第334回:アイ・オー・データ機器「WN-G54/DCR」
データ通信端末を共有できる無線LANルータ



 アイ・オー・データ機器から、イー・モバイルやウィルコム、au、ソフトバンクのデータ通信端末を使ってインターネットに接続できる無線LANルータ「WN-G54/DCR」が登場した。どのような用途に適しているのか、実際に製品を使って検証してみた。


用途が広がるデータ通信端末

アイ・オー・データ機器の「WN-G54/DCR」

 コミューチュアの「PHS300」、ウィルコムの「どこでもWi-Fi」、IIJとhi-hoの「クティオ」と、データ通信端末を外出先で共有できるモバイルルータが各社から登場し、注目を集めている。

 ネットブックとの相乗効果で加入者を伸ばしたイー・モバイル。また、料金プランの改定で使いやすくなった各社のデータ通信サービスなどが追い風となり、多くのユーザーがデータ通信サービスを利用するようになった。そして、このようなサービスをPCだけでなく、ゲーム機をはじめとして、さまざまな用途で活用しようというのが、モバイルルータ登場の理由だ。

 このような状況の中、アイ・オー・データ機器からもデータ通信端末経由でインターネットに接続できる無線LANルータ「WN-G54/DCR」が発売された。モバイルルータとは異なり、ACアダプタを利用した電力の供給が必須となる据え置き型だが、比較的入手しやすい価格(実売1万4000円前後)で、使い勝手の良さが魅力の製品だ。どのような製品で、どのような用途に適してるのかを検証してみよう。


イー・モバイルなど4社のデータ通信端末に対応

 「WN-G54/DCR」は、基本的にはIEEE 802.11b/gに準拠した無線LANルータだ。PCなどに搭載された無線LAN機能を利用して接続することで、インターネット接続を共有したり、PC同士を接続したLANを構築することが可能となっている。


データ通信端末用の無線LANルータとなるため、LAN側用のポートが1つと、USBポートのみを装備する上部にはPCカードスロットを搭載。PCカード型のデータ通信端末を装着

イー・モバイルのD02HWを接続。これをWAN側の回線として利用

対応するのはイー・モバイル、ウィルコム、au、ソフトバンクのサービス。UQ WiMAXは対応していない

 それでは、通常の無線LANルータと何が違うのかというと、WAN側に利用する回線が異なる点だ。一般的な無線LANルータは、ADSLや光ファイバなどの固定回線を利用するが、本製品ではデータ通信端末を利用する。

 イー・モバイルのデータ通信端末など、通常はPCに接続する端末を本製品のPCカードスロットやUSBポートに装着することで、WAN側の回線、つまりインターネット接続に利用するわけだ。

 通常、データ通信端末は接続したPC1台しか利用できない。しかし、無線LANルータのWAN側回線として利用することで、無線LANで接続した複数台の子機から回線が共有できるようになる。

 よくよく考えて見ると、いわゆるブロードバンド回線が普及する前は、電話回線をPCに接続してダイヤルアップでインターネットに接続していた。これが、ISDNのテレホーダイの登場以降、ダイヤルアップルータを利用して複数台のPCで共有できるようになった。これをモバイル用のデータ通信端末で実現したのが、「WN-G54/DCR」ということになる。

 利用できるデータ通信端末は、イー・モバイル、ウィルコム、au、ソフトバンクの製品。端末種類は、PCカードタイプもしくはUSBタイプの子機となる。CFカードやExpress/34端末も、別売するアダプタの利用で装着が可能になるが、すべての端末に対応しているわけではない。

 例えば、比較的利用者が多いであろうイー・モバイル端末の場合、D11LCとD12LC、D21LC、D02HW、D03HW(要別売りアダプタ)、D21HW、D02NE、D21NEに対応しているが、3.6Mbpsの通信が可能な初期製品(D01NEやD01HW)などには対応していない。また、PHS300などではスマートフォンを利用することもできるが、本製品では非対応になっている。

 対応するサービスは基本的に4社だが、実際にどの端末を接続できるのかは、アイ・オーのホームページなどで事前に確認しておく必要があるだろう。


対応サービスでも端末によっては利用不可。旧型のD01NEなどは認識されないスマートフォンも非対応(写真はイー・モバイルのS12HT)

ゲーム機での利用は設定変更が必要

 使い方は簡単と言って良い。イー・モバイル、ウィルコム、au、ソフトバンクなど、どの回線を利用するのかは設定画面から選ぶのだが、標準ではイー・モバイルに設定されている。このため、イー・モバイル端末を利用する場合は、本体にデータ通信端末を装着するだけで利用できる。


装着した端末ごとに接続先を設定。プリセットされている接続先から選ぶだけで設定できる。イー・モバイルは標準設定のため装着するだけでOK接続時間も設定可能。一定時間経過後に強制切断することもできる

 あとは通常の無線LANルータと使い方は同じだ。例えば、PCから接続する場合であれば、無線LANの設定画面から本製品のSSID(初期設定ではAirPort)を検索し、本体底面に記載された暗号キーを入力すれば接続が完了。あとは、無線LANからデータ通信端末を経由してインターネットに接続できる。

 ただし、PC以外の機器、特にゲーム機から接続したい場合は注意が必要だ。WN-G54/DCRの暗号化は標準ではWPAで設定されている上、マルチSSIDにも対応していない。このため、WEPのみをサポートする「ニンテンドーDS(DSiはWPAに対応)」などを利用する場合には、事前に暗号化設定をWEPに変更する必要がある。


暗号化の設定は標準では「WPA2 Mixed」。WEPのみをサポートする、ニンテンドーDSを接続する際は設定を変更する必要があるWPA用のキーは本体底面に記載

WPSプッシュボタンに対応。Windows 7などの対応クライアントを利用すれば、ボタン方式での接続ができる

 本製品にはまた、有線LANで接続するためのLANポートも用意されているので、PCを接続して設定画面にアクセスし、事前に暗号化の設定を変更しておくと良いだろう。セキュリティレベルは低下するが、ゲーム機を接続する場合は、ほかに選択肢がないのでしかたがない。

 このほか、WPSによる無線LAN設定に対応しており、同社製の無線LANカードとユーティリティなどWPS対応の子機を利用している場合は、PINコードやプッシュボタンによる無線LAN設定が利用できる。試しに、Windows 7を利用してWPSプッシュボタンでの設定を試してみたが、問題なく接続できた。


通信速度によっては複数台の接続も現実的に

 気になる通信速度だが、これは利用する回線と環境次第といったところだ。筆者宅でテストしたところ、イー・モバイルの「D02HW(7.2Mbps対応)」を利用した場合で、下り3.26Mbps、上り374kbps(speed.rbbtoday.comで計測)となった。

 この速度で通信が可能であれば、複数のクライアントで回線を共有してもあまりストレスは感じない。実際、2台のPCを利用し、片方でYouTube、もう片方でニコニコ動画を再生してみたが、動画をスムーズに視聴できた。WAN側で2~3Mbpsの速度が実現できていれば、ゲーム機でゲームをしながら、PCでWebブラウズといった使い方をしても、ほとんど問題ないだろう。

 また、ゲーム機のオンライン対戦なども問題なくできた上、iPod TouchやBlackBerryなど、手元にある機器のいずれも接続でき、Webブラウズやメールの送受信などを快適に利用できた。

 あくまでWAN側の状況次第だが、光ファイバとまではいかなくとも、場合によってはADSLの代替えとしてじゅうぶん使える可能性もありそうだ。ただし、利用するサービスによっては、大量の通信を行なうと通信が切断されたり、帯域が制限される場合もある。このあたりは各社が定める規約などにもよるので注意が必要だろう。


2台のPCを接続し、YouTubeとニコニコ動画を同時に再生iPod touchやBlackBerry Boldなども問題なく無線LANで接続して利用できた

ゲーム機専用として使う手もある

 このように、WN-G54/DCRは持ち運びこそできないものの、データ通信端末を家で活用するのには手軽で便利な製品だ。

 ネットブックと一緒にデータ通信端末を手に入れたは良いものの、外出先で使うのは月に数回、あとは家で眠っているという人も少なくないかもしれない。しかし、本製品があれば、外出先で使うとき以外は、家の回線としてデータ通信端末を利用が可能になる。

 最近では、1人暮らしの人などを中心に、契約するのは携帯電話とデータ通信端末のみで、固定電話だけでなく、固定インターネット回線の契約もなしで暮らす人も少なくないと聞く。こういったケースでは、家でPC以外の機器も接続できるWN-G54/DCRがあると重宝しそうだ。

 もちろん、すでに光ファイバなどの固定回線があるケースでも、ゲーム機専用のアクセスポイントとして利用するという手もある。こうすれば、家の回線につなぐ無線LANはWPAでしっかりとガードしておき、ゲーム機はWEPで完全にLANと切り離して運用することができる。

 WN-G54/DCRは使うときだけデータ通信端末を接続するといった使い方もできるので、普段は端末を取り外しておけば、より安心だ。こういった物理的な使い分けは、意外に便利で、実用的かもしれない。

 冒頭で触れたモバイルルータと比べると、持ち運べないのが最大の欠点となるが、データ通信端末を直接接続できるPC以外に「外出先で使いたい機器があるか」と問われると、人によってはほとんど無い可能性もある。そうであれば、モバイルルータより数千円安く、しかも手軽に使える本製品を選ぶメリットはじゅうぶんにある。

 もちろん、契約しているデータ通信サービスの料金体系や月の通信量にもよるのだが、どうせ家にいるときは眠らせて置くくらいなら、WN-G54/DCRでデータ通信カードを有効に活用するというのも面白い使い方と言えそうだ。


関連情報

2009/3/17 11:04


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。