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神戸市役所、広報の「副業人材」40人を募集、東京からでもオンライン業務が可能

PR動画・SNS記事を制作、民間企業やフリーランスでの実務経験者が対象

 神戸市役所は、広報に関する専門的なスキルや知識を持つ「副業人材」の募集を、9月24日から開始した。

 募集人員は40人で、民間企業の社員やフリーランスとして働いた経験を持ち、広報の専門知識やスキルを持っている人材が対象。原則として、登庁を伴わないオンラインでの業務としており、東京をはじめとして離れた地域の在住者でも、時間・場所に捉われることなく、副業として、神戸市の広報業務に携わることができる。業務開始は11月1日を予定しており、勤務時間の設定は無く、月に数時間の業務を行い、成果物で評価することになる。報酬は職種によって異なるが、月額1万円~10万円程度を想定している(申し込みサイト)。

神戸市の久元喜造市長

 神戸市の久元喜造市長は、「これだけのまとまった人数を副業というかたちで募集するのは初めてのことになる。ほかの自治体でも例はないだろう」とし、「東京に集中している人材を地方に分散することに対する神戸市のささやかな提案。様々な地域の仕事に、副業として優れた人材が参画することは意義がある。こうした提案がいろいろなところから行われることが望ましい」などと述べた。

 自治体による新たな働き方の提案として注目される。

積極的な副業が「有益」となる時代

 久元市長は、9月24日に行われた市長定例会見で、「Withコロナ時代において、働き方や暮らし方が変わりつつある。テレワークやワーケーションの普及により、1つの場所、1つの会社で仕事をするというやり方から、自宅やサテライトオフィスなど、どこにいても仕事をしたり、コミュニケーションしたりできるようになっている。1つの会社や1つの自治体の仕事をするという形態から、副業を積極的に行えることが、個人や企業、自治体にとっても有益であるという時代になってきている。また、東京圏に人材が集中しており、特にテクノロジーの進化を支える人材が集中している。狭い東京に集中して働き、暮らすという人材の偏在も、Withコロナ時代で見直されてくるだろう。さらに、行政ニーズが多様化・複雑化しており、これを解決するためには、専門的なスキルや経験を持った人材が求められている」と社会環境の変化などについて説明。「社会情勢の変化や人材獲得競争に対応するためには、正規職員の採用方法の多様化とともに、ジョブ型雇用による民間人材の活用が大切であり、外部の人材を獲得していくことが重要である。あるべき行政の姿を考えたときに、多様で有能な職員集団を形成する取り組みが求められている」と語った。

 神戸市では外部人材の獲得に力を注いでおり、2015年度以降、ジョブ型雇用による民間人材の活用に乗り出している。すでに、チーフイノベーションオフィサー、広聴専門官、広報戦略アドバイザー、クリエイティブディレクター、アフリカ神戸リエゾンオフィサーなどの専門知識や技術を持つ人材を採用。現在、65人の民間人材が勤務しており、そのうち、フルタイムで24人、非常勤で41人が働いているという。

民間人材(ジョブ型雇用)の活用(会見資料より)

 「Windows 95が発売された1995年に神戸市は震災の影響を受け、神戸市は情報システム分野に遅れてきた経緯がある。そこで情報システム分野で外部人材をかなり登用し、その結果、高度化することができた。最近公募したイノベーション専門官では、700倍を超える倍率だった。現在、DX専門官を3人募集している」とした上で、「今回は、新たに副業人材を募集するものとなる。まずは、広報に関する専門的なスキル、知識、経験を持った人を対象に、広報業務に関する副業人材を募集する。この成果を見て、他の分野にも副業人材の採用を増やしていくことも検討する」と述べた。

「動画・記事制作」で神戸の魅力をPR

 今回募集する業務内容は、「ホームページのモニタリング」、「SNS・広報紙記事制作」、「動画の企画・写真などの撮影」、「広報媒体作成」の4つの職種となる。

募集業務(会見資料より)

 具体的には、ホームページのモニタリングでは、「市民から見て分かりやすい神戸市HPへ向けた点検作業」で7人程度、SNS・広報紙記事制作では、「SNS(Instagram)記事制作(食・街に関するもの)」で5人程度、「SNS(LINE)記事制作(食に関するもの)」で1人程度、「広報紙記事制作(連載記事)」で1人程度。また、動画の企画・写真などの撮影では、「市施策PR動画(出前トーク)の構成などの企画」で1人程度、「記録写真撮影」で5人程度、「記録動画撮影」で5人程度、「広報媒体用写真の撮影」で5人程度。そして、広報媒体作成では、「SNS広告用バナーデザイン制作」で5人程度、「既存動画の編集」で5人程度となっている。

具体的な業務:HPのモニタリング(会見資料より)

 業務委託としての契約になり、神戸市の職員としての採用とは異なる。ホームページのモニタリングでは月額1万円程度、動画の企画では月額10万円程度を想定しているという。動画撮影などでは一度だけの仕事で完了するという場合があったり、動画の企画では1、2カ月間の仕事になったりするという。

 同市では、「サイトを通じた応募をもとに、経歴などを確認し、その中から選考した人材を、オンラインで面接をして、仕事を依頼することになる」とした。

「受け手本位」を目指す広報戦略

 久元市長は、「神戸市のホームページは、だいぶ改良を重ねてきたが、分かりやすい、便利である、検索しやすいといったものにはなっていない。市民をはじめとするホームページを利用する立場の目線に立って点検作業を行ってもらう。また、SNSでは神戸の魅力を発信してもらうための記事の制作、神戸市の施策を分かりやすく示すPR動画の企画・構成・撮影のほか、広告用バナーの作成などにも取り組んでもらう。広報戦略は、常に新しい発想が求められる。出し手本位ではなく、受け手本位の広報戦略でなくてはいけない。自治体の広報は、神戸市に限らず、伝えたいことが中心になっている。受け手が求めている情報なのか、分かりやすい内容になっているのかということを考えなくてはならない。行政サービスの内容は多様化し、複雑化し、求められる変化のスピードが速い。それに対応できる広報の専門スキルが必要とされているものの、職員だけでは対応できない時代になっている。専門的スキルを持った人材に時間的余裕があるならば、広報において課題意識を持っている神戸市において、そのスキルを発揮してほしい」と呼び掛けた。

 その上で、「今回の副業人材は、広報担当職員の仕事を外部委託するものではなく、広報業務の高度化を目指すものである」と述べ、「これらの仕事をまとめて広告代理店に発注すると大きなコストになる。だが、コスト削減効果だけでなく、副業人材によって、広報業務の高度化や、職員へのプラスの影響といった副次的な効果も期待できる」とし、「東京などからの神戸へのUターン、Iターンを考えている人たちに、まずは副業として、オンライン就業の機会を提供し、それをきっかけに移住してもらうことも考えている。そして、副業人材による成果創出とともに、神戸市職員の働き方改革、業務の高度化にもつなげたい。これによって、時代のニーズに合った効果的な市民サービスを創出したい」と語った。