地図と位置情報

「ダムカード」の次は「基準点カード」がアツい! “G空間”コンテストで注目のアツい入賞作品たち

「G空間EXPO2018」が行われた日本科学未来館

 地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたイベント「G空間EXPO2018」が11月15日~17日、日本科学未来館(東京都江東区)で開催された。今回は、国土交通省(国土政策局・国土地理院)が主催するコンテスト「Geoアクティビティコンテスト」についてレポートする。

 このコンテストは、地理空間情報に関する独創的なアイデアやユニークな製品・技術などを持つ企業や教育・学術関係者、NPO法人などによる展示やプレゼンテーションの機会を提供し、表彰するもの。今年は9名のプレゼンターが選ばれた。その中から注目の作品を紹介する。

※このほか、「G空間EXPO2018」展示会場のレポートを別記事『準天頂衛星「みちびき」と「初音ミク」の共通点とは? L1S信号で高精度測位ができる腕時計型デバイスも登場』で掲載している。

古地図や絵地図を歪めずに自然に重ね合わせ非線形全単射変換を保証する「Maplat」

大塚恒平氏

 最優秀賞を獲得したのは、エンジニアの大塚恒平氏による「非線形全単射変換を保証する古地図アプリケーションMaplat」。

 Maplatとは、古地図やイラストマップなど、長さや方向の精度が低い地図を、正確な現代地図に重ねて切り替えられるオープンソースソフトウェア。GitHubで公開されており、同ソフトを使ったデモサイトが公開されているほか、さまざまな商用サイトや商用アプリにも採用されている。なお、同作品は、来場者による投票が最も多かった作品に贈られる「来場者賞」と、地理教育に役立つ作品に贈られる「教育効果賞」も同時に受賞している。

 同ソフトウェアの特徴は、古地図を歪めずに、美しさを損なわずに現代地図と自然に重ね合わせられることで、独自の処理により、指定した中心点だけでなく、その周辺の方角や縮尺も違和感なく表示できる。

 また、作品タイトルに記載されている通り、あらゆる地図と地図との間で「全単射変換」を保証している。「全単射変換」とは、古地図・イラストマップ・現代地図など、どんな地図の間でも、地図上のあらゆる地点を表示して複数回切り替えた場合に位置がズレてしまうことなく、対応する地点を正確に維持し続けることを意味する。大塚氏によると、これは世界初かつ唯一の技術であり、現在、特許出願中だという。

 このような自然な重ね合わせを実現するには、あらかじめ地図間で同じ地点同士を対応させておく必要があり、この作業を行うための「Maplat Editor」も同じくGitHubでオープンソースソフトウェアとして公開されている。同エディター上では対応させた地図同士の変換テストを行えるほか、エラー発生を自動検知する機能も搭載している。

「Maplat Editor」

 Maplatを使った最新のアプリとして、今年9月に株式会社コギトがAndroid/iOS向けの「ambula map」を提供開始した。同アプリは、町歩きのためのマップアプリで、各地の観光マップやイラストマップ、古地図などを豊富に収録している。GPSで現在地を確認しながら町歩きを楽しむことが可能で、イラストマップや古地図上に、その場で感じたことなどのシェアしたい情報を投稿できる。自分だけの地図として旅の記録に利用することも可能だ。

 ambula mapは、東京メトロが10月20日に開催したウォーキングイベント「ゆるり今昔ものしるべ」(奥浅草編)と連携し、奥浅草エリアの江戸古地図とともに、革とモノづくりの祭典「浅草エーラウンド2018秋」の出店店舗情報や、歴史スポットなどを掲載した。参加者は江戸と東京の地図を見比べながら、店情報などとあわせて街を散策できる。コギトは今後もこのようなイベントとの連携を図りながら、全国各地のさまざまなイラストマップや古地図をambula mapに掲載していく予定だ。

「ambula Map」
さまざまな古地図や絵地図を収録

 Maplatは、ambula mapのほか、横浜のアプリ開発会社である株式会社まちづくりプラットフォームが開発したいくつかの観光アプリにも採用された。また、Maplatのデモサイトとして「ぷらっと会津若松」「ぷらっと奈良」「ぷらっといわき」「ぷらっと館林」なども公開されている。

「ぷらっと会津若松」

 大塚氏はMaplatの今後の展開について、「古地図の中にはいろんなストーリーが隠れているので、そのような地図が持つストーリーを伝えられるプレゼンツールとして進化させていきたい」と語る。地図が持つ物語性やコンテンツ性を十分に引き出せる表現が可能な新しいコンセプトのツールを目指す方針だ。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。