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「失敗プロジェクトにこそ、さらなる投資を」鳥取・広島県知事、AWS社長らが語るデジタル田園都市構想

CEATEC 2022 ANNEX TOKYOレポート

 CEATEC 2022のリアル会場開催の前日である10月17日に、オープニングイベントとして「CEATEC 2022 ANNEX TOKYO」が、東京・虎ノ門の虎ノ門ヒルズフォーラムで開催。複数のセッションが行われた。

 そのうち、招待制で実施した「デジタル田園都市国家構想セッション」には、約200人が参加。全国知事会会長である鳥取県知事の平井伸治氏、デジタル田園都市国家構想実現会議構成員代表である広島県知事の湯﨑英彦氏のほか、CEATEC 2022 パートナーズパークの出展企業代表として、アマゾンウェブサービス(AWS)ジャパンの長崎忠雄社長、CEATEC 2022の主催団体である一般社団法人電子情報技術産業協会の会長である富士通の時田隆仁社長が登壇し、デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取り組みや、それに伴う課題などについて議論した。モデレーターは、Kind Capital代表取締役の鈴木絵里子氏が務めた。

(左から)Kind Capital代表取締役の鈴木絵里子氏、鳥取県知事の平井伸治氏、広島県知事の湯﨑英彦氏、AWSジャパン代表取締役社長の長崎忠雄氏、富士通代表取締役社長の時田隆仁氏

県ならではの企画を始動した一方、現実的な課題も多く認識する鳥取県

鳥取県知事の平井伸治氏

 鳥取県の平井知事は、「デジタル田園都市国家構想は、まだ粗削りなもの」と述べ、年末にかけて総合的な戦略を作っていくことになるとした。また、現場が抱える多くの課題も指摘する。「コロナ禍において、遠隔診療が急速に手元にやってきた。実証を超えて実装に入ってしまったことは課題のひとつである。また、地方創生の取り組みに、どうデジタルを組み合わせていくのかという結びつきができていない点も課題である。さらに、地方におけるデジタル人材の育成も大切な課題である。だが、大手企業でも副業が認められるケースが増えており、デジタル人材を活用できる機会が増えている」。

 鳥取県では、デジタル技術とデータを活用した鳥取砂丘月面化プロジェクトを開始。月面を疑似化した実証フィールドを整備し、ブリヂストンが月面探査車用タイヤの実証実験を開始しているほか、全国初となる校務支援システムの共同調達および共同運用を実施している。そのほか、岡山県との連携により自治体情報セキュリティクラウドを構築していること、障がい者アートに特化したVR美術館の設置など、県ならではのデジタルへの取り組み事例を紹介した。

 また、「デジタル田園都市国家構想は絵空事で終わってしまってはいけないと。哲学ではじまり、哲学で終わりかねない危険性もある」と危機感も語り、現場のニーズとテクノロジーが結びつくことで、初めて、デジタル田園都市国家構想の中身ができ上がるとした。

「失敗を繰り返し、投資をしている必要がある」と説く広島県知事

広島県知事の湯﨑英彦氏

 広島県の湯﨑知事は、「デジタル田園都市国家構想は、ひとことで言えばDXである」と、氏の認識を語った。「1900年には馬車だったニューヨークの街並みは、1913年には全てがクルマに変わり、社会システム全体が変化した。こうした変化がDXであり、デジタル田園都市国家構想が実現する出来事である。DXは不可逆的な変化である。だが、DXは答えが決まっているサイエンスではなく、アートである。これは芸術ではなく、技という意味である」。

 同知事は、「失敗」を許容することの重要性も説く。「実装するには失敗を繰り返し、投資をしていく必要がある。DXは、支援を必要とする人を中心に考えて、誰も取り残さないことを考えなくてはならない。そこに大きなビジネスチャンスが生まれる」。

 広島県では、業種や業界の枠を超えて共創プロジェクトを推進する「ひろしまサンドボックス」に取り組んでいる。県をまるごと実証フィールドとして、失敗を恐れずに、さまざまなアイデアを実装することを支援しているという。

 「地方創生とデジタルは不可分であり、その観点からデジタル田園都市国家構想を推進していく必要がある。デジタルの特性は時間や空間を飛び越えることができる点にある。また、失敗を許容し、社会全体で取り組んでいけるようにしなくてはならない。政府には、失敗したから交付金を減らすということではなく、むしろ失敗したからこそ予算を増やすなど、広い心で捉えてほしい」と提言した。

湯崎知事はDXの実現に向けた失敗の許容と、投資の必要性を強く提言した

「イノベーションは失敗しないと生まれない」―人材育成に力を入れるAWS

AWSジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏

 AWSジャパンの長崎社長は、「経済発展と社会課題の解決を両立するSociety 5.0の実現は簡単なものではない。AWSジャパンは日本の国力をあげ、経済界を元気づけるための貢献ができる。日本市場に対する2011年からの累計投資額は1兆3000億円以上となり、2022年も3400億円以上の投資を行っている」と、同社の活動を紹介した。日本のデジタル人材の育成も支援しており、5年間で約40万人にトレーニングを提供しているという。

 同社では、投資だけでなく具体的な育成プログラムの提供も行っている。「日本の経営層の98%が『社員にデジタルスキルは必要だ』と言いながら、そのための教育を実行しているのは18%に留まっている。やりたい意思はあるが、やり方が分からなかったり、ツールがなかったりするため、実行が伴っていない。この課題に対してもAWSは支援するプログラムを用意している」と、長崎社長は語る。

 また、「日本では失敗することに対する恐怖感や、目立ったことをしてはいけないという考え方がある」とも指摘。イノベーションは失敗しないと生まれないとし、AWSはクラウドを活用して何度も失敗できる環境を提供しているとした。

長崎社長が紹介したAWSジャパンのビジョン

 AWSは、米国政府やマレーシア政府、オーストラリア政府にクラウドサービスを提供しているほか、日本においては、デジタル庁のガバメントクラウドの選定企業の1社となっている。また、コロナワクチンのモデルナは、AWSを活用して、急速なニーズの拡大のなかで、研究開発の加速や、安定したサプライチェーンを実現しているという。さらに、長崎県ではスタートアップへの支援により、遠隔医療を実現していることや、静岡県浜松市とスマートシティの取り組みを行っていることなども紹介した。

 さらに、長崎社長は「デジタル田園都市国家構想は、未知のものであり、だれも正解を持っていない」とも主張。「失敗のコストはテクノロジーによって劇的に安くなっている。やりながら、正解に向けて、やり方を変えていくことが大切である。ひとつのことに固執してやり続けることは失敗率を高める。テクノロジーを使うのは人である。人のリスクを許容することを国や地方が強く意識することが大切である」と、「失敗できる場」の重要さをあらためて説いた。

「使われないテクノロジーは進化しない」―住民目線でのDXに取り組む富士通

富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

 富士通の時田社長は、「富士通は、2021年に、ビジネスを通じてサステナブルな社会の実現に貢献する新たな事業モデルとして『Fujitsu Uvance』を発表した。社会課題の解決に向けてクロスインダストリーの体制で臨むことになる。利便性の向上に継続的に取り組むことに加えて、人々が自分らしく、楽しみながら人生を送れるように、データを活用したパーソナライズサービスの充実にも力を注ぐ。富士通グループは、長年にわたり日本のIT化に携わってきた企業として、日本のデジタル化推進の大きな責任を担っている。デジタル田園都市国家構想の実現に邁進したい」と述べた。

 また、「誰ひとり取り残されない世界を実現するには、私たちの姿勢を変えなくてはならない。課題を持っている自治体に対して、なにかを提供することで、取り残さないという不遜な考え方ではいけない。そのなかに入っていき、どういう自治体にしたいのかといった問いかけを行い、そこから課題を解決していくことが必要である」とも述べた。

 富士通では、北海道神恵内(かもえない)村をはじめとした8つの地域において、9人のDX専門人材が移住して、住民目線でのDXを推進しているという。また、神奈川県川崎市では、スーパーコンピュータの技術を活用して市民参加型の未来都市づくりを支援。岡山県加賀郡吉備中央町では、パーソナルデータを活用した住民の健康促進支援に取り組んでいることを紹介した。さらに、ローカル5Gを活用し、災害発生時に病院や交通などの重要インフラが継続できるような災害対策支援にも取り組んでいるという。

富士通の全国における取り組み事例

 「デジタルテクノロジーは日々進化していく。だが、テクノロジーは使われてなんぼである。使われないテクノロジーは進化しない。日本は、DXの実証から実装のフェーズにとっくに移っていなければならない。実装できるフィールドを、国や自治体、企業が与え、テクノロジーを使える場を作り、失敗を許容して、失敗から学んで、次のチャレンジに変えていくことが必要である。そのムードを作ることも、イノベーションにつながる。人がやる気になる環境づくりが大切だ」と語った。

地方活性化に向けた取り組み「Digi田(デジデン)甲子園」

ビデオメッセージを寄せたデジタル田園都市国家構想担当大臣の岡田直樹氏

 デジタル田園都市国家構想担当大臣の岡田直樹氏は、本セッションにビデオメッセージで参加。「地方は、人口減少、少子高齢化、地域産業の空洞化という社会課題に直面している。だが、遠隔医療や遠隔教育、テレワークなどによる働き方改革など、地方にこそ、デジタル活用のニーズがある。デジタル田園都市国家構想は、デジタルの力で地域の社会課題の解決と、地域の魅力向上を図り、全国のどこでも、誰もが、便利に、快適に過ごせる社会を目指すものである。政府は、さらなる地方活性化に向けて、地方自治体や企業などの関係団体、住民と十分に連携し、取り組みを進化させる。地域の個性を活かしながら地方創生を実現するには、民間企業から生まれる新たなアイデアが重要である」などと述べた。

 また、内閣官房が実施する「Digi田(デジデン)甲子園」についても触れ、参加を呼びかけた。

 Digi田甲子園は、デジタル技術の活用により、地域の課題を解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上、地域の産業振興につながる取り組みを募集し、優れたものは内閣総理大臣賞として表彰するもの。今年夏には、地方公共団体を対象に「夏のDigi田(デジデン)甲子園」を開催した。これに続き、民間企業や団体などにも対象を拡大した「冬のDigi田(デジデン)甲子園」を開催することを発表している。

 このほか、事前登録によって参加することができたスペシャルセッションでは、「Green× Digital の実現に向けて」をテーマに、経済産業省商務情報政策局情報産業課の金指壽課長が講演した。また、Green×Digital Consortiumの座長である東京大学大学院情報学環の越塚登教授をファシリテータとしたパネルディスカッションも行われた。

 さらに、スペシャルセッションとして、「気候変動による惨事を回避するために、マイクロソフトの果たす役割」と題して、米マイクロソフト サステナビリティサイエンスアジアリードのトレヴァー・ドゥ博士が講演している。

 「Society5.0に向けた味の素グループの取り組み~食とヘルスケアがデジタルでつながる新しい社会へ」と題して、味の素 代表執行役副社長兼CIOの白神浩氏の講演も行われた。