地図と位置情報
水害などの防災・減災に、地理空間情報をどう役立てる?
今年の「Geoアクティビティコンテスト」から
2019年12月12日 06:00
地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO2019」が11月28日~30日、東京・お台場の日本科学未来館で開催された。その中から、国土交通省(国土政策局・国土地理院)が主催するコンテスト「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。
G空間EXPOで毎年恒例となっているこのコンテストは、地理空間情報に関する独創的なアイデアやユニークな製品・技術などを持つ企業や教育・学術関係者、NPO法人などによる展示やプレゼンテーションの機会を提供し、表彰するもので、今年は21名のプレゼンターが選ばれた。昨年度からの変更点の1つとして、新たに防災・減災に関連した取り組みを表彰する「防災減災賞」が追加されたことが挙げられる。発表作品も全体的に防災・減災を意識した取り組みが多く、今回はその中から注目作品をピックアップして紹介する。
地理院地図をXbox用コントローラーで自在に操作できる「まいたいタッチ」
最優秀賞を受賞した「まいたいタッチ」(プレゼンター:九州産業大学芸術学部・佐野彰氏)は、国土地理院のウェブ地図「地理院地図」をXbox用ゲームコントローラー(互換品でも可)やタッチスクリーンで操作可能にするソフトウェアで、WindowsやMac、Raspberry Piなどで動作可能。
左のアナログスティックで地図スクロールが可能で、奥にあるLB/RBボタンでズームイン/アウトが可能。手前左の十字ボタンで「標準地図」「淡色地図」「アナグリフ」「傾斜量図」の切り替え、右上の4つボタンで「土地利用図」(黄色ボタン)、「明治時代の低湿地」(青色ボタン)、「相対標高図」(赤色ボタン)、「地形治水分類図」(緑ボタン)を切り替えられる。
右下のスティックを回すと空中写真が連続して表示される。12時方向にスティックを倒してから時計回りに回転させていくと、12時から6時までは新しい地図から古い地図に、6時から12時までは古い地図から新しい地図へと変化する。
タッチディスプレイを使用しているときは、地図の上を指でなぞって線を描くことも可能で、避難経路の検討などに活用できる。また、上部の黒い小さなボタンのうち、左を押すと指やマウスドラッグで描かれた線が消えて、右側のボタンを押すと、地図上に表示されている場所にQRコードでリンクが生成されて、それをスマホで読み取ると国土地理院の「重ねるハザードマップ」の画面が表示される。さらに、自治体が配布するハザードマップを地理院地図上に重ねて表示させる機能なども提供する。
まいたいタッチの“まいたい”とは、災害が発生する前にしておくべき準備や行動をまとめたリストである「マイ・タイムライン」を略した言葉で、佐野氏は、水害対策に役立つ地形情報やハザードマップなどを多くの人にできるだけ楽しく、手軽に見てもらうためにこのシステムを考えたという。同ソフトは現在、GitHubでソースが公開されているので、コントローラーを持っている人は試してみてはいかがだろうか。
災害訓練ARアプリ「CERD-AR」、リアルな体験を可能に
今回、「防災減災賞」を受賞した作品は3つあり、その中の1つが災害訓練ARアプリ「CERD-AR」(プレゼンター:大阪市立大学都市防災教育研究センター・吉田大介氏、三田村宗樹氏、応用技術株式会社・林博文氏、ゲェンバンティエン氏)。
浸水や火災などのアニメーションや防災関連施設をARで表示するiOSアプリで、周辺地域に存在する災害リスクや防災関連施設の情報について、現地で地理空間的な理解を得られる。火災や土砂崩れ、道路閉塞、浸水被害などの仮想災害をタイマー設定することにより、災害状況が刻刻と変わる状況を仮想的に作り出し、災害訓練や、防災をテーマとした街歩きに臨場感を持たせることができる。
地理院タイルなどウェブで配信されるGISデータを本アプリで重ねて表示して、シームレスにAR表示することも可能。ハザードマップなどのデータを現実の風景に重ねて表示できる。
同アプリを活用した親子向けの防災まち歩きイベントでは、親子が1台ずつCERD-ARをインストールしたiPadを持ち、水害時避難ビルや防災施設などがどこにあるかを確認したほか、河川氾濫により浸水範囲が拡大するという想定のもとに水害時避難ビルへの避難体験を行った。このほか、関西国際空港での地震津波防災訓練や、堺市の小学生を対象とした地域での体験学習などにも利用されている。
同アプリは現在、旧バージョンがApp Storeにてダウンロード可能で、年明けには新バージョンの公開を予定している。
シミュレーション連携でリアルタイム被害予測を実現する「ARIA」
CERD-ARと並んで防災減災賞を受賞したのが、水害リスクを削減することを目的とした減災オープンプラットフォーム「ARIA」(プレゼンター:名古屋大学/情報通信研究機構/北陸先端科学技術大学院大学・廣井慧氏)。
従来は個別に運用されていた水害の被害解析に関するシミュレーターやシステムを融合させて1つのシステムとして運用できる。人流データをもとにした避難シミュレーター、降水や河川の水位などの観測データをもとにした氾濫シミュレーター、交通シミュレーター、冠水道路シミュレーター、情報通信シミュレーターなど、複数の異なるシミュレーターやシステム間でデータをインタラクティブに交換することが可能で、災害時のリアルタイムな人や車の動き、冠水、情報通信などの相互影響を分析し、被害を予測できる。
例えば川が氾濫したときに、「住民が避難経路をスマホを通して受け取ることができる場合と、スマホが使えなくなった場合でどのように人の動きが変わるのか」といったシミュレーションを簡単に行えるようになり、災害時のサービスがどのように有効か、ボトルネックはどこにあるかといったことを評価することもできる。
1市町村あたり5分程度で高速に予測結果を導出することが可能で、氾濫予測や避難タイミングなどの検討などに活用できる。現在提供されている降水量や河川水位の観測網と容易に連携可能で、全国1718市町村で現在の観測データに基づいた被害予測や避難誘導にすぐに利用できる。ゲリラ豪雨など猶予時間の少ない水害でのリアルタイム被害予測が可能なほか、過去の水害データを利用した訓練などにも活用できる。
展示では、被害状況を立体地図上にプロジェクションマッピングするデモが行われ、地図上で道路が通行止めになったところにQRコードを置くと、カメラが読み取って道路の不通が反映されたシミュレーション結果に変わる様子などを確認することができた。
高校生が開発した防災アプリ「SHS 災害.info 2019」
宮崎県立佐土原高校の情報技術部の生徒が、先輩が取り組んでいた防災アプリ開発の活動を引き継いで作った最新版のアプリで、「防災減災賞」を受賞した。国土地理院が提供する「重ねるハザードマップ」で提供されている洪水や土砂災害のリスク情報を見られるほか、全国約9万9000件の避難場所を検索することも可能。地震や火山情報、警報・注意報、天気などの情報を確認することもできる。
また、防災への関心を高めるためのゲームやクイズを実装しているほか、防災知識を学べるコンテンツなども収録されている。その中の1つである「防災キャッチ!」というゲームでは、上から降ってくるモノの中から避難に必要なグッズだけをキャッチするというルールで、サッカーボールやゲーム機など関係のないものをキャッチすると減点される。
インターフェースにユニバーサルデザインを採用している点も特長で、ボタンの配置は右利きの人でも左利きの人でも使いやすいように左右対称にして、ボタンの色も多様な色覚に配慮し、東京都のカラーユニバーサルデザインガイドラインを参考にして配色している。
- SHS災害.info2019(App Store)
- SHS災害.info2019(Google Play)
豪雨時、近くの川の水位が分かる「川の防災情報」の英語版
このほかの部門でも、防災を意識した作品が数多く見られた。電子国土賞を受賞した「川の防災情報 英語版」(プレゼンター:一般社団法人河川情報センター)は、近年増えている外国人観光客や在日外国人に水災害によるリスクを知らせるためのウェブサイトで、雨が今どこで降っているのか、川の水位が今どれくらいなのか、どちらの方向に逃げるのが安全なのか、といった情報を英語で知らせる。
降雨に関する情報は、気象レーダーを活用したリアルタイム雨量観測システム「XRAIN」による現在の雨域を表示することが可能で、英語注記には国土地理院の多言語化用ベクトルタイルデータを使用している。また、最大6時間前の雨量図も動画で見ることができる。
さらに、地図上の観測所マークをクリックすると水位情報を確認することも可能で、川の水位の変化をグラフで表示できる。河川の横断図を見ることも可能で、川の水位と地盤の高低差を断面図で表示できる。これにより、現在の水位がどれくらい危険なところまで上昇しているかを把握することが可能だ。
また、ライブカメラと平常時の様子を切り替えながら比較することも可能なほか、浸水想定区域図を地図に重ねて見ることもできる。
静岡県内の3D点群データをアーカイブした「VIRTUAL SHIZUOKA」
測量新技術賞を受賞した「VIRTUAL SHIZUOKA」(プレゼンター:静岡県交通基盤部建設技術企画課・杉本直也氏)は、災害に備えて県内の各所で取得した、1点ごとにXYZの座標データを持つ3次元の点群データを蓄積する取り組みで、アーカイブした点群データをダウンロードできるサイト「Shizuoka Point Cloud DB」も立ち上げた。地図上のマーカーをクリックすると、その地点の点群データをダウンロードすることが可能で、オープンデータなので誰もが自由に使える。
航空レーザー測量で取得した掛川城や韮山反射炉などの歴史的建造物のデータも収録しており、これらを利用してVRなどに利用できる。また、MMS(モービルマッピングシステム)車両で取得した県道約1000kmの点群データもPCDBで公開しており、このデータを活用した自動運転の実証実験なども行われている。
今後は交通サービスの変革などに対応したまちづくりや防災、インフラ維持管理、観光などさまざまなことにデータを活用していく方針。3次元データは疑似体験により幅広い世代でイメージを共有できるのが利点であり、例えばVRで浸水を仮想的に体験することで、避難行動への意識改革を図るといった使い方が可能となる。
これらの作品のほかにも、全国のハザードマップをはじめとしたさまざまなWeb GISコンテンツにQRコードを使ってアクセスできる「SONIC」や、愛媛県伊予農業高校による重信川の洪水調査、逗子市における津波防災マップ作成など、さまざまな取り組みが紹介された。各作品の詳細については、コンテストの公式ページで確認してほしい。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。