地図と位置情報

香川県高松市がデータ連携アプリ開発しまくり! 空間をボクセルで区切って固有IDを付与=「空間ID」の仕組みが良さげ

「G空間EXPO2025」でスマートシティをテーマに講演

(左から)株式会社Geoloniaの宮内隆行氏、香川県高松市の伊賀大介氏、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の鈴木宏実氏

 地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO2025」が1月29日~31日に東京ビッグサイトにて開催された。会期中は多数の講演やセミナーが行われたが、今回はその中から、株式会社Geoloniaによるセミナーの模様をお伝えする。同社は2024年9月、地図会社のジオテクノロジーズ株式会社のグループに参画している。

 冒頭では、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の鈴木宏実氏(参事官付上席政策調査員)が内閣府のスマートシティに関する取り組みについて発表した。スマートシティは、ICTなどの新技術や官民各種のデータを有効に活用したマネジメント(計画、整備、管理・運営等)により、都市や地域の課題を解決し、新たな価値を創出する持続可能な都市や地域を意味し、Society5.0の実現につながるものとして産官学でさまざまな取り組みが行われている。

 現状では都市のデータ連携基盤は分野ごとにサイロ化して外部との情報共有が難しく、分野ごとにベンダーロックインが起きていることなどが課題となっており、分野間・都市間連携しやすいオープンで汎用的な仕組みが求められている。その解決方法として内閣府は地図を活用した情報連携やデータ標準化が有効であると考えており、スマートシティの構築や活用の指針となる資料「スマートシティ・リファレンスアーキテクチャ」の別冊において地理空間データ連携基盤のアーキテクチャやデータ連携の方法、ツールについて解説している。また、Geoloniaが提供する地理空間データ連携基盤を採用して市民や自治体職員によるアプリケーションの利用が進んでいる香川県高松市の事例も紹介している。

 続いて高松市の都市整備局都市計画課主幹の伊賀大介氏が登壇し、高松市の地理空間データ基盤について発表した。高松市では、市が保有する道路や建物、河川などのインフラ情報を、WebAPIによってオープンデータとして公開しており、さまざまなデータを繋げて組み合わせることで多様なアプリやサービスを創出できる。クラウド化を無理なく促すモデルになっていることが特徴で、道路管理者や港湾管理者、都市計画の担当者などがそれぞれクラウド化を進めることで、従来の統合型GISとの二重構造にならないようにサービスを増やすことができる。

 高松市は、この地理空間データ連携基盤を活用したサービスとして、地図情報を可視化した「高松市スマートマップ」や、市民向けの防災アプリ「たかまつマイセーフティマップ」を提供している。同アプリでは、地図上で施設をタップすると災害リスクが表示され、周辺の水位・潮位・冠水などのリアルタイムセンサー情報や避難所、病院などの情報を調べられる。

高松市の水防マップ

 伊賀氏に続いて登壇したGeoloniaのCEOを務める宮内隆行氏は、同社が提供する地理空間データ連携基盤「Geolonia Maps for Smartcity」が、同社と国土地理院が地図タイルをもとにID付与の計算式を考案した「空間ID(4次元時空間情報基盤)」を活用したプラットフォームであることを解説した。空間IDは、空間を立方体(ボクセル)で区切って、それぞれの立方体に固有のIDを付与する仕組みで、経済産業省とデジタル庁が標準化を推進している。

 Geoloniaの地理空間データ連携基盤では、既存の地理空間情報を地図タイル化したうえで空間IDを付与し、Google Maps Platformの「Maps Javascript API」と同じように他のウェブサイトから呼び出してプログラミングできる地図APIとして公開することにより、アプリ開発において開発コストの削減が可能となり、ベンダーロックも妨げる。空間IDを付与することにより、AIやロボットなどさまざまな分野でのデータ利用が可能となる。

 宮内氏は、「高松市ではすでに20以上の連携アプリが生まれています。データソースはどれもスタティック(静的)なファイルシステムで実現できているので、インフラコストがかからず、ほぼ無料で運用できています」と語った。連携アプリの事例としては、公開型GISをはじめ地図作成・共有アプリや防災アプリ、水防本部アプリ、複数タクシー事業者マップ、イベントアプリ、交通アプリ、電動キックボードのポートマップ、プログラミング教育アプリなどが挙げられる。

Geoloniaの地理空間データ連携基盤の仕組み

 登壇した3人によるパネルディスカッションでは、スマートシティ実現の課題やデジタルツインなどをテーマに議論が行われた。宮内氏はデジタルツインに関する議論の中で、同社が参画したジオテクノロジーズグループが保有する人流データについて触れ、「ジオテクノロジーズは人口の約4%のカバー率の人流データを保有しており、例えば過去の人流データと、その時点の地図データ、天候データ、自治体が持つ各種センサーデータ、都市OSのデータなどを重ね合わせることにより、災害や事件、お祭りなど街の姿をシミュレーションすることが可能となります。Geoloniaではこのような取り組みを今後行っていきたいと思います」と語った。

“地図好き”なら読んでおきたい、片岡義明氏の地図・位置情報界隈オススメ記事

INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。