地図と位置情報
溢れ出る熱気を実感! 地図・位置情報の特化イベント「ジオ展」に来年も期待(願わくはもう少し広い会場で…)
エンタメ・教育関連&注目ブースを一挙紹介 ~会場レポート<後編>
2024年5月1日 06:55
地図・位置情報に関する企業・団体が出展するイベント「ジオ展2024」(共同運営:マップボックス・ジャパン合同会社、株式会社MIERUNE)が4月19日、浅草橋ヒューリックホール(東京都台東区)で開催された。AI・デジタルツイン関連の展示を中心に紹介した前編に引き続き、会場レポートの後編をお届けする。今回はエンターテインメントや教育関連の展示と、そのほかに筆者が注目したブースをピックアップした。
[目次]
- 「ジオ展2024」会場レポート<前編>(別記事)
- 「ジオ展2024」会場レポート<後編>(この記事)
観光スポットカードや防災をテーマとしたゲームも登場
株式会社ニシムラ精密地形模型
立体地図・地形模型の製作を手掛ける株式会社ニシムラ精密地形模型は、これまで提供してきた立体地図模型制作とは異なる新たな事業として、全国規模の観光スポットカード「ロゲットカード」を紹介。ロゲットカードは日本全国の観光スポットを統一フォーマット化したコレクションカードで、各スポットに設定された配布条件をクリアすることで入手できる(入館料や商品購入など配布条件が有料の場合もあり)。観光スポットは、各地の観光名所やランドマーク、鉄道やロープウェイ、人力車などの交通機関、城郭、川や山、博物感、動物園、水族館など多彩なラインアップとなっており、日本を9つの地域に分けてベースカラーが色分けされている。現在、全141種類が配布中とのことで、地形模型とともに地域のPR手段として利用されているという。
ディレクティングマップ(東京カートグラフィック株式会社)
教育関連の展示としては、東京カートグラフィック株式会社による「ディレクティングマップ」が興味深い。ディレクティングマップは地図をエンターテインメントとして演出する集団で、プロジェクトの立ち上げを行った“地図地理エンタメプロデューサー”の村松和善氏は、地理院地図をもとにした防災について学べるアナログ地図ゲーム「HMG~ハザードマップゲーム~」を開発し、国土交通省・国土地理院が主催する2022年の「Geoアクティビティコンテスト」にてクリエイティブ賞を獲得した。
今回の展示では、HMGをデジタルサイネージで行えるようにした「守れ!サイガイ防衛隊」を展示。地図上で災害が起こりやすそうな危険だと思われるエリアをタップしたり、災害クイズに正解したりすると点数を獲得できる。ディレクティングマップは公共施設や商業施設、駅周辺施設などにおいて「守れ!サイガイ防衛隊」を中心とした地図防災の展示コーナーの設置を提案している。
各社による多彩な展示
HERE Technologies
グローバル向けに地理空間情報のプラットフォームを展開するHERE Technologiesは、これまでベータ版として提供してきたAndroid/iOS向け地図アプリ「HERE WeGo」を3月に正式リリースした。B2B用途に最適なスタンダードな地図デザインが特徴となっている。
株式会社Geolonia
地図開発プラットフォームを提供する株式会社Geoloniaは、自治体向けの地理空間データ基盤「Geolonia Maps for SmartCity」を展示。GISデータや住所データなど自治体が保有する地図をデータ化してさまざまな業務システムや市民サービスを構築することが可能で、作成した地図を公開型GISとして運用したり、防災や子育て、交通、観光、電子申請などさまざまなアプリケーションを作ったりすることができる。同サービスは香川県高松市で採用されており、「高松市スマートマップ」として運用されている。
株式会社MIERUNE
オープンソースGIS(地理情報システム)ソフト「QGIS」のソリューション開発やデジタル地図開発プラットフォーム「MapTiler」を提供する株式会社MIERUNEのブースでは、来場者アンケートとして「好きな地図投影法(EPSG)は何ですか?」というマニアックなシール投票が行われていた。
矢崎総業株式会社
矢崎総業株式会社は、デジタルタコグラフ(運行記録計)が記録した商用車の位置情報や運転挙動に関するデータをプローブデータとして提供しており、さまざまな分野へのビジネス展開を図っている。14万台以上の商用車に搭載されたデジタルタコグラフで取得されるデータは1日につき2600万kmを超え、交通事故の潜在的危険箇所の把握や災害・事故状況の把握、道路コンディションの把握などさまざまな用途に活用されている。
株式会社ゴーガ
Google Maps Platformを基盤として地図や位置情報を活用したシステム開発を行っている株式会社ゴーガは、2023年にGoogleが提供開始した「Photorealistic 3D Tiles」や「Aerial View API」などを紹介していた。Photorealistic 3D Tilesは没入感のある3D体験を構築できる開発プラットフォームで、日本を含む49カ国・2500以上の都市を立体的に表現できる。
一般社団法人LBMA Japan
位置情報データを活用した事業展開を行う事業者を支援する業界団体である一般社団法人LBMA Japanは、位置情報サービスを展開する企業を中心としたカオスマップを展示するとともに、5月21日・22日に開催されるイベント「第1回 ロケーションビジネス&マーケティングEXPO 2024」を紹介。同団体は移動に関するカーボン算出(削減)方法の標準化を目指す「Location-GXプロジェクト」に取り組んでおり、同イベントでは「Location GX-ガイドライン」を発表する予定だ。
ソフトバンク株式会社/ALES株式会社
ソフトバンクのモバイルネットワークを通じてGNSS受信機に補正情報を配信し、RTK(リアルタイムキネマティック)の高精度測位を行えるサービス「ichimill」を紹介。建設や測量に活用されるほか、管理画面に地点登録機能が追加され、リアルタイムに河川の水位を測定するなど、IoTサービスとして利用されることも増えているという。
ダイナミックマッププラットフォーム株式会社
自動運転やADAS(先進運転支援システム)向けの高精度3次元地図(HDマップ)を提供するダイナミックマッププラットフォーム株式会社は、近年は除雪作業向けのHDマップとしてマンホールの位置なども収録した高精度地図も提供している。HDマップを活用することで、降雪で車道外側線やセンターラインの位置が分からない状態でも正確な除雪作業が可能となる。
カシミール3D
山岳展望解析ソフト「カシミール3D」やスマートフォン向け地図・地形アプリ「スーパー地形」などを展示。アプリ画面の提示で特製クリアファイルが贈呈されたほか、スーパー地形の解説本も販売された。
ドローンバード
自然災害が発生した際に被災地にドローンを送って空撮し、災害状況をマップに反映して人命救助や支援活動をサポートする「ドローンバード」のプロジェクトが出展。同プロジェクトの詳細や、石川県加賀市で行われた飛行訓練などについて紹介した。
「昨年の反省を活かし会場を広くしたはずだったのですが」
ジオ展2024を共同運営した株式会社MIERUNEの代表取締役CEOを務める朝日孝輔氏は、イベントを終えた感想として以下のように語った。
「昨年の反省を活かし会場を広くしたはずだったのですが、蓋を開けると想像を超えた人数にお集まりいただき、一日中混雑した会場になってしまいました。ただ、昨年と違い満遍なく各ブースが混雑しており、出展者さまには満足いただけたと思っています。会場で、『若い人が多くて良いね』『すでに位置情報を使っている人から、これから触ってみようという人まで、幅広い人が参加しているのが良い』といったコメントをいただきました。来年は正直まだ考えていないのですが、ビジネス・研究・趣味まで幅広い方に集まりいただき、業界の熱気を感じられるイベントとして継続していきたいです。」
昨年に比べて出展者数も来場者数も増えた今年のジオ展。地理空間情報の業界動向が分かるこのイベントが来年以降どのように進化していくのか注目される。
[目次]
- 「ジオ展2024」会場レポート<前編>(別記事)
- 「ジオ展2024」会場レポート<後編>(この記事)
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。