地図と位置情報

宮崎県の高校生が代々にわたり開発を続ける防災アプリ、「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を獲得

iPhoneで点群データを作る日大経済学部生のプロジェクトも測量新技術賞を受賞

「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を受賞した宮崎県立佐土原高校の生徒たちと、表彰式にてプレゼンターを務めた国土地理院長の高村裕平氏(中央)

 地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO 2022」が12月6日・7日、東京都立産業貿易センター浜松町館にて開催された。今回はその中から、国土交通省・国土地理院が主催する「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。

[目次]

  1. 宮崎県の高校生が代々にわたり開発を続ける防災アプリ、「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を獲得(この記事)
  2. 高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有。国土地理院から表彰(別記事)

 このコンテストは、地理空間情報に関する独創的なアイデアやユニークな製品・技術などを持つ企業や教育・学術関係者、NPO法人などによる展示やプレゼンテーションの機会を提供し、表彰するイベント。今年は13名のプレゼンターが選ばれた。

防災アプリ「SHS災害.info」が最優秀賞、宮崎・佐土原高校の生徒たちが開発

 最優秀賞を獲得したのは、宮崎県立佐土原高等学校の情報技術部および産業デザイン科による「防災アプリ『SHS災害.info』の開発~宮崎地方気象台と共に~」

 SHS災害.infoは、佐土原高校の生徒が防災や災害に関する情報を発信するために2017年に作成されたアプリで、同校の情報技術部と情報デザイン科が中心となって機能の追加を続けており、今回で5作目となる。指定緊急避難所に登録されている全国の避難所・避難場所10万件を地図上に表示することが可能で、地震や洪水など災害別に絞って表示することもできる。また、現在地周辺の避難所・避難場所をARで表示する機能も搭載している。

 2021年からは宮崎地方気象台の監修も受けながら開発を進めた。今回新しく開発した機能としては、気象庁が提供している、大雨による災害発生の危険度の高まりを確認できる「危険度分布」(キキクル)と雨雲の予報を重ねる機能が挙げられる。雨雲の画面の透過度は調整可能で、現在地をもとに最大想定浸水深さを表示する機能も搭載した。

 また、防災気象情報などで用いられている5段階の「警戒レベル」について分かりやすく解説した警戒レベル表を収録した。警戒レベルについては気象庁のウェブサイトでも詳しく説明されているが、文字量が多く理解するのに時間がかかるため、警戒レベル表を使って見た目を分かりやすくデザインし、さらに解説の音声も付いている。

 このほか、大雨時の避難行動に関する機能として、気象庁が避難行動の基準を作るために公開しているワークシートをより簡単に進められるように、ユーザーからの回答をもとに大雨時にいつどこに避難するべきかを判定する機能を実装した。判定された避難行動は保存可能で、あとから見返すこともできる。

SHS災害.info
大雨時の避難行動

 さらに、ハザードマップの保存機能も実装し、インターネットにつながっていなくても避難所やハザードマップを確認できるようになったほか、非常用品の持ち出しリストなども追加した。15個のリストを用意しており、チェックを付けると自動で保存されるので、いつでも確認できる。また、アプリの英語対応も図った。

 最優秀賞の受賞について同校の生徒は、「私たちの防災アプリは、2017年から開発を始めて今年で5年目を迎えます。これまで先輩型が積み上げてきたアプリ開発があったから実際に使ってもらえる防災アプリになりました。これからもアプリのブラッシュアップをし続けます」と語った。今後は「小さな子どもでも分かる言葉にする」「避難情報を共有できるようにする」「キキクルと雨雲を重ねたときの画面を見やすくする」といった改良を目指している。

日大経済学部の学生が「iPhoneで3D地図を作ってみた!」、測量新技術賞に

 学生による作品としては、ほかに日本大学経済学部・田中圭ゼミナールの学生による「iPhoneで3D地図を作ってみた!」が測量新技術賞を受賞した。

日本大学経済学部・田中圭ゼミナールの学生

 iPhoneのLiDAR(レーザースキャナー)機能を使用して道路の交差点付近の点群データを取得する取り組みで、日本大学経済学部のある東京都千代田区の白山通り付近にて、皇居付近から水道橋駅付近にかけてバリアフリー情報の収集を目的に行った。計測は交差点100カ所、バス停9カ所、駅出入口9カ所、歩道橋2カ所で実施した。使用したデバイスはLiDARを搭載するiPhone 12 Proが3台で、計測にはフリーのアプリ「3D scanner APP」を使用した。

 調査前に精度検証として、バリアフリー情報として役立つ歩道と道路との段差について、メジャーによる計測結果とiPhoneによる計測結果を比較した。この結果、誤差は±0.1cm以内に収まり、iPhoneによる計測データがかなり正確であることが分かった。

 実際に交差点を計測してみたところ、計測時間は1カ所あたり1分ほどで、3班に分かれて実施したところ移動時間を含めて計2時間ほどで調査が完了した。作業自体は簡単だが、中には足が写り込んでしまったり、何度も同じ場所を重複して計測したため、本来その場所にはない段差ができたりしてしまったことがあった。うまくデータを取得するコツは、一定の速度と距離で撮影することだという。

 取得した点群データのノイズ消去や座標変換などの編集・変換作業にはフリーのアプリ「Clud Compare」を使用し、段差の高さ計測などの解析にはオープンソースのGISソフト「QGIS」を使用した。今回のチームは経済学部の学生であり、地図や測量の専門知識をあまり持っていないにもかかわらず、1つの交差点についてデータの取得から編集・変換、解析に至るまでの作業時間はわずか5分しかかからなかったという。

 今回の取り組みを行った田中圭ゼミナールの学生に話を聞くと、「ゼミのグループワークとして行ったのですが、3D地図を自分たちにも作れるということに刺激を受けてこの活動に取り組みました」「経済学というと机上での作業が多いけど、実地での作業のほうが経験にもなるし楽しい」といった声が聞かれた。今後は3Dデータをオープンデータとして公開する予定で、地理院タイル上で計測地点を表示し、赤いマーカーをクリックすると3D画像が表示され、そのまま回転させてさまざまな角度から見られるようにする。提供範囲も広げていき、3D点群データを誰もが利活用できるようにすることを目指している。

3Dデータの公開イメージ

メタバースによる「巡検」、地図上に写真を記録できるアプリのアイデアなども

 このほか学生による作品としては、地理×女子(お茶の水女子大学)による「メタ巡検-メタバース上で行う新しいフィールドワークの提案-」と、学習院女子高等科の小林明日佳さんによる「地球の不思議を探しに行こう『Terra Hunting』略してテラはん」がプレゼンターとして出展した。

 地理×女子はお茶の水女子大学の準公認団体で、地理の発信を中心にさまざまな活動を展開。過去には大学周辺の歴史や地理の情報を入れたノートやメモなどの文房具「OCHAMAP」の作成などを行ったこともある。今回発表した「メタ巡検」は、メタバース上で行う巡検(街歩き)で、コロナ禍によって外での活動ができなくなったため、大学生の視点で「何かできることはないか」と考えて作った作品だという。

「OCHAMAP」
「メタ巡検」の画面

 メタバースの作成については、国交省が提供する「PLATEAU」の3D都市モデルや国土地理院が提供する地理院タイル(空中写真やデジタル標高地形図)、国立国会図書館デジタルコレクションなどをもとにゲーム開発プラットフォームのUnityを使って開発し、バーチャル部員としてオリジナルキャラクター「音春地茶(おとはるちさ)」の3Dモデルなども作成して、メタバースプラットフォームである「cluster」にアップロードした。PCやスマホ、VRゴーグルなどからアクセスできる。

 メタバースのエリアは明治神宮野球場、新国立競技場などを用意し、仮想空間内を歩いて写真の前に立つと、そのスポットの歴史や文化を音声で案内する。また、地形エリアでは明治神宮外苑の古地図や地形図、空中写真などを見ることが可能だ。

 地理×女子によると、「今回の取り組みはコロナ禍がきっかけですが、作るのはとても楽しくて、コロナ禍が終わってもメタバースはいろいろな分野に役立つと思うので、さまざまな方面に広げていきたいと思います。地理×女子としても新しい活動ですが、これからはデジタルの方面でも活動を進めていきたいと思います」とのこと。今後はさまざまなイベントでメタ巡検について発信しながら、対象地域の範囲を広げてクオリティを上げていきたいとしている。

地理×女子の前田侑里香さん(左)と池本明日香さん(右)

 「Terra Hunting」は、国土地理院の地図上に撮影した写真を配置して記録できるアプリの構想で、保存した写真にメモを残すことも可能。世界遺産や日本ジオパーク、日本百名山など名所のリストを作って自分だけのスタンプ帳を作り、訪れた先で撮影した写真をスタンプとして残すことで自分だけのスタンプラリーも楽しめる。

 スタンプにはリンクを張れるようにして、例えば世界遺産の場合は文化庁のページに飛ぶようにすることで学習に役立てられる。修学旅行や校外学習において事前事後学習のきっかけとして使うなど学習ツールとしての活用も可能で、外出のきっかけとなると同時に、出かけられないときでも眺めるだけで楽しめるアプリを目指している。

小林明日佳さん

次回は引き続き、「Geoアクティビティコンテスト」のクリエイティブ賞、国土地理院データ活用賞、教育賞、地域貢献賞の受賞作品を紹介します。

[目次]

  1. 宮崎県の高校生が代々にわたり開発を続ける防災アプリ、「Geoアクティビティコンテスト」で最優秀賞を獲得(この記事)
  2. 高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有。国土地理院から表彰(別記事)

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片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。