地図と位置情報

違う意味で“伊能忠敬界隈”なんです、私達。

 来る4月19日が「地図の日」とされていることをご存じだろうか。1800年(寛政12年)旧暦閏4月19日、伊能忠敬が江戸から蝦夷地を目指して測量の旅に出発したことに由来しているという。昨今、この伊能忠敬にちなんだ「伊能忠敬界隈」という言葉が使われているとのことで、今回はこの言葉に注目してみたい。

Yahoo! JAPANの検索データをもとにした「伊能忠敬界隈」の検索ボリューム月次推移(画像出典:「伊能忠敬界隈」とは? 検索データから見る「界隈」界隈

伊能忠敬といえば……「異常なくらい長い距離を歩く人」という認識!?

 2024年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにも選ばれた「界隈」という言葉。もともとは「神田界隈」など地域を意味する言葉だったが、近年は「自転車界隈」「登山界隈」「将棋界隈」「サウナ界隈」など特定の嗜好や趣味、ライフスタイルなどで括られる集団やグループを意味する言葉としても使われるようになってきている。

 このように「界隈」という言葉の使われ方が広がっている中、LINEヤフー株式会社が提供するビッグデータ分析サービス「ヤフー・データソリューション」が2024年10月、検索ビッグデータから「〇〇界隈」という言葉の流行を分析したレポート『「伊能忠敬界隈」とは? 検索データから見る「界隈」界隈』を公開した。

 このレポートによると、「界隈」を含むキーワードの検索ボリューム(人数)は、2024年5月に大きく増加。その中で最も多く検索されていたのが「風呂キャンセル界隈」だった。お風呂に入ることが面倒でキャンセルする人々を指す言葉で、「睡眠キャンセル界隈」などの派生語も登場したという。

 また、2023年10月9日~2024年10月13日のおよそ1年間における「界隈」を含む検索キーワードのランキングトップ10では、この「風呂キャンセル界隈」「お風呂キャンセル界隈」のほかに、「天使界隈」「自然界隈」「和室界隈」などがあるが、個人名を含むキーワードは「伊能忠敬界隈」だけとなっている。「伊能忠敬界隈」の検索ボリュームは2024年7月ごろから伸びている。

Yahoo! JAPANの検索データをもとにした「界隈」を含むキーワードランキング(画像出典:「伊能忠敬界隈」とは? 検索データから見る「界隈」界隈

 伊能忠敬といえば、この人物が中心となり日本で最初の実測日本地図が作製されたことで知られているが、「伊能忠敬界隈」という言葉は、日本中を長い時間をかけて歩いて測量した伊能忠敬にちなんで、「(仕事や趣味で)歩く機会の多い人々」のことを指す言葉であり、1日に40km以上とか8時間以上とか、普通の人から見たら異常なくらい長い距離を歩く人に対して使われているのだという。

 例えば、地図会社の株式会社ゼンリンは、Xで「#伊能忠敬界隈 のみなさまへ、界隈でもたぶんガチ勢枠(当社住宅地図調査員)の熱中症対策を貼っておきます。ご参考にしていただき、体調には十分お気をつけくださいね」という投稿を2024年7月に行っている。地図作りのために日々、長距離を歩いているゼンリンの調査員はまさに現代の伊能忠敬と言えるが、ここでも「伊能忠敬界隈」は長距離を歩く人という意味で使われている。

 一方、本連載「地図と位置情報」では、取り扱っているテーマの関係から、記事の中やタイトルの中にしばしば「伊能忠敬」というキーワードが登場する。ここ1年間で掲載した記事としては、『まるで現代の伊能忠敬――その極みにはAIもまだ辿り着けてない!? 地図データ整備の最前線を盛岡で見た」や『大学のこんなゼミで学んでみたいかも! 「一億総伊能化」を掲げる 青山学院大学・古橋大地教授の授業がレジリエントだった。』がある(下記の関連記事をぜひ参照してほしい)。

 前者は、地図会社のジオテクノロジーズ株式会社の訪問レポートで、デジタル地図の最新データ整備のため膨大な情報収集作業を日々行っている現場の様子を紹介したものだ。各種センサーを搭載した調査車両で日本全国の道路をくまなく走り回る業務もあって、文字通り「現代の伊能忠敬」のような存在と言える。

 後者は、青山学院大学・古橋大地教授の授業の様子をレポートしたもの。「GPS/GNSSを代表とする測位システムが標準装備されたスマートフォンなどのデバイスを日常使いすることで、初めて実測による日本地図を作成した伊能忠敬のように、誰もが地図を使うだけでなく作成・更新を行う側にも立ち、当たり前に空間情報を利活用できる世の中」を意味する「一億総伊能化社会」をテーマとして掲げており、その地理空間情報を活用したユニークな取り組みが興味深い。

 いずれも世間で使われている意味での「伊能忠敬界隈」とは異なるが、それとはまた違った意味で“伊能忠敬界隈”かもしれない。本連載では今後も、このような地理空間情報に関連した話題をどんどん取り上げていきたいと考えているので、ぜひこちらの“伊能忠敬界隈”にも興味を持っていただけるとうれしい。新年度も本連載をどうかよろしくお願いします!

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。