地図と位置情報
これはもう地図・位置情報界隈の某同人イベントなのかも。「ジオ展2025」がビジネス展示会を超越した一体感で熱かった
2025年7月9日 06:00

地図・位置情報に関する企業・団体が出展するイベント「ジオ展2025」(共同運営:マップボックス・ジャパン合同会社、株式会社MIERUNE、アドソル日進株式会社)が7月2日、大手町三井ホール(東京都千代田区)で開催された。その模様をレポートする。
[営利団体のブース]
- オムロンソフトウェア株式会社/東芝デジタルソリューションズ
- MetCom株式会社
- ダイナミックマッププラットフォーム株式会社
- 応用技術株式会社
- アドソル日進株式会社
- マップボックス・ジャパン合同会社
- 株式会社MIERUNE
- 国際航業株式会社
- ジオテクノロジーズ株式会社
- 株式会社Geolonia
- 株式会社ゴーガ
- 株式会社マップル
- 東京カートグラフィック株式会社 ディレクティングマップ
- 矢崎総業株式会社
[非営利団体のブース]
ジオ展は、地図や位置情報など地理空間情報に関連したビジネスを手掛ける企業や大学の研究室、NPO、大学・社会人のサークルなど幅広い団体が集うイベント。今年で10回目となる。会場では展示ブースやプレゼンテーションステージにて製品やサービス、活動内容が紹介されるほか、求人情報も掲示され、人材採用の場としても活用されている。
昨年の「ジオ展2024」では過去最高となる50の企業・団体が出展し、1072人が来場したが、今年はそれを上回る65の企業・団体が出展し、来場者も1445人と昨年を大きく上回った。入り口付近のホワイエでは出展各社の中から24社・団体が15分間の持ち時間でプレゼンテーションを行ったが、椅子はほとんど満席で立ち見客も多く見られた。
地図データや地図開発プラットフォーム、航空測量、GIS(地理情報システム)、人流データ、AR/VR、アプリ、紙媒体の地図など、展示・紹介される製品やサービスは多種多様であり、ジオ展ではそれらを扱う企業・団体が出展するため、この分野における最新の情報やトレンドを把握することが可能だ。出展者と来場者の交流だけでなく、出展者同士によるコミュニケーションも見られた。

営利団体のブース
オムロンソフトウェア株式会社/東芝デジタルソリューションズ
昨年のジオ展の盛況ぶりを見て今年の共同出展を決めたという両社。オムロンソフトウェアは組み込み型文字入力システム「Wnn(うんぬ)」を紹介していた。予測変換機能を搭載するWnnはカーナビへの導入実績も多く、今回の展示では、Wnnで変換できない地名を入力して勝利した人にノベルティをプレゼントする「地名バトル」を実施していた。
一方、東芝デジタルソリューションズは音声ミドルウェア「RECAIUS」を展示。RECAIUSでは音声を認識して特定のキーワードを検出できる「ボイストリガー」や、テキストから合成音声を作成する「ToSpeak」などを提供しており、国内の地名を読み上げる辞書もオプションで用意している。
MetCom株式会社
都市部の複数箇所に気圧センサーを搭載した基準点を設置し、スマートフォンで計測した気圧情報をもとに高精度な高さ情報を得られる垂直測位サービス「Pinnacle」を提供するMetCom。ブースでは、人流データに高さ情報を付与することにより、東京駅構内のホーム上にいる人と地下を移動する人を判別して人流を可視化した映像や、3Dホログラムディスプレイ上で人流データを可視化するデモなどを行っていた。
ダイナミックマッププラットフォーム株式会社
3次元点群データをもとにした自動運転向けの高精度3次元地図(HDマップ)を提供するダイナミックマッププラットフォームのブースでは、3次元点群データの確認・分析が可能なデータプラットフォーム「3Dmapspocket」を展示。同ビューアーは5月27日に大幅な機能アップデートが発表され、UIが刷新され視認性の高いデザインとなり、ユーザーの使用頻度の高い機能への導線もスムーズになった。また、HDマップの生成技術を活かした除雪車向けの高精度ガイダンスシステムも展示した。
応用技術株式会社
国土交通省が推進する3D都市モデル整備プロジェクト「PLATEAU」を活用したクラウドベースの環境シミュレーションサービス「まちスペース」を展示。同サービスは2024年11月に提供を開始し、2025年6月30日には対応エリアを従来の2都市から全28都市へ大幅に拡張した。ウェブブラウザー上で解析種別や解析範囲を設定するだけで誰でも手軽に簡易的な環境シミュレーションを行うことが可能で、日影解析や風況平面解析、風況断面解析、騒音解析、振動解析、大気質解析などが可能。期間限定で日影解析の簡易環境シミュレーションを無償提供している。
アドソル日進株式会社
3月1日に提供開始したSaaS型商圏分析ソリューション「DOCOYA」を展示。時間帯別・性年代別の滞在人口が分かる人流データを標準搭載しており、店舗・顧客などの社内データやPOSデータなどの外部データと組み合わせることにより、出店候補地の検討などさまざまな分析を行える。地図基盤にはMapboxを採用。ポテンシャルの高いエリアを抽出できる類似エリア分析機能や、商圏分析レポートを文章化できるAIレポート機能も搭載する。
マップボックス・ジャパン合同会社
地図開発プラットフォーム「Mapbox」を提供するマップボックス・ジャパンは、プライベートベータ版が提供開始となった気象情報の機能「Japan Weather Layer」を紹介。風の強さやパーティクルの数や色を設定可能で、降水予報や大雨警報なども利用できる。Mapboxでは気象の3D表現も可能で、雨や雪の色や強度、粒の大きさ、降る向きのコントロールなどを行える。
株式会社MIERUNE
オープンソースのGISソフトウェア「QGIS」のソリューションを提供するMIERUNEのブースでは、QGISの導入から活用までを支援する新サービス「QGISサポート」や、同社スタッフの執筆による著作物を展示。プレゼンテーションでは、同社がQGISコミュニティを支える商用サポーターとして行っている研修事業や技術情報の発信、プラグイン開発、コンサルティングなどの取り組みを紹介した。
国際航業株式会社
航空測量会社の国際航業は、7月1日に提供開始したGISプラットフォーム「Geozén」を紹介した。Geozénは、GISに必要な基本機能に加えて、同社が保有する航空写真などのデータや顧客が保有データの安全な管理、API配信機能などを利用可能なコンテンツ基盤や、認証認可機能やデータ管理機能などを備えたアプリケーション開発基盤、DevOps基盤などで構成される。物流向けSaaSや点群プラットフォーム、インフラ保全、防災情報サービスなどさまざまな分野で活用できる。
ジオテクノロジーズ株式会社
地図データベース「MapFan DB」を提供するジオテクノロジーズのブースでは、ポイ活アプリ「トリマ」からユーザーの許諾を得て収集した位置情報データをもとに、個人を識別できないように匿名加工処理された人流データ「Geo-People」を紹介。通行量や渋滞統計、経路解析、観光分野の回遊分析、広告配信などさまざまな分野に活用できる。ブースでは地図上に人流データを可視化したデモを行っていた。
株式会社Geolonia
地図作成サービス「Geolonia Maps」を提供するGeoloniaは、スマートシティのための地理空間データ連携基盤や、公開型GIS「スマートマップ」を紹介。ブースでは静岡県焼津市で導入された「スマートマップ焼津」を展示した。スマートマップは避難所やごみ収集、学区、建築制限区域などさまざまな情報を自由に重ねて見ることが可能で、庁内の共有や部署間の連携にも利用できる。また、スマートマップで整備したデータは地理空間データ連携基盤と接続することで他システムとの連携も可能となる。
株式会社ゴーガ
Google Cloud プレミアパートナーとして、 Google Maps Platformを活用したシステム開発やサービスを提供するゴーガ。ブースでは、位置情報ビッグデータを搭載したマップ上でさまざまなデータを閲覧・管理できるプラットフォーム「GOGA GIS」のデモを展示した。
株式会社マップル
昭文社グループのマップルのブースでは、7月4日発売のWindows用の地図ソフト「スーパーマップル・デジタル26」や、業務システムにカーナビゲーション機能を付加できるソフトウェア開発キット「業務用カーナビSDK」を展示。スーパーマップル・デジタル26は64ビット完全対応により速度が向上したほか、緯度経度座標による外部サイトへのリンク機能や、危険物搭載規制を考慮したルート探索機能などの新機能が追加された。
東京カートグラフィック株式会社 ディレクティングマップ
東京カートグラフィックが展開する地図×エンターテインメントの取り組み「ディレクティングマップ」のブースでは、地理院地図とオープンで公開されている防災データを活用した「ハザードマップゲーム(HMG)」や、HMGをデジタル化したサイネージ設置型のクイズゲームアプリ「守れ!サイガイ防衛隊」を展示した。守れ!サイガイ防衛隊は、親しみやすいキャラクターと一緒にクイズで防災について学ぶことができる。
矢崎総業株式会社
自動車向けの計装機器を提供する矢崎総業は、デジタルタコグラフ(デジタル式運行記録計)から収集した商用車プローブデータを紹介。提供するデータは走行経路だけでなく平均旅行速度やOD(出発地・到着地)情報、ヒヤリハット情報なども集計して提供する。ブースでは施設・エリア分析や都道府県別運行統計、現在の商用車の運行状況が分かるリアルタイムプローブデータダッシュボードなどさまざまな事例を展示した。
非営利団体のブース
ママテツクラブ
2018年秋から立教大学でスタートしたジオラマ制作クラブで、学生や大学教職員、シニア、親子、ジオラマ材料専門店店長など、年齢も職業も異なるメンバーが交流しながらジオラマ制作に取り組んでいる。ブースではA4サイズのコンパクトな鉄道模型ジオラマが展示されたほか、Nゲージ用の安価なモバイルコントローラーと線路のセットなども販売していた。

ヒストリーテック・ラボ
過去の歴史を現代の技術で扱うためのデータやソフトウェア、サービスの開発に取り組むヒストリーテック・ラボのブースでは、地図や地名のデータ化に取り組むROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センターや、文書からの翻刻に取り組む「みんなで翻刻」、過去の地図を現代風デザインで再現する「れきちず」などを展示。れきちずでは、1860年ごろ~1935年ごろまでの4パターンの札幌周辺地図を現代風にした地図を展示していた。
空想と地図の企画室
実在しない土地や街の様子を地図として描く“空想地図”の活動を盛り上げる団体「空想と地図の企画室」のブースでは、ZINE「空想と地図」や、空想地図を作成できる工作キット「空想地図キット」などを展示。空想地図キットは、台紙に下書きをしてカットしたシートを貼っていくだけで簡単に自分だけの空想地図を簡単に作れる。
みんなで地理プラーザ!
地理好きが集まる社会人サークル「みんなで地理プラーザ!」のブースでは、地理系同人誌「地理交流広場」を展示。同サークルではトークイベントやクイズ企画、街歩き企画などさまざまなイベントも開催しており、自由に発表・参加できる場を提供している。
カシミール3D
3D地図ソフト「カシミール3D」の作者であるフリーソフト作家のDAN杉本氏のブースでは、や3D地図アプリ「スーパー地形」などを紹介。3D地図が描かれたステッカーやクリアファイル、マグカップなども展示していた。
青山学院大学古橋研究室
“一億総伊能化社会における、よりしなやか(レジリエント)な社会システムを提案し、実践する”研究・教育活動に取り組む青山学院大学古橋研究室のブースでは、毎年恒例となった、地理空間情報の関連グッズが当たる「ジオガチャ」を設置。プレゼンテーションでは、国際イベントへの参加や防災訓ランへの参加など、同研究室のさまざまな取り組みを紹介した。
一般社団法人LBMA Japan
位置情報データを活用したマーケティングサービスを推進する事業者団体のLBMA Japanのブースでは、国内における位置情報ビジネスを展開する企業を中心としたカオスマップを展示した。同団体は位置情報の利活用に関するガイドライン設置やイベント開催、位置情報データを活用した脱炭素推進活動のための「Location-GXプロジェクト」などに取り組んでいる。
一般社団法人OpenStreetMap Foundation Japan
オープンでフリーな地理空間情報を市民の手で作る世界的なプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の日本における活動を支援する団体であるOpenStreetMap Foundation Japan。ブースでは、OSMのデータをもとにした2D/3Dの地図を展示したほか、12月16日に大阪大学・中之島センターで開催する年次イベント「STATE of the MAP JAPAN 2025」の紹介も行った。
一般社団法人OSGeo日本支部
オープンソース地理空間ソフトウェア(FOSS4G)のコミュニティを支援するOSGeo日本支部のブースでは、2025年内に大阪、福岡、北海道、神奈川、長野で開催される国内のFOSS4Gイベントや、FOSS4G関連の書籍などを紹介。また、2026年8月30日~9月5日に広島で開催予定のオープンソース地理空間情報技術に関する世界最大級の国際カンファレンス「FOSS4G 2026 Hiroshima」の告知も行った。
国土交通省政策統括官付地理空間情報課
地理空間情報の整備やオープンデータ化に取り組む国土交通省の地理空間情報課のブースでは、不動産の価格情報や防災情報、都市計画情報、周辺施設情報などを地図上で見られるウェブサイト「不動産情報ライブラリ」を展示。また、地理空間情報をテーマとしたイベント「G空間EXPO」や、国土交通省が整備するGISオープンデータ「国土数値情報」なども紹介した。
国土交通省国土地理院
国土地理院のブースでは、さまざまな地図の基礎となる地図データ「電子国土基本図」の3次元化の取り組みを紹介。3次元電子国土基本図は、これまで2次元の地図データとして整備されてきた電子国土基本図(地図情報)に、3次元点群データや数値標高モデル(DEM)などをもとに、建物や道路、鉄道などに高さの情報が付与される。3月26日に広島県尾道市付近の試作データを公開しており、今後は2028年度末までに国土全域の3次元化を実施し、順次提供を行う予定だ。
東京都デジタルサービス局
3D空間を活かした分析・シミュレーションを行って現実へフィードバックするなど、デジタルツインを都政に活用して都民のQoL向上を目指す「東京都デジタルツインプロジェクト」に取り組む東京都デジタルサービス局。ブースでは、3D都市モデルに都バスや河川のリアルタイム情報などさまざまなデータを重ね合わせることが可能な「東京都デジタルツイン3Dビューア」を展示した。
ジオ展2025を共同運営した株式会社MIERUNEの代表取締役会長・朝日孝輔氏は、イベントを終えた感想として以下のように語った。
「参加団体の方からは、地図・位置情報界隈における“夏フェス”“夏祭り”“コミケ”と形容していただき、産官学に趣味のサークルが混ざった、他の展示会とはまた違った良い雰囲気を出展者・来場者一体で作れました。『昨年来場して雰囲気が良かったので今年は出展した』『来年出展したいので今年見にきた』という方もいて、業界の良い広がりを作る流れになっています。相変わらず会場の狭さには言及されますし、運営もギリギリでやっていますので、来年お手伝いいただける企業様も募集しています。一緒に業界を盛り上げていきましょう。」
今年は昨年よりも会場規模を大きくしたにもかかわらず、展示会場内の来場者密度は相変わらずで、大盛況となったジオ展2025。来年はどのような企業・団体が新たに出展するのか注目される。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。