第337回:CFとUSB端末に対応した小型モバイルルータ
IIJ/hi-ho「クティオ」



 IIJとhi-hoから、バッテリー駆動が可能なモバイルブロードバンドルータ「クティオ(RS-LJ01)」が発売された。「PHS300」や「どこでもWi-Fi」に続く、モバイル向け製品の実力を検証した。


ライバルは「PHS300」

「クティオ」。IIJやhi-hoのモバイルブロードバンドサービス向けの製品だが、両社ユーザー以外も購入できる

 IIJとhi-hoから登場した「クティオ」は、USBやCF型のデータ通信通信端末をWAN回線として利用できるバッテリー駆動のモバイル無線LANルータだ。IEEE 802.11b/gの無線LAN機能を持ち、PCやゲーム機、携帯情報端末などを無線LAN接続して、モバイルブロードバンド回線の共有が可能になっている。

 販売元は前述の通り、IIJとhi-hoとなっており、基本的には「IIJmio高速モバイル/EMサービス」と「hi-hoモバイルコースEM7.2」での利用を想定しているが、両社ユーザー以外も購入できる。また、イー・モバイル回線でも利用可能になっている。なお、製品自体はネットインデックスが開発している。

 同様の製品は、すでにいくつか存在しており、本製品の登場によってユーザーの選択肢が、また1つ増えた格好だ。具体的には、以下の表に示したが、本コラムでも紹介したウィルコムの「どこでもWi-Fi」、さらにはコミューチュアの「PHS300」が挙げられる。


・各製品の比較
PHS300どこでもWi-Fiクティオ
価格1万8000円4800円(頭金)1万9740円
月額料金回線による1980円回線による
回線イー・モバイルウィルコムIIJ/hi-ho(イー・モバイル)
速度下り最大7.2Mbps
上り最大384kbps
(動作確認済み端末の場合)
最大204kbps下り最大7.2Mbps
上り最大384kbps
(IIJ/hi-ho端末の場合)
無線LANIEEE 802.11b/gIEEE 802.11b/gIEEE 802.11b/g
本体サイズ122×73×18.5mm110×70×31mm100×65×21.8mm
重量145g260g130g
バッテリ容量1800mAheleloop単3形×4本1800mAh
対応機器D02HW/D12HW/D11LC/
D12LCH11T/H11HW/
S11HT/S12HT/S21HT
内蔵PHSD01NX/D01NXII/D02HW

 表を見てもわかる通り、「クティオ」は先行する「PHS300」と真っ向から競合する製品だ。利用回線がイー・モバイルである点はもちろん、価格帯やバッテリー容量などもほぼ同じとなっている。

 簡単に両製品を比較してみると、注目すべき点はサイズと対応機種の2点になるだろう。以下の図は、3製品の大きさの比率と重さを図で表現したものだ。


3製品のサイズ、重量比較

幅はほとんどiPod touchと一緒。まさに手のひらサイズといった印象だ

 こうして比較してみると、本製品は「PHS300」より若干厚いものの、サイズが非常にコンパクトである点がわかる。実際、製品の幅は「第2世代iPod touch(61.8×110×8.5mm)」と比べて、ほんの少し大きい程度で、手のひらにすっぽり収まるサイズになっている。

 重量も「PHS300」の145gに対して、「クティオ」は130gと軽い。カバンに入れれば、ほとんど重さを感じることもなく、非常に持ち運びに適している印象だ。

 続いて利用可能な機種だが、「PHS300」はスマートフォンなどにも対応し、対応する機種自体は多い。これに対して、クティオは対応機種は限られるものの、USB端末だけでなく、CF端末にも対応しているのが特徴だ。

 USB端末の場合、どうしてもケーブルが邪魔になる印象があるが、CF端末の場合は本体からアンテナ部分が若干はみ出す程度で、ほぼ一体型のようなイメージで利用することができる。

 さすがにCFカードを挿した状態で持ち運ぶのは気が引けるが、もともとコンパクトな本体を邪魔なケーブルなしに、よりスマートに持ち運ぶことができる。この手軽さはなかなか好印象だ。

 CFでの利用やサイズ、さらにはサポートなどまで考慮すると、「クティオ」を選ぶメリットは高いと言えそうだ。


本体正面側面部

セキュリティ設定を忘れずに

 それでは実際の使い方を見ていこう。本製品を利用するには、本体に装着したデータ通信端末を利用してインターネット接続するための設定が必要になる。設定はWebブラウザ経由となるので、まずはPCを使って接続しよう。

 本体の電源をオンにすると、「RS-LJ01」というSSIDが表示される。このSSIDは標準では暗号化なしとなっているため、PCから簡単に接続できる。その後、Webブラウザを利用して「http://192.168.2.1」にアクセスし、IDとパスワードを入力すれば設定画面が表示される。


クティオの設定画面。初期設定では接続先設定が必要ウィザード形式の初期設定で接続先を登録。利用する回線に合わせて設定する

イー・モバイル端末の利用も可能

 ここで設定ウィザードを利用し、日付と時刻、そして接続先のユーザー名やパスワード、APNなどを設定するれば、とりあえずモバイルルータとしての利用が可能になる。

 接続先の情報は利用するサービスによって異なるが、一般的なイー・モバイル端末を利用した場合でも、APN「emb.ne.jp」、ID「em」、パスワード「em」と、お馴染みの設定で接続可能だ。このように接続情報の入力は必要であるが、設定自体はさほど難しくない。

 ただし、設定の簡易さを追求した反面、セキュリティは非常に甘くなっている。前述したように、標準設定では無線LANの暗号化は設定されていない。このため、ウィザード設定をしただけで利用を開始すると、本製品の周辺にいる誰でも接続できてしまう。個人的には標準で暗号化を設定しておくべきだと考えるが、設定されていない以上、必ず自分で設定しておくことを忘れないようにしよう。

 また、設定画面は標準でパスワードが設定されているが、これは製品のMACアドレス下6桁になっている。加えて、設定画面にアクセスする際のID/パスワード入力画面にしっかりと表示される仕様となっている。これも標準の状態で使っていると、タダ乗りや不正な設定変更を容易に許してしまうことになるので要注意だ。


標準設定のままでは無線LANの暗号化なしとなる上、設定画面のパスワードも公開されてしまう。必ず変更するようにしよう

WPSプッシュボタンによる設定に対応。ただし、対応機器が限られる(Windows 7やニンテンドーDSiなど)ため、現状では手動設定のケースが多いだろう

 本製品はマルチSSIDに対応し、SSID間の通信を遮断することも可能となっている。ただし、それ以前に無線LANの暗号化や設定画面のパスワード変更をしないと、このような機能があっても無意味だ。

 外出先で使うことを考えても、本製品でのセキュリティ設定には十分注意が必要となる。電源を入れたら、真っ先に無線LANの暗号化と設定画面のパスワードの変更をしておこう。

 なお、本製品ではWPSによる無線LANの自動設定にも対応している。ただし、現状、WPSに対応したクライアントは限られるため、現状は手動での設定が一般的となる。


連続で約2.5時間の利用も可能

背面に1800mAhのバッテリーを搭載。公称値は連続100分となっていたが、実測ではそれ以上となる2時間半の駆動も可能だった

 設定時にセキュリティ面での注意は必要なものの、いったん使用できる状態にした後の使用感は非常に快適だ。電源をオンにしてから接続完了するまでの時間は1分ほど。さほど時間はかからず、外出先などでもサッと利用できる。

 通信速度はWAN側の環境次第となるが、筆者宅での実測では、下り1.9Mbps、上り100kbps程度で通信できた。PCにデータ通信端末を直結した場合でも、同等の速度となるので、ルータ自体の処理性能も優秀と言えそうだ。

 また、このジャンルの製品として最も気になるのはバッテリーの駆動時間だと思われるが、これもなかなか優秀だ。フル充電した状態で、PCから連続してインターネット上のサイトにPingを実行し続けてみたところ、実測で2時間37分ほどの駆動が可能だった。

 今回の試用版では搭載されていなかったが、省エネモードの搭載も予定されており、必要に応じて電源をオン/オフしながら使うなどの工夫もすれば、さらに長時間の利用もできるだろう。

 また、本製品は電源にUSBポートを利用するのだが、サポート対象外ではあるものの、PCのUSBポート経由での充電にも対応している。USB接続の外部バッテリーや「eneloop」などと組み合わせれば、外出先での利用時間をかなり伸ばすこともできそうだ。


ハードウェアや機能面での完成度は高い

サポート外となるがUSBポートでの充電にも対応

 このように、本製品の利用にあたってはセキュリティ面での注意は必要になるが、ハードウェアや機能面の完成度は非常に高い製品となっている。特にCF端末との組み合わせは実に快適で、まさに常にカバンに入れて持ち運びたくなる印象だ。

 自宅で充電して移動中に利用、外出先や会社でもUSBで充電できるという点も有り難い。最初は初心者向け製品かと思ったが、どちらかというとヘビーユーザーにこそオススメしたい製品と言えそうだ。


関連情報

2009/4/7 11:05


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。