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IoTで山岳遭難事故防止を目指す「TREK TRACK」、9月1日サービス開始

 株式会社博報堂アイ・スタジオは、長距離無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)」を活用したアウトドアインフラサービス「TREK TRACK」を、奥秩父・瑞牆山(山梨県北杜市)にて9月1日に提供開始する。サービス利用料金は日額990円~。デバイスの発送/返却は郵送で行われる。

 TREK TRACKは、専用デバイスを持ち歩くことで登山者の位置情報履歴が記録され、離れた場所にいる家族や山岳管理者などがウェブサイトやアプリから確認できるもの。デバイスの電源を入れると自動的にGPS情報を数分間に1度送信。緯度経度・標高、移動範囲をマップに表示する。

 電源は単4電池×2、駆動時間は3~4日。本体の大きさは100×55×15mm(幅×奥行×厚さ)、重量は約100g。

 遭難時に位置情報とあわせてTREK TRACK事務局へ通報する「HELP」ボタンも装備。信号を確認した事務局は、事前に登録された家族・知人などの連絡先へ連絡する。なお、同機能は登山の安全をサポートするための補助機能であり、警察への捜索願の届出など、緊急連絡先以降への対応については各自行う必要がある。

「TREK TRACK」デバイス本体。HELP機能は、ロック解除ボタンを長押しすることで使用できるようになる
アプリ画面。特定のユーザーや周辺のユーザーを表示することも可能

 対象エリアに設置されるゲートウェイとデバイス間の通信にはLPWAを利用しており、通信方式は920MHz帯LoRa変調を採用。1台で半径10kmをカバーしており、瑞牆山では2台設置する。通信速度は100bps~数十kbpsと低速だが、1拠点あたりのコストを8万円程度に抑えることができるという。ゲートウェイからTREK TRACKサーバーへの通信にはソラコムのLTE/3Gサービスを使用する。

 ゲートウェイ本体の大きさは175×45×130(幅×奥行×高さ)。IP67の防水性能を備えており、屋外での設置に対応する。山地では山小屋の屋根上などに設置するが、電源を確保できない場所ではソーラーバッテリーを用いる。

ソーラーパネルを取り付けた状態のゲートウェイ。瑞牆山では2台設置する

登山のお供に「TRECK TRACK」を、ただし“アナログの知識”も重要

 アウトドアプロデューサーの長谷部雅一氏は、遭難事故の現状について説明。近年のアウトドアブームに伴い、山岳遭難の発生件数も増加傾向にあるという。単独で山登りに挑んで遭難する登山者も多くなっており、自主的な安全性の確保も重要視されている。

 これまでも、遭難者はスマートフォンを携帯していることはあったが、電波が不安定な山の中ではバッテリー消費が激しく、予備バッテリーでも持ちこたえられないケースが多いという。そこで、低消費電力かつ長距離通信が可能なTREK TRACKの有用性に期待を寄せる。

 しかし、長谷部氏は地図の読み方やコンパスの使い方など、“アナログの知識”を身に付けることも重要だと指摘する。TREK TRACKに頼り切るのではなく、バックアップとして使うことで、より安全な登山活動に繋げられるものだと語った。

アウトドアプロデューサーの長谷部雅一氏

 TREK TRACKの研究開発が始まったのは2014年。当初は近距離無線通信規格で低消費電力が特徴の「ZigBee」によるリレー方式伝送を考えていたが、ゲートウェイを相当数用意する必要があり、コストがかかることが分かったという。2015年にはBLEを用いた「iBeacon」を使った独自ネットワーク構築を試すが、稜線などの保護区では人工物を設置できないため、山頂付近のデータを取得できない問題があった。そこで、IoT向けの無線ネットワークとして注目され始めたLPWAを2016年より採用したという。

 登山者の位置情報履歴はサーバー上に蓄積されるため、「取得したデータを活用し、道迷いが発生しやすい場所や滞留しやすい場所の特定、登山道の整備などにも活用できる」と川崎順平氏(博報堂アイ・スタジオTREK TRACK推進室室長)は語る。また、観光産業向けのマーケティングサービスにも活用できることを期待するとした。

 今後は2018年1月にバックカントリーエリアでのサービス提供や、電子登山届け「コンパス」と連携した全国で使える電子登山機能の提供も予定する。

株式会社博報堂アイ・スタジオTREK TRACK推進室室長の川崎順平氏