趣味のインターネット地図ウォッチ
青山学院大学で“地図を作れる”学生を育成――この春に一期生を送り出した、地球社会共生学部・古橋大地教授の挑戦
2019年5月16日 06:00
青山学院大学で「4年間ジオな学生を育ててみてわかったこと」とは? 4月に開催されたイベント「ジオ展2019」において、同大学地球社会共生学部の古橋大地教授が講演し、ジオ関連企業に役立つグローバルな人材を輩出するための多様な取り組みについて紹介した。
OSMのマッピングはもとより、野営・火起こし、ドローン操縦も指導
地球社会共生学部は2015年4月に新設された学部で、今年3月に一期生が卒業し、4月に5期生が新たに入学した。同学部は、従来のような地理学的・工学的なアプローチではなく、海外で役に立つ人材を輩出するグローバル人材育成をモットーにしており、タイやマレーシアに半年間、留学させるなど、途上国・新興国での留学経験を生かした教育を行っている。地理やリモートセンシングを専門とした学部ではないが、古橋氏はグローバル教育の中において地理空間情報を活用した取り組みを続けてきており、今回はその中で得られた知見について語った。
古橋氏は同学部を立ち上げるときに、「地図を作れる」「コミュニティにコミットできる」「日本だけでなく海外のコミュニティにも関わる」「フィールドワークに強い」といった要素を兼ね備える人材の育成を意識したという。そのために取り組んだこととして、グラフィックレコーディングによる情報の整理や分析、ウェブ地図サービスの訓練、日常的なOpenStreetMap(OSM)のマッピング、複数のオンラインコミュニケーションツールの訓練、定期的に行われるフィールドワークなどを挙げた。
特にOSMのマッピングについては日常的に取り組むように指導したため、今では同大学の相模原キャンパス周辺はOSMの地図データがかなり充実している。また、フィールドワークでは学生にテントを持参させて、野営や火起こし、ツリーハウス作りや、空撮映像の制作や空撮写真を元にした地図作りなど、さまざまな体験をさせた。
研究室内ではWord使用禁止、レポート・卒論はGitHubで共有し、外部からもレビュー
さらに、海外のジオコミュニティとも積極的に交流させた。例えば2017年にはネパールで開催されたOSMのアジアカンファレンス「State of the Map Asia 2017」にて学生がラーメン店マップの成果などを発表した。さらに、Googleのインドオフィスや「国境なき医師団」など、さまざまな企業やNGO/NPOに訪問してスタッフと交流した。
このようにして出会った海外の仲間との情報共有には、GitHubを使用している。研究室内でも今ではWordの使用を禁止し、レポートの提出先もMarkdown形式でIssueに投稿することにした。また、卒論ではGitHubレポジトリを提出させている。これらの文書は基本的に外にも公開し、外部からのレビューにより学生に刺激を与えている。今では学部1年生からGitHub上での活動履歴を作っており、GitHubのユーザープロフィールが就職活動をする上で履歴書代わりにも使える。
古橋氏はこれら一連の取り組みにおける反省点として、「フィールドワークなどで自由時間を与えるとかえって動けなくなってしまったので、適切なゴール設定する必要があると感じました。例えば位置情報ゲームを単に『やってみよう』と言うだけでなく、『この期間にこのレベルまで行きなさい』と達成目標を与える必要があります。また、卒論への時間配分が十分でなかったこと、もともと地理学的な学部ではないので、この分野の素養の強化なども必要だと思いました」と語った。
さらに今後のチャレンジとしては、今年度からは3年生にもゼミ論の提出を義務付けて卒論の練習をさせる、グラレコやドローンなど興味のある分野を明確化するために研究室内サークル活動を実施する、学外の拠点拡充などを挙げた。
「まだまだやらないといけないことはたくさんありますが、GitHubのアカウントを見ていただくと、すでにたくさんの成果が上がっていますので、興味があればぜひ閲覧していただければと思います。このような取り組みの中で、ジオ関連の企業のお役に立てる人材を輩出できればと思っています。」(古橋氏)
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