軌跡)
移動したポイントを線で結ぶことにより移動傾向や滞留性を時系列で把握しやすくする。
上記の手法で3次元人流データを表現することで、例えば展望フロアの滞在者の中に、GPSの位置情報の誤差によって上空に浮遊しているように見える位置情報が一目瞭然となり、データの精度向上に役立つことが確認できた。また、エレベーターを使った移動など2Dでは判別できなかった移動の状況も把握できるようになった。このほか丸居氏は、実証事業において関係者と議論する際に、3Dの可視化ツールを使うことで活発なディスカッションが生まれ、新たな気付きやインサイトの創出につながったことも利点として挙げている。
駅構内の人流を階層分離することで路線別の分析が可能に
成果報告会では、今回の実証事業が行われた3エリアの担当者による発表も行われた。
池袋エリアでは、高さ情報をもとに池袋駅構内の人流を階層別に分けることによって路線別の利用者数や年齢層、滞在状況(池袋の街中に滞在/駅ナカのみ/乗り換えのみ)などを分析することが可能となった。また、サンシャイン60展望台「てんぼうパーク」の利用者の3次元人流データを分析したところ、サンシャインシティ館内やサンシャイン60通りなど駅の東側のみ滞在する人が多く、さらに高層階の利用者は地上の回遊に消極的な傾向が見られることも分かり、駅西側やまち全体に興味を持ってもらう“滲み出し”にはまだ伸び代があることが確認できた。
大丸有エリアでは、定期滞留者(大丸有を頻繁に訪れている人)と来街者(遊びやショッピングで訪れる人)で移動時の地上・地下の傾向を比較したところ、定期滞留者のほうが来街者に比べてエリア内移動時に地上を通っている割合(地上率)が高い傾向が見られた。また、大手町ビルの屋上テラスと地下2階の滞在者の特性を調べると、屋上テラスは女性が100%で、地下2階は男性70%・女性30%というように、フロア特性に応じて属性に違いが見られた。施設特性に応じて滞在者の特性が異なることを把握することで、備蓄倉庫のストック選定や一時滞在施設の計画などの参考情報として活用できると感じたという。
八王子エリアでは、駅前のペデストリアンデッキ「マルベリーブリッジ」を利用した人の階層を分離し、各方面にどれくらいの割合で移動したのかを分析した。例えばマルベリーブリッジから地上に下りて歩行者専用道路の「西放射線ユーロード」へ移動する人の割合は17.4%で、逆に西放射線ユーロードからエスカレーターに乗ってマルベリーブリッジに行く人が33.0%という割合になった。このような可視化により、どの導線を通る人が多いか少ないかが分かりやすく整理された。
3次元人流データによって2次元の分析の精度が向上
各エリアの成果報告に続いて、本プロジェクトの関係者によるパネルディスカッションも行われた。国土交通省の諏訪浩一氏(地理空間情報課 課長補佐)はプロジェクトの感想として以下のように語った。
「昨年の成果報告会では、『3次元の人流データというのは、実は2次元の人流データの活用にもつながるのではないか』という感想を持ったのですが、今年度ではそれが“階層分離”という技術として明確にできたのは今後の可能性につながると思います。3次元というと、どうしてもPLATEAUの3D都市モデルの上でビジュアライズして『すごい世界が見られる』という話になりがちなのですが、自治体やエリアマネジメント組織に使っていただくとなると、実は『2次元の分析の精度が上がる』というほうが価値としては高くて、その上で3次元という話になると思いますので、その活用可能性が広がったことに大きな期待を感じました。」
今回の実証事業により、高さ情報を持つ人流データを活用することで、どのような分析が可能となるかが具体的な事例とともに明らかになった。今後、この3次元人流データが地域課題解決にどのように活かされていくのか注目される。
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