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神戸市さん、データ利活用しすぎ……またまたやってくれました! 無料で誰でも使える「統計ダッシュボード」拡充
新たに「日本の地域別将来推計人口」と「住民基本台帳人口移動報告」を公開
2024年5月15日 06:55
神戸市は4月30日、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2023年12月に公開した「日本の地域別将来推計人口(2023年)」と、総務省が2023年1月に公表した「住民基本台帳人口移動報告」に基づく統計ダッシュボード(複数の情報をまとめて表示・分析できるツール)を公開した。同市のウェブサイト「神戸データラボ」にて誰でも無料で利用でき、神戸市だけでなく全国のデータを参照することが可能だ。
神戸市はこれまで2023年2月と同年10月に、2020年国勢調査に基づいて作成した「町丁目単位の人口ピラミッドと住宅種別世帯数」や「市区町村別の通勤・通学の状況」など、分析できるダッシュボードを神戸データラボにて公開し、この連載でもお伝えした(関連記事『神戸市がやってくれました! 全国規模の人口移動・就業状況の「ダッシュボード」、全国の誰にでも無料公開 Tableau使いの市職員が作成、オープンデータの可視化・活用方法として提案』参照))。今回はその第3弾で、神戸データラボで公開されているダッシュボードは、これまで公開したものを含めて計8つとなる。
「日本の地域別将来推計人口(都道府県・市区町村)」のダッシュボードは、2050年までの全国の人口の状況を地図とグラフで可視化したもので、人口の多さで色分けしたヒートマップと人口推移のグラフ、人口ピラミッドの3つで構成される。
左上のメニューで都道府県や可視化したい年(5年単位で設定可能)、表示粒度(特別区をひとまとめにするか否か)などが選択できる。人口推移は老年人口・生産年齢人口・年少人口のそれぞれの人口推移を可視化したグラフで、人口ピラミッドは各年の人口構成を細かく確認できる。なお、人口推移と人口ピラミッドはデフォルトでは都道府県ごとのデータが可視化されるが、ヒートマップの中から調べたい自治体を選ぶことで市区町村ごとのデータも見ることができる。
「住民基本台帳人口移動報告(都道府県・大都市)」のダッシュボードは、住民基本台帳に基づいた転入・転出の状況を可視化したもので、2020~2024年の全国の移動状況を分析できる。画面左のメニューで都道府県または大都市を選択し、性別や年を選択すると、該当するエリアの転入・転出数や各歳内訳(5歳ごと)、相手地域別の転入超過数・移動者数が分かる。各歳内訳や相手地域別の転入超過数・移動者数では、年齢や都道府県でフィルターをかけることもできる。
相手地域別の転入超過数・移動者数では、転入が多い場合は青系の色で、転出が多い場合は赤系の色となり、色が濃いほど人数が多いことを表している。例えば神戸市において、就職する人が多い20代前半の相手先分析を行った場合、兵庫県や西日本の多くの県は青系の色となり、大阪府および東京圏は赤系の色となる。これは、就職時は兵庫県内および西日本からの転入が多く、大阪府と東京圏への転出が多いことを意味する。マウスドラッグ操作で複数の地域を選んで転入超過数・移動者数を分析することも可能だ。
ダッシュボード公開の狙いは「市民とのディスカッション」
神戸市は、同市の職員がさまざまな統計データにアクセスできるポータルサイト「神戸データラウンジ」を2022年6月にオープンした。同ポータルサイトでは、庁内のグループウェアにおいて約90種類のダッシュボードに全職員がアクセスすることが可能で、これによりEBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)の実現を目指している。神戸データラウンジの導入により、職員が政策立案にデータを活用する際の、データの入手や分析、資料作成にかかる手間と時間は劇的に減り、大幅な効率化が実現した。
神戸データラボで外部にも広く公開されているダッシュボードは、神戸データラウンジで共有されているダッシュボードの中から、オープンデータをソースとするものをピックアップしている。無料のオープンデータを使って、各ダッシュボードはBIツールの「Tableau」で職員が自ら作成しているため、作成のコストもかかっていないという。
神戸データラボは2023年2月に初めて一般市民向けに公開し、今回で3回目のダッシュボード公開となるが、現在は1日に約500のアクセス数がある。以前、神戸市だけのデータを公開していたときのアクセス数はほとんどなかったが、それと比べるとかなり多くのアクセス数となっている。一般公開のための作成や運営のコストはほとんどかかっていないため、これまでダッシュボードの公開に対して市民からポジティブな声は多数寄せられているものの、ネガティブな声は寄せられていないという。
神戸市は今回のダッシュボード公開にあたって、4月30日に東京都内で報道関係者向けのラウンドテーブルを開催した。神戸市が職員の政策立案のために作成したダッシュボードを、誰もが無料で自由に利用できるようにしていることの意義について、神戸市企画調整局政策課の大漉実氏(データ利活用担当課長)は以下のように語った。
「ダッシュボードを公開した狙いの1つは、市民のみなさまと客観的なデータを見ていただきながらディスカッションをすることです。最終的に目指しているのは、スマートシティの取り組みの一環として、市民のみなさまにデータに基づいた市民参画、地域の課題解決の提案などをしていただきたいと考えていて、それを目標として今後も行政データの分かりやすいオープン化を進めていきたいと思います。さらにプラスアルファとして、全国の他の自治体の職員の方にもEBPMの推進に、これらダッシュボードを役立てていただきたいと考えています。」
神戸市は2023年12月に、神戸市のデータ利活用に関するノウハウを学べるイベント「Data Literacy for All in KOBE」を開催した。同イベントは神戸市のDXに関する取り組みに関心のある官公庁や自治体職員に向けたもので、現地参加とオンライン参加を合わせて220名(4府省・76自治体・2大学・16団体)が参加し、参加者満足度アンケートで全体平均が5点満点のうち4.6点と好評価を得たという。
昨年に引き続き今年度の開催も予定しており、今年度は全国の自治体のほか、民間企業も対象に加えるなどイベント規模を拡大、神戸スマートシティの取り組みの一環として実施する予定だ。同市はダッシュボード公開のほかにもデジタルツインやスマートシティの推進、包括的AI条例の施行、kintoneの導入、DX人材の育成、RPAなどさまざまなDXに取り組んでおり、ダッシュボードの一般公開も含めて今後の取り組みが注目される。
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