第277回:PPTPやWOL、VLANなどの実験的な機能を搭載した無線ルータ
バッファロー「Airstaion α(AS-A100)」



 バッファローからベータ版として多数の機能が盛り込まれた実験的な無線ルータ「Airstation α」が直販サイトでの限定販売を開始した。PPTPやWOLなど実用的な機能も搭載されている本機の使い心地をレポートしよう。





DD-WRTベースのファームで機能強化

 バッファローから発売された「Airstation α」は、無線ルータとしてはかなり面白い製品だ。

 見た目は同社から発売されている無線ルーター「WHR-HP-G54」とほぼ同じで、無線部分の仕様もIEEE 802.11b/g準拠と同一だが、その中見は大きく変更されており、通常のインターネット接続や無線LAN接続といった一般的な機能に加えて、数々の機能を搭載している。


バッファローから発売された「Airstation α AS-A100」。小型の筐体を採用した無線LANルーターで、背面に10BASE-T/100BASE-TXのLANポート×4とWANポートを備えている

Airstation α(左)とWHR-HP-G54(右)。ハードウェアとしてはほぼ同じだと思われる

 その数はあまりにも多く、ここでは紹介しきれないため、同社の製品紹介ページを参照してほしいが、注目される機能としては、複数のSSID設定やPPTPサーバーによるリモートアクセス、Wake On LAN(WOL)、VLANなどを利用できる点などがある。

 これらの機能は、同社で性能を評価した「Release」と実験的な「Beta」の2つに分かれており、ベータの機能に関しては動作保証外となっている。しかしながら、当然のことながらベータの機能の方が興味深いものが多く、これらの機能が使えることこそ「Airstation α」の魅力だろう。かなりマニアックだが、ルータをいろいろといじって楽しみたいというユーザーには気になる商品と言える。

 なお、実際の製品の設定ページなどを見ればピンと来る人もいるだろうが、このAirstation αは、インターネット上のWikiや掲示板などで少し前から話題となっていた「DD-WRT」と呼ばれる無線LANアクセスポイント向けにオープンソースとして提供されているファームウェアをベースにした製品となっている。

 もちろん完全に同じではなく、細かな日本語対応や最低限の安定性の確認などが行なわれており、無線出力の変更やCPUのオーバークロックなどといった機能が削除されるなどの違いがある。DD-WRTは開発者や趣味の世界のものだが、これをもう少しコンシューマー向けに落とし込んだのが「Airstation α」と言ったところだろう。


バッファローから発売された「Airstation α AS-A100」。小型の筐体を採用した無線LANルーターで、背面に10BASE-T/100BASE-TXのLANポート×4とWANポートを備えている




実用度の高いリモートアクセス機能

 前述したように、Airstation αの機能は実に多岐にわたっており、そのすべてを紹介することはできない。そこで、今回は比較的実用度が高く、注目度も高いと思われるリモートアクセス系の機能を中心に検証した。

 これまでにもバッファローの製品にはリモートアクセスに対応した無線ルータが発売されていたが、今回のAirstation αでもPPTPサーバー機能は「Release」とされており、機能的にも安定して利用できるようになっていた。

 使い方としてはさほど難しくなく、設定ページからPPTPサーバーを有効に設定後、サーバのIPアドレス(例:192.168.15.1)、クライアントに割り当てるIPアドレス(例:192.168.15.2-5)を設定し、認証に利用するユーザー名とパスワードを「username * password *」という形式で入力すれば良い。

 これでWindows XPやVistaのPPTPクライアントを利用してルータにアクセスすれば認証が行なわれて接続を確立され、LAN側にアクセス可能となる。


PPTPサーバの設定画面。サービスを有効にした後、サーバー自体のIPアドレス、クライアントに割り当てるIPアドレス、そして認証に利用するユーザー名とパスワードを設定する

 注目は、このPPTPサーバと組み合わせると便利な機能も搭載されていることだ。例えば、外出先から自宅にアクセスするためには自宅のWAN側のIPを把握しておく必要があるが、これはダイナミックDNSへの対応でクリアできるようになっている。Dyndns.orgをはじめとする多数のサービスに対応しているのもありがたいところだ。


ダイナミックDNSにも対応しているため、動的IPの環境でも外部から自宅へ簡単にアクセスできる

 そして最大のポイントとも言えるのがWake On LANにも対応していることだ。具体的には、以下のように利用する。

  1. PPTPで外出先から自宅に接続
  2. Airstation αの設定ページを開く
  3. WOLのページでLAN上のPCを指定して起動ボタンをクリック
  4. ルータからのWOLパケットでPCが起動する
 リモートアクセスの場合、接続するまでの環境を整えるのも敷居が高いが、それ以上に接続した後の環境をどのように整えるのかがこれまで問題になっていた。NASのように常に電源がオンになっている機器を利用するのであれば問題ないが、自宅のPCにリモートデスクトップで接続したいなどという場合は、外出前にPCの電源をオンにしておかなければならなかった。


ルーターからのWOLに対応しているため、リモートアクセス後に自宅のPCを起動してからリモートデスクトップ接続するといった使い方が可能

 これに対して、Airstation αを利用すれば、たとえ自宅のPCが起動していなかったとしても、WOLならその場で起動して接続することが可能だ。試しに、イー・モバイルの回線を利用して外出先から自宅のAirstation α(自宅側は光ファイバー)にアクセスし、WOLでLAN内のPCを起動してから、リモートデスクトップで接続してみたが、PCが見えないだけに起動するまでの感覚がつかみにくいものの、問題なくデスクトップに接続して作業できた。これはかなり便利だ。

 これまでリモートアクセス環境の実現にはいくつもの課題があったが、手軽に使えるPPTPサーバーに、ダイナミックDNS、WOL、さらに定額のモバイル回線と、これらがようやく解消されたという印象だ。残るはLAN側の名前解決の問題くらいだろうか。





仮想インターフェイスでゲーム機にも対応可能

 このほか、無線LANの機能も細かく設定可能となっており、たとえば内蔵されているアンテナのうちどれを送信と受信に割り当てるかなどといった設定もできるが、その中で実用的なのは仮想インターフェイスではないだろうか。


無線LANの設定も詳細にカスタマイズ可能。アンテナの使い方まで指定できる。ただし、DD-WRTでサポートされている設定のうちいくつかは省略されている

 仮想インターフェイスは、いわゆるマルチSSIDだ。通常のSSIDとは別のSSIDを作成可能となっており、そのSSIDに個別にセキュリティ設定を行なうことが可能となっている。Airstation αの場合、最大3個(元のSSIDと合わせて合計4つ)もの仮想インターフェイスを作成できるのがユニークだが、実際には、通常のSSIDに加えてニンテンドーDS用のWEPとSSIDを作成するといった使い方が実用的なところだろう。


仮想インターフェイスを追加することにより、異なるセキュリティレベルのSSIDを複数用意できる。プライバシーセパレータによる無線同士の通信禁止もできるため、PC用とゲーム機用などとして使い分けることも可能

 この機能では仮想インターフェイスに対してプライバシーセパレータを設定し、無線クライアント同士の通信を遮断することができるだけでなく(有線との通信は可能)、ブリッジを禁止することで無線ネットワークと有線ネットワークを分割することも可能となっている。

 また、国内向けのサービスは登録されていないがホットスポット用の設定も用意されており、この設定を有効にすることでホットスポット用のAPとして利用することもできる。仮想インターフェイスに割り当てられれば面白そうだが、インターネット接続回線を第三者に開放してもいいかどうかという問題があるため、いずれにしても国内ではまだ実用的ではないだろう。


ホットスポットサービスの利用によって、第三者にアクセスポイントを開放することも可能




いじり倒すだけでなく実用性も十分

 このほか、ポートベースのVLAN機能や、日付や曜日を指定してインターネット接続を制限する機能なども搭載されており、その機能は実に多彩だ。


ポートベースのVLANや日付や曜日を指定したインターネット接続制限機能なども搭載されており、かなり多機能な無線ルータとなっている

 もちろん、実験的な製品なので、使い方は基本的に自分で調べる必要があるが、同社のポータルサイトではユーザー同士の情報交換や同社の開発者からの情報提供なども行なわれており、ルーターや無線LANに関する最低限の知識さえあれば十分に活用できるようになっている。


Airstation α向けのポータルサイト。ユーザー同士の情報交換や開発サイドからの情報提供などが行なわれている

 DD-WRTを使えば良いと言われてしまえばそれまでだが、個人的には、バッファローのような大手のベンダーが、ユーザーを巻き込んだ実験的な開発を開始したという点こそを高く評価したい。このAirstation αの登場によって、ユーザーの声が反映されたユニークな製品が登場することを期待したいところだ。


関連情報

2008/1/15 10:59


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。