地図と位置情報

“ゲレンデIoT”で進化した北海道のスキー場、GoProライブ映像のSNS配信も

ニセコHANAZONO/キロロリゾートが導入した「TREK TRACK BI」とは

 北海道のニセコHANAZONOリゾート(虻田郡倶知安町)およびキロロリゾート(余市郡赤井川村)のスキー場において、長距離無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)」を使ったIoTデバイスの活用が始まった。山岳エリア向け位置情報サービス「TREK TRACK」をゲレンデに導入することで、スキー場のサービス提供・運営はどう進化できるのか? 12月11日に現地で開催された取材会の模様を交えて紹介する。

「TREK TRACK」のデバイスを装着したスキースクール参加者

「TREK TRACK」でスキー場のビジネスインテリジェンスを

 「TREK TRACK」は株式会社博報堂アイ・スタジオが提供しているサービスで、山岳地で専用IoTデバイスを持った人の位置情報をLPWAネットワークを通じて収集・可視化できる。2017年に山梨県の瑞牆山、2018年に新潟県のかぐらスキー場において提供開始した(いずれも現在は一時休止中)。

 これまでは、博報堂アイ・スタジオからエンドユーザー(登山者など)に対して提供するB2Cサービスとして展開していたが、同社は今回、TREK TRACKのB2Bサービス「TREK TRACK BI(Business Intelligence)」を開発。TREK TRACKで取得した行動データを、スキースクールやスキー場の安全管理などに活用できる機能の提供を開始した。データを可視化・分析することによって、スノーリゾート施設の業務運営課題の解決を支援する。

「TREK TRACK」デバイスは50gで24時間稼働、緊急信号ボタンも装備

 使用するIoTデバイスは、昨シーズンに使用していた単4電池を使うタイプではなく、新たに容量1200mAhのリチウムポリマー電池を搭載した充電式タイプとなる。充電式としたのは、不特定多数の人に毎日貸し出す場合に、電池式では交換が面倒になるからだ。容量も乾電池に比べて増えたため、1分間に1回の頻度で位置情報を送信した場合の持続時間が24時間と、従来よりも長時間使えるようになった。

 デバイスからの通信は、以前のデバイスと同様に、920MHz帯LoRa変調によるLPWAを用いる。GNSSチップは、GPSのほか、GLONASSやみちびきの補完機能にも対応したMediaTek製MT3333を採用。温度動作範囲は-20~+50度で、IP55相当の防塵・防水仕様となっている。また、サイズと重量は、以前の電池式が60×97×12mm(幅×高さ×厚さ)、約100gだったのが、今回の充電式では60×97×7mm(同)、50gと軽量コンパクトになった。

「TREK TRACK」の新デバイス

 通常時は、ニセコHANAZONO、キロロの両ゲレンデともに、1分間に1回の頻度で位置情報が送信されるほか、デバイスにはエマージェンシーボタンが搭載されており、これを押すと緊急信号としてデバイスのIDや緯度・経度などの情報が送信され、スノーリゾート管理会社において、管理画面のどの画面を見ていてもアラートが表示される。

エマージェンシーボタンを押すと、スタッフが使う「Slack」に通知される

 なお、デバイスからの通信を受けるLPWAゲートウェイ(基地局)については、175×130×45mm(幅×高さ×奥行)の屋外用無線アンテナを使用しており、1機につき直径約10kmをカバーする(遮蔽物の有無等によって変動)。ゲートウェイから先は携帯キャリアのモバイルネットワークを使用する方式で、NTTドコモ、au、ソフトバンクのデータ通信用nanoSIMカードに対応している。このゲートウェイは、ニセコでは屋外に4機(ニセコHANAZONOリゾートに2機、ニセコ グラン・ヒラフに1機、ニセコ アンヌプリに1機)と屋内に2機、キロロでは屋外に3機設置されている。

LPWAゲートウェイのアンテナ

「TREK TRACK BI」が提供する3つの機能

 12月11日に行われた現地取材会では、博報堂アイ・スタジオTREK TRACK推進室の川崎順平氏がサービス内容について詳しく説明した。

株式会社博報堂アイ・スタジオTREK TRACK推進室の川崎順平氏

 TREK TRACK BIの機能の1つ目は、ビジュアル性の高い3D地図と「GoPro」を組み合わせたライブ配信だ。

 TREK TRACKの3D地図は、国土地理院が提供する地理院タイル(標高タイル)のデータを加工して作成したもので、Google マップを使った2D地図にも切り替えられる。

 ニセコHANAZONOリゾートにて、GoProを装着したゲレンデスタッフが撮影を開始すると、地図上に「LIVE」のアイコンが表示された。これをタップするとライブ配信の映像をリアルタイムで見ることができる。なお、LPWAネットワークでは位置情報と端末IDのみが送信され、帯域が必要なライブ映像データ自体は直接モバイルネットワークで送信する仕組みとなっている。

 この動画はFacebookからも見ることが可能で、「いいね!」を付けたユーザーを含めて、多くのニセコファンに現地の臨場感のある滑走動画を配信できる。

3Dマップ上のアイコンをタップすると動画が再生される

 2つ目の機能は、スキースクールの安全管理の支援だ。これまで登山者やバックカントリースキーヤー/スノーボーダーの遭難対策サービスとして提供してきたTREK TRACKの位置情報可視化技術を応用して、スキースクールに参加する子どもの迷子防止に役立てる。さらに、スクール参加者の行動データを分析することで、運営の最適化と見守りによるホスピタリティ向上でサービスの差別化を実現する。

 ニセコHANAZONOリゾートでは、このサービスを「The Hanazono Shield by TREK TRACK」としてスキースクールに導入している。スクールに参加する子どもはデバイスを収納したホルダーを首から提げて携帯する。

デバイスを収納するホルダー
スクール開始前に参加者に装着
デバイス使用者が身に付ける腕章

 ニセコHANAZONOリゾートの運営会社である日本ハーモニー・リゾート株式会社のジェネラルマネージャーを務める上林宣夫氏はThe Hanazono Shield by TREK TRACKについて、「これまで迷子で捜索活動が発生したことはありませんが、ちょっとヒヤッとしたことはありました。今回、正確な位置情報が分かるTREK TRACKを導入したことで、迷子をよりしっかりと予防できると思います」と語った。

管理画面のメニュー
デバイスを持った人の軌跡を見られる
デバイスを持つ人の現在地が分かる

 3つ目の機能は、スキー場内などの任意の範囲にジオフェンス(仮想のフェンス)を設定することで、そのエリアを出入りする個別データを収集する「Geofence Maker」で、キロロリゾートが導入している。設定したフェンスの中に入った人数などのデータはリアルタイムで管理者に通知され、多角的なデータの分析・解析を行える。バックカントリースキー/スノーボードなど、多様化したニーズへの安全対策や業務改善だけではなく、顧客導線の検討などのマーケティングにも活用できる。

 キロロリゾートでは、施設内の「キロロマウンテンクラブ」にて、スキーヤーやスノーボーダーに向けてTREK TRACKのレンタル提供を今シーズンから開始する(料金は1日1000円程度を予定)。キロロリゾートは、雪崩ビーコンと同じように雪崩埋没者を電気的に探す山岳遭難捜索システム「RECCO」を配備するなど、安全対策への意識が高いスキー場として知られる。

「TREK TRACK」のレンタル受付窓口
用意されている「TREK TRACK」のデバイス
バックカントリー用途のためエマージェンシーボタンが強調されている

 スキー場総支配人の森隆志氏は、昨シーズン、ニセコでTREK TRACKの実証実験が実施されていることを知り、博報堂アイ・スタジオに依頼して、キロロリゾートにおいても実証実験を行った。「昨シーズンに実験を行って、その有効性が確認できましたので、バックカントリーのユーザーに新たな選択肢を作りたいということで、導入することにしました」(森氏)。

 導入にあたっては、キロロリゾート側からもTREK TRACKについて要望を出した。以前は個人単位でしか位置情報をトラッキングできなかったが、キロロリゾートの提案により、グループ登録を行った複数人の位置情報を一括して地図上に表示できるように改良したという。

 川崎氏は、Geofence Maker機能について、「設定したエリアに人が入ったら通知が来るという機能を、どのように使うかはスキー場次第です。例えばバックカントリーに出るゲートごとに人数を把握することもできるし、夕方にバックカントリーからゲレンデに戻ってきた人を検知することもできます。このようなデータを活用することで、今までとは違う方向を見出し、課題解決に役立てていただきたいと思います」と語った。

「Geofence Maker」の管理画面。白線で囲まれた部分がジオフェンスのエリア

 TREK TRACK BIは今後、スノーリゾート施設だけではなく、ゴルフ場やアウトドア施設なども対象に展開するとしており、さまざまな分野の課題解決に応えられるB2Bサービスとして推進していく方針だ。

INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。