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Mapillaryによる“手作りストリートビュー”、3D地図の中を列車が走る“4D地図”――多様に活用されるOSM

マッパーたちの祭典「SotM Japan」レポート

「SotM Japan 2016」ウェブサイト

 オープンでフリーな地図データを市民の手で共同制作するプロジェクト「OpenStreetMap(オープンストリートマップ、略称:OSM)」のイベント「State of the Map(SotM) Japan 2016」が、赤羽会館(東京都北区)で8月6日に開催された。SotMは、各国のOSMコミュニティが開催しているカンファレンス。SotM Japanは、日本でそのOSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」が主催している。

 日本では2012年にOSMの国際カンファレンス「State of the Map Tokyo」が開催され、その後、日本版カンファレンスの第1回を2014年12月に東京で開催、第2回を2015年10月に開催した。今回のイベントは3回目となる。

 イベント開始に先立って、実行委員長の飯田哲氏があいさつした。「第2回が開催された昨年の10月31日から今年の8月5日にかけてどれくらいOSMの地図データが編集されたのかを見てみると、道路描画延長は約29.8万kmにも上り、これは日本の道路総延長の約23%に相当します。それだけOSMのコミュニティというのはポテンシャルを持つ力強い存在であり、私たちはこのコミュニティそのものがOSMであると考えています」。

 飯田氏はさらに、今年のテーマとして掲げた“リレーション”という言葉についても説明。「OSMのデータ構造はノード(点)やウェイ(線)、エリア(面)で構成されていますが、これらを関連付けて1つにまとめるための概念がリレーションです。それと同じように、“OSM”という1つの興味のもとに参加者がつながり、広がっていけるように、という思いでこの言葉を使いました。今日はぜひ、新しいリレーションを見つけてください」と語った。

 同イベントには“マッパー”と呼ばれるOSMの地図編集者のほかにも、OSMのデータをビジネスや研究に活用している人々も参加しており、さまざまな地域のマッパーが交流を深められるだけでなく、OSMデータの活用を模索している人がほかの事例を参考にすることもできる。同時に、マッパーは自分たちが編集したデータがどのように社会に役立っているのかを、事例発表を通じて知ることができる。

会場となった赤羽会館のホール
「SotM Japan 2016」実行委員長の飯田哲氏

“ストリートビュー”をユーザーの手で作れるサービス「Mapillary」

 発表の中で、OSMを活用したサービスとして特に注目されたのが、Googleのストリートビューのような街路写真を市民の手で作るサービス「Mapillary」の紹介だ。スウェーデンのMapillary社から届いた同サービスのプレゼン資料をもとに、実行委員長の飯田氏が代読を務めて同サービスを紹介した。

「Mapillary」

 ストリートビューは専用の撮影機材を用いてGoogleのスタッフが行うのに対して、Mapillaryは市販のスマートフォンや「GoPro」などのアクションカメラ、リコーの「THETA」のような全天球カメラを使って、誰でも撮影・投稿することができる。もちろん、ほかの人が撮影した写真も見られるので、自分と同じ興味を持つ人を発見することが可能。それがきっかけでコミュニティも生まれる。JavaScriptのライブラリが公開されており、既存のサイトへの組み込みも簡単に行える。

 投稿された画像は撮影時の位置情報をもとに自動的に解析され、既存の投稿画像につなげられる仕組みになっており、それがOSMの地図上に自動的に配置される。写真がアップロードされてから既存の写真と合成され、公開されるまでにかかる時間は数時間で、ストリートビューよりも短い期間である点も特徴だ。画像解析の工程で、著作権上掲載できないキャラクターなどが写ってしまった場合は、ボカシ処理が自動的に行われるのも便利だ。

 このシステムはさまざまな活動に活用されており、例えば車椅子にスマートフォンを付けて移動しながら撮影することで段差情報を調べられるほか、フィールドで水資源を探したり、自動車の流量調査に役立てたりと、いろいろな活用方法がある。

 Mapillaryはスタート時からずっと、OSMのマッパーに対して、「Mapillaryに投稿された写真をマッピングに大いに活用してほしい」と呼び掛けており、OSMについては一般向けのライセンス“CC-BY4.0”とは別に独自の許可を出していて、OSMの編集ツール「iD」や「JOSM」にはMapillaryの写真を参照できる機能も搭載している。

 また、Mapillaryでは海外において、道路情報の標識の認識機能をリリースしており、日本向けにも現在開発中だという。飯田氏は、Mapillaryから送られてきた開発中の画面を紹介した。この画面では、画面奥に存在する小さな速度制限の看板まで正確に認識していることに驚かされる。

スマートフォンやアクションカメラを使って写真を撮影
アップロードされた写真には自動的にボカシ処理が入る
既存の写真に自動的につなぎ合わせることができる
道路標識を自動的に解析する機能の開発中画面

 このほか、OSM福島の宮森達弘氏が、Mapillaryを使って行っている活動を紹介した。これまでMapillaryにアップロードした写真の点数が21万6000枚で、日本で4位という実績を持つ宮森氏は、Mapillaryの利点として、四季の風景や花の盛りを残すことができること、史跡などの映像を残せること、旅の思い出を残せることなどを挙げた。

 宮森氏は、公園や神社など、同じ施設の春夏秋冬の写真をMapillaryに投稿したり、桜の木など樹木の位置を細かく1本ずつOSMにマッピングしたりする活動をしており、「春は“桜マップ”、梅雨の時期は“紫陽花マップ”、夏は“ヒマワリマップ”、秋は“紅葉マップ”と季節ごとに地図を作り、クリックするとMapillaryが立ち上がるようにしたい」と、今後の目標について語った。さらに、仲間とのリレーションを作れる点もMapillaryの良さであると締めくくった。

「Mapillary」を使えば四季の移り変わりを記録できる
季節ごとに「Mapillary」と連携した地図を作成

3D地図に列車やバスの位置を融合させた“4D地図”

 このほか、OSMのデータの活用事例として、オギクボ開発の川島和澄氏も登壇した。川島氏は、OSMの3Dマップをベースに開発したAndroidアプリ「Tokyo | Ogiqvo」の開発者。同アプリでは、東京駅周辺の3D地図に3Dの駅構内図を重ね合わせて、時刻表データをもとに、そこで運行する列車の様子をアプリ上に再現している。

「Tokyo | Ogiqvo」

 「OSMデータをもとに3D地図を作った上で、東京駅構内のフロアマップを作って標高データを加え、階段やエスカレーター、エレベーターなどを作成(エスカレーターとエレベーターは非表示)しました。そうして作った“地図+構内図”の見た目は悪くはなかったのですが、時間軸がないため見た目が寂しい。そこで、公共交通の情報を融合させることを考えました。鉄道などの公共交通は、路線図や案内表示器など、断片的な情報は山ほど与えられますが、そこから『結局なにが起こるのか』を予測し、今自分がいる場所とどのように関係するのかを理解するためには十分な前提知識が必要で、“上級者”でないと難しい。このように同じ場所なのに、バラバラの図や表が多く存在し、利用者はこれらを頭の中でつなげることを要求されているのはおかしい、という思いから、ダイヤルを回転することで時間軸を操作できるUIを搭載しました。」

オギクボ開発の川島和澄氏

 川島氏は、“3D地図”と“3D構内図”、そして“列車位置”を融合させたTokyo | Ogiqvoのような地図のことを、時間軸を操作できる“4次元地図(4D地図)”という新しい概念の地図であると説いている。4D地図では、列車の動きだけでなく車両単位で位置を正確に再現し、地下を走る列車や列車の切り離し・連結もすべて見ることが可能なため、“寂しくない”ビジュアルを実現している。

 さらに、4D地図の新たな取り組みとして、NPOコミュニティリンクと共同で開発した「三宮地下マップ」を紹介した。同コンテンツは、三宮駅にて地下マップをタッチ式のデジタルサイネージで提供するもので、NTT西日本兵庫支店による観光情報や災害時の避難情報を発信する事業の1つとして設置されている(設置期間は8月末まで)。

「三宮地下マップ」

 同コンテンツでは、OSMの地図データを使った街並の3D地図に、神戸市が提供する地下構内図をもとにオギクボ開発が3Dデータ化した構内図を組み合わせた。3D構内図には出口情報やトイレ、階段、インフォメーション、AEDなどの情報を掲載し、地図の中を走る列車としては神戸市営地下鉄およびポートライナーを表示させた。端末は86インチの4Kディスプレイ(10点タッチ検出可能)を使っており、左下にあるボタンを押すと地図や建物の表示・非表示を切り替えられるという新しいUIを搭載した。このUIでは、地図・建物を非表示にすると構内図だけが残って表示され、表示オンにすると、構内図の出口から先にある建物や道などの情報とつながるようになっている。

 実証実験ではタッチ数も多く好評で、使った人からは「ほかの列車やバスも走らせてほしい」という要望が寄せられたという。「リアル空間と連動して列車とバスが動くというUI/UXが良い方向に働いたと思います。地図を3D化すると、それ自体が見ていて楽しいし、それに公共交通を組み合わせて4D化することで、全貌を把握しづらい公共交通の地理的な動きを閲覧可能となり、ユーザーの公共交通に対する心理的ハードルが下がります。そして、それは地域の価値向上につながります。地域創生に4D地図の利用を検討している方は、ぜひご相談ください」と語った。

「三宮地下マップ」

Geoの世界でオープンイノベーションが始まる

 基調講演では、合同会社CUNEMOの代表取締役社長であり、オープンソースGIS(FOSS4G)のコミュニティを支える「OSGeo財団」の日本支部代表を務める森亮氏による講演も行われた。森氏は「GeoSpatial(ジオスペ-シャル:地理空間情報)領域におけるオープンイノベーションのトレンド」というテーマで講演を行った。

合同会社CUNEMO代表取締役社長の森亮氏

 長年、地理空間情報(Geo)の世界に身を置いてきた森氏は、従来は専門的だったGeoの敷居が、近年はスマートフォンの普及やオープンソースソフトウェア(OSS)の普及、クラウドサービスの登場によって敷居が大きく下がったと説明。「GIS(Geo Information System:地理情報システム)という言葉がありますが、“Geo”はあくまでもITの中の技術要素の1つです。Geoが専門的でアドバンテージがある時代は大文字の“G”でも良かったが、今は情報システムの一部となったわけで、小文字の“g”を使った“gIS”と表記するのがふさわしい」と語った。

 さらに、最近はハードウェアはスマートフォンやタブレットが普及し、ソフトウェアはオープンソースやクラウドが普及し、データはオープンデータが普及し始めていることに加えて、ナレッジやコミュニティも“シビックテック”というキーワードで一般化しつつあり、ITを構成するさまざまな要素がコモディティ化していると説明。地図についても、読図能力が必要だった紙地図の時代に比べて、今やマップアプリを検索するだけで簡単に情報を入手できるロケーションサービスが普及し、SNSやグルメ、不動産、天気、写真、CRM、BIなど大半のアプリがマップアプリにつながる時代となった。つまり、“Geo”もまたコモディティ化し、誰もがいつでも制限なく利用できるものになったと語った。

 このような状況に加えて、近年ではオープンデータ推進の動きも出てきていることにも言及した。

 「ハードウェア、ソフトウェア、コミュニティに加えて、データという最後の要素が出そろったことによって市場障壁がなくなり、今後はオープンイノベーションが広がることが予想されます。データについては行政が公開したオープンデータだけでなく、民間の手によるオープンデータも登場しています。そのデータを加工するツールとしては『QGIS』や『GRASS GIS』などのオープンソースGISソフトウェアが用意されているし、結果を共有するためのツールとしては、『CARTO(旧CartoDB)』や『MapBox』、『MAPZEN』など、OSMのベースマップの上に主題図をオーバレイできるサービスがここ数年でホットな話題になっています。さらに、マーケティングや営業支援、ビジネスインテリジェンス、位置情報広告、車両管理など、業務システムにおいてGeo機能を採用する例も増えてきており、エンタープライズ系サービスがジオを飲み込みつつあります。」

 数年前まではデータを集めて加工し、配信システムを構築、サービスを提供するためには専門家が必要だったのが、今ならシステム開発が不要になってきている。森氏は、このような状況が訪れたことによって、Geoの世界に本当のオープンなイノベーションが始まると語る。行き着く先は“利用者が主人公”の時代であり、この流れを支えるのはオープンなコミュニティで、そこで個人や企業が求められるのは、オープンなイノベーション戦略だという。森氏は最後の締めくくりとして、「個人も企業も、“オープンなものをいかに利用して、世の中を良くしていくか”を考えることが大事です」と語った。

これまで地図サービスを提供するためには配信システムを構築する必要があった
現在はOSSやオープンデータなどを使うことでシステム開発が不要になりつつある

 OSMのコミュニティは、森氏が日本支部代表を務めるOSGeo財団をはじめ、シビックテックやオープンデータなど、さまざまなコミュニティと結び付いており、そのようなコミュニティ同士が出会う場でもあるSotMは、活用事例やノウハウ紹介、マッピングパーティーの報告などの実践的な講演だけでなく、森氏が行ったような、Geo関連の状況を俯瞰できるような講演を聴けるのも魅力だ。SotM Japanは来年以降も開催していく予定なので、OSMに興味のある人はぜひチェックしてほしい。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。