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「G空間情報センター」の開設宣言から現代の渋谷の江戸切絵図まで~「G空間EXPO2016」レポート

 東京・お台場の日本科学未来館で11月24~26日に開催されたイベント「G空間EXPO2016」。地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたこのイベントでは、地図や位置情報、GIS、測位技術、測量、自動運転システムなどに関連したさまざまな製品やサービスが展示された。その展示会場の模様はすでにお伝えしたが(11月24日付記事『「G空間EXPO2016」11月26日まで開催中、今年の展示ゾーンはドローンやVR、IoT、きのこたけのこ対抗も』参照)、本連載では、一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)による「G空間情報センター運営開始記念シンポジウム」と、位置情報メディアをテーマにしたフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」、そして国土交通省(国土政策局・国土地理院)が主催するコンテスト「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。

地理空間情報の共有プラットフォーム「G空間情報センター」運営開始

 AIGIDは、政府や企業が保有するさまざまなG空間情報をワンストップで自由に組み合わせて入手できるプラットフォーム「G空間情報センター」の運用を24日に開始し、その記念シンポジウムを同日、G空間EXPO内の講演イベントとして開催した。

「G空間情報センター」

 AIGIDは、公共データを用いて地域課題の解決を支援する一般参加型コンテスト「アーバンデータチャレンジ(UDC)」などを通じて、これまで地理空間情報の流通や利活用の促進に取り組んできた。今回、AIGIDが運用を開始したG空間情報センターは、2012年3月に政府で閣議決定された「地理空間情報活用推進基本計画」に基づいて設立されたものだ。国や地方公共団体、大学、民間企業などが保有するオープンデータや有償・無償データ、独自データなど多様なデータを提供するとともに、データを活用するための各種アプリケーションも提供する。産官学が保有するさまざまな地理空間情報を一元的に提供する初めてのプラットフォームであり、開始当初は150程度のデータセットの流通となる。

 今回のシンポジウムでは、同センターのセンター長となる東京大学空間情報研究センターの柴崎亮介教授が登壇し、「G空間情報センター開設の宣言」と題した講演を行った。

 「G空間情報センターは、個々のデータを組み合わせて大きな社会的価値を生むことを目指したマーケットプレイスであり、銀行であり、ショーウインドウでもあります。このような取り組みは今までにあまり例のないことで、大きなチャレンジと言えます。今までもデータを置いてあるサイトはありましたが、ただ置いてあるだけではどうやって使うかイメージが湧きにくい。G空間情報センターでは、『データとデータを組み合わせるとこのように使うことができて、このようなものを作れる』ということを提示することも大きな役割となります。」(柴崎氏)

「G空間情報センター」センター長の柴崎亮介教授が開設を宣言

 ウェブサイトの具体的な機能としては、カテゴリーやエリア、キーワードを使ったデータの検索機能、データを動的・静的にプレビューする機能、地理空間情報データをウェブ地図上に重ね合わせて閲覧できるマップ機能などを搭載する。

 このほか、政府や自治体が保有する公共データを「信託」を通じてオープン化する「情報信託銀行」サービスも提供する。国や自治体には、有用性があるにもかかわらず、さまざまな制約により公開や利用ができないデータが存在するが、これらのデータを適切な変換・集計や解析、匿名化を施すことによって使いやすく価値の高いデータに変換する。

 さらに、災害時には災害ボランティアや研究機関などの活用を支援するため、災害時協定に基づいてデータの提供も行う。災害時に情報を提供する側の機関や、情報を利用する側の機関と順次、災害協定を締結し、官民が保有する災害対応に役立つデータを現場関係者にすばやく届けることで、災害情報の“ハブ”になることを目指している。

 また、国や地方公共団体、ボランティア、地域コミュニティ、研究機関などと連携・協同しながら地理空間情報の研究開発や利活用を進めるとともに、地理空間情報の活用に関するコンサルティングなども実施する。地理空間情報を組み合わせて、集計・解析や匿名化などの加工による価値のあるデータの開発や利活用手法の開発なども行う。

ウェブ地図上にデータを表示する機能を搭載

今年の「ジオメディアサミット」のテーマは「移動・自動運転」

 「ジオメディアサミット」の今年のテーマは「移動・自動運転」で、今年6月に設立されたダイナミックマップ基盤企画株式会社事業企画部の山口雅哉氏が登壇した。同社は、三菱電機やゼンリン、パスコ、アイサンテクノロジー、インクリメントP、トヨタマップマスターの6社が自動車会社9社とともに設立した会社で、自動走行・安全運転支援システムの実現に必要な高精度3次元地図の整備や実証、運用に向けた検討を進めることを目的としている。

 同社は内閣府の委託業務「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム」の成果を踏まえて、自動走行・安全運転支援システムの早期実用化に向けた「ダイナミックマップ協調領域」のデータ仕様やデータ構築手法の標準化、メンテナンス手法などの実証や決定、公的機関との調整や国際連携の推進を図るほか、永続的な整備・更新を前提として事業化も検討している。

 山口氏によると、ダイナミックマップのデータの流れにおける同社の役割は主に、レーザー点群データや画像など3次元地図の共通基盤データの収集と、静的情報やベクトルデータなどの生成の2つ。MMS(モービルマッピングシステム)を活用して点群データを収集し、それをもとに図化作業を行ってベクトルデータの生成などを行う流れとなる。

 「全国の高速自動車道・都市高速道路・自動車専用道路約3万kmを2018年度末までに整備を実現すべく検討しています。さらに、一般道路も整備対象として検討を進めていく予定です。また、こうして生成したデータをどのように更新していくかも考えていく必要があります。道路工事は高速道路だけで年間約4万件も発生していますので、これらを自動的に更新する技術が必要であり、例えばトラックやバスなどを使って自動的にデータを収集・更新するなど、いろいろな関係機関と連携しながら検討していく方針です。」(山口氏)

 山口氏は、高精度3次元位置情報基盤の将来展望として、防災やインフラ維持管理など自動運転以外の分野への活用を挙げる。

 「道路は街の骨格となるものなので、その道路データを2次元データから高低差も表現する3次元データに変えることによって、さまざまな用途に利用できます。自動走行以外のものに活用することで販売量も増え、全体的に価格を抑えることができるので、3次元データを色々なビジネスに活用できる環境を作る必要があります。高精度3次元位置情報基盤は無限の可能性を秘めているので、ぜひともみなさんにもご協力いただきながら広めていきたいです。」(山口氏)

MMSで点群データを収集
自動走行用地図データのイメージ

 同イベントにはインクリメントP株式会社の大石淳也氏(新規事業開発部)も登壇し、自動運転について語った。大石氏は、自動運転における地図の役割として、目的地の設定とルートを示す以外に、「先読み」「センサー補助」「自車位置推定用の目印」の3つを挙げた上で、同社のカーナビ用地図を使って3つの役割を満たすことができないかを模索していると語った。

 「カーナビ用地図を自動運転で利用するには、現在のカーナビで用いられている道路ネットワークモデルを車線ごとに構築する必要があるとともに、地図およびそこに描かれている地物の高精度化を図る必要があります。インクリメントPでは、一般道や更新作業を念頭に置いて既存の道路ネットワークから上下線ネットワークを生成し、さらに車線ネットワークを自動生成するプログラムの開発などを行っています。また、アイサンテクノロジー株式会社、名古屋大学との共同で、高精度ナビゲーションシステム『3Dツインナビ』を開発するといった取り組みも行っています。」(大石氏)

カーナビ用地図の現状と課題

G空間情報がテーマのコンテストには、江戸切絵図の手法で作成した渋谷の地図も

 昨年まで「Geoアクティビティフェスタ」として開催されていたコンテストは、今年から「電子国土賞」と統合し、「Geoアクティビティコンテスト」としてリニューアルした。同コンテストでは、地理空間情報に関する独創的なアイデアやユニークな製品・技術などを持つ企業や教育・学術関係者、NPO法人などによる展示やプレゼンテーションの機会を提供し、表彰を行うもので、今年は20名のプレゼンターが選ばれた。

「Geoアクティビティコンテスト」の展示コーナー

 この中から最優秀賞に選ばれたのは、焼津高校および京都大学防災研究所・畑山満則教授による「高校・大学連携による津波避難評価シミュレーションシステム」。焼津市の地元の自治会と連携し、システム構築に必要な調査およびデータ作成を焼津高校の生徒が行うことで、焼津市における津波避難評価シミュレーションを開発した。調査にあたっては、対象地区すべての世帯を高校生が個別に訪問して調査するとともに、データ入力も高校生が行った。

 このプロジェクトでユニークなのが、それぞれの家に合わせた避難のプランを提案する「オーダーメイド避難」。今回の対象地区では、津波が発生した場合、避難タワーにたどり着くことができない人が多いというシミュレーション結果になったため、解決策として、遠くの避難タワーではなく近隣の3階以上の建物に逃げることを高校生が提案した。これにより、避難できる人数がかなり多くなることがシミュレーションにより分かった。

 また、シミュレーションを現実空間に実装する「ツナミスト」という避難訓練も行った。この訓練では、シミュレーションに基づいて高校生たちが青い衣装に身を包み、津波を表現しながら歩くことで、避難訓練の参加者が津波の押し寄せるスピードを体感できるようにした。

3階以上の建物に避難すると助かる人数が増える
青い衣装で津波を表現

 部門賞(教育効果賞)および来場者の投票によって選ばれる「来場者賞」を獲得したのが、愛媛県立伊予農業高等学校環境開発科の村井麻里亜氏による「ドローンを活用した近赤外画像撮影による水稲の生育状況の把握」。水稲の生育状況を調べるにあたって、生育が良好な植物は近赤外が強く反射することを利用して、ドローンに搭載した近赤外カメラを撮影し、植生の分布状況や活性度を示す「正規化植生指数」を求めた。

ドローンに搭載した近赤外カメラで植生を調査

 また、部門賞の「測量新技術賞」には、産総研の技術移転ベンチャーであるサイトセンシング株式会社の「車輪型移動体向け自律航法に基づく屋内外測位技術」が受賞した。同技術は、ビーコンなどの機器設置やWi-Fi測位などの事前調査が不要で屋内測位を行える自律航法(PDR)を可能にする技術で、フォークリフトなどの車輌に限定することにより、スマートフォン内蔵の加速度センサーを使って誤差の少ない高精度な自律航法を実現した。

車両にスマートフォンを搭載して自律航法を実現
元の場所に戻ったときの誤差が少ない

 このほか、審査員特別賞の「地図デザイン賞」を受賞したのが、慶應義塾大学環境情報学部の吉田桃子氏による「現代の江戸切絵図」。これは、江戸時代に案内地図として使われた「江戸切絵図」の図式を使って現代の都市空間を描き直すというもので、眺めて楽しく、美しいナビゲーションマップに仕上がっている。

 作成したのは渋谷の地図で、和紙に地図を印刷したり、版画を作ったり、立体図を描いたりと、さまざまな表現方法を追究した。歩行者用道路や大型商業施設内の通路は黄色で表現することにより、渋谷全体の歩行動線を可視化しようと考えた。また、車道は水部をイメージさせる水色を使用しており、これは、車道は歩行できない空間であり、江戸時代に物流のインフラとして使われていた掘割や河川に相当するものであると考えたからだという。

 さらに、渋谷駅前のスクランブル交差点は、池の上に交差する橋がかかっている描写にしている。信号が青になる45秒間だけ、橋がかかるという設定で、この解釈を立体空間に描き出した絵も発表した。

現代の江戸切絵図
車道を青色で描写
渋谷駅前の交差点を立体描写

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。