地図と位置情報

高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有。国土地理院から表彰

地図めくり式のハザードマップゲームなど「Geoアクティビティコンテスト」受賞作を紹介

「Geoアクティビティコンテスト」でクリエイティブ賞に輝いた「HMG~ハザードマップゲーム~」

 12月6日・7日に開催された地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO 2022」の中から、国土交通省・国土地理院が主催する「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。前回は高校生や大学生による作品を紹介したが、今回はそのほかの受賞作品について紹介する。

[目次]

  1. 宮崎県の高校生が代々にわたり開発を続ける防災アプリ、「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を獲得(別記事)
  2. 高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有。国土地理院から表彰(この記事)

ハザードマップを身近にするアナログ地図ゲーム「HMG」

 今年新設となったクリエイティブ賞に輝いたのは、東京カートグラフィック株式会社で“地図地理エンタメプロデューサー”を務める村松和善氏による「HMG~ハザードマップゲーム~」。HMGは、地理院地図をもとに縮尺1/25,000でメッシュのサイズが6cm四方になるように調整してパネルとして切り出し、それぞれのパネルをマグネットで取り外しできるようにしたものだ。公開されている防災関連のデータを使用して危険度に応じて各メッシュに点数を付けている。

 使用するデータは「土砂災害警戒区域」「洪水浸水想定区域」「津波浸水想定区域」「確率論的地震動予測データ」「傾斜量」などで、点数が高いほど危険な地域であることを意味する。各項目を合計して点数をメッシュに表記し、その上から同じ箇所の地図のみのパネルを重ねて表からは点数が見えないようにしておく。この状態から、学校で行う場合は班ごとに順番を決めて、メッシュ番号の付いた地理院地図から危険だと思う場所を予想して順番にめくっていき、合計得点が最も多い班が優勝となる。

 例えば標高が低く窪地になっているところは浸水の危険性が高いと想定できるし、崖のようなところがあれば土砂災害の恐れがあると想定できる。地形などの状況を見ながらパネルごとの特徴や違い、共通点は何なのかを、ハザードマップなどに触れる機会が少ない子どもたちに考えてもらうことができる。なお、知らない街の地図よりも、自分たちが住んでいる街の地図を使ったほうがずっと盛り上がるそうで、このゲームはオーダーメイドで提供している。

東京カートグラフィック株式会社の村松和善氏さん(右)と、表彰式にてプレゼンターを務めた国土地理院長の高村裕平氏(左)

 実際に小学校で授業すると、「どこの地域がなぜ危険なのかを教えてくれた」「地図に興味が湧いた」といった反響が寄せられたという。HMGを作った村松さんは元お笑い芸人で、現在は東京カートグラフィックの技術開発部企画室にて、地図をエンターテインメントとして演出する“ディレクティングマップ”という活動に取り組んでいる。

 村松さんによると、「ハザードマップとディレクティングマップを組み合わせて、どうすれば子どもにハザードマップを知ってもらえるのかを考えたところ、ゲームにすることを思いつきました」とのこと。HMGはアナログのゲームであり、かつエンタメな講師による授業であることが重要で、それを大事にしていきたいとしている。

日本中の橋やトンネルの名称まで分かる、地図情報の総合閲覧サイト「全国Q地図」

 国土地理院データ活用賞を受賞したのは、全国Q地図管理者さん(匿名)による「各種地形図・地図情報の統合閲覧サイト『全国Q地図』」。全国Q地図は、地図が好きな個人が趣味で運営している地図サイトで、全て無料で利用可能。地理院地図の全ての地図を収録しており、過去の地理院タイルも閲覧可能。「今昔マップ」「東京図測量原図」「関東地区迅速測図」などの外部サイトが提供する地図タイルを閲覧できるほか、全高Q地図ならではの独自の地図タイルも用意している。

 オリジナルの地図タイルとして注目されるのが「全国道路構造物マップ」だ。全国の道路にある「橋梁」「トンネル」「シェッド」「大型カルバート」「横断歩道橋」「門型標識等」の6種類の構造物について、その名称や完成年度などの情報を閲覧できる地図で、道路管理者が整備したデータを独自に入手し、使用許可申請を行った上で地図上にプロットしている。橋梁や横断歩道橋については、日常的に街中で目にしているが名称を知らないものも多く、改めて名称を見るとさまざまな発見がある。

橋梁マップ

 全国Q地図管理者さんは、「ストリートビューなどを見ていて、拡大すると橋の名前が見えることがありまして、『こんな橋にも名前があるのか』と思い、なんとかこれを地図にできないかということでデータを手に入れて作りました。けっこう手間をかけて作っているので、多くの人に見ていただければうれしいです」と語る。

 このほか、全国の池の名前が分かる「全国農業用ため池マップ」や、「全国バス停留所マップ」なども用意している。また、一部の市区町村や都道府県では都市計画基図や市町村全図、森林基本図なども見られるようになっているほか、古い地形図も閲覧可能だ。

 地図をタイルに加工するツールとしては、フリーの地理情報システム「QGIS」、地図画像の変換プログラム「GDAL」、地形図閲覧・変換ソフト「DM-ViewConFree」などを利用している。

全国Q地図管理者さん(右)

全国の現役地理教員が中心となって「地理教材共有化プロジェクト」

 このほか教育に役立つ作品として、地理教師の有志によるコミュニティ「地理教材共有化の会」による「地理教材共有化プロジェクト~地理総合必修化に向けたアシスト~」が教育賞を受賞した。

 地理教材共有化の会とは、全国各地の現役地理教員を中心とした組織で、SNSのグループを通じて交流しており、メンバーは現在約250人。2022年度から高校で「地理総合」が必修科目となったが、高校には地理教員が少なく、若い先生の中には高校時代に地理を履修したことがないという人もいる。実際にアンケートを採ってみても、6割の学校は地理専門外の先生が担当している状況になっているという。

 そこで、全ての地理歴史科教員が安心して地理総合を担当できる仕組みが必要ということで、2020年4月にFacebook上にグループを作成し、地理教材共有サイトを開始した。とりあえず公開し、不具合があったらあとから修正するというテック業界の手法を採用し、スピード感を持って取り組んだ。公開は共有しやすいGoogle スライドを使用し、CC BY 4.0のライセンスで公開しているため、教育現場に合わせて内容を改変することもできる。さらに、Zoomによる交流会やセミナーなども開催している。

地理教材共有サイト

 地理教材共有化の会の代表を務める柴田祥彦さんは、「今までは学校の先生が教材を作っても公開しないことが多かったので、もっと気軽に共有できないかということでこのプロジェクトを始めました。以前から共有化のアイデアはあったのですが、コロナ禍になってオンライン会議が一般化し、全国の先生方とつながれるようになったことで実現しました」と語る。

 教材内容は地理院地図や衛星写真などさまざまな地図サービスを使用している。例えば東日本大震災の被災地の空中写真を見せて、その地区を復興させるためにどのような施設を建設・誘致すれば良いと思うかを考えさせる教材や、地理院地図を3D表示して氾濫原がどのようにできたのかを考察させ、水害から逃れるための対策や工夫について問う教材、衛星写真を見ながら飽食と飢餓について考えさせる資料など、幅広い内容の教材を用意している。

 また、「Google マップ」「Google Earth」「今昔マップ」などの地図サービスの使い方を学べる資料もあり、自然なかたちでGIS(地理情報システム)を地理の授業に取り入れている。

地理教材共有の会

道路占有の許可申請のDX化や、VRによる防災シミュレーションなども

 地域貢献賞を受賞したのは、一般社団法人GIS支援センターによる「地理院地図でDX_進化した道路占用オンライン協議・申請」。地方公共団体への道路占有の許可申請をオンライン化する取り組みで、計画調整や協議の段階からのIT活用およびオンライン化を追求している。複雑で多様な手続きをシステムとして構築するため、官民共通の基盤地図として地理院地図を活用し、実証実験を積み重ねて運用への合意形成を図った。

 工事計画をリモート登録し、一覧表を作成できる調整会議システムは2009年から利用が始まり、現在は大阪府全域の7つの土木事務所をはじめ14の市町村において官民216の事業所と600を超えるユーザーで使用されているという。GIS支援センターでは今後も機能の拡充に取り組んでいく方針だ。

 防災賞を受賞したのは齋藤仁志さんによる「DP Note - 防災に関する考察ブログ - 災害データ可視化&防災図解による情報発信」と、合同会社World Arc Labの小比賀亮仁さんによる「VRを使った洪水避難訓練と行動データの分析システム」

 DP Noteは、公務員でありプライベートでシビックテックにも取り組んでいる斎藤さんによる、防災に関する考察ブログ。防災というと難しそうなイメージを持たれるため、分かりやすく伝えるため2D/3Dマップやグラフ、図解、シミュレーションなど図解による情報発信を行うとともに、統計的に災害を捉えることで教訓として生かす姿勢を大事にしている。

 具体的には、ダムの位置を可視化した「日本全国ダムマップ」や、熊本地震において震度マップと活断層図を重ね合わせた図などを発表。日本全国ダムマップはTwitterで発信したところ9万インプレッションを超える反響があったという。

 今後は国が発表するデータを加工するための変換ツールの開発や、オープンデータ化、アプリコンテストなどへの出場による知名度向上などに取り組んでいく方針だという。

DP Note

 「VRを使った洪水避難訓練と行動データの分析システム」は、地図情報から生成された仮想空間上に洪水を発生させて、避難所までの移動をVRで体験できるシステム。VR上におけるユーザーの行動を分析して避難行動モデルを作成し、被災時の人流シミュレーションを行って防災計画に役立てることもできる。

 VRの作成に現実の地形情報を使用しているのが特徴で、避難所への移動中に浸水が広がり、水位が増していく様子も描かれており、水位の上昇とともに水の負荷によって歩きにくくなる様子も体験できる。また、避難者の行動データを解析することにより、「避難できた人は被災した人の2倍程度の速さで移動している」「被災した人は水位が上昇し始めてから慌てて逃げている」といった行動の違いを解明することができる。

 今後は同システムを使って総合的な防災訓練を実施するためのプラットフォームの構築を目指している。

VR避難シミュレーションの画面

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  1. 宮崎県の高校生が代々にわたり開発を続ける防災アプリ、「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を獲得(別記事)
  2. 高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有。国土地理院から表彰(この記事)

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。