地図と位置情報

「スマホ位置情報データを個人情報とは紐付けないこと」事業者団体がガイドラインを作成

コロナ禍での「人流分析」など活用拡大、利用者のプライバシーに配慮

LBMA Japanの代表理事を務める株式会社リバーアイルの代表取締役社長・川島邦之氏

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令された今春、外出自粛要請の効果を推し量るために、スマートフォンの位置情報データをもとに各地の人出の増減などを分析したレポートがさまざまな企業により発表された。いまや国内のスマートフォンユーザーの数は約7000万人以上(ニールセン調査)にも上り、このような膨大な数のスマートフォンから収集された位置情報ビッグデータが、災害の発生時や、今回のコロナ禍などにおける人の動きの分析、対策の検討などにも大きな貢献をするようになっている。

 ところで、このような位置情報データは、われわれが日々使っているスマートフォンから、誰が、いつ、どのようにして収集し、各地の人出の増減などとしてどのように分析されているのだろうか?

 そんな漠然とした不安を抱くユーザーに対して、位置情報を扱う事業者はどのような方針に基づいてデータを活用し、利用者へ説明していくべきなのか? そのようなスマートフォンの位置情報データを扱うためのガイドラインを今年6月に策定したのが、スマートフォンの位置情報データを活用した各種サービスを提供する事業者らによって設立された「LBMA Japan」だ。同組織の代表理事を務める株式会社リバーアイルの代表取締役社長・川島邦之氏に話を聞いた。

 LBMA Japanは、世界に26の支部と1600社の会員を持つ事業者団体である「LBMA(The Location Based Marketing Association)」の日本支部として2019年10月に発足、今年2月に一般社団法人化した。

 設立メンバーは、スマートフォン向け広告配信プラットフォームを提供する株式会社アドインテや株式会社ジオロジック、スマートフォンアプリの位置情報をもとにマーケティングサービスを提供する株式会社Agoopや株式会社ブログウォッチャー、株式会社unerry、位置情報データをさまざまに活用できるプラットフォームを開発しているクロスロケーションズ株式会社、株式会社unerry、公衆無料WiFiスポットに自動接続できるアプリ「タウンWiFi」を提供するGMOタウンWiFi株式会社、カレンダー&システム手帳アプリを提供する株式会社ジョルテ、SNS投稿ビッグデータの解析サービスを提供する株式会社ナイトレイなど。

位置情報データは「許諾・同意を得たユーザーから提供」と言うけれど……

 すでに20社を超える数の企業が加盟しているLBMA Japan。その設立メンバーの1社でもあるソフトバンクグループのAgoopは、コロナ禍における各地の人出の増減レポートを発表している企業の1つだ。同社は全国約100カ所の主要な駅や観光地などの人の流れを解析した「新型コロナウイルス拡散における人流変化の解析」を日次でウェブサイトに無償公開している。

Agoopによる人流の変化を解析したグラフ。渋谷駅の半径500mにおける2020年1月から4月にかけての人流変化の推移が分かる(2020年4月28日付プレスリリースより)

 このような人流の変化の解析に使用している位置情報データの出所について、同社は「Agoopでは、ユーザーの同意を得た上で、デバイスロケーションデータの収集、分析を行なっております。弊社のSDKを提携している、世界中の提供先企業でも利用規約やプライバシーポリシー等での同意を得たものを活用しております」と説明している(Agoop公式サイト「位置情報の取得/加工の仕方(秘匿化)」より)。

 また、同じくLBMA Japanの設立メンバーの1社であるクロスロケーションズも同様のレポートを発表しており、そのデータの出所については、「生活支援系のアプリを中心に、複数のアプリからデータ提供を受けている。この位置情報データは、アプリユーザーにはクロスロケーションズが統計に使うことを表示し、許諾を得た上で、匿名化された位置情報データ」と説明している(本連載2020年5月14日付記事『「新しい生活様式」での商圏はどこにある? スマホ位置情報の「人流ビッグデータ」解析AIツールで飲食店などを支援』参照)。

スマホの位置情報データは「ユーザー本人だけのもの」ではない?

 スマートフォンを使っていれば日常的に、GPSによる位置情報が活用されていることは周知の通りだ。だが、その“使われ方”にはいくつかの類型がある。

 まず、スマートフォンアプリやウェブサービスの機能をユーザーが利用するために、ユーザー自身の位置情報データが使われるケース。地図アプリでの現在地表示、ナビアプリのルート案内、カメラアプリでの撮影場所の記録、SNS投稿への位置情報の付与、現在地付近の気象状況や注意報・警報を天気アプリや防災アプリで確認するとき、ライフログアプリでの日常の行動の記録……等々。つまり、ユーザーが自分のために自らの位置情報を利用するという使い方だ。このようなアプリ/サービスでは、当然ながらスマートフォンの位置情報が利用されていることはユーザーも認識している。

 次に、ユーザー以外の事業者が宣伝などを目的としてユーザーの位置情報をもとに情報を配信するケース。位置情報をもとにしたターゲティング広告やクーポンなどの配信がこれに当てはまる。

a)ユーザーの端末に紐付く個別のデータとして使用b)ユーザーの位置情報とは関係なく統計データとして使用
1)当該アプリ/サービスのユーザーが利用する機能のために使用地図、ナビ、ライフログ、天気予報、防災、撮影、SNS投稿など渋滞情報、混雑状況、地図のメンテナンスなど
2)当該アプリ/サービスのユーザー以外が利用する機能のために使用ターゲティング広告、クーポン配信など人流分析、エリアマーケティングなど

 そして、スマートフォンアプリやウェブサービス上で、何かしらの機能を提供するために、複数ユーザーの位置情報の統計データが使われるケース。複数のユーザーから取得された位置情報データを蓄積して匿名の統計データ/ビッグデータとして活用するなど、全てのユーザーの位置情報データを、ユーザー全ての利便性や機能の向上のために活用する場合だ。

 複数ユーザーの位置情報の密度をもとにエリアや施設、スポットごとの混雑状況を割り出して地図アプリ上で確認できるようにしたり、ナビアプリにおいて複数ユーザーの移動速度をもとに道路の渋滞状況を割り出して地図上で確認できるようにしたりする場合がこれに当てはまる。さらに、アプリ/サービスの機能として直接提供されるわけではないが、そのアプリ/サービスの運営者が当該アプリ/サービスの機能改善などのために、位置情報の統計データを活用する場合もある。

「Yahoo! MAP」の混雑レーダー

 例えばYahoo! JAPANでは、同社が提供するいくつかのアプリで位置情報を収集しており、その統計データをもとに場所ごとの「混雑情報」を割り出して、地図アプリの「Yahoo! MAP」上の「混雑レーダー」という機能で参照できるようにしている。なお、同社が公開している「位置情報の利用について」によると、混雑情報など複数のYahoo! JAPANのサービスに利用されたくない場合は、「位置情報の送信設定」というサイトにて、Yahoo! JAPAN IDに紐付く位置情報の送信・蓄積のオプトアウトを行うことも可能だ。

 さらに、アプリ/サービスそのものとは別のところで、位置情報を統計したデータとして使われる場合。この場合は、「分布」「ランキング」「シェア」「比率の比較」「時系列変化」などの情報として統計処理された結果のデータとなる。ちょうど、「国勢調査」や「テレビ視聴率」「テレビ放送局の時間占有率」「選挙の窓口調査による当落予想」などのような「統計処理データ」となる。

 具体的な活用方法としては、店舗の商圏を分析したり、特定のエリアで行動するユーザーグループの属性を把握したり、キャンペーンなど来店促進施策の効果を計測したりといったマーケティング用途がある。ユーザーから直に位置情報を取得するアプリ提供会社やWi-Fi接続サービス提供会社、携帯キャリアなどが自身でこのような解析サービスやマーケティングサービスを提供する場合もあれば、自身ではそうしたアプリを提供せず、複数のアプリ提供会社から位置情報ビッグデータの提供を受けてその解析技術や解析後の統計データを提供している会社もある。

 コロナ禍で各社から発表された人出の増減レポートは、このような解析を行っている各社が、それぞれが持つ位置情報の統計データやそれらを扱うための解析ツールを公共目的で使ったものだ。

位置情報の「統計データ」は、何のアプリ/サービスが収集しているのか?

 スマートフォンの位置情報が取得されるシチュエーション/技術は、GPSに限らない。公衆Wi-Fiアクセスポイントに接続したときや、BLEビーコンが設置された自動販売機で飲み物を購入したりと、何らかのアクションを起こしたときに、いつ、どこに滞在したのかが履歴としてアプリ/サービス提供会社のサーバーに記録されるものもある。

 同じくLBMA Japanの設立メンバーでもあるunerryは、全国のスーパーやドラッグストアなどの曜日・時間帯別の混雑傾向を調べられるサービスを提供しているが、そのもとになる位置情報データについて「旅行・観光アプリやクーポンアプリ、店舗アプリなど約6000万ダウンロードに上るスマホアプリから集積されるGPS、ビーコン反応、専用のIoTデバイスのデータ」としており、収集元が多岐にわたることがうかがえる(本連載2020年5月28日付記事『「お買物混雑マップ」公開、スーパーなど全国2万8千店の「推定混雑状況」を地図上で色分け表示』参照)。

 また、LBMA Japanの加盟企業の1つであるGMOタウンWiFiは、同社が提供するWi-Fi自動接続アプリ「タウンWiFi」に集まる膨大なWi-Fi接続情報をもとに、対象店舗の商品購入見込み顧客かどうかを判別する分析ツール「TownWiFi Analytics」を提供しており、判別した見込み顧客が店舗のWi-Fiに接続することで実際に店舗を訪れたのかを計測できると説明している。Wi-Fi接続情報というと位置情報にはあまり関係ないように思えるかもしれないが、この場合は、Wi-Fiアクセスポイントの所在地そのものが位置情報として扱われているかたちとなる。

 同社がウェブサイト上で公開しているプライバシーポリシーを見ると、「アプリおよびサービス提供のために必須の利用者情報」「アプリ及びサービス利用時に提供をしない選択ができる(オプトアウト可能な)利用者情報」「アプリおよびサービスの利用との紐付けは行わず取得する利用者情報」の内容がそれぞれ区別して記載されており、端末に接続されたWi-Fiスポットの所在地は1番目の「必須の利用者情報」に含まれており、スマートフォン内蔵のGPSなどによって得られたアプリ利用時の端末の位置情報は2番目の「オプトアウト可能な利用者情報」に含まれている。

 さらに、Wi-Fiアクセスポイントの所在地を含むWi-Fi接続情報や、ユーザーから同意を得た上で取得した端末の位置情報を含む利用者情報の全部または一部を、マーケティングや広告宣伝活動およびサービスの開発・改善を行う事業者に対して提供する場合がある旨も記載されている。なお、同社はアプリ内でも位置情報データを取得する旨を明示的に掲載している。

 これは位置情報データに限った話ではないが、もし自分が使用しているアプリ/サービスで収集されたデータがどのように取得され、どのように活用されるのか気になる場合は、このようにアプリ/サービス提供会社が公開している利用規約やプライバシーポリシーを確認するとよいだろう。その場合は、アプリを使用する上で位置情報の提供は必須なのか、それともオプトアウトすることが可能なのか、オプトアウトした場合に一部機能が使用不可になるといったデメリットはあるのか、収集した位置情報は他の企業に提供される可能性はあるのか――といった点をチェックしておきたい。

「デバイスロケーションデータ」の取り扱いガイドラインを策定へ

 LBMA Japanは、こうした位置情報の統計データを活用したマーケティングツールやサービスを提供する事業者が中心となって設立された団体である。設立の構想が本格的にスタートしたのは2018年の秋。位置情報関連の事業を展開する各社の中で、事業者団体の設立を求める声が高まり、それを取りまとめていこうという話が出たのがきっかけだった。

 「当時、iOS 12においてアプリ単位での位置情報取得の設定・許諾取得の方法が変更になったり、Android 9において位置情報取得に関する設定が変更になったりと、OSのバージョンアップに伴って大きく変更されたので、どうすれば新たなルールに適用できるのか、各社が個別にパーミッション(許諾)の取り方などを模索していたので、『みんなできちんとしたガイドラインを作ったほうがいいのでは』という話になったのです。」(川島氏)

 川島氏は2018年10月に、カナダに本部があるLBMAの国際会議に参加してその活動内容を知り、日本においても同じような事業者団体の必要性を感じた。

 「そのころは位置情報を活用したサービスが世間的に注目を集め始めていた時期で、国内では個人情報保護法が改正される話も聞こえてきたので、われわれとしても位置情報サービスとしてどこまでそれを意識すべきかを考える必要がありました。そのためには各社が個別に取り組むよりも、1つにまとまっておいたほうが行政機関とのやり取りなどもスムーズになるのではないかと考えました。」(川島氏)

 設立の構想からおよそ1年後、位置情報関連サービスを提供する15社が参加してLBMA Japanは発足。さらに、このような位置情報データを扱うためのガイドライン(参加企業以外には非公開)の策定に向けて検討を開始し、今年6月にガイドラインが策定されたことを発表した。

 「最初のコアメンバーとなった15社は位置情報に特化した企業で、もちろんお互いに競合する部分はありますが、どの会社も『きちんとガイドラインを運用していかないと、業界として成り立たない』という危機感を持っていたので、協力し合って1つのガイドラインを作成することにしっかりと向き合えたと思います。従来は、そもそも位置情報のデータとはいったい何なのかという定義がしっかりとされていなかったため、どの法律に適用されるのかが曖昧だったという課題がありましたが、われわれはこれを、スマートフォンなどの端末から得られる位置情報ということで『デバイスロケーションデータ』と定義して、その運用方法を規定しました。」(川島氏)

 ガイドライン作成時に最もこだわったのは個人情報とデバイスロケーションデータとの棲み分けであり、デバイスロケーションデータを個人情報とは紐付けないことを重視した。6月24日にLBMA Japanが発表したプレスリリースには、以下のように書かれている。

デバイスロケーションデータは、基本的に、単体では特定の個人を識別することはできず、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別することができない限りにおいては、個人情報保護法が定める「個人情報」には該当しません。一方、デバイスロケーションデータは蓄積や利活用の方法によって、行動経路や滞在履歴が可視化されたり、特定の個人が識別されたりする可能性が高まる性質があります。

これまでは、デバイスロケーションデータの利活用を行う事業者が、法令を遵守したうえで、独自のルールに則った利活用を行ってきました。しかし、昨今のデータの利活用における社会的な影響等を背景に、健全で持続可能なデータの利活用を促進するためには、業界全体としての基準を定めることが本質的であると考え、一般社団法人LBMA Japanの会員が指標・基準とできる共通ガイドラインの作成・発表に至りました。本ガイドラインは、会員企業・法曹・弁護士・倫理学者等との議論を重ね、個人情報保護委員会事務局、及び関連各機関への相談を実施の上で作成いたしました。

位置情報等の「デバイスロケーションデータ」利活用に関する共通ガイドラインを作成

 川島氏はこのガイドラインについて、「『個人情報と紐付いた瞬間に、デバイスロケーションデータは個人情報になってしまう』ということを明確にした上で、『第三者へ提供する際には、個人情報として扱われるような提供の仕方をしない』というように運用方法を決めました」と語る。

 ただし、デバイスロケーションデータはその性質上、ほかのデータと組み合わせることで個人を特定できる可能性のあるセンシティブなデータである。それを踏まえてガイドラインでは、デバイスロケーションデータを他の事業者へ提供する際など、システム的にも、契約の面においても、その概念に基づいてしっかりとした運用を各社実施することを呼び掛けているという。

 例えば、アプリなどでユニークなIDを割り当てられたデバイスについて、毎日夜から朝までは郊外の住宅地エリアに滞在し、平日の昼間は都心のオフィス街に滞在するという位置情報ログデータがある場合、それらは自宅と勤務先であると推定されるだろう。別の個人情報と紐付けることで個人を特定できる可能性があるわけだ。このような事態を防ぐために、LBMA Japanでは個人情報を特定したり、あるいは個人の特定につながるような行為をしたりしないようなシステム設計や契約内容を心掛けるように規定している。

「デバイスロケーションデータ」と「個人情報」との棲み分け

 「さらに、デバイスロケーションデータをスマートフォンなどから取得する際の許諾の取り方についても規定しています。ユーザー側が利用規約への“同意疲れ”を起こしているのが問題となっていますが、提供側としてはしっかりと『こういう目的でこのように使います』と明記して理解してもらいましょう、とガイドラインで呼び掛けています。」(川島氏)

 ガイドラインにおける許諾の取り方の詳細については非公開とされているが、「ユーザーが理解・納得できる内容にする必要がある」という基本概念のもとにガイドラインを作成し、参加企業各社は、それに沿ったかたちでそれぞれ利用規約を作成しているという。

ガイドラインの構成

 「結局、位置情報サービスや位置情報マーケティングを提供する側は、特定の目的に対して全体的に人がどのように動いたのかを分析し、サービス化しているのであって、誰一人としてユーザーの個人情報が欲しいわけではありません。個人情報が欲しいのであれば個人情報保護法に基づいた運用をすればいいのであって、それはこのガイドラインで言いたいことではないのです。新型コロナウイルスの感染拡大により、デバイスロケーションデータを使った人流分析レポートが多くの企業から発表されましたが、それに対して『自分の個人情報が不正に取得されているのではないか』と不安に思うユーザーの声もありました。そのようなユーザーに対しては、あくまでもこれは個人情報とは紐付かないデータとして扱うことを分かってもらう必要があります。」(川島氏)

 「デバイスロケーションデータを、個人を特定する目的で使わない」という説明をユーザーに理解してもらうのは簡単なことではないが、それでもユーザーに対して継続して伝えていかなければならないことであると川島氏は語る。LBMA Japanではその取り組みの一環として、公式サイトにてガイドラインに関する一般ユーザー向けのイラスト解説(PDF)を8月初旬に公開している。

OSのポリシー変更などに対する意見交換会も開催

 LBMA Japanは今後、社会の動きに合わせてガイドラインを随時アップデートしていくほか、ガイドラインに沿って会員企業がしっかりと運用しているかどうかをチェックする監査体制を構築する予定だ。

 「新型コロナウイルス感染症の流行で、デバイスロケーションデータをもとに、特定のエリアを訪れたのが何人くらいで、何%くらい減ったのかという分析を多くの人が目にしたと思いますが、そのような数値がどのように計算されているのか、その計測方法は、実は各社で統一されていません。それを完全に共通化するのは難しいかもしれませんが、計測指標を出すときの大まかなガイドラインを作ることも検討しています。」(川島氏)

 LBMA Japanはガイドライン策定にあたって個人情報保護委員会などとの協議も実施しており、このような関係機関との情報交換も重視している。また、iOSやAndroidのバージョンアップにともなってデバイスロケーションデータの扱い方が大きく変わることもあるため、そのようなルール変更への見解を会員で共有していくことも考えている。

 「5月には第1回『Androidポリシー変更に関する意見交換会』を、7月には第2回『Android/iOSポリシー変更に関する意見交換会』をオンラインで開催しました。利用許諾の取り方など、ルールが変わったときにどのようにすればいいのかは誰かが正解を持っているわけではないので、そこについてはメンバー間でオープンに議論して、事例を積極的に共有していきたいと思います。」(川島氏)

 LBMA Japanは、その目的の1つとして「位置情報マーケティング・サービスの推進」を掲げており、そのためにいまは競合同士で激しく争うのではなく、まずは市場を広げていくことが大事であると川島氏は語る。

 「位置情報の業界は日本ではまだ小さく、例えばLBMA本部が出している統計では、北米のデジタルマーケティング企業のうち8割が位置情報を1つのセグメントとしてマーケティングに利用しているのに対して、日本では具体的な調査結果はありませんが、肌感覚でおよそ2割という感じです。北米に比べると日本は国土が狭く、東名阪を押さえておけばある程度マーケティングになるという事情の差はありますが、メンバー同士が成功事例を共有していく中で、位置情報をマーケティングに利用する割合を高めていくだけでも、この業界が伸びる余地は十分にあると思います。」(川島氏)

参加メンバーの一員であるクロスロケーションズが3月23日に発表した調査報告。緊急事態宣言の前後における地方への移動を解析している

アフターコロナで求められる位置情報の役割

 新型コロナウイルスの感染拡大によって位置情報データが注目された一方で、人の移動が減る可能性もあるアフターコロナの世界では、位置情報の役割はどのように変わるのだろうか。

 「これまでは、人が多く集まる場所はホットスポットとしてポジティブに捉えられていましたが、いまは逆にそれがネガティブにみられています。アフターコロナの世界では人々の行動が制限されますが、それでも行動を止めれば経済も止まるということを、今回の件で多くの人が理解したと思います。行動を止めないで密になるリスクを減らすためにどのようなデータや指標が必要なのかと考えたときに、位置情報はとても重要です。LBMA Japanのメンバー企業で、どこの店がどれくらい混んでいるかが分かる情報を提供している会社もあり、そういう意味では、位置情報を活用することで、コロナ前と全く違う新しい世界に即した可視化サービスを提供していけるのではないかと考えています。」(川島氏)

 LBMA Japanは今春、株式会社デジタルアドバンテージや三井住友海上火災保険株式会社、技研商事インターナショナル株式会社、株式会社スイッチスマイル、インクリメントP株式会社、株式会社NTTデータなどの正会員が新たに加盟した。

 地図会社のインクリメントPは参加の理由について「より精度、鮮度の高いマーケティング分野での需要要求に応えるため」というコメントをプレスリリースにて発表している。同社が7月にオープンベータ版として提供開始したポイントアプリ「トリマ」のウェブサイトでは、「より詳細な地図整備やリアルタイム更新、また新たなロケーションビジネスを創出するため、ユーザー様へマイルを還元する形で位置情報データを収集しています」と大きく記載されている。ユーザーとしてはこの説明はとても理解しやすいし、LBMA Japanの活動によって今後、このような分かりやすい説明をしてくれる事業者がどんどん増えていくことを期待したい。

 一方、三井住友海上火災保険など、位置情報をメインのビジネスにしていない企業が参加し始めていることも注目される。

 「初期のメンバーは位置情報に特化した企業ばかりでしたが、今後はより幅広い会員を募集しています。情報共有を目的としたイベントや、さまざまな啓蒙活動を推進していきたいので、業種を問わずに、位置情報サービスやマーケティングに興味のある企業の参加によってこの団体を大きくしていけたらと思います。ぜひ多くの企業に加入していただけるとありがたいです。」(川島氏)

LBMA Japanへの参加企業

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片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。