第299回:ケータイとブロードバンドの融合
無線LANでiモードが使えるNTTドコモ「ホームU」



 NTTドコモから、携帯電話とブロードバンド回線を組み合わせたサービス「ホームU」が開始された。050番号によるIP電話を携帯電話で、iモードをブロードバンド回線で利用できるサービスだ。その使い勝手をチェックしてみよう。





「無線LAN+ケータイ」の企業向けソリューションが家庭に

N906iL onefone

 固定電話と携帯電話の融合がようやく現実のものとなってきた。

 NTTドコモから、無線LAN搭載の携帯電話と自宅のブロードバンド回線を利用してiモードや050番号のIP電話を利用できる「ホームU」、そして外出先から携帯電話を利用して自宅のパソコンにアクセスできる「ポケットU」のサービスが開始された。

 無線LANを利用したサービスに関しては、2007年2月に発売された「N902iL」を利用した企業向けのIP電話ソリューションが存在したが、今回のホームUは家庭用のFTTH(現状はNTT東西のフレッツなどのマルチセッション対応回線のみの対応)を利用し、無線LANに関しても対応機種は限られるが市販の無線LANルータを利用できる。もちろん、端末も最新機種に変更されており、IEEE 802.11a/b/g準拠の無線LANを内蔵した「N906iL onefone」を利用できる。

 N902iLが発売されたとき、企業ユーザーだけでなく、家庭でも使えるようになってくれれば良いのに……、とうらやましく思ったものだが、それがようやく現実のものとなった。


N906iL折りたたんだところ




マルチセッションでドコモ網に接続

 ホームUに関しては、利用に際してパケット通信定額サービスのパケ・ホーダイかパケ・ホーダイフルの契約が必要で、料金も無線LAN経由の場合はホームU端末同士の音声通話、およびiモード接続が無料、固定電話や携帯電話への通話に関してはプランごとに若干の割引料金になる。サービスについては複雑で少々理解しにくいのだが、仕組みとしては意外に単純だ。

 前述の通りホームUはマルチセッション対応の回線を利用するが、通常のインターネット接続で利用するセッションに加えて、もう1つのセッションをNTTドコモのネットワーク(mopera)に接続するために利用する。これにより、端末から無線LAN経由でNTTドコモのネットワークにアクセスし、050番号によるIP電話、iモードが使えるというわけだ。

 そうは言っても、マルチセッションの設定というのは面倒なもので、手動で設定する場合、接続先の登録に加えて、ドメイン指定の静的ルーティング設定が必要となる。ルーターの設定は初めてという初心者はもちろんだが、多少、設定に慣れているユーザーでも、この設定は難しいだろう。


手動で設定する場合は、マルチセッションの設定+静的ルーティングの設定が必要。これにより、ドコモのネットワークへの通信はmopera経由となる

 というわけで、設定に関しては、同社がホームページ上で配布している「ホームU設定ツール」というソフトウェアを利用するのがもっとも手っ取り早い。

 ツールを起動後、ルータのユーザーIDとパスワード(設定画面用)を入力すると、前述したマルチセッションと静的ルーティングの設定が自動的に行われる。すべてのルータに対応できるわけではなく、ホームU対応ルータのみに限られるが、試しにひかり電話用のルータ(RT-200NE)で設定してみたが、問題なく設定できた。


設定ツールを利用すればルータ側の設定は自動的に行うことができる

 一方、携帯電話側の設定だが、SIPの設定に関しては携帯電話からホームUのサイトにアクセスし、サービスの契約を行うことで設定情報をダウンロードできる。ただし、この設定情報には、当然、無線LANの接続設定は含まれていない。そこで、やはりホームU設定ツールを利用して設定することになる。FOMAケーブルを利用してPCと接続すれば、前述したルータの設定の流れの中で、SSIDや暗号化設定が携帯電話に登録される。

 もちろん、手動での設定も可能となっており、携帯電話の設定画面からプロファイルを選択し、ここにSSIDや暗号化を登録すれば良い。ケーブルの方が簡単かつ確実だが、手動でも設定も不可能ではないだろう。


ケーブルを持っていない場合は設定情報が表示され、手動での設定となる
アクセスポイントの情報を携帯電話に手動で登録すれば、ケーブルなしでも設定可能

 なお、ルータの設定において2セッション目としてmoperaが追加されてしまう点が気になるという人も少なくないだろう。フレッツシリーズでは2セッション目をフレッツ・スクウェアに利用するのが一般的だが、ホームUを利用する場合は、この設定を解除する必要がある。

 ただし、NTT東日本の場合は、IPv6を利用した「フレッツ・スクウェアv6」の提供が開始されており、ほぼ同じサービスが利用できる。PC側がIPv6に対応していれば1セッションをホームUへと切り替えても、あまり問題にならないだろう。


NTT東日本の場合、IPv6が使える環境なら2セッション目が占有されても問題ない。すでに2セッション使用済みの場合、設定ツールで警告が表示されるので、フレッツ・スクウェア設定を解除(削除はされない)すると良いだろう




iモードは超速

 実際に使ってみた印象としては、とにかくiモードの速さが際だつ。

 少し前、同社のFOMAハイスピードのテレビCMでiモードが「サクサク」というものがあった記憶があるが、サクサクというイメージをはるかに超えた驚くべきスピードでiモードを利用できる。画面上のメニューを選べば、一瞬にして次の画面に切り替わるし、ダウンロードやメールの送信も待ち時間をほとんど感じさせない。

 特に画像が多用されたページは顕著で、通常のFOMA網の場合、画像が徐々に表示されるという印象があるが、無線LAN経由の場合、ページにアクセスすれば、一気に画像が表示される。これは実に気持ちが良い。


【動画】通常のFOMA網でのアクセスと無線LAN経由でのアクセスの違い。映像内のアクセスはFOMA網→切り替え→無線という順番

 現在、ホームUのキャンペーンということで、同社のサイトで情報量無料の動画コンテンツがいくつか提供されているが、これなら映像配信サービスなども少しは使ってみようかという気になる(電波状況によっては連続通信が必要なストリーミングなどでは途切れる場合もある)。

 一方、電話に関しては、前述したように本サービスでは専用の050番号を利用するため、この番号を使った発信となる。


無線LAN経由で他事業者(au)の携帯電話に電話をかけたところ。050番号が通知される
着信時の様子。相手が050番号にかけると「WLAN電話着信中」と表示される

 相手にはこの050番号が通知されるので、着信拒否されないようにあらかじめ050番号も相手に伝えておいた方が良さそうだ。また、自分が外出しているときに、相手がこの番号に電話をかけても着信せず、「電波が届かない場所にある」というメッセージが流れる。

 できれば050番号でかけても090番号が通知されて欲しいところだが、おそらく規制の問題などで難しいのだろう。しかしながら、せめて相手が050番号にかけたときの対処として、不在時はセンター側で転送するとか、留守番電話でメッセージを録音できるくらいのサービスはあって欲しかったところだ。

 料金についても、ホームU同士(050番号同士)は無料で通話でき、一般加入電話への通話もFOMA網経由に比べて3割ほど安いというメリットはあるが、「ファミ割MAX」のような無料通話を利用できるサービスも存在するだけでなく、iモードについてもパケ・ホーダイ、もしくはパケ・ホーダイフルの料金を支払っている以上、劇的なメリットとも言い難い。

 携帯電話の料金が高いと言われていた数年前の902iLの時代ならまだしも、相手制限や時間制限はあるものの通話料無料、パケット定額の今の時代、通話料金はさほど魅力とも言い難い。というわけで、このサービスの醍醐味は、iモードの速さにつきると言えるだろう。





フレッツ 光ネクストならひかり電話でも利用可能

 というわけで、電話としてのサービスを考えると、050番号ではなく転送や留守番電話などのサービスが充実したひかり電話の子機として使いたくなるところだが、これはこれで難しい面がある。

 NTT東日本のホームページによると、ひかり電話でN906iLを利用することは可能だが、基本的にフレッツ 光ネクスト向けのサービスとなっており、対応ルータも現状は「PR-S300NE」「PR-S300SE」「RV-S300NE」「RV-S300SE」「RT-S300SE」「RT-S300NE」となっている。

 企業内での利用も想定されているため、設定次第では上記以外のひかり電話環境に接続することも不可能ではなさそうだが、筆者が試した限り、RT200NEへの接続はできなかった(限られた時間でのテストのため設定漏れがある可能性も考えられるが……)。

 なお、ホームUの契約がない場合、当然ながらNTTドコモのネットワークに接続することはできないため、iモードの利用はできないことになる。フルブラウザを利用して無線LAN経由でインターネットに接続することはできるが、公式サイトへのアクセスはFOMA網経由となるので注意が必要だ。

 では、ホームUの契約をした状態なら、ひかり電話と無線LAN経由のiモードという両者のいいとこ取りができるのかという疑問も湧いてくるが、こちらも今回はフレッツ 光ネクストの環境がなかったためにテストできなかった。





他社の追従に期待

 以上、NTTドコモのホームUを実際に試したが、iモードの速度に関しては驚異的とも言えるほどで、便利さというよりパフォーマンスという点で利用価値があるサービスだと感じた。電話としての使い勝手(留守番電話など)の改善点はあるが、固定と携帯のサービスを組み合わせたなかなか面白いアプローチのサービスだ。

 個人的には、せっかくひかり電話があるのだから、フレッツ 光ネクストだけでなくBフレッツでも「ひかり電話+無線LANのiモード」という組み合わせで使いたいところだが、同じグループとはいえNTT東西とNTTドコモという別の会社が提供しているという、NTTならではの事情があって難しいところなのだろう。そういった意味では、固定も携帯も提供しているKDDIやソフトバンクといった他事業者にも、こういった取り組みを期待したいところだ。


関連情報

2008/7/1 10:52


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。