第298回:外出先でもリアルタイムにデータを共有
ソニーの新発想NAS「Liblog Station HS1」
ソニーから、外出先からのアクセスやDLNAに対応したホームサーバー「Liblog Station HS1(VGF-HS1)」が発売された。Webアルバムの公開機能なども注目だが、LAN/WAN問わず、ほぼリアルタイムにデータを同期できるデータリンク機能も興味深い。既存のNASとはひと味違うその特徴に迫ってみよう。
Liblog Station HS1 |
以前、本コラムで同社のデジタルフォトフレーム(Canvas Online VGF-CP1)をレビューしたときにも感じたが、ソニーという会社は、良い意味で当初の予想を裏切る製品を発売するのがうまい会社だ。
デジタルフォトフレームにしろ、今回のNASにしろ、一見既存の製品と同じジャンルに属する製品と思いきや、使ってみると普通とはちょっと、いやだいぶ異なる発想で作られた機能が搭載されていたりして、良い意味で裏切られる。
「like.no.other」というコンセプトがよほど根付いているのか、どうやって普通とは違う製品を作ろうかと開発者が工夫に工夫を重ねた思いが、ひしひしと伝わってくる印象だ。
まあ、それがユーザーの想像する範囲をはるかに飛び越えてしまって、消費者が誰もついて来られないなどということもたまにあるのだが、それもまたソニーらしいところという気もする。
前置きが少々長くなったが、今回取り上げるソニーの「Liblog Station HS1(VGF-HS1)」も、まさにそんなソニーらしい独自の機能を備えた製品だ。基本的には1TBのハードディスクを搭載したNAS(もしくはホームサーバー)だが、LAN、WAN問わず、HS1同士やHS1とPCの間で、データのアップロードや同期をほぼリアルタイムに実現する機能が搭載されているのが特徴だ。
本体正面 | 本体背面 |
●NASとしての基本機能に独自機能をプラス
まずはNASとしての機能についてだが、これは基本をしっかりと押さえている印象だ。通常のファイル共有に加え、DLNAによる画像、映像、音楽の配信に対応しており、PCからのデータ保存や家電製品でのコンテンツ再生と、一般的なNASと同様に利用できる。
本体前面にUSBポート、およびメモリースティック、メモリースティックPRO Duo、SDメモリーカード、コンパクトフラッシュカードに対応したスロットが搭載されており、デジタルカメラやビデオカメラなどで記録した写真や映像をボタン押すだけで取り込めるようにもなっている。
前面の有機ELディスプレイによって、コピーの進捗状況なども確認できるなど、使いやすさが考慮されているのも特徴だ。
ただ、ここまでの機能については、既存のNASとさほど変わりはない。HS1らしさが発揮されるのは、これらNASとしての基本機能にプラスされた独自の機能だ。
前面のスロットを利用して機器やメモリカードから手軽にデータをコピー可能。ディスプレイで状況も把握しやすい | HS1の設定画面。基本機能に関しては一般的なNASと大きな違いはない | 共有フォルダの設定。標準ではアクセス制限なしだが、ユーザーによる制限も可能 |
●凝ったUIのWebアルバムを誰でもすぐに公開可能
まず注目したいのは、「VAIO Picture Lab」によるインターネット上へのフォトアルバムの公開だ。
HS1の設定画面から、VAIO Picture Labの設定を行うと、HS1上にインターネットに公開するための共有フォルダを作成できる(既存のフォルダも選択可能だが、DLNA公開設定などがされていると指定不可)。
そして、この設定を行うと、HS1上の共有フォルダに「http://xxxxxxxxxxxx.vgf-hs1jp.mynetserver.info:5524/public/xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx/」のようなURLが割り当てられる。
VAIO Picture Labの設定画面。公開設定したフォルダのURLを知らせれば友人などに写真を公開できる。公開に必要なDynamicDNSやUPnPによるポート設定などはすべて自動で行われる |
URLを見ればわかるが、これは同社が提供する「vgf-hs1jp.mynetserver.info」ドメインとダイナミックDNSを利用し、ポート5524で外部からのアクセスを受け付けるようになっている。このURLを友人などに伝えれば、共有フォルダに保存した写真を公開できるというわけだ(パスワード設定も可能)。
圧巻は、このアドレスで提供されるWebアルバムのUIだ。アクセスすると、共有フォルダの写真がバラバラッと表示され、その写真をマウスでつかんで移動したり、クルクルと回転させたり、投げてウィンドウの端で跳ね返らせることができる。
非常に凝ったUIのWebアルバム。音楽を再生したり、スライドショーで全画面表示することなどもできる |
【動画】Webアルバムの再生イメージ |
アルバムに移動後写真を表示すれば音楽を再生できたり、フルスクリーンでスライドショー表示できたりと、よくもまあここまで作り込んだものだと感心するほどに凝ったアルバムを楽しめる。これは、一見の価値ありと言ったところだ。
なお、これも非常に感心したのだが、前述したダイナミックDNSやポートなどは、ユーザーが一切設定する必要もなければ、意識する必要すらない。UPnPに対応したルータが存在するLANにHS1を接続して電源を入れれば、外部アクセスに必要な環境設定がすべて自動的に行われる。ユーザーはLANケーブルをつないで電源を入れるだけ、まさにコンフィグレーションフリーの世界だ。
●リアルタイムにファイルを同期
見た目の派手さという点では、この「VAIO Picture Lab」もなかなか面白いのだが、個人的に気に入っているのは、実は自動アップロード、およびデータリンクという機能の方だ。
これらの機能は文字通り、PC上のフォルダのデータをHS1の共有フォルダに自動的にアップロードしたり、HS1上の共有フォルダとPC上のフォルダを自動的に同期するための機能なのだが、驚いたことに、これらの機能を利用すると、LANだろうが、WANだろうが、ほぼリアルタイムにデータを同期することができる。
これらの機能を利用するには付属の「PC Link」というアプリケーションをインストールする必要があるが、たとえばデータリンク(送信)機能を利用して、PC上のフォルダの内容をサーバー上の共有フォルダに同期する設定をしたとしよう。
付属のアプリケーション「PC Link」。PCに常駐してフォルダのアップロードや同期を行う。同期の設定は時刻指定も可能だが、標準ではリアルタイムで同期する |
この状態で、PC上のフォルダに新しくWordの文書を作成すれば、一瞬のタイムラグこそあるものの、すぐにサーバー上に同じファイルが作成される。PC上のファイル名を変更すれば、同じくサーバー上でもファイル名が変更されるし、内容を編集すればサーバー上のファイルも内容が変更される。もちろんPCから削除すれば、サーバーからも削除されるといったイメージだ。これらの流れを動画で撮影してみたので、その様子をぜひ一度見ていただきたい。
【動画】 左側のフォルダがローカル、右側のフォルダがHS1上の共有フォルダ。最初だけ若干時間がかかるが、後の更新はほぼリアルタイム(1000BASE-T上でテスト) |
しかも、このほぼリアルタイムの同期はWAN経由でも利用できるというところが秀逸だ。今度は、PC側でデータリンク(受信)を利用して、サーバー側の共有フォルダの内容を常にPC側のフォルダに同期する設定をしておく。
この状態で、たとえばイー・モバイルなどのデータ通信カードを利用してPCをインターネットに接続。HS1の共有フォルダにファイルを保存すると、わずか数秒後には同じファイルがPC側のフォルダにコピーされている。このレスポンスの良さはちょっと感動するほどだ。
【動画】奧側のLAN上のPCからHS1の共有フォルダに写真をコピー。数秒後にはイーモバイルで接続した手前のノートPCのローカルフォルダに写真が同期される |
もちろん、自動アップロードも同様にほぼリアルタイムの更新が可能となっており、これまでのNAS+バックアップツールといった運用に比べると、はるかに柔軟性が高く、応用範囲の広い利用が可能となっている。
たとえば、データリンク(受信)の機能を応用すると、孫の写真を実家の両親のPCにリアルタイムに転送するといったことができる。実家のPCにWebから無償ダウンロード可能な「PC Link Lite」というアプリケーションをインストールし、自宅のHS1の共有フォルダを実家のPCと同期させる設定にしておく。
第三者が接続して利用することを想定し、無償の同期ソフト「PC Link Lite」も提供されている |
同期設定は6桁のコードの入力が必要。このコードのやり取りを電話で行えば、自宅のHS1に遠隔地のPCを接続することも可能 |
この状態にしておけば、自分はHS1のフォルダに写真を保存するだけで、実家の両親はPCを起動してネットワークにつなぐだけ(データが多い場合は若干時間はかかる)でいい。メールで送る、フォトアルバムのURLを伝える、そんな手間さえ必要ない。ただ保存して、相手がネットワークにつなぐだけで写真を共有できるのだ。
ちなみに、このデータリンク機能はHS1同士でも利用できる。まるでエンタープライズ向けサーバーのレプリケーション機能のようだ。
●相互同期は設定不可
以上、ソニーのホームサーバー「Liblog Station HS1」を実際に利用してみたが、この同期の使い勝手の良さは、ぜひ一度体験して欲しいところだ。筆者はデータのバックアップ用に設定しているのだが、まるでミラーリングでもしているかのように、同じデータがローカルとHS1上に常に維持される。
前述したように、WANでの使い勝手も良いので、離れた家族のPCへの同期、実家での利用、さらには取引先とのデータ共有などに利用するのにも向いている。大容量のデータをファイル転送サービスやFTPでやり取りするよりも、はるかにスピーディな情報共有が可能だ。
ただし、惜しいのは相互同期ができない点だ。おそらく、データの不整合や設定の煩雑さを避けるためにあえてできないようにしているのだと思われるが、複製元フォルダと複製先フォルダの関係が常に1対1となっており、1対多の同期はできない。
たとえば、HS1上の「共有フォルダ1」をLAN上のPC1、PC2という2台のPCの両方で同期したいと考える場合があるかもしれないが、このような設定はできない。「共有フォルダ1」をPC1と同期設定したとしたら、PC2はHS1上のほかのフォルダ(たとえば共有フォルダ2)としか同期設定できない。
同期やアップロードの設定ができるフォルダは他の機能で公開や同期設定されていないことが条件となるため、同一フォルダの相互の同期などはできない |
仕様上、あえてできない設定にしているのは理解できるが、同期するフォルダが増えてくると共有フォルダとPCの関係の把握が難しくなるため、関係を図版で表示するようにするなど、もう少し、管理が楽になるような工夫がなされることを期待したいところだ。
とは言え、ホームサーバーとしての完成度は抜群に高い。若干、ファンの音が気になるところではあるが、アクセスが発生していないときは頻繁にスリープするため、動作時しか気にならない。
アルバムの公開、データのリアルタイム同期と、他にない特徴に魅力を感じることができるのであれば、間違いなく買いと言って良い製品だ。
関連情報
2008/6/24 11:02
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