インタビュー
クラウドとレンタルサーバーって何が違う? さくらインターネットに聞いてみた
2025年5月14日 06:55
IT系ではない会社で「インターネットのサーバー」を新しく立てることになったとき、どうやって立てることを考えるだろうか。
昔ながらの「レンタルサーバー」というのもあるが、最近はサーバーというと「クラウド」を使うのが定番らしいという話も聞く。「VPS」というのもあるらしい。さすがにプロでないなら、今どき自分たちでサーバーマシンを用意するのは厳しいだろう……
………といった思考を経た結果、たどり着く結論は「用途や条件ごとに使い分ける」になると思う。
だが、詳しくない人にとっては、それらがどう違って、どう使い分けるのか、正直よくわからない。
そこで、「さくらのレンタルサーバ」で長い実績を持ち、「さくらのクラウド」「さくらのVPS」といったサービスも展開しているさくらインターネット株式会社に、それらの違いについて聞いてみた。
話してくれたのは、さくらインターネット株式会社で執行役員としてクラウドやVPSなどの事業責任者を務め、以前はエバンジェリストとしても活動していた横田真俊氏だ。
レンタルサーバー、VPS、クラウドはどう違う?
――まず、「さくらのクラウド」というのはどんなサービスかという概要からお願いします。
[横田氏]「さくらのクラウド」は、クラウドの中でもIaaS(Infrastructure as a Service、サーバーやネットワークなどのインフラを必要な分だけ利用できるサービス)の特徴を持つパブリッククラウドサービスです。AWS(Amazon Web Services)でいうとEC2(Amazon Elastic Compute Cloud、クラウド上の仮想サーバー)みたいなところから始まりました。
――レンタルサーバーとはどう違うのでしょうか?
[横田氏]レンタルサーバーやVPS(Virtual Private Server)、クラウドは、お客様の目的は似たような部分もありますが、似て非なるところがあります。クラウドの一番大きな特徴は、サーバーを増減してスケールできるところだと思っています。
昔(2000年代ごろ)は、インターネットサーバーを立てる際、物理サーバーをドンと入れて、インターネットに公開したものの、想定以上のアクセスが来て、ダウンしてしまった、ということがよくありましたよね。
そんなときにクラウドのサーバーであれば、クリック一つでサーバーをどんどん増やして拡張できます。
――ありましたね。
[横田氏]たとえていうと「自分の家」と「ホテル」のような違いでしょうか。
ずっと住む「自分の家」なら建てたり借りたりしたほうが安いわけですが、ちょっとだけ滞在するならホテルなどを使いますよね。あるいは、遠くに行くには新幹線や飛行機に乗りますが、近所のコンビニに行くには徒歩で行きますよね。
サーバーを公開する場合でも、
a) 個人や法人のちょっとしたWebサイトを公開するならレンタルサーバーが簡単でいい。
b) もう少し自由度の高いものが良く、スケールしなくていい場合は、VPSがいい。
c) アクセスがたくさん来てそれに耐えるようなものには、クラウドを使いたい。
……というように、用途によって違ってくるものがあります。
――レンタルサーバーは、1台のサーバーを1人で使ったり何人かで共同利用したりするんですよね。クラウドやVPSはそれとどう違うんでしょうか?
[横田氏]VPSもクラウドも、物理サーバーの中に複数台の仮想サーバーを作る、仮想化技術を使っています。
その上で「VPSとクラウドがどう違うか」ですが、これはさくらインターネットの場合、仕組みと料金体系と思っていただければよいです。「VPS」とはその名の通り、仮想サーバーを専用サーバーのような形で1人で安価に利用できるサービスです。
「さくらのVPS」ではCPUやディスク容量がある程度決め打ちになっていて、月額料金で利用します。
一方、「さくらのクラウド」は、メモリやディスクなどが増やせて、時間課金もできるというサービスです。クラウドの場合はアクセスが突然増えたときにサーバーをパッと増やすことができ、アクセスが引いたら元に戻せます。このとき、月額課金だとサーバーを減らしても料金がかかってしまいますが、時間課金なら減らした分の料金がかかりません。
VPSの利用者は個人が多数、クラウドは大規模サイトで活用されるレンタルサーバーは「Webサーバーやメールを安価に使いたい人」向け
――ユーザーの利用用途はどのようなものでしょうか?
[横田氏]VPSは個人のお客様が多いですね。Linuxのコマンドやサーバーアプリケーションの勉強という方もよくいらっしゃいます。
また、個人でも法人でも、WordPress以上のことをサーバーでやりたいということで、レンタルサーバーではなくVPSを使うケースも多くあります。法人での利用例では、自社の顧客にサーバーをワンパッケージにして出すのにもVPSは向いているので、数百以上のVPSを契約されたお客様もいます。
――クラウドの場合はどうでしょうか?
[横田氏]クラウドは、先ほど話したようにアクセスの増減に対応できるメリットがあるので、ECサイトやWebメディア、ゲームなどのお客様が多くあります。
また、アクセスに季節的な変動のあるサービス、たとえば夏と冬に集中する同人誌の販売サイトや、年末に集中するふるさと納税のサイトなどでご利用いただいているケースもあります。
ただ、近年ではそうしたアクセスの上下が大きくなくても、ある程度大きなシステムではクラウドを使うということも標準的になってきています。というのも、パブリッククラウドサービスは、どの事業者でも、ロードバランサー(負荷を複数のサーバーに分散する機能)やオブジェクトストレージ(大量のデータをスケーラブルに保存できるサーバー)、オートスケーリング(自動的にサーバーの台数を増減する機能)などの便利なマネージドサービス(機能の構築や運用を任せて利用するだけでよいもの)が機能として用意されています。クラウドを使うことで、それらの機能をいちから構築するかわりにマネージドサービスを使い、大きなシステムを作れるわけです。
――それらに対して、レンタルサーバーの利用用途はどのようなものでしょうか?
[横田氏]主に「コストを抑えたい、小規模なWebサイトやメール利用者向け」として使っていただいています。昔でいうと「HTMLを書いてFTPでアップロードする」というものがありましたが、今ですとWordPressなどのCMSも簡単に利用できます。
――ただ、よくわかっていないと、安く済ませるにはなんでもかんでもレンタルサーバー、という誤解も聞きます。
[横田氏]企業にとっては「Webページを公開する」というのが出発点になりやすいので、そのイメージがあるのかもしれません。実際、そうした用途ならVPSやクラウドのような規模や機能はそんなに必要ないので、レンタルサーバーが向いています。レンタルサーバーは実際に安いですしね。
ただし、大きなECサイトや社内システムを作るのには向いていないので、そのときにはVPSやクラウドなどが必要になる、というところだと思います。
「クラウドは実はそれほど高くない」
――「大規模のものに使う」と言われると、高そうな印象を持つ人もいると思いますが、クラウドって、高いんでしょうか?
[横田氏]使うシステムによって料金は変わります。小さいシステムであればサーバーも少ないので、それほど高くはありません。ただし、大きくなるほど料金が上がっていきます。また、時間課金なので、どのぐらいの時間使っているかにもよります。
ただ、時間課金もある意味わかりにくいところがあるので、さくらインターネットでは少し変えています。10時間までは時間課金なんですが、10時間以上20日未満は日割り課金、20日以降は月額料金になるという形です。これによって、時間課金か月額課金かを選ばなくても、一番安いプランになるという方針です。
また、ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)ではサーバー料金のほかに、データ転送量やストレージの使用量などによっても料金が変わってきますが、さくらのクラウドではサーバー料金だけというのも特徴です。
こうしたことからわれわれは、価格を抑えるという点と分かりやすいという点の両方の意味で、リーズナブルな料金体系と考えています。
――なるほど、時間課金と月額課金のいいところどりを狙っているわけですね。
「さくらのクラウド」ってほかのクラウドと何が違う?
――パブリッククラウドサービスというと、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudなどが有名です。さくらのクラウドは、それらと何が違うのでしょうか?
[横田氏]先ほどの話のように、料金体系の違いが一つあります。
機能面では、ハイパースケーラーと比べて、正直足りない機能もあります。ただし、いまガバメントクラウドの技術要件をすべて満たすという条件に向けて、そうした機能の多くを開発中です。
そのほか、お客様からは、コントロールパネルが分かりやすいという声をいただいています。というのも、AWSの場合はコントロールパネルの体系がクラウド特有の概念になっていますが、われわれは昔からのサーバーの概念を大事にしています。そのため、昔から物理のサーバーを触ってきたお客様から、好評をいただいています。
――そのあたりは自社で開発しているのでしょうか?
[横田氏]はい。弊社では、石狩データセンターを持って、サービスの開発から運用まで自分たちでやっています。
たとえばハイパーバイザーという、仮想サーバーを管理して動かすクラウドのOSのような仕組みがあって、これも自社で開発しています。ある特定の商用ハイパーバイザーを利用していた事業者もありましたが、その提供元が買収された影響で、実質的に大幅な価格改定が行われ、皆さんだいぶ困っていらっしゃいました。これについては、さくらインターネットは影響ありません。そうした点を自分たちでコントロールできるのが売りだと思っています。
運用についても、石狩のスタッフでやっています。販売サポートも自社です。これらについても、技術的に自分たちでコントロールできるところが、われわれの強みですね。
――下から上まで自社開発とのことですが、それがユーザーにとってはどう影響してくるでしょうか?
[横田氏]先ほどのハイパーバイザーの件も一つです。また、サービス開発について、国内のお客様の声を聞いて比較的早くフィードバックできると思っています。
たとえば、ユーザーサポートについてはマニュアルを日本語で書いていますし、技術開発でも国内の事情に合わせて開発しています。先ほどの、時間課金がイパースケーラーとは違った体系になっている点も、その一つです。
――ハイパースケーラーのクラウドにある機能を多く開発中という話でしたが、どのぐらいハイパースケーラーに近付けるのでしょうか?
[横田氏]ガバメントクラウドの要件を開発しているところで、この要件ではハイパースケーラーと類似するような機能を作り込むことを求められています。たとえば、コンテナや、NoSQLデータベース、暗号鍵管理ですね。
ガバメントクラウドに関する弊社の開発計画と開発状況は、実はデジタル庁のサイトで四半期ごとに公開されています。ここに載っているさまざまな機能を、がんばって作っています。
もちろん、ガバメントクラウド以外の機能も開発しています。
――スケジュールまで公開されているんですね。
[横田氏]3月12日には、「さくらのクラウド」で13の機能の追加を発表しました。コンテナイメージから簡単にアプリケーションをデプロイする「AppRun」や、シークレット情報を管理する「シークレットマネージャ」、暗号鍵のライフサイクル管理を行う「KMS(Key Management Service)」、Web APIを管理する「APIゲートウェイ」、Apache Cassandra互換の「NoSQL」などです。このように、ハイパースケーラーを見ながら、クラウドネイティブな機能の追加を、いま一生懸命やっているところです。
――AWSっぽくなっていく感じでしょうか?
[横田氏]AWSもそうですが、いまハイパースケーラーのクラウドサービスを使っている方々が欲しいような機能をどんどん取り入れているところです。
「個人でVPSを使っている人が、企業でクラウドを導入してくれている」
――ちなみに、レンタルサーバーやVPS、クラウドを選ぶ際、どういう風に選んでいるものなのでしょうか?
[横田氏]理由は様々にあるのですが、当社の場合、企業のIT担当者の方が、個人でレンタルサーバーやVPSを使っていて、そこでさくらインターネットに馴染んでいることから、会社での選定で「さくらのクラウド」や「さくらのVPS」を選んでいただく、というケースがけっこうあります。
使い勝手や信頼性をしっかり評価していただいている、ということだと思うので、ありがたいですね。
――なるほど、面白いですね。個人でサーバーを借りている人が、会社で規模の大きなクラウドを入れるのですね。さきほどもちょっと話がありましたが、そういう方は、VPSを何に使っているのでしょうか?
[横田氏]個人では、サーバーの勉強をしたい方や、自前でCMSを入れたいという方が多いですね。
小中規模の法人では、Webサイトやシステムを組むのにも使われています。先ほどクラウドとの比較をしましたが、システムを拡張しないということであればVPSのほうが安いんですね。反対に、スケールしたり、マネージドサービスを使ったりしたいということであれば、クラウドを使うことになります。
――レンタルサーバーやVPSでは、サーバーアプリケーションを簡単に立てられるのでしょうか。
[横田氏]「さくらのレンタルサーバ」では、WordPressのようなアプリケーションをワンクリックでインストールできます。
「さくらのVPS」でも、いくつかのサーバーを簡単にインストールできる「スタートアップスクリプト」というものを用意しています。それを使っていただければ、マインクラフトのサーバーなども簡単にインストールできます。ただ、VPSの場合は、自分でちゃんとWebシステムを作りたいという方も多いですね。
――VPSでは一般的なサーバーの知識でサーバーを立てられますが、クラウドというとそのクラウド特有の知識や考え方が必要になるイメージがあります。「さくらのクラウド」ではどうでしょうか?
[横田氏]「さくらのクラウド」では、先ほどお話したように、物理サーバーを意識して操作できるように作っています。ハイパースケーラーでは、たとえばVPC(接続する内部ネットワーク)を作らないとサーバーを立てられない、といったことがありますが、われわれはクラウド独自のお作法をできるだけなくす方向にしています。
かつ、そうしたマネージドサービスを組み合わせて、楽に大きなシステムを作ることができる、というところを目指しています。
――ありがとうございました。