第291回:第2世代のHD-PLC安定性と速度が向上
松下電器産業のPLCアダプタ「BL-PA300」



 松下電器産業からHD-PLCアダプタの新製品「BL-PA300」が発売された。新たに開発された第2世代チップの採用によって、安定性の向上と高速化を実現した製品だ。実際にその実力を検証した。





最大速度が210Mbpsへと向上

BL-PA300

 松下電器産業から発売された「BL-PA300」は、いわゆる第2世代のHD-PLC製品だ。2006年末にBL-PA100を発売して以来、OEM製品なども含めて多くのHD-PLC製品が発売されてきたが、今回のBL-PA300から新開発の第2世代LSIが採用されるようになった。

 第2世代LSIを搭載した今回のHD-PLC製品の特徴は大きく3点ある。まずは利用周波数帯の拡大だ。従来の製品では高速PLC向けの2~30MHzの周波数帯のうち4~28MHzを利用していたが、今回の新製品では2~28MHzと使用周波数帯を2MHz拡大している。

 利用周波数帯が拡大すれば、それだけ多くのデータを搬送できるようになるが、これにより、PHY速度が従来の190Mbpsから210Mbpsへと向上しており、実効速度についてもUDPで80Mbpsから90Mbpsへ、TCPで60Mbpsから65Mbpsへと、それぞれ高速化されている。

 実効速度については内部的な処理速度の向上なども関連していると思われるが、いずれにせよ従来製品に比べて、わずかではあるが高速化が図られたことになる。

 続いての特徴は小型化の実現だ。今回のモデルはコンセント直結型となっているが、そのサイズは約55×33×90mm(幅×奥行×高)。同じく直結型の「BL-PA200」「BL-PA204」のサイズが約72×41×116mmだったので、かなりの小型化が実現されている。手元にあったBL-PA100と比較してみたところ、一回りから二回りほど小さくなった印象だ。


BL-PA300を2台セットにした「BL-PA300KT」背面

底面BL-PA100とBL-PA300の比較。サイズはかなり小型化され、電源も直結タイプになった

 最後の特徴は省電力化だ。今回のモデルから自動節電機能が搭載されており、PLCアダプタ間の通信がなくなってから20分が経過すると、自動的に消費電力が1W以下に切り替わるようになった。PCが起動している場合、Windowsのブロードキャストなどで事実上この機能が有効になることはないが、PCの電源を切っている状態の電力を節約することが可能だ。


「http://192.168.0.249」にアクセスすることで設定画面の表示も可能。ただし、設定項目はほとんどなく、ファームウェアのアップデート時しか利用しない




安定した通信が可能に

 気になるパフォーマンスだが、筆者宅で実際に速度を計測した結果が以下のグラフと図版になる。まずは同一コンセントで通信した場合だが、従来のBL-PA100が最大40Mbps前後(PUT時)、これに対して新型のBL-PA300は46Mbps前後(PUT時)と、従来機を上回るパフォーマンスを確認できた。

回線種別GETPUT
1000BASE-T327.8Mbps183.2Mbps
100BASE-TX80.4Mbps91.6Mbps
BL-PA10024.8Mbps40.9Mbps
BL-PA30038.6Mbps46.4Mbps
※サーバーにはAMD Sempron 2600+、RAM2GB、HDD400GB、Windows Home Server搭載機を使用
※クライアントにはLenovo ThinkPad X61、Intel Core2Duo T7500、RAM4GB(3GB)、HDD120GB、Windows Vista搭載機を使用
※IISのFTPサーバーを利用し、コマンドラインからFTPによる転送を実行。安定通信時の5回の値を平均
同一コンセント接続時の速度

同一コンセント接続時のFTPの様子。タイミングによっては値がばらつくことがあるが、おおむね安定して5,000KB/秒後半台で通信できた

 その差はPUT時で6Mbps、GET時で10Mbpsと、劇的に速くなったというものではなく、、体感速度もほとんど変化を感じられないが、周波数帯の拡大による性能向上は確かに実現されているようだ。

 続いて、家庭内の各所での値を計測してみた。若干ばらつきはあるものの、こちらも従来のBL-PA100に比べて良好な結果が得られている。同一層の場合でほぼ20Mbps後半、異相での接続では10Mbps後半といったところだ。これならインターネット接続などには十分だろう。



 この結果から考えるに、今回の新製品では周波数の拡大による速度の底上げに加えて、安定性の向上も期待できそうだ。同社のリリースによると、新チップのノイズ耐性の向上により、特につながりにくい場所での通信速度が30%向上するという、若干抽象的な表現がなされている。今回のテストに関して言えば、ノイズ耐性の向上+直結によるアドバンテージ(BL-PA100はケーブル接続)+拡大された周波数帯による上乗せ分の複合による効果が実際に現われたと言えそうだ。

 ただし、今回の比較対象は電源がケーブル接続となっているBL-PA100で行なっている。。第1世代チップを採用したHD-PLC製品の中には、OEM製品も含めてコンセント直結タイプも存在するため、こういった製品と比較した場合は、また別の結果となる可能性もありそうだ。

 なお、今回のテストでは、PLCに影響を与える可能性がある家電をできるだけ排除して計測している。たとえば、筆者宅では2調光機能付きシーリングライト、ヒートポンプタイプの洗濯機、エアコン、Nintendo DSの充電器が接続されていると、前述した結果の7~8割程度の速度しか出ないことが確認できている。今回の結果は通信環境が良好な場合であり、実際にはさらに低い値となる可能性があることはご承知いただきたい。





従来相互接続もOK

 周波数帯の拡大ということで、従来製品との互換性が気になるかもしれないが、こちらは問題なさそうだ。

 従来製品のBL-PA100と今回のBL-PA300の相互接続をテストしてみたところ、いずれを親機(マスター)、子機(ターミナル)に設定した場合でも、問題なく接続することができた。


相互接続も問題なし。いずれをマスター、ターミナルに設定した場合でも問題なく接続できた

 HD-PLC製品の場合、異なるマスターに接続するときに、ターミナルを一端初期化しなければならないが、それさえ忘れずにやっておけば、同型製品をつなぐときと同様に、マスター、ターミナル双方の設定ボタンをほぼ同時に数秒押すだけで接続できた。

 なお、当然だがBL-PA100側の利用周波数帯は従来の4~28MHzとなるため、相互接続の場合の最大速度は210Mbpsではなく、190Mbpsとなる。新型のノイズ耐性の向上によって、従来型同士に比べてパフォーマンスの向上が期待できる可能性もあるが、基本的には従来製品との混在の場合は、従来製品の性能に準ずると考えるのが妥当だろう。

マスターターミナルGETPUT
親:BL-PA100子:BL-PA30029Mbps43.6Mbps
親:BL-PA300子:BL-PA10028.9Mbps43.4Mbps
※計測環境は同上
相互接続時のパフォーマンス




これから購入するなら第2世代の新製品を

 以上、松下電器産業の新型HD-PLCアダプタ「BL-PA300」を実際に試してみたが、従来製品に比べて速度や安定性が向上しており、正当な進化を遂げた製品だと言える。

 ただし、パフォーマンスや安定性の向上も、劇的というほどではないため、従来製品から買い換えるかと言われると判断は難しい。PLCの最終的な速度や安定性は、製品自体の性能よりも、家庭内の他の家電により大きな影響を受ける。現状、つながらない、極端に遅いといったケースで、つながるようになったり、高速な通信ができるとは限らない。買い換えるまでではないが、これから購入するのであれば、あえて第1世代を選ぶ理由もないため、BP-PA100を購入した方が良いという結論になりそうだ。

 高速PLCに関しては、まだ不確定な要素が多いものの、そろそろ家電への搭載も期待したいところではある。今回の第2世代でどこまで対応できるかわからないが、テレビやレコーダーなどへの搭載にまで発展してくれることを期待したいところだ。


関連情報

2008/4/22 11:21


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。