第289回:アナログ電話機との決別
NTT東日本のひかり電話対応電話機「IPテレホンUD」



 インフラだけでなく、電話機もついにIP電話の時代に。NTT東西からひかり電話向けの電話機「IPテレホンUD」が発売された。これにより家庭内の電話機がすべてLAN経由で接続されたIP環境へと移行することになる。その使用感を早速レポートしよう。





オール電化ならぬ、オールIP化へ

IPテレホンUDの「UD-標準電話機」

 今回、NTT東西から発売された「IPテレホンUD」を見て、オール電化ならぬ「オールIP化」という言葉が頭をよぎった。

 もちろん、電話のIP化ということなら、話題のNGNしかり、050番号のIP電話しかり、ひかり電話しかりと、当たり前のように進行している。しかし、これらは言わばバックヤードの電話網の話であって、いざ家庭内は? と目を向けてみると、何のことはない10年間に買った電話機やFAXが平然と鎮座している。

 「今までの電話機やFAXがそのまま使える」というのが、IP電話やひかり電話の特徴でもあったわけだが、実質的にはアナログの遺産が、それもユーザーのもっとも身近なところに残っていたわけだ。

 個人的に考えるに、「オール電化」がユーザー、主に女性層の心をくすぐるのは、あのフラットで未来的なIHクッキングヒーターがあるおかげではないだろうか。そう考えると、仕組みが一新され、料金的、機能的なメリットも享受できるIP電話に、なぜか新しい「ライフスタイル感」がなかったのは、まさにこのような象徴的な存在が欠けていたからではないかとも思えてくる。

 今回NTT東西から登場した「IPテレホンUD」は、もしかすると、このようなオールIP化を象徴するような存在になり得る、いや、少なくともNTTとしてはそういった存在に育てなければならない製品だろう。





ユニークなデザインだがサイズは大きめ

 とは言え、実際に機器を見てみると「IPテレホンUD」には、少々、その荷が重いかもしれないとも感じた。

 まずは見た目だが、ほとんどの人が第一印象として感じるのは「大きい」という感想だろう。IPテレホンUDのシステムは、無線LANルータやSIPサーバー(プロキシ)として動作する「UD-主装置」、電話機本体となる「UD-標準電話機」(もしくはUD-単体電話機、UD-コードレス電話機)という大きく2つのユニットで構成されており、台座のような構成のUD-主装置の上に、UD標準電話機をドッキングさせることができる。


UD-主装置UD-主装置の背面UD-標準電話機

UD-主装置とUD-標準電話機を接続背面無線LANで接続する「UD-コードレス電話機」

 このドッキングするという発想は保守的なNTTとは思えない面白い発想だが、いざドッキングすると、FAX機かと思えるほどのサイズ(ドッキング後の最大サイズはW370×D246×H272mm)となる。いや、最近のFAX機はサイズがコンパクトになってきたので、”ひと昔前の”FAX機という印象だ。

 電話機側のUD-標準電話機は、6.2インチワイド(QVGA)の液晶タッチパネルが搭載されており、しかも、この液晶を斜め上後方にスライドさせることでボタンが現われるという実に凝った作りになっているので、この大きさも致し方ないという考え方もできなくはない。また、「UD」を意味するユニバーサルデザインがコンセプトになっていることを考えると、高齢者の利用を想定して各部品をあえて大きくしているとも考えられるが、いずれにせよ少々設置場所に困るサイズであることは確かだ。


6.2インチワイドのタッチパネル液晶を搭載。スライドさせるとダイヤルボタンが現われる




ひかり電話ならでは簡単設定もルータ側の設定に注意

 ひかり電話の場合、対応ルータを利用したことがある人ならわかるだろうが、機器を回線につないで電源を入れるだけで、自動的に設定情報を読み込んで電話の設定を行なうことができるようになっている。もちろん、内線番号や着信設定などの細かな設定は後から行なう必要があるのだが、単純に電話として使うだけであれば、「つなぐだけ」という手軽さが実現されている。

 今回の「IPテレホンUD」も、設定方法としてはこれとまったく同じで、「UD-主装置」の背面にあるWANポートをひかり電話対応ルータ(RT-200KIやRT-200NE)のLANポートに、「UD-標準電話機」をUD-主装置のLANポートに接続し、電源を入れる。これで起動時に電話番号などの情報を取得し、自動的にひかり電話の設定が行なわれるようになっている。


UD-標準電話機のLANポートをUD-主装置のLAN2へ。UD-主装置のWANポートをルータに接続。双方の電源をつないで利用する

 では、つないで電源を入れれば即座に電話として使えるのかというと、そうもいかない。UD-主装置は、UD-標準電話機やUD-コードレス電話機、さらに既存のひかりパーソナルホンなどの子機を収容する親機として動作する機器だが、同時に既存のひかり電話対応ルータの子機として登録されることで、初めて動作するようになっている。

 この際、ひかり電話対応ルータ側にアナログ端末が接続され、その設定が有効になっていると、UD-主装置の登録に失敗してしまう。つまり、つなぐ前、もしくはつないだ後に、ひかり電話対応ルータの設定画面からアナログ端末を無効にする設定が必要になるわけだ。


ルータ側の設定でアナログポートを無効にしないと設定に失敗する

 この設定が一般的なユーザーにもできるかどうかと言われると、少々難しいと感じた。。購入時には設定代行サービスも利用できるが、自分で設定したい場合、それなりの知識が必要になるだろう。

 ただし、この設定さえしてしまえばあとは簡単だ。ダブルチャネル契約の有無や複数番号の着信音、留守番電話の設定など、タッチパネルを見ながら設定できる。もちろん、PCからの設定も可能で、UD-主装置のLANポートに接続したPC(主装置のルータ機能によって192.168.25.xのセグメントに割り当てられる)からブラウザで設定画面を表示することで変更可能だ。


ひかり電話のオプションなどは液晶パネルから設定可能
PCを利用してブラウザでアクセスすることでも設定を変更できる

 また、別売の「UD-コードレス電話機」の接続も、本体の設定ボタンによる自動設定が可能となっている。なお、子機の接続はIEEE 802.11bで行われるが、これはUD-コードレス電話機がIEEE 802.11b対応であることに加え、UD-主装置の設定がIEEE 802.11bとなっているからだ。規格としてはIEEE 802.11b/gの利用も可能となっているので、必要に応じて設定画面で変更しておくと良いだろう。


背面の設定ボタンを押した後、UD-コードレスホンから自動設定を実行すれば、無線LANの接続および子機登録が自動的に行なわれる
無線LANの設定はブラウザからアクセスすることで変更できる

 また、無線LANはあくまでも子機接続用としての利用が想定されているからか、同じく設定画面で最大同時接続可能機器が2台に制限されている。PCでの利用も想定するなら変更することも可能だが、11bにしろ、接続制限にしろ、おそらく子機の通話品質を確保するために行なわれている設定のため、音声通話重視なら変更は避けた方が良いだろう。





アナログ電話機は使えないのか?

 IPテレホンUDは、基本的に家庭内の電話機をすべてUDシリーズでIP化するというコンセプトの製品だが、まったくアナログ機器が使えないというわけではない。

 オプションとしてUD-FAXドアホンユニットをUD-主装置に取り付けることで、アナログポートが増設され、ここにFAX機を接続可能となる(ドアホンも接続可能)。FAXの利用頻度が低くなったとは言え、個人商店などではまだまだ利用されているケースも少なくない。こういった場合でも、安心して利用できるだろう。


UD-FAXドアホンユニットUD-主装置の底面に装着することでアナログポートを利用したFAXの送受信にも対応できる

 また、筆者が試した限りでは、ルータ側のアナログポートとの併用も不可能ではなかった。推奨されている方法ではなく、どのような不具合があるかまでも検証できていないため自己責任での利用となることを断っておくが、筆者宅の「RT-200NE」の場合、設定ページでアナログ端末(電話機1)さえ無効にしておけば、UD-主装置を問題なく接続することができた。

 これにより、RT-200NEのアナログポート2に通常の電話機を接続し、この電話機とUD-主装置側のUD-標準電話機を併用し、通話や着信が問題なく利用できることが確認できた。

 また、これまでに発売されていた無線LAN対応のひかり電話子機「ひかりパーソナルフォン」も問題なく併用できた。UD-主装置のSSIDやWEPキーをひかりパーソナルフォンに登録し、子機登録することで、通常の子機として通話できるようになった。既存のひかり電話機器は問題なく、UD-主装置の元で使えるようなので、すでにこれらの機器を利用している場合でも安心だろう。


ひかりパーソナルホンも子機登録可能




留守番電話の使い分けができる

 IPテレホンUDは、基本的に電話なので、さほど面白い機能が搭載されているわけではないのだが、個人的に便利だと思ったのは留守番電話の使い分けができる点だ。

 ひかり電話には、マイナンバー(東日本)や追加番号(西日本)と呼ばれる複数番号を利用できるサービスが存在するが、このサービスと併用することで、各番号ごとに留守番電話を設定できる。たとえば、番号1、番号2、番号3と3つの番号を利用していた場合、このうちの番号2だけ留守番設定にし、そのほかは通常の着信状態にするといったことが可能で、メッセージも個別に録音、再生することができるようになっている。


マイナンバーや追加番号を利用している場合は、番号ごとに留守番電話の設定が可能

 2世帯住宅などで電話番号を使い分けたい、留守番電話のメッセージのプライバシーを守りたいといったケースで有効だろう。

 また、UDの由来となるユニバーサルデザインの機能として、「基本」「シンプル」「携帯」の3種類のUIを使い分けられるのも特徴だ。たとえば、シンプルにするとよくかける通話先へのボタンと大きな通話ボタンが表示され、操作とともに音声ガイダンスが流れるようになる。これなら、高齢者や子どもなどでも使いやすいだろう。


基本、シンプル、携帯の3種類のUIを使い分けることが可能(ログインユーザーによる使い分けが可能)

 一方、携帯を選ぶと、ボタンが携帯電話の十字キーのように配置され、左側のボタンを押すと着信履歴が、右側のボタンを押すと発信履歴が確認できる。これは直感的な操作ができてなかなか便利だ。携帯電話のUIを固定電話が、それもNTT東西が取り扱う機器が取り入れるというのは、なかなか感慨深いところだが、試みとしては高く評価したいところだ。





ネックは価格

 以上、NTT東日本の新しいIP電話機「IPテレホンUD」を利用してみたが、試みとしては面白く、NGNの普及にはずみを付ける意味でも、ぜひとも普及してもらいたいと願うところだ。

 しかしながら、普及の最大のネックとなるのは、その価格だ。UD-主装置が66,150円、UD-標準電話機が40,950円、UD-単体電話機が22,050円、UD-コードレス電話機が22,050円、UD-映像アダプタが54,600円、UD-FAXドアホンユニットが19,950円と、かなり高い設定となっている。

 一般的な家庭で導入しようと、UD-主装置とUD-標準電話機、UD-コードレス電話機2台をセットにすれば、トータルで151,200円だ。おそらく機器のコストはかなりかかっているのだろう。凝った作りやUIの作り込みなどを見れば、そのコストの高さは十分にうかがえる。

 しかし、この価格ではいかんせん手が出せない。しかも、利用頻度が落ちている固定電話への投資ともなれば、機能や使いやすさうんぬんの前に、価格で利用者は引いてしまうだろう。

 と、ここまで書いて、同じようなことを以前にも書いた記憶がして調べてみたところ、2004年にフレッツフォン「VP-1000」をレビューしたときにに、同じように価格が高いことを欠点として指摘していた。

 せっかく面白いものを作っても、価格で台無しというのは実にもったいない。今すぐとは言わないまでも、ぜひとも低価格化に向けた努力をして期待したい。


関連情報

2008/4/8 11:12


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。