地図と位置情報

大学のこんなゼミで学んでみたいかも! 「一億総伊能化」を掲げる 青山学院大学・古橋大地教授の授業がレジリエントだった。

地理空間情報技術とITツールを活用し、ユニークな取り組み

 青山学院大学が2015年4月に開設した地球社会共生学部は、地球規模の課題解決に向けてグローバルに活躍する人材を養成することを目的としている。1年目に英語能力の強化を図ったうえで、一定の条件を満たした2年生は原則として全員、タイやマレーシアなどアジアへの半年間の留学をするのがカリキュラムの柱だ。留学を終えて日本に戻ると、3年次からは18あるゼミナールの中からどれかを選んで所属する流れとなるが、その中の1つに、“最先端技術を用いた空間情報の利活用と社会実装”をテーマとした古橋大地教授の研究室(古橋ゼミ)がある。

 目的として掲げているのは「一億総伊能化社会における、よりしなやか(レジリエント)な社会システムを提案し、実践する」こと。一億総伊能化社会とは、GPS/GNSSを代表とする測位システムが標準装備されたスマートフォンなどのデバイスを日常使いすることで、初めて実測による日本地図を作成した伊能忠敬のように、誰もが地図を使うだけでなく作成・更新を行う側にも立ち、当たり前に空間情報を利活用できる世の中を意味する。

  古橋ゼミでは、この一億総伊能化社会という中心テーマのもと、地理空間情報に関する最新の知識やトレンドを身に付けられるとともに、GitHubなどの専門的なITツールの知識やグラフィックレコーディングの技術なども学ぶことができる。ほかにも、位置情報ゲームのレベル上げや野外活動の実践、国際会議への参加など、ほかでは見られない特徴が多くある。今回、ユニークな取り組みを行っている古橋ゼミの授業を見学するとともに、古橋教授と所属する学生に話を聞いた。

古橋ゼミ必須ツール「GitHub」。使い方を学びながら課題に取り組む

 見学に訪れた日は、古橋ゼミの前期の最後となる7月16日の授業だった。古橋ゼミでは毎月ハッカソンを開催しており、この日は7月のハッカソンのテーマである「古橋ゼミの紹介動画の制作」について話し合うという内容だった。この動画は古橋ゼミを志望する2年生の学生に向けて、ゼミの活動内容や魅力を紹介するという内容で、毎年この時期に3年生が中心となって制作する。

 まずは古橋教授から学生に対して進捗状況の報告を求めたところ、学生が作業分担や動画の構成について口頭で説明を行ったが、古橋教授は「今話した内容をドキュメントに起こして欲しい」と言って議論を中断。「今日は動画編集の進捗も含めて報告を受けたうえで、それについて打ち返そうと思っていたら、打ち返すものがほぼ無かったという状況。今話したことを含めて、GitHubに整理して古橋に伝えるための作業時間にしよう」と呼び掛けた。

古橋ゼミの授業の模様

 古橋ゼミの特徴の1つに、学生のグループワークや個人による課題制作を、開発者向けプラットフォーム「GitHub」を使って管理することが挙げられる。プロジェクトの企画立案から作業進捗の管理、成果物の提出まで全てGitHubで行うことが求められるため、学生はGitHubの使い方を一通りマスターする必要がある。ゼミが始まったばかりの3年生の7月の段階では、まだ使い方を十分に把握していない学生も少なくないため、古橋教授はプロジェクターで操作画面を見せながら順を追って使い方を丁寧に説明していく。ここでは以下のようなレクチャーが行われた。

「今の時点で決定的に足りていないのが、GitHubのプロジェクトに入っているアイテムがissueに紐付けられていないこと。動画構成・編集・動画撮影・完成動画のチェック、この4つのドラフトをissueに変えよう。」

「次に、このissueを誰が責任を持ってやるかをアサインする必要がある。複数人が同時に1つのプロジェクトを回すときは、手を挙げた人が責任を持ってやることが大事で、誰がどの作業を行っているのかを明確にする必要がある。」

「大事なことは、issueからリポジトリに紐付けること。そもそも、まだリポジトリが無いので、まずはリポジトリを作ろう。」

「プロジェクトやリポジトリを作るときに、プライベートな情報が混じっている場合は別だけど、ゼミの活動であれば原則的にはパブリックな活動として設定することを意識する。そうしないとアクセスできない人が出てきて、情報共有が止まる。」

「リポジトリができて、アイテムをissueに紐付けたら、次はこれをIn Progressに持っていって担当者をアサインする。」

「自分のタスクがはっきりしたら、このプロジェクトにTodoを追加して、『自分はこれをやっているよ』ときちんと伝える。」

 一方的に語り掛けるだけでなく、学生に向けて問い掛けることもある。「やりたいことが決まりました、そして担当者も決まりました。あとはプロジェクトを回すときに、何を決めなきゃいけない?」と問うと、学生から「期限を決める」という答えが返ってくる。そこで、マイルストーンという機能を使って締め切り日を設定することを教えて、これによって進捗状況をチェックできることを教える。

 講義の内容は、GitHubの使い方を教えるだけでなく、「手が空いている人は『何かタスクをください』と手を挙げてタスクを奪いにいくことが大事。でないと“待ち”になってしまう」といった、プロジェクトを進めるうえでの心構えも織り交ぜているのがポイントだ。GitHubの操作方法を学ぶことを通じて、複数人による共同作業をいかにスムーズに進めていくかを実践的にたたき込んでいく。授業が進むにつれて学生からも積極的に質問や意見が出てくるようになり、最後は動画作成の担当割りやスケジュールについて学生同士で活発に議論が盛り上がり、授業が終了した。

プロジェクターでGitHubの画面を映しながら講義

「野外活動」や「位置情報ゲーム」が必修!?――古橋ゼミ 7つの特徴

 まるでIT系のハンズオンセミナーのような独特の授業を行っている古橋ゼミには、ほかにも以下のような特徴がある。

a)毎月がハッカソン

 前述のように、古橋ゼミでは毎月テーマを決めてハッカソンを行っている。ハッカソンのテーマは、ジオ(地理空間情報)に関連したツールやデザイン/3Dツールを使った制作から動画作成、イベントの出展物作成とさまざまだ。これまでに行われたハッカソンのテーマは以下の通り。

  • 画像生成系AIを用いて地図や空間情報、キャンプなど、古橋ゼミに関連するグラフィックレコーディング(講義やプレゼン、イベントの内容などを絵や図形などを使ってまとめる手法)の素材的イラストを1人につき10作品を作る
  • 総務省統計局が公開している統計ウェブGIS「jSTAT MAP」と統計ダッシュボードを用いて任意の自治体を地域分析し、2030年の状況を未来予測
  • OpenStreetMapの編集ツール「JOSM」の使い方の学習
  • 地図/位置情報のイベント「ジオ展」に出展するジオガチャ(ジオに関連したグッズが出てくるカプセルトイ)の景品を考える
  • ドローンの機体の3Dモデリング
  • 古橋ゼミの紹介動画作成
ハッカソンで制作した“ジオガチャ”の景品

b)ゼミ生の必修ツール

 標準アプリとして、基本コミュニケーションツールやマッピング(地図制作)のツール、ドローン用アプリなどのツールの使用が求められている。

 基本コミュニケーションツールは、前述したGitHubのほかに、InstagramやFacebook、X(旧Twitter)、Slack、LINE、Zoom、LinkedIn、Mediumなど。マッピングツールはGoogle Mapsをはじめオフライン地図アプリ「Organic Maps」やストリートフォト作成用アプリ「Mapillary」、車椅子で行ける場所の地図「Wheelmap」など。

 GitHubやSlackを導入している理由として、古橋教授は「以前は海外の人とやり取りする際にGitHubやSlackを使うのが当たり前だったのが理由でしたが、最近では日本のIT業界でもGitHubを知らないと乗り遅れてしまう状況だと思います」と語る。就職の面接時に、学生がGitHubを使っていた話をすると面接官の受けが良いという話もよく聞くという。

 このほか、文書作成はMicrosoft Wordを使用禁止にして、原則的にMarkdown記述とGoogle ドキュメントの併用が求められる。

c)野外活動

 古橋ゼミに入った学生は、必ずソロ用テントと寝袋、ヘッドライトをそろえることが求められる。これは年に3~4回行われる合宿が野外で行われるためだ。例えば5月のGWに行われる「ツリーハウス合宿」では、学生にスコップが渡され、「斜面地にテントが張れるくらいの大きさで平坦な空間を自分でデザインする」という目標が課せられる。

 このようなアウトドア活動を行うのは、最近の学生は地理空間情報を学ぶうえで大事な“自然空間の学び”が不足していると古橋教授は考えているためだ。

 「都市で生活していると地面が平坦であることは当たり前のように思えますが、自然ではそれが当たり前ではなく、平坦でないところは寝心地が悪いということを体験させて、どうすれば平坦な空間を自分で作れるかを考えさせることが大事です。平坦にするためには斜面を切って土を盛るという作業を行うわけですが、盛り土の部分は柔らかくて安定しないことを肌感覚として教えるわけです。

 そうすることで、『切り土は安定しているけど盛り土の部分は不安定』とか、『ツリーハウスは地面を改変しなくても空中に平坦面を作れるし、動物や虫からも身を守りやすい』というふうに、安全な環境を作るにはどうすればいいのか、ということについて肌感覚で知識を身に付けることができます。」(古橋教授)

ツリーハウス合宿の様子

d)ゼミ内サークル

 古橋ゼミに入った学生は、複数ある“ゼミ内サークル”の中から好きなサークルを選んで入ることが求められる。複数のサークルを掛け持ちで参加することも可能だ。古橋ゼミの人数は1学年あたり十数人ほどだが、なぜこれをさらに少人数のグループに分けるのかというと、ゼミの意思決定を、米国で開発された管理システム「インシデント・コマンド・システム(現場指揮システム、ICS)」に基づいて行うことにしているためだ。ICSは災害現場・事件現場などにおける標準化されたシステムで、1970年代に米国の消防で開発され、その後は他の行政機関などにも利用が拡大している。

 ICSは緊急事態に適用できるチーム運営の方法を標準化したもので、現場に集まった多くの人がボトムアップでチームを作る際に、どのように動かせばチームがきちんと機能するかを決めている。中でも重要なのが、1チームあたりの人数の上限を5人までと割り切り、それよりも多くなったら必ずチームを分けて5人以下となるようにして階層構造化するという考え方だ。古橋ゼミはその各セクションをゼミ内サークルというチーム分けをすることで実体験してもらうことを狙いとしている。

 2024年度のゼミ内サークルは以下の4つ。各サークルはそれぞれの活動を報告する週報を作成してMediumにて公開する決まりとなっている。

ユースマッパーズ(YouthMappers AGU)

 「YouthMappers」とは、誰もが使える自由な地図を草の根の活動で作る世界的プロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の地図作成(マッピング)に取り組む若いマッパー(地図制作者)で構成される国際団体で、大学単位でチームが構成されている。「YouthMappers AGU」はその青学チームにあたり、参加者はそれぞれ国際協力活動や普及活動を行っている。共同でマッピングを行うマッパソン(Mapathon)というイベントへの参加などを通じて、他国のチームとの連携も図っている。

ドローン部

 ドローンを使って空撮を行い、画像をもとにOSMのマッピングや3Dモデルの作成、動画作品の制作などを行う。所属メンバーはドローンを所有する必要があり、ドローン操縦訓練や防災飛行訓練などへの参加も求められる。ドローンを飛行させるうえでのルールや手続方法などの知識も学べる。

V&F部

 映像制作を行うチームで、ゼミの活動が行われる際に写真や動画を記録し、さまざまな動画編集ツールを使って振り返り動画などの制作を行う。動画制作に必要な音源や画像の著作権、引用に関する知識も学ぶことができる。

デザイン部

 “グラフィックレコーディング(グラレコ)”に力を入れているチーム。ゼミの活動や授業内容をグラレコにまとめたり、手書きやiPadでグラレコを行う際のノウハウを週報にまとめたりする活動を行っている。

e)グラフィックレコーディング

 古橋ゼミではデザイン部以外の学生にもグラレコのスキル修得を求めており、グラレコのプロがゲスト講師を務めることもあるという。

 「グラレコはとても頭を使う作業で、物事を分析して図に描き起こすことによって頭を鍛えられる“脳の筋トレ”みたいなものです。限られた時間で図化して1つのストーリーに仕立てる必要があり、日常的に頭をフル回転させるようにするという狙いもあります。『箇条書きはできるけど、構造化が苦手』という学生はけっこう多くて、話していることを図に落とし込むことは訓練しないとできません。古橋ゼミではレポートの最後は必ずグラレコを掲載する決まりになっていて、これは論文において“決めの図”を作る訓練にもなります。」(古橋教授)

グラフィックレコーディングの成果

f)位置情報ゲームが必修

 古橋ゼミに入ると、2つ以上の位置情報ゲームで一定レベルに到達することが必須となっている。必修である「Ingress」はレベル6以上、それ以外については、例えば「ポケモンGO」であればレベル30以上、「ドラクエWalk」はパーティ平均レベルが50以上、「Pikmin Bloom」はレベル50以上、「信長の野望・出陣」はレベル30以上、「モンスターハンターNow」はレベル40以上など、ゲームに応じて最適な到達必要レベルが設定されている。

 古橋教授は位置情報ゲームを必修にしている理由として、「地理空間情報を学ぶうえで、位置情報ゲームはリテラシーであり、ゲームをプレーした経験の有無で議論の前提条件が変わってしまうからです。地理空間情報の専門家なのに、ポケモンGOやIngressをやったことがない人がいたら、最先端の地理空間情報技術について追えていない可能性が高いと判断されてしまうでしょう」と語る。

g)国際イベントへの参加

 古橋ゼミの研究に関連した国際会議やカンファレンスに年に1回以上の参加が必須となっている。学生自身が登壇する場合やイベントを運営する場合はプレゼンの記録や運営仕事中の写真またはスクリーンショットの記録が求められる。一般参加の場合は、日本語以外の言語発表の講演のグラレコ作成や、日本人以外の登壇者との記念撮影が求められる。これにより、国際イベントへの参加を通じて学生が自主的に国際的な交流を深めることを期待している。

 例えば2024年3月には、Humanitarian OpenStreetMap TeamおよびOpen Mapping Hubが主催するマッピングのアワード「Open Mapping Women Awards 2024」にて、古橋ゼミのメンバーは「YouthMappers of the Year賞」を受賞している。

「Open Mapping Women Awards 2024」で受賞

目指したのは“理想的な新卒”の育成をすること。そこにジオスペーシャルの要素を入れた

 以上のように独特な取り組みを行うことで、古橋教授は何を狙っているのだろうか。

古橋大地教授

 「基本的には、ぼくがイメージする“理想的な新卒”を育成することを目的としています。これくらいのスキルを持っていれば企業からは重宝されるし、オープンソースやオープンデータのコミュニティにも理解があり、そこでも活躍できるだろうと思う要素を取りそろえて、そこにジオスペーシャル(地理空間)の要素を入れています。」(古橋教授)

 GitHubが使えて、英語もできて、ライセンスに関する理解もあり、さまざまなツールも使いこなせる。このような人材は特にIT系の企業には魅力的と思える。最新のITツールを駆使してメンバー間で情報共有を行い、さまざまな課題をこなしていく古橋ゼミは、まるでIT系のコミュニティの縮図のようにも見えるが、ゼミ生らは卒業後、どのような進路をたどるのだろうか。

 「ジオの業界に進む人は少ないと思っていたのですが、意外とそういう道に進むゼミ生もいて、例えば昨年はマップボックス・ジャパンやEukarya(ユーカリヤ)に就職した卒業生がいました。ほかにもNEXCO東日本やアジア航測など、ジオに関係する企業に就職しています。あとはソニーやLINEヤフーに入るパターンか、コンサル系、広告、公務員に進む人もいますね。」(古橋教授)

 卒業後に大学院へ進む学生もいるが、地球社会共生学部には修士/博士課程が設けられていない。ただし、学部としては大学院に行くことを推奨しており、海外の大学院に入学する支援を積極的に行っている。英語学習も含めてサポートし、ケンブリッジ大学など欧米の大学院を中心に、学部全体の中から毎年5人以上送り出しているという。

 古橋教授はもともとは東京都立大学で衛星リモートセンシングやGISを学び、2001年に東京大学大学院に所属。現在はマップコンシェルジュ株式会社の代表取締役として、地図情報コンサルティングを主業務としている。

 OSMやFOSS4G(地理空間情報に関連したオープンソースソフトウェア群)のコミュニティにも古くから関わっており、大規模災害の発生時に被災地の地図制作を行う「クライシスマッピング」や、災害発生時に被災地でドローンによる空撮を行って地図化する災害ドローン救援隊「ドローンバード」に取り組んだり、国土交通省の3Dデジタルツインプロジェクト「Project PLATEAU」のアドバイザリーボード座長や東京都における3D都市モデルデータについて検討する有識者会議の座長を務めたりするなど、地図/位置情報の分野で様々な活動を行っている。このゼミは、そんな古橋教授のこだわりが詰まった学びの場と言える。

初めはジオに興味があるわけではなかった?学生たちが古橋ゼミを選んだ理由と、そこで得たもの

 このような古橋ゼミの取り組みについて、学生はどのように考え、その経験を踏まえてどのような進路に進んでいるのだろうか。古橋ゼミに所属する3人の学生にも話を聞いてみた。

 4年生の深水友希さんは、もともとはITのプログラミングに関心があり、別の先生に相談しに行ったところ、古橋ゼミを薦められたという。古橋ゼミでは必須となる野外活動については、「初めは『外で寝るのなんて絶対に無理』と思っていたけど、意外と寝ることができて、『どこでも生きていけるんだな』と思いました」と語る。

 ゼミ内サークルはV&Fに所属し、動画作成などを行った。当初目的としていたITに関する知識についても、古橋教授の指導によりGitHubやプログラミングの知識を身に付けることができて、大きな経験になったという。現在、ITベンチャーへの就職が決まっている。

深水友希さん

 同じく4年生の上原史栞さんは、古橋ゼミを選んだのは、文献を調べるだけでなく、自分で手を動かして何かを成し遂げることが要求される点に魅力を感じたからだという。ゼミ内サークルではユースマッパーズを選び、クライシスマッピングに取り組んだときは自分が入力したデータが被災地の役に立ったことに喜びを感じた。前述した「Open Mapping Women Awards 2024」では、グループでの受賞とは別に、個人で「Emerging Stars of the Year賞」も受賞した。

 「ゼミに入った当初は地図やITの知識が無かったので苦労しました。GitHubの使い方など最初は全く分からなかったけど、知識が身に付いてくると古橋先生の言うことが理解できるようになり、楽しいと思えるようになりました。ゼミでは国際会議への参加を通じてコミュニティが広がり、専門知識を仕入れていろいろな話をするのが楽しくなりました」と上原さん。現在、内定を得ている企業はジオには直接関係ないが、「今後も何かしら地図に関われるようなプロジェクトに挑戦し、自分の強みを生かしていきたい」と語る。

上原史栞さん

 一方、3年生の佐藤愛妃さんは、地球社会共生学部に入学後、ハイキング部で本格的な登山を行っていたが、古橋教授が登山地図アプリを提供するヤマップとつながりがあるという話を聞いて、ゼミの説明会に参加したところ、火山防災に興味を持ち、自分が好きな山を研究テーマにできることに魅力を感じて古橋ゼミに入った。

 ゼミ内サークルはドローン部に所属。初めは登山関連に興味があり、ユースマッパーズの活動やITに関することには興味が薄かったが、ゼミでチームを組んで活動していく中で興味を持つようになり、今はITの知識も身に付けたいと考えている。ゼミの活動への感想については、「部活はトップダウンで指揮系統がはっきりしているけど、このゼミでは対等な立場で集まった人たちがどのように協力すればいいのかを考えなければいけないのが難しいです」と語る。

 古橋教授からの薦めで、火山防災に関する課題を解決する事業者のアイデアを募集する「やまなし火山防災イノベーションピッチコンテスト」のプレゼンターを務めたこともある。「コンテストではとても刺激を受けました。デジタル地図から入って、その先がいろいろと広がっている感じで面白いです」。

佐藤愛妃さん

来たれ! ジオに興味のある高校生

 最後に古橋教授に、地理空間情報とITに興味のある高校生に向けてメッセージをお願いした。

 「地球社会共生学部は、世界をフィールドにしていろいろなことに取り組む先生や学生が集まっています。そういう人たちが活動するうえで根本となる地図情報をみんなで作り、活用するために自分たちが何をすればいいのか、そういうことに興味のある人は、ぜひ一緒に世界を変えていきましょう。この分野は住所や3Dデータの整備などまだまだ課題が多く、飛び込んできてくれる人がいればうれしいです。」(古橋教授)

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。