地図と位置情報

あのYAMAPが損保に参入。安全な登山をしている人は保険料が安くなる 新たな保険商品を独自開発

登山用地図アプリに蓄積された行動データを活用し、リスクに基づく変動価格。“歩いた分だけ課金”も

株式会社ヤマップネイチャランス損害保険代表取締役社長の木村彰宏氏(左)と株式会社ヤマップ代表取締役CEOの春山慶彦氏(右)

 株式会社ヤマップは、新会社「株式会社ヤマップネイチャランス損害保険」(以下、ネイチャランス損保)を設立したことを発表した。この新会社が損害保険商品「YAMAPアウトドア保険」を提供開始し、ヤマップはその代理店として5月28日に同保険の販売を開始した。

総額20.4億円の資金調達を実施、国内35社目の損保会社に

 ヤマップは福岡市を拠点としたベンチャー企業で、登山用の地図アプリ「YAMAP」などを提供している。今回、MCPグループが運営する九州発ジャパン・エボリューション・ファンド投資事業有限責任組合(JEF)をリード投資家とするシリーズDラウンドにおいて、総額20.4億円の資金調達を実施。その資金で、100%出資のグループ会社としてネイチャランス損保を設立した。国内ベンチャー企業による損保会社の設立は珍しく、国内の損保会社としては35社目になるという。

資金調達先

 ヤマップの代表取締役CEOを務める春山慶彦氏は、損保会社を設立した理由について以下のように語った。

 「同じ趣味の人同士、同じ課題を抱えている人同士が、金銭面だけでなくノウハウなどの面でも支え合う、そのような“共助”の仕組みの1つが保険だと考えています。共助の仕組みをどのように現代で実現していくのかというのは保険に限らず大きなテーマであり、ヤマップではこの共助の仕組みを事業として実現するうえで、保険というのは非常に可能性があるのではないかと思って今回チャレンジしました。

 これまでの保険というのは統計データや確率をベースに保険料を計算していましたが、これからの保険というのは行動データやモノのデータをベースとしながら、その人に必要な保険、またはその人に最適な保険を提案するというように変わっていくと思います。いちばん分かりやすい行動データを活用した保険商品は、テスラの自動車保険です。(被保険者が)1日にどれくらい車に乗るのか、急ブレーキをする人なのか、安全運転をする人なのかというデータを取って、そのデータに基づいて提供していく――このような保険のかたちというのは、あらゆる業界・業種で起きてくると考えています。

 当社も、『この人がどこの山を登るのか』『危険な登山をする人なのか』『登山計画を出す人なのか』『グループで山に行く人なのか、それとも1人で山に行く人なのか』というデータを持っており、これらの行動データを価値化するのはこれまでとても難しかったのですが、保険に紐付けることで適切な保険をユーザーに提供できると考えました。そして、この領域に取り組むためには他社にお願いして作ってもらうというのは非常に難しく、自社でやるしかないという意思決定をして、今回、損保会社を設立しました。日本におけるインシュアテックの先駆けを目指していきたいと思います。」

株式会社ヤマップ代表取締役CEOの春山慶彦氏
将来の「YAMAPアウトドア保険」

 ネイチャランス損保では、YAMAPのプラットフォームに蓄積されたビッグデータを活用した新しい損害保険商品を提供する。また、損害保険代理業を通して得られた収益(代理店手数料等)の一部を、登山者の人命救助や遭難防止活動、登山道保全活動などのために充当する。

まずは「外あそびレジャー保険」「アウトドア家財保険」を販売開始

 5月28日に提供開始した保険商品は、日常のケガからアウトドア活動中の遭難救助費用までを幅広く補償する「外あそびレジャー保険」と、アウトドア道具と家財の両方を補償する「アウトドア家財保険」の2種類。その特徴について、同社は以下の点を挙げている。

外あそびレジャー保険

  • 割り増しなしで日常生活からほとんどのアウトドア活動に対応
  • 野外活動におけるケガから毒性の物性による被害も対象
  • 熱中症、熱射病も補償
  • アウトドアだけでなく、日常生活の迷子や行方不明捜索費用も補償
  • 同居の親族をまとめて補償する家族型なら3人家族以上はお得
  • 迷子が起きた場合に位置情報を活用して近隣のユーザーから目撃情報の収集を行う「遭難捜索情報収集サービス」付き

アウトドア家財保険

  • 家の中から外まで、家具・家電のほかアウトドア道具の破損まで補償
  • 選択可能な特約により、自然災害や第三者への損害賠償にも備えられる
  • YAMAP STORE購入商品であれば、より簡単な手続きで申し込めて、保険金の請求も簡単に行える
「YAMAPアウトドア保険」の内容
遭難捜索情報収集サービス

行動データを活用して保険料が可変、今夏めどに「テレマティクス保険」開発

 今回販売を開始した2商品に加えて、ネイチャランス損保は今後、YAMAPのプラットフォームに蓄積されている行動データを活用して、リスクに基づいて保険料が可変するダイナミックプライシング型の「テレマティクス保険」を今年夏ごろを目指して開発していく予定だ。

 ネイチャランス損保の代表取締役社長である木村彰宏氏は今後について、以下のように語った。

 「データの連係と解析に基づいて、パーソナライズされたテレマティクス保険を提供しようと考えています。被保険者の歩行連動データを活用した保険サービスで、現在、特許出願中です。歩いた分だけを課金するという保険ができれば日本初・世界初になると考えており、現在準備を進めています。」

 さらに、ネイチャランス損保に今後蓄積される遭難事故データをもとに、山岳遭難などアウトドア活動における事故を削減・抑制する保険商品を提供し、ヤマップならではのインシュアテックに挑戦する。

 「事故データや天気データとYAMAPの行動データを掛け合わせることで、例えば雨の日に『このコースは事故が多くて雨の日は危ないから、保険料を上げます』と行動を抑制することも将来可能になると思っており、保険の力で減災することも可能であると考えています。」

株式会社ヤマップネイチャランス損害保険代表取締役社長の木村彰宏氏
歩行連動データを活用した保険サービスを提供予定

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片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。