地図と位置情報
位置情報データでマネタイズする道は必ずある――個人情報保護法との関わりは? 国交省も人流データ活用を後押し
初開催の「ロケーションビジネス&マーケティングEXPO」で講演
2024年6月12日 06:55
位置情報データの活用をテーマとしたイベント「ロケーションビジネス&マーケティングEXPO(LBM EXPO)2024」が5月21日・22日、東京都立産業貿易センターにて開催された。主催した一般社団法人LBMA Japanは位置情報データを活用したマーケティング/サービスを推進する事業者の団体で、2024年5月現在で77社・団体が加盟している。LBM EXPOは同団体が主催する初のリアルイベントで、「位置情報データのマネタイズと社会実装」をテーマに、2日間にわたり26の講演と16社による展示が行われた。来場者登録数は1000人を超えたという。
LBM Japanの代表理事を務める川島邦之氏は開会あいさつにて、LBM EXPO開催の趣旨について以下のように語った。
「位置情報データを活用して皆様のビジネスにおいてどのようなマネタイズが可能になるのかを、ぜひ今日は知って帰っていただければと思います。必ずマネタイズの道はあります。位置情報データをただ可視化して『面白いね』で終わってしまうのは本当にもったいないので、可視化した先にわれわれのビジネスにおいてどのような課題を解決できるのか、ということを今回出展・登壇するメンバーとお話いただいて、糸口を見つけていただければと思います。」(川島氏)
「位置情報データのマネタイズと社会実装」というテーマに沿って、今回のイベントではLBMA Japan加盟企業であるKDDI株式会社や株式会社Agoop、ジオテクノロジーズ株式会社、マルティスープ株式会社、クロスロケーションズ株式会社、株式会社ブログウォッチャーなど位置情報データを扱う企業による講演が行われた。
一方、民間企業による事例発表だけでなく、国土交通省や環境省、防衛装備庁などの省庁や、国際文化都市整備機構(FIACS)や日本観光振興協会、個人情報保護委員会事務局などさまざまな分野の組織による講演も行われた。これらの組織による講演が用意されているのは、位置情報データを活用したビジネスを展開するうえで、行政の今後の方向性を知ったり、位置情報を扱ううえでのルールや知識を学んだりすることが大事であるとLBMA Japanは考えているからだ。
今回はその中から、国土交通省と個人情報保護委員会によって行われた2つの講演を紹介する。
なお、LBMA Japanのサイトにて6月末まで、講演のアーカイブ配信をしている。詳しい内容を知りたい方はこちらを参照いただきたい。
人流に関する国土交通省の取り組み
国土交通省の武林雅衛氏(政策統括官付情報活用推進課 課長補佐)が、人流データに関する同省の取り組みについて解説した。
人流データは計測・集計方法により、通行者数や通過方向を計測した「カウントデータ」、特定の空間における滞在人数や滞在時間を計測した「滞留データ」、出発地から目的地まで移動した人数を集計した「ODデータ」、ひとりひとりの移動経路を把握できる「移動軌跡データ」の4つに分類される。人流データの特徴としては、「自ら取得する必要がなく他者から購入可能」「取得範囲が広くなると通信キャリア系などの事業者が取得したデータが有効だが推計値となる」「狭い範囲で正確な値が必要な場合はカメラやセンサーなど直接取得する方法が有効」「スマホアプリではサンプル数による精度が問題となる」といった点が挙げられる。
人流データはまちづくりや防災、交通、観光などさまざまな分野での活用が期待される“ビッグデータ”の一種で、すでに民間ではマーケティングなどにおいて活用が進んでおり、EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)に基づいた効果的・効率的な地域政策の推進や、新たなサービスの創出などの目的で利用されることが期待されている。
政府の動きとしては、2017年3月に閣議決定された地理空間情報活用推進基本計画(第3期計画)において初めて「人流」というキーワードが登場し、人流を活用することで大規模イベント来場者の移動支援を行う施策が重点的に取り組むべき施策として挙げられた。さらに、2022年3月に閣議決定された第4期計画では、衛星データや人流データなどを活用して観光、まちづくり、防災など多様な分野における施策立案等に資する人流に関するデータや、歩行空間のバリアフリーデータなどのオープンデータ化を推進することが盛り込まれている。
これまで国土交通省が行ってきた人流データ活用の取り組みとしては、まず、コロナ禍の際に2019年1月~2021年12月にかけての分析に用いた滞在人口1kmメッシュデータや滞在人口From-Toデータ(どの地域から来る人が多いのかを表したデータ)を地理空間情報の流通プラットフォーム「G空間情報センター」にて提供したことが挙げられる。
さらに、2021年度に人流データの取得から分析・活用までの一連プロセスについて全国6地域においてモデル事業を実施した。例えば湘南モノレールでは、各駅の改札口にカメラを設置して通行者数を計測し、全駅の取得データを混雑状況として15分おきにリアルタイムでウェブサイトにて公開している。また、会津若松市において観光・交通分野のモデル事業を実施したり、静岡市においてイベント時の人流を把握するモデル事業を実施したりした。
このほか、人流データの可視化ツールも作成し、G空間情報センターより無料のオープンソースソフトウェアとして公開した。このソフトウェアは、フリーのGIS(地理情報システム)ソフトウェア「QGIS」のプラグインで、人流データに不慣れな地方自治体職員や、人流データの見方が分からない人をターゲットにしており、機能がシンプルでナビゲーションに従って迷わず利用できるのが特徴だ。このツールを使うことにより、人流データを読み込んで人流傾向を把握したり、時系列グラフや流線図で可視化したり、移動軌跡を読み込んで時系列でアニメーション表示したりすることができる。
2022年3月には、地域課題解決のための人流データ利活用の手引きを公表(2024年4月に一部改訂)した。この手引きでは、人流データの概要や利活用に関する基本的な流れ、人流データの分析や管理・提供の方法、ユースケースなどについて解説している。
2023年度には不動産分野においても人流データを活用した課題解決実証調査を行った。さいたま市、東村山市、鳥取市の3市において、人流データの詳細な分析に加えて、地域の実情に合わせた事業者ヒアリングやイベント開催などを実施し、人流データを不動産の資産価値の向上や地域の価値向上に活用する方法について検討した。
2024年度は、3次元空間における人流データ活用について技術的な検証やユースケース創出を実施するほか、自治体における人流データ活用の現状把握および普及促進も図っていく方針。人流データは今後、まちの可視化や交通安全、リスク評価、AIとの連動、デジタルツイン、訪日客分析、帰宅困難者対策、広告などさまざまな分野での利用の拡大が見込まれている。活用事例の周知や人材育成、入手容易性、個人情報保護などの課題はあるものの、計測技術や予測技術の進歩、流通促進、新たなアイデアなどによって今までできなかったことが実現されると期待されている。
個人情報保護法の基礎と位置情報との関わり
個人情報保護委員会(PPC)事務局の小林貴樹氏(個人情報保護制度担当室 参事官補佐)が、個人情報保護法の基礎と、位置情報との関わりについて解説した。
個人情報保護法において、「個人情報」とは生存する個人に関する情報であり、当該情報に含まれる氏名や生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することが可能で、それにより特定の個人を識別できるようになるものを含む)か、または運転免許証番号やマイナンバー、指紋認証データ、顔特徴データなど個人識別符号が含まれるもののいずれかに該当するものと定められている。
一方、生存する個人に関する情報のうち、個人情報や、特定個人を識別できないように加工された“仮名加工情報”および“匿名加工情報”のいずれにも該当しないものを“個人関連情報”という。Cookieなどの端末識別子を通じて収集されたウェブサイトの閲覧履歴や、メールアドレスに結び付いた個人の年齢・性別・家族構成、個人の商品購買履歴やサービス利用履歴、ある個人の興味・関心を示す情報、そして個人の位置情報などが個人関連情報に該当する。
例えば「山田太郎が2023年9月1日13時にこの場所にいた」という場合、位置情報は“個人情報”となるが、「機器番号AA1111の端末が2023年9月1日13時にこの場所にいた」という場合、特定の個人を識別することができないため、位置情報は“個人関連情報”となる。ただし、機器番号AA111は誰が保有する端末なのかが分かる場合は個人情報となってしまう。つまり、位置情報データや、それを集積した人流データは、それ自体は個人情報ではなく個人関連情報である場合が多いが、それが他のデータと組み合わせて用いられることで個人情報になってしまうこともありうるということだ。
なお、人流データについては、例えば路上にカメラを設置して通行する人を撮影した場合、動画そのものは個人情報となるが、この動画をもとに移動軌跡データを作成し、動画を破棄した場合は個人関連情報となる。
一方、“統計情報”については、複数人の情報から共通要素に係わる項目を抽出して同じ分類ごとに集計したものであり、集団の傾向または性質などを数量的に示すだけで、特定の個人との対応関係が排斥されている限りでは個人情報にも個人関連情報にも該当せず、第三者への提供も可能となる。例えば統計情報をもとに「東京の人はサウナを利用する頻度が高い」といった分析を行い、その分析結果に基づいて東京の人にサウナの広告を送付するといったことも可能となる。
個人情報について事業者が守るべきルールとしては、「利用目的を特定して、その範囲内で利用する」「利用目的を本人に通知または公表」「不正な手段で個人情報を取得しない」「漏洩などが生じないように安全に管理する」「漏洩等が生じたときは委員会に対して報告・本人へ通知」「第三者に提供する場合は、あらかじめ本人から同意を得る」「第三者へ個人データを提供する場合は第三者提供記録を作成」「事業者の名称や利用目的、開示等手続などについて本人の知りうる状態にしておく」「苦情等に適切・迅速に対応」といったルールが挙げられる。
特に取得方法については、例えばカメラで個人情報を取得する場合、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人が容易に認識できない場合は、容易に認識可能とするための措置を講じる必要がある。また、位置情報や購入情報など、提供元では個人データに該当しないが提供先において個人データとなることが想定される情報の第三者提供については、本人同意が得られている等の確認が義務付けられている。
小林氏は締めくくりとして、PPCは個人情報保護法に関する質問に対して24時間回答できるチャットボットサービスや相談ダイヤル、ビジネスサポートデスクなどを設置しており、不明点がある場合は問い合わせるよう呼び掛けた。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。