イベントレポート
Interop Tokyo 2025
日本もデータセンターを自分たちで作れる国へ――さくらインターネットの挑戦、田中邦裕社長が語る
2025年6月17日 06:00
幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2025」で6月12日、さくらインターネット株式会社代表取締役社長の田中邦裕氏による基調講演「未来を担うインフラとしてのデータセンター ~さくらインターネットの挑戦と展望~」が行われた。日本のデータセンターやクラウドの業界を活性化させたいという話が、同社の歩みとからめて語られた。
ちなみに冒頭のあいさつによると、田中氏はInteropのプログラム委員を10年以上務めているそうだ。
最初に田中氏は、「アジェンダ(議題)をマクロなものにする」ことをメッセージとして語った。これは、社会全体の課題や流れを考えることでもあり、また、短期的な浮き沈みではなく全体的な成長のことでもある。
社会の流れとしては、デフレからインフレへの変化を田中氏は挙げ、「デフレはチャレンジしたら失敗する時代だったが、インフレはチャレンジをしたほうが得という時代になる」として、成長にはマインドチェンジが必要だと語った。
ここで田中氏は「手前味噌ですが」と前置きして、さくらインターネットの石狩データセンターで7年前に3号棟を建てたときに、30億円の見積りのところ、成長を見越して大きめに作ったら40億円になったことを紹介した。なお、最近、4号棟の見積りをとったら100億円だったという。
「インフレの時代には、できるだけ将来のことを考えて余白を作ることが重要」と田中氏は言う。この「余白」というのは、さくらインターネットの経営方針として田中氏が最近よく使う言葉で、「変化」「成長」「余白」のサイクルを田中氏は示した。
その中でさくらインターネットの特徴としては「垂直統合」を田中氏は挙げた。データセンターを自前で持ち、サービスを開発し、仮想化基盤を自前で作ってきた。「自分たちで価値を作り、自分たちでコントロールができる状態にする」と同氏は語る。
その流れで、さくらインターネットではガバメントクラウドにも取り組んでいる。国内で1社だけという背景として、「自分たちで作れるのかどうかというところにあると思っている」と田中氏は言う。ただし、ライバルはAmazon・Google・Microsoftという、どの分野でも自社のビジネスのライバルになったら大変という強敵だと同氏は苦笑する。
そんなさくらインターネットの歩みは「悲喜こもごも」で、成長する時期と成長しない時期があった、と田中氏は言う。ホームページブームで創業して利益を上げ、ネットバブル崩壊で低成長になり、Web2.0でサーバーが売れた。2016年からAIの波がやってきてGPUサーバーを提供したが、2020年ごろからAmazon・Google・Microsoftの攻勢を受けるようになって、物理サーバーの売上が減り、2021年に物理サーバーのサービスを縮小した。その次はGPUサーバーのニーズでまた業績が回復した。このようにデコボコはあるが、全体としては成長している。
これまでいくつか失敗した中で、現在のフォーカスとして「新規事業はしない、新規市場を作る」と田中氏は語った。新規事業で成功している企業は、たくさんチャレンジした中の少数の事業が成功している、というわけだ。そこで、ガバメントクラウドのように、同じサービスを違う人に売ることにここ数年注力していると同氏は述べた。
ちょうどInterop Tokyo 2025が開幕した6月11日には、石狩データセンター内でコンテナ型データセンターが稼動開始した。背景として、現在GPUサーバーの需要が大きいが、5年後にビジネスがどうなっているか分からないということがある。そして、通常のデータセンターは減価償却が43年から47年のところ、コンテナデータセンターは7年で減価償却なため、短期的な勝負をするのに向いていると田中氏は語った。
さて、データセンターは、政府の「骨太の方針」でも国家インフラとして明記されている。その中で田中氏が危機感を強調するのが、日本でデジタルやAIを利用するときに全て米国のサービスに行ってしまう「デジタル貿易赤字」だ(国全体の貿易収支の問題とは異なる話)。
しかし、世界的には日本は電気があるほうであることもあり、また、欧米とのネットワーク接続もあり、日本のデータセンターへの期待は高いという。
ただし、日本のデータセンター建設は増えているが、外資がほとんどで日本企業が少ないという。その中で、KDDIやNTTがデータセンターを作り始めたことは良い兆候だと田中氏は語った。
もう1つは、データセンターの地方分散だ。現在データセンターの多くは東京周辺にあるが、データセンターとユーザーは近くにある必要はなく、サーバーとサーバーが近くにあることや、データセンターと電力が近くにあることが重要だと田中氏。そこで、全国数カ所に電力を作り、データセンター集積地を作るというのが、官民連携で進められている「ワット・ビット連携」だ。
そうした業界状況の中で、さくらインターネットは2024年、GPUに1000億円を投資することに決めた。「企業規模から見ると相当大きいが、賭けに勝った」と田中氏。このように挑戦しながら、ただし前述のように知見のあるデータセンターやクラウド業界の新しい顧客のために投資するという考えだ。
もう1つ、人材採用を加速させ、そのために給与平均を20%上げたという。「それによって、外資からも人が来るようになった。日本には優秀な人たちがいるが、日本は給与が安すぎる」と田中氏は主張する。
田中氏は最後に、「データセンター産業を通じてマクロな視点で成長産業を作り、それによって国民が豊かになってくようにしたい」と語り、「そのために、データセンターやAIなどを、活用するだけでなく自分たちで作れるような国であるよう、私もがんばりたいし、みなさんとも立場を共有したいと思っている」と締め括った。
展示ブースでは自社サービスに加え、AIの学習・推論高速化などパートナーのサービスも紹介
Interop Tokyo 2025展示会場のさくらインターネットのブースでは、クラウドサービス「さくらのクラウド」や、GPUサーバーサービス「高火力」シリーズ、「さくらの生成AIプラットフォーム」などについて展示していた。
パートナー企業やグループ企業の製品やサービスも展示。株式会社フィックスターズは、科学技術計算などのために、並列処理やGPU、FPGAなどの性能を引き出す高性能ソフトウェアを開発している会社だ。さくらインターネットとは、高火力シリーズなどでLLMを効率的に開発するための開発環境整備に関する共同研究開発契約を結んでいる。
展示では、GPUサーバーの立ち上げから、ソフトウェアの効率改善までサポートする「Fixstars AI Booster」を紹介。効率改善については、AIの学習や推論のパフォーマンスを監視してボトルネックを可視化する。さらに自動高速化のためのツールも提供する。
なお、フィックスターズは6月12日付で、「高火力PHY」のNVIDIA H200搭載サーバーについて動作検証し、H100に対して2.5倍の高速化を達成したことをプレスリリースで発表している。
プラナスソリューションズ株式会社は、さくらインターネットグループのシステムインテグレーター企業だ。高火力シリーズを用いたシステムインテグレーションも扱っているという。
今回の展示では、プラナスソリューションズが日本で提供するSeagateのデータ転送サービス「Lyve Mobile」を中心に展示していた。持ち運べる大容量ストレージデバイス(最大128TB)を一定期間だけ借りられるサービスだ。データが膨大だったり業務ネットワークに負荷をかけるわけにはいかなかったりといった理由で、ネットワーク経由より人手でデータを運んだほうが早いケースで使われるという。
株式会社テクノルは、クラウド型UTM「MRB-cloud」について展示。企業のVPNルーターからMRB-cloudへVPN接続、あるいは外出先から端末のL2TP-IPsecでMRB-cloudへVPN接続することで、場所を問わずUTMのセキュリティ機能が利用できる。このMRB-cloudでは動作プラットフォームとして、さくらのクラウドを採用している。