第290回:「Panasonic」ブランドを冠したSkype対応製品が登場
パナソニックコミュニケーションズの無線LAN電話端末「KX-WP800」



 パナソニックコミュニケーションズから、Skypeに対応した無線LAN電話端末「KX-WP800」が発売された。Skypeの今後の普及を占う上で重要な存在になりそうな製品の使い心地を試用した。





「Panasonic」ブランドのインパクト

KX-WP800

 パナソニックコミュニケーションズから発売された「KX-WP800」は、Skypeの今後を占うと言っても過言ではないほど、非常に重要な意味を持った製品だ。

 KX-WP800は、IEEE 802.11bに準拠した無線LANを搭載したSkype用の無線LAN電話端末とIEEE 802.11b/g準拠の無線ルータをセットにした製品だ。こういった製品自体はすでに市場に存在しており、本コラムでも以前にいくつかの製品を取り上げ済みで、さほど珍しいというものではない。

 そうした他の製品との差別化という点でも、無線ルータがセットになっている点に加え、無線ルータの完成度がなかなか高いという特徴はあるものの(詳細は後述)、ハンドセット自体は、従来から見慣れたSkype用製品とあまり代わり映えはしない。

 では、なぜ本製品がSkypeの今後を占う存在になり得るのかというと、それは本体に記されている「Panasonic」というロゴだ。


本体に記されている「Panasonic」のロゴ。このロゴを得たことはSkypeにとって非常に大きい

 Skypeは、その技術的な特徴などからメディアでよく取り上げられるものの、実際には主に海外にいる家族や友人との通話用に一部の人が利用する、言わばニッチなサービスに留まっており、、決して誰もが知っている一般的なサービスというわけではない。

 しかしながら、このサービスに対応した製品を、誰もが知る巨大な家電メーカーが、しかも「Panasonic」というブランドを使って販売するというのだから、話は変わってくる。

 もちろん、現状は同社の直販サイトでのみの取り扱いとなるため、まだ多くの人の目に触れるわけではないが、これによって一般ユーザーがSkypeに対して持っているイメージが変化する可能性がある。これまで「Skype対応の電話機」と言われても、それが何なのかがよくわからなかったユーザー層でも、「Panasonicの電話機」となれば、不安感も薄れるはずだ。

 また、他の家電メーカーへの刺激にもなるだろう。もちろん、Skypeと利害が対立する固定電話系のサービスと関連が深い企業は参入しにくいが、「パナソニックコミュニケーションズが出すなら、ウチも」と追従する家電メーカーが登場する可能性も考えられる。

 いずれにせよ、本製品の登場で固定電話系のサービスや環境が変化する可能性は大いにありそうだ。





FON対応で外出先での利用もOK

 肝心の製品についてだが、前述したようにハンドセット側はさほど大きな特徴はないものの、興味深い機能としてFONへの対応がなされている点が挙げられる。


ホワイトを基調にしたハンドセット。デザインは若干凝っているが、基本的には従来から存在するSkype用Wi-Fiフォンと同じ。ソフトウェアもほぼ同等だが、FON対応のファームウェアが標準で実装されている

 付属の無線LANルータとの接続に加えて、FONのアクセスポイントへの接続が可能となっており、アクセスポイントの検索後、FONのユーザーIDとパスワードを入力することで通信を確立し、その後Skypeにログインできる。優先ネットワークリストに登録しておけば、FONのアクセスポイントを発見次第、自動的に接続することもできるため、エリアは限られるが、持ち歩いて携帯電話のように利用することも可能だ。


FONへの対応がなされており、ユーザーIDとパスワードを登録しておくことで、アクセスポイントを発見次第自動接続することもできる

 ただし、外出先で利用できるのはFON、もしくは認証の必要のないアクセスポイントに限られる。ハンドセットにはブラウザが搭載されていないため、一般的な公衆無線LANサービスなどのようにSSLによる認証が必要な場合は利用できないことになる。

 一方、家庭内での利用、つまり付属の無線LANルータを親機として利用する場合は、設定は特に必要ない。出荷時状態ですでに無線LAN設定が行なわれているため、電源を入れるだけですぐに利用できる。なお、初期化した場合など、後から設定する場合は無線LANルータ本体のボタンを利用することで自動設を行なうことができるが、子機の収容台数は1台となっているため、複数台の子機を利用することはできない。


アクセスポイントの検出による手動接続のほか、セットの無線LANルータとの接続の場合はボタンによる子機登録が可能




完成度の高い小型無線LANルータ

 個人的に感心したのは付属の無線LANルータだ。まさに家電メーカー、と感心させられるような工夫が随所にちらばめられている。

 1つ目はそのサイズだ。厚さが若干あるもののハンドセットとほぼ同程度のサイズとなっており、大きさは約148×51×33mmしかない。Skypeをどこでも利用できるようにと、持ち運びを考慮してコンパクトなサイズに仕上げているのだろう。

 引き合いに出して申し訳ないが、前回レポートしたNTT東日本のひかり電話用主装置とは実に対照的な存在だ。もちろん、コンセプトが異なるため、単純な比較はすべきではないが、ひかり電話用の主装置もこれくらいのサイズになってくれるとありがたいと感じてしまった。


非常にコンパクトなサイズの無線LANルータ。10BASE-T/100BASE-TXのポートをLAN、WANそれぞれ1ポートずつ備えているほか、ハンドセットを充電するためのUSBポートを備える

 続いて興味深いと感じたのは、本体側面にあるプロファイルの切り替えスイッチだ。「HOME」と「HOTEL」という表示が示す通り、基本的には外出先などで使うときに、設定画面にアクセスすることなく、設定を切り替えられるようになっている。


本体側面にある切替スイッチ。設定画面で指定しておいたプロファイルを切り替えることができる

 最近の無線LANルータは、ルーターモードとアクセスポイントモードを切り替えるためのスイッチが搭載されていることが珍しくなくなってきたが、本製品のスイッチは、もう一歩先を行く機能だ。

 具体的には、切り替えの設定をプロファイルとして管理することが可能となっており、WAN側の接続方式の違いにより、「DHCP」「Static」「PPPoE」「AP(Bridge)」の最大4つのプロファイルから2つをスイッチに割り当てることが可能となっている。

 この機能を利用すれば、たとえば家ではPPPoEモード、外出先のホテルではDHCPモードでといったように、単純なルータ機能のオン/オフだけでなく、普段の利用環境に合わせて手軽に接続方式をを切り替えることができる。


4つの接続方式をプロファイルとして管理することができ、そのうちの2つをスイッチに割り当てられる。WAN側の接続方式が異なる2つの場所でも、設定を切り替えて手軽に利用できる

 本製品は、そもそも海外での利用が想定されており、米国/カナダ/英国/ドイツ/フランスの安全規格と通信規格に準拠し、日本を含めた計6カ国での利用が可能となっている。こういったさまざまな環境において、それぞれの場所に合った設定をプリセットして素早く切り替えられるのは大きなメリットだ。PCの無線LANが海外対応であれば、ハンドセットを子機として利用する場合だけでなく、海外の主張先でPCを接続したいという場合にも重宝しそうだ。


ルータや無線LAN機能も詳細に設定可能。最近のトレンドとなるマルチSSIDなどには対応しないが、基本機能としては必要十分だ

 最後は、無線LANルータ本体に用意されているボタンだ。このボタンは、前述した通り、ハンドセットの自動設定のために利用されるが、設定後はハンドセットを探すためのボタンとしても利用できる。設定後にボタンを押すと、ハンドセットの呼び出し音が「プルルルルー」と鳴る。これによって部屋のどこかにハンドセットを置き忘れたとしても、音で場所を特定できるというわけだ。

 もちろんハンドセットのバッテリーが残っていることが条件だが、なかなか面白い機能であることは確かだ。


本体のボタンは子機登録の設定以外に、ハンドセットの呼び出しにも利用可能。どこに置いたか忘れたときに利用できる




電源を入れてIDを入力すればSkypeが使える手軽さ

 以上、パナソニックコミュニケーションズの「KX-WP800」を実際に利用してみたが、ルータに接続して電源を入れ、初回のみIDを入力すれば、すぐにSkypeが電話機で利用できるという非常に手軽な製品だ。

 Skypeのさまざまなオプション(Skype In/Outなど)については、ハンドセットの画面からの購入ができないため、PCであらかじめ購入しておく必要があるが、おそらくSkypeを利用できる環境としては非常に手軽な存在だ。


メニュー画面。コンタクトリストを参照したり設定ができるPCのSkypeとの通話。音質はクリアでまったく問題ない

SkypeOutを利用した通話も可能。こちらも音質は問題ない
通話転送やボイスメールなどの設定もできる

 そして何よりのメリットはPanasonicというブランドによる安心感だ。わかりやすさという点では今一歩ではあるが、取扱説明書(詳細版は付属CD-ROMで提供)なども充実しており、充実したサポートも受けられる。すでにSkypeを利用している人ももちろんだが、どちらかというと、これから使ってみたいと考えている人にこそお勧めしたい製品だ。


関連情報

2008/4/15 11:06


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。