趣味のインターネット地図ウォッチ
増え続けているマッパーとOpenStreetMapデータ
国際年次カンファレンス「SotM2017」@会津若松レポート<その1>
2017年8月31日 05:55
オープンでフリーな地理空間情報を市民の手で作る世界的なプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の国際年次カンファレンス「State of the Map 2017(SotM2017)」が8月18~20日の3日間、会津若松市文化センター(福島県会津若松市)で開催された。
SotMは2007年に英国のマンチェスター初めて開催され、今年で10回目となる国際イベント。日本では2012年に東京大学・駒場リサーチキャンパスにて開催されたことがある。
以降、日本国内のOSMコミュニティが集まる日本ローカルイベントとして、2014~2016年に「State of the Map Japan」という日本版イベントが3回開催されてきたが、今回は国際カンファレンスとしての開催となり、国内外から数多くのマッパー(地図作成者)や研究者、OSMの地図データを利用したサービスやソフトウェアの提供事業者らが会津若松に集結した。
同イベントでは、国内外のOSMコミュニティによるマッピングの取り組みが紹介されたほか、OSMデータを活用してビジネスを行っている企業や、地図データの品質向上に関する講演、OSMにおける災害対策やバリアフリーへの活用に関する講演など、さまざまな講演が行われた。
今回はこの中から、Mapboxのスタッフによる基調講演、AIを活用した地図作りを追求するFacebookによる講演、日本人による発表の1つとして、OSMを使った“触地図”の自動作成システムに関する講演を、3本の記事に分けてそれぞれ紹介する。
- 増え続けているマッパーとOpenStreetMapデータ(この記事)
- FacebookがAIによる地図データ生成、機械学習で衛星画像から道路の形を抽出
- 視覚障がい者向けの“触地図”、OpenStreetMapを使って自動作成するシステム
基調講演では、OSMの地図データを利用して、地図サービスの開発者向けプラットフォームを提供しているMapboxのArun Ganesh氏が登壇し、自身のOSMとのかかわりや、OSMの現状について語った。
インド出身のArun氏がOSMのプロジェクトに参加したのは2007年のことで、当時、インドの地図はほとんど描かれていなかったという。そこでArun氏は、インターネット上で見つけたWikiを参考にしながら、故郷のマッピングを開始した。道路のマッピングから初め、さまざまな施設情報を追加していき、その作成した地図をベースにバス路線図を作成したり、市にOSMの使用を提案したりした。同時に、インドにおいてOSMに関心のある人たちとの交流も深めた。
「OSMは単なる地図ではなく、地図の背後にあるデータであり、このデータはすべてフリーでオープンです。そして、これらのデータはさまざまなデザインで地図として視覚化されているほか、ナビゲーションや分析、ゲームなどにも利用されています。これはとてもすばらしいことです。OSMデータを使用したアプリケーションもさらに増えています。」
Arun氏の発表によると、OSMのデータは400万以上のノード(地図上にある点状の地物)で構成されており、日々成長している。これらのデータは世界中のマッパーの手によって作られたものであり、100回以上の編集を行っているアクティブユーザーはマッパー全体の36%以上に上るという。また、近年では使いやすいエディターの登場によって地図の編集作業も容易になっていることから、マッパーの数はさらに増えている。「一般市民、非営利組織、政府、研究者など、誰もがOSMの中で役割を持ち、さまざまな活動を行っています」とArun氏は語る。
Arun氏は、2年前に故郷で洪水が発生したときに、被害に遭った場所を把握するための情報がなかったため、OSMの地図をベースにしたツールを作成した。すでに10年前にOSM上で地図を作成していたおかげで、地図データが整備されていたため、地図上をクリックして洪水の発生場所を確認できるツールをすぐに公開することができた。このサービスはかなりの人気を集めて、10日間のうちに120万回ものアクセスがあったという。
Arun氏は最後に、「OSMはあなたの家の周囲の地図をマッピングし、シェアするだけで簡単に始められます。ぜひ今日からマッピングを始めてみてください」と締めくくった。なお、MapboxからはArun氏のほかにもさまざまなスタッフが講演を行い、今回のSotMでは大きな存在感を見せた。
5年ぶりの日本開催、データの品質追求や利活用事例をテーマに
5年ぶりの日本での開催となった今回のSotMについて、OSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」の代表である三浦広志氏は、「2012年に東京で開催したときは、世界各地の地図データ整備の進ちょく状況に関する発表が多かったですが、最近は世界的にデータが整備されてきたので、これらのデータの品質をいかに向上させるか、どのように活用するか、という点に議論が移ってきています」と語った。
また、OSMFJの副理事であり、SotMの会津若松への誘致活動の発起人となったコミュニティ「OSM福島」のメンバーの1人でもある井上欣哉氏は、「会津若松の知名度は高いし、OSMの地図についても福島は他県に比べて整備されていて、会津若松の市役所などでも利用されているので、これを機にコミュニティのアピールにつながるのではないかと考えて立候補しました」と語る。開催にあたっては地元のボランティアの協力もあり、コミュニティ色の強いイベントとなった。
OSMで地図作成を趣味にしている人から、OSMの地図データを活用してビジネスを行っている企業やエンジニア、研究者まで、さまざまな参加者が集うSotM。このイベントで生まれた人と人のつながりが今後、OpenStreetMapをどのように進化させていくのか注目される。