地図と位置情報
法務省地図を高速表示、土地家屋調査士が開発した地図サービス「今ここ何番地?」など今年も粒揃い
国土交通省・国土地理院が主催の「Geoアクティビティコンテスト」受賞作品を紹介
2025年2月19日 06:55
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地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO2025」が1月29日~31日に東京ビッグサイトにて開催された。その中から、国土交通省・国土地理院が主催する「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。
このコンテストは、地理空間情報に関する独創的なアイデアやユニークな製品・技術などを持つ企業や教育・学術関係者、NPO法人などによる展示やプレゼンテーションの機会を提供し、表彰するイベント。高校生や大学生の参加も多く、今年は15の出展作品が選ばれ、そのうち9作品は高校生や高専生、大学生、大学院生などが関わるものだった。
点字ブロックの情報を投稿して地図上で共有
最優秀賞を獲得したのは、Divers ProjectおよびJST-SOLVE Projectによる「ダイバーシティー実現バリアフリールート共有アプリ『DiversMap 2』」。Divers Projectの代表を務める内山大輔さんは中学生の頃から車椅子を使用し、路上の段差が危険であることなどを課題として感じてきた。そこで、全ての車椅子利用者が怪我がなく安全に目的地に到着できる社会の実現を目指して、バリアフリールートの共有アプリを開発している。2022年に“学生アプリ開発団体Divers”として団体を設立し、DiversMapの開発やルート集めの街歩きイベントなどを定期的に開催。現在は学生だけでなく社会人も含めた“Divers Project”として活動している。
今回の取り組みでは、同アプリへのルート投稿数を増やすため、ゲーミフィケーションを活用した点字ブロックの市民参加型収集機能を導入する。各地の点字ブロックの写真を投稿することでポイントを獲得できるようにして、ポイントが一定数達成されるとキャラクターが出てきて画像やビデオを閲覧可能となる仕組みを検討している。点字ブロックは車椅子の利用者でなくても投稿することが可能で、点字ブロックのある歩道は広い歩道であることが多いため、点字ブロックがあることを目印にすることで車椅子が通りやすい道を統一的に収集できる。
点字ブロックの共有システムは、同アプリに投稿された写真に加えて、地図情報のオープンデータを活用。画像認識技術を用いて点字ブロックのある歩道を特定できるようにすることで、バリアフリーな歩道の情報を収集できる。同プロジェクトは今後、ルート集め街歩きイベントを現在の福岡県以外の都道府県に展開していくほか、地理院地図データレイヤーを利用可能にしたり、国土交通省のプロジェクト「PLATEAU」の3D都市モデル上にバリアフリールート情報を反映したりすることなどを検討している。
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法務省の地図データや各種オープンデータを地図上に表示
オープンデータ活用賞は、土地家屋調査士の白土洋介さんによる「今ここ何番地?」が受賞した。同サービスは、2023年1月に法務省が公開した登記所備付地図データの公共座標の公図をウェブ地図に重ねて表示・検索・ダウンロードできるウェブ地図サービス。ベクトルタイルを利用することで高速表示を実現しており、2Dの情報を3D風に表示する“2.5次元表示”に切り替えることもできる。
法務省地図以外には、国有林やアドレス・ベース・レジストリ、PLATEAUの3D都市モデル、国勢調査などのデータを表示できるほか、一部地域については森林計画図や農地ピン、市町村が提供する地番図なども表示できる。開発にはオープンソースのJavaScript地図ライブラリであるMapLibre JSを利用し、開発・運用コストを抑えており、年間6600円と安価に利用できる(一部機能は無料でも利用可能)。
白土さんは、「法務省地図が公開されたことは歴史的にも大きいことで、『まさか出すの?』と驚きました。全国の地図を快適に表示させることが可能なPMTilesやオープンソースで快適なウェブ地図を開発できるMapLibre JS、ベースデータとしての地理院タイルの組み合わせにより、ウェブ地図の可能性が広がっていくと思います。今後も情報収集し、スキルアップしていきたいと思います」と語った。
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共助の意識を高める防災カードゲーム
来場者による投票で選ばれる来場者賞には、宮崎県立門川高等学校の地域防災班による「防災カードゲーム『私が来たからもう大丈夫!』」が受賞した。防災カードゲームとは、「車いすに乗った子ども」「お腹をすかせた子ども」「日本語がわからない人」など、さまざまな課題のイラストが描かれた“問題カード”と、それらの課題を解決するためのアイテムが描かれた“アイテムカード”を組み合わせたゲーム。
問題カードに対して、手札として配られたアイテムカードを使って課題を解決していくのがルールで、例えば「お腹をすかせた子ども」という課題を解決するには、「袋入りのパン」というアイテムを使って解決してもいいし、「ライター」「2リットルの水」「カップ麺」の3枚を組み合わせてラーメンを作るなど、複数のカードを組み合わせた解決方法も提案できる。カードは全部で53枚あり、地理院地図を印刷した紙の上にアイテムカードを置くことで、どこにどのようなアイテムがあるのかを把握し、机上訓練のツールとしても利用できる。
このカードゲームを開発した理由は、防災学習において“自助”ばかりを考えて“共助”の考えが少ないことに気付いたことがきっかけだという。災害時に率先して避難行動を取れる“率先避難者”を育成することを目指している。同ゲームを開発した地域防災班のメンバーは、「このゲームを通して、1人でも多くの生徒が『私が来たからもう大丈夫ですよ』と言えるようになってほしいと思います」と語った。
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地理院地図を活用して過去の海岸線を推定
地理教育賞は、関ケ原町歴史民俗学習館サポータ「不破ふわ塾」代表の木村寛之さんによる「地理院地図(電子国土Web)を利用した各時代の海岸線推定と歴史を再検討-美濃国不破郷の歴史-」が受賞した。不破ふわ塾は、関ケ原町歴史民俗学習館と共同でイベントを企画・運営しているボランティア団体で、2024年10月時点でこれまで44回にわたって、地形や数値情報をもとに作成した地形ジオラマや3次元CGシステムを活用したイベントを実施している。
今回の取り組みでは、地理院地図の「自分で作る色別標高図」を利用して弥生・古墳時代の弥生期の海岸線を推定するとともに、地名由来も考慮しながら過去に海洋航路があった可能性を検討した。また、古墳期の海岸線推定も見直して、川原石を利用した石室の分布をもとに推定の精度を高めた。研究の結果、古墳期の不破の地には海と陸の関があり、航路と陸路の集結地であったという新しい歴史像が見えてきた。
今後は、天正地震や天正洪水により木曽川と揖保川の流れが変わったことなど、明治期よりも古い災害による地形・環境の変化をどのように推定するかを課題としており、他地域の国家施設の立地や航路を調査することも検討している。木村さんは、「このような研究から若い人が興味を持っていただけるといいなと思っています」と語った。
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AIにより土砂災害リスクを判定
防災減災賞は、立正大学大学院 地球環境科学研究科の田中優也さんによる「斜面の健康診断―AI×G空間情報で可視化する土砂災害リスク―」が受賞した。土砂災害の多い日本では防災・減災に向けた総合的な土砂災害対策が進められており、特にAIやGISを活用した取り組みとして、発災後の迅速な被災状況の把握や、大雨の早期警戒に向けたリスク評価手法の開発などが挙げられるが、既存の深層学習モデルでは災害現場で培われた専門知が活かされず、画像情報のみに依存していることや、メッシュサイズが大きく局所的な斜面特性が考慮されていないことなどが課題となっている。
そこで本研究では、深層学習の中でもセグメンテーション(分類)を用いて広範囲を迅速に判読できる被災箇所検知モデルを構築するとともに、斜面の潜在的性質である“素因”と災害発生の引き金となる動的な“誘因”に基づく回帰分析を行うことにより、集水域単位で発生確率を算出する発災リスクの予測モデルを構築した。
被災箇所検知モデルについては、国土地理院より土砂災害時の画像を取得して、教師データとして抽出したい被災箇所の正解データを作成した。このモデルを実際に航空写真に適用したところ、検知速度が1枚につき0.4秒で精度も高いモデルを構築することができた。今後は位置や被害規模を防災担当者に即時通知できるようにすることを目標としている。
発災リスクについては、素因データと誘因データ(降雨量や土壌雨量指数)を統合して機械学習を用いて発生確率を算出したところ、降雨を考慮した時系列での予測が可能となり、“説明可能なAI”である「SHAP」を用いることで変数の寄与度も可視化することができた。田中さんによると、本研究の成果は都市計画の策定や地盤リスク保険、防災教育などに活用することが可能だという。
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ドローンによるデータ取得によりスマート農業を実現
地域貢献賞は、愛媛大学附属高等学校の坂田彩夏さん、多田伊花さん、高須賀柚奈さんおよび愛媛大学大学院農学研究科の池見孔志さんの4人で実施した「急傾斜果樹園におけるスマート農業と被災農地支援~地理空間情報を活用して描く『未来の農業』~」が受賞した。坂田さんは2023年度において国土地理院データ活用賞を受賞したが、今回は大学院と高校が連携しての取り組みとなった。
愛媛県の柑橘園は60%が15°以上の急傾斜地であり、これは水はけと日当たりがよく美味しい蜜柑ができるという利点がある一方で、作業がきつく災害リスクが高いという課題もある。また、農業従事者の74%が65歳以上のため、スマート農業の導入が急務となっている。そこで、無人走行ユニットやドローンを導入してデータを活用し、地理空間情報をもとに発災時にはただちに状況を確認しながら復旧工事に移行できるスマート農業の体制を目指して、さまざまな取り組みを行った。
ドローンにRGBカメラやマルチスペクトルカメラ、レーザー照射、放射分析サーマルカメラなどを搭載し、取得したデータや衛星写真を重ねて分析を行うことにより、土地生産性の算出やUAVの飛行計画、走行ユニットの経路設定、果樹のNDVI(正規化植生指標)や樹園地の表面温度のトレンド解析などを行った。また、2023年の豪雨により果樹園で土砂災害が起きたときは、レーザー測量により被災前後の地形を比較することで流出土量を計算した。さらに、GISを活用して斜面崩壊の開始点を抽出して農地災害を予測したところ、7割程度と高確率で予測が可能であることが確認できた。
今後は急傾斜果樹園に導入しやすい無人走行ユニットの開発や、急傾斜であってもスマート化に適応した果樹園の拡大に取り組んでいく方針だ。
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生成AIでGISによる分析を行う取り組みを実施
奨励賞には、明石工業高等専門学校都市システム工学科環境工学研究室の廣田敦志さん・渡部守義さんによる「オープンデータを用いた都市街路樹の抽出に関する研究」が受賞した。この取り組みは、近年、多くの自治体で公開が進んでいる航空レーザー測量のデータに着目し、都市内に存在する樹木とその位置を抽出した。使用したのは兵庫県が公開する1mメッシュのDSM(数値表層モデル)およびDEM(数値標高モデル)で、これらの差分からDCHM(数値樹冠高モデル)を算出した。
受賞は逃したものの、生成AIを活用した取り組みとして注目されたのが、福井県立大学ジオアーカイ部による「ジオ生成AI革命 -誰でもGISで地域分析-」。これはChatGPTを活用して日本語でChatGPTにプロンプト指示して地理空間情報処理を実践する取り組みで、GIS操作やプログラミング教育を受けたことのない大学生が都道府県の人口分布レポートなどの作成を実践した。
ビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」でも学生が受賞
Geoアクティビティコンテストにおいて高校生や大学生の受賞者が多く見られた一方で、位置情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」でも、アイデア部門の優秀賞を獲得したのはいずれも学生だった。1人目の受賞者は筑波大学医学群医学類の武田淳宏さんで、「ITの力で救急医療に変革を!『Quick』」というアイデアを提案した。これは安易な通報が多いため救急車が不足している現在の救急医療の課題を解決するためのシステムで、消防署の119番の窓口となる通信指令室に導入することを想定している。
患者の重症度をAIによる支援で判定し、軽傷の場合は交通手段をタクシーに切り替えて空いている医療機関に速やかに搬送する。発生現場と医療機関、タクシーの位置情報をもとに最適な搬送計画を作成してマッチングを行い、一定の条件をクリアした救急タクシーが患者を診察可能な医療機関へ搬送する。まずは電話越しの聴取をサポートする製品と、軽症患者とタクシーや医療機関をマッチングする製品の2つに分けて段階的にPOCおよび導入を進めていく方針だ。
もう1人の受賞者は、共愛学園前橋国際大学渡辺研究室の根井茉那さんで、「『あるいてGO!』~未就学児向け交通ルール学習ゲーム~」というアイデアを提案した。これは、PLATEAUの3D都市モデルデータをMinecraftに取り込んで、PLATEAUには含まれない信号機や横断歩道を追加して独自地図データを作り、子供向けの交通ルール学習ゲームを作成した。
ゲームでは、横断歩道のない場所から道路に出ようとするとスタート位置に戻されるので、ゲームで遊ぶことで道路に飛び出してはいけないことを学べる。チュートリアル後に実践的に学んだうえで現実の街に出て、ゲーム内での学びと同じ場所で確認することにより効果的に学習することが可能だ。従来の交通安全ゲームは、架空の街を利用して交通ルールを学習するものが多かったが、「あるいてGO!」では家の周りや通学路など、自分が住んでいる街を自由に歩いて学べる点が特徴となっている。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。