地図と位置情報
有志たちによる地図ビジネス展示会「ジオ展」誕生秘話、創始者・小山文彦氏が思いを語る
2025年5月21日 06:55
地図ビジネス展示会「ジオ展」のファウンダーである365y株式会社の小山文彦氏。4月23日に開催されたオンラインイベント「mapbox/OpenStreetMap meetup」に登壇し、2016年に始まったジオ展の軌跡を振り返った。
mapbox/OpenStreetMap meetupは、地図サービスや地図コンテンツの開発プラットフォームを提供するMapboxと、フリーでオープンな地理空間情報を市民の手で作るプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のコミュニティとの交流イベント。Mapboxアンバサダーを務める青山学院大学の古橋研究室がMapboxの日本法人であるマップボックス・ジャパン合同会社とNPO法人CrisisMappers Japan(災害ドローン救援隊DRONEBIRD/JapanFlyingLabs)、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)の協力により開催している。
19回目となる今回は「地図データが拓く未来のビジネス ~ オープンデータで創る革新的価値 ~ 」と題して、地図ビジネスをテーマにさまざまな意見交換が行われた。YouTubeでアーカイブ動画も公開されている。
「ジオ展」の8つの特異性とは――他の展示会イベントと何が違う?
小山氏は、Google Maps Platformを活用したソリューションを提供する株式会社ゴーガの創業者であり、地図や位置情報をテーマにしたカンファレンス「ジオメディアサミット」を2008年から共同開催していた。その後、スマートフォンが普及するのに従って位置情報が一般化していくなかで、もう少しビジネス要素が濃い地図・位置情報をテーマとした展示会を求めて、2016年に初めてジオ展を開催した。
小山氏はジオ展の特異性として、以下のような特徴を上げた。
共同展示会
主催者はいるが、基本的には参加者全員で一緒に運営する。
期初の4月に開催(2回目から)
期初は予算取りができず競合イベントが皆無となるために、2回目からは4月開催が恒例となった。ジオ展の場合は課長クラスの権限でも決裁可能なほど出展費用が格安のため、期初でも参加しやすい。
都心部での開催
東京ビッグサイトや幕張メッセなどではなく、渋谷や青山など都心の行きやすい場所で開催する。
出展者に対して来場者データを提供しない
来場者データを提供すると、自社の顧客が他社に乗り換えてしまう可能性があるという理由で競合他社が参加しづらくなるため、来場者データの提供は行わない。
プレミアスポンサーが存在しない
特定の企業ではなく参加者全員のイベントにするため、プレミアスポンサーを設けない。
法人の大きさを区別しない
大企業でも個人でもブースの大きさは同じで、個人やサークルは無料で出展可能とする。
ブース番をする新人同士の交流に最適
企業の場合、若い人がブース番を任される場合が多いので、新人同士の業界交流の場として、若手育成に役立つ。
協力によってもたらされる求人機会
共同展示会ということで参加者が協力し合うことにより、企業にとっては求人の機会としても活用できる。
始まりの一歩は――6社から始まった「ジオ展」の挑戦
最初のジオ展は、渋谷にあったゴーガの旧オフィスにて2016年11月1日・2日の2日間にわたって開催。このときは同社とインクリメントP株式会社(現ジオテクノロジーズ株式会社)、NTT空間情報株式会社、ESRIジャパン株式会社、株式会社ナイトレイ、株式会社ヴァル研究所の計6社が参加した。実際にイベントを開催してみると、期間を2日間にすると1日目にあまり人が来ないことに気付き、翌年からは会期を1日だけにして開催するかたちとなった。
2回目は2017年4月21日、ヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)が運営するオープンコラボレーションスペース「LODGE」で開催。このときは出展企業が一気に16社へと拡大し、展示だけでなく出展企業によるプレゼンテーションも行われた。コワーキングスペースのため立ち寄り客も多く、ある企業ではこれがきっかけで5人の採用応募があったという。

3回目は2018年4月20日に、TKPガーデンシティ渋谷にて開催。じつはその前月に小山氏はゴーガを退任しており、ジオ展をゴーガが主催するのはこの年が最後となった。このときは28社が出展し、出展関係者を含めて約1000人が集まったという。

続く4回目は2019年4月19日に開催。この回から主催は、小山氏が経営する365y株式会社となった。この年は出展企業の1つである株式会社ナビタイムジャパンが青山に移転し、1階をオープンスペースにしたことから、そのスペースを借りて開催した。出展社数は34社(ポスター出展含む)に増えた。

小山氏は4回目の開催が盛況に終わったことから、「過去最良の場所施設で、最高の体験となり、今後の成長は間違いない」と確信したが、翌2020年にはコロナ禍でその勢いが止まることになった。5回目の記念開催は例年通り4月後半を予定して準備を進め、前回と同様にナビタイムジャパンの会場で48社の出展を見込んでいたが、イベント自粛のムードとなったためリアル開催は難しくなり、同年11月27日にオンラインでの開催となった。
続く6回目の開催も、2021年4月23日にオンライン開催となったが、このとき初めて出展企業が20社と減少した。それでも「ジオ展の火を消さない」という思いで続けていくことにしたという。その翌年の2022年も4月22日にオンライン開催となり、このときはオンライン開催というスタイルが伝わったからか出展社は22社とやや増加したが、熱量を共有するのが難しく、小山氏は新しい“ジオ展らしさ”の構築を課題として感じていた。
4年ぶりの再会――リアル開催で再び輝き出す「ジオ展」に熱気あふれる
そのような状況のなか、ジオ展の主催は365yから株式会社MIERUNEおよびマップボックス・ジャパン合同会社の2社へと移り、新たなスタートを切ることになった。8回目のジオ展は2023年4月21日、虎ノ門のWeWork城山トラストタワーにて4年ぶりのオンサイト開催となり、このときは852人の来場者があった。

そして直近となる昨年のジオ展は2024年4月19日、浅草橋ヒューリックホールにて開催。42団体が出展して来場者数は約900人と盛況となり、会場は多くの人で埋め尽くされた。小山氏も懇親会に参加し、乾杯のスピーチを行ったという。


今年のジオ展は7月2日、大手町三井ホールで開催する予定で、小山氏も参加する予定だ。公式サイトではプレゼンテーションのタイムテーブルや展示ブースの配置図も発表され、5月19日からはPeatixにて一般来場者(参加費無料)の登録受付も開始している。
「今年のジオ展は出展者枠が65団体程度に拡大し、名実ともにコロナ前のジオ展を超える出展社数となり、10回記念にふさわしい過去最大のジオ展になる見込みですので、ぜひ参加していただければと思います。企業の出展料は値上げしたものの、当初のコンセプトをできるだけ踏襲していただき、協力企業や出展企業のみなさんには感謝でいっぱいです。私もプレゼンテーションで復活する予定なので、ぜひ会場でお会いできたらうれしいです。」(小山氏)
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。