第363回:データ通信アダプタをWAN回線に利用可能
バッファロー 無線LANルータ「DWR-HP-G300NH」
バッファローの「DWR-HP-G300NH」は、イー・モバイルなどのデータ通信アダプタをWAN回線として利用できるIEEE 802.11n準拠の無線LANルータだ。有線WANポートも備えるほか、NASとしての利用やリモートアクセスもできる多機能な製品となっている。今回、発売前の試作機を借りることができたので実際に試してみた。
●データ通信アダプタ対応をプラス
無線LANルータ、NAS、メディアサーバー、リモートアクセスと多機能な上、単体モデルの場合で標準価格が1万4280円と、リーズナブルな価格設定で高い評価を得たバッファローの無線LANルータ「WZR-HP-G300NH」。本コラムでも以前に取り上げたが、ハイパワーの無線LAN機能に加えて、家庭内のファイル共有やメディア共有、外出先からのアクセスと、いろいろな用途に使える非常に魅力の高い製品であった。
そんな「WZR-HP-G300NH」の特徴を活かしながら、少し変わった用途にも使えるようにした派生製品とも言えるのが、今回取り上げる「DWR-HP-G300NH」だ。本体を一見しただけですぐにわかるが、外観は「WZR-HP-G300NH」とほぼ共通。折りたたみ式のアンテナやピアノブラックの表面加工なども同じで、背面の型番を見ない限り、「WZR-HP-G300NH」と区別するのは難しいかもしれない。
バッファローのデータ通信アダプタ対応無線LANルータ「DWR-HP-G300NH」。標準価格は1万7640円。なお、写真は試作機のため実際の製品と若干異なる可能性がある |
試作機となるため、製品版とは細かな仕様に違いがある可能性はあるものの、機能的にも「WZR-HP-G300NH」とほとんど同じだ。無線LAN機能はIEEE 802.11nおよびIEEE 802.11b/gに準拠し、周波数帯は2.4GHz帯のみをサポート。また、背面にあるUSBポートにさまざまな機器を装着して、NASとしてファイル共有したり、メディアサーバーとしてPCや家電製品から写真やビデオを再生したり、さらにはリモートアクセス機能を利用して外出先からUSBメモリやHDDなどに保存したデータにアクセスすることも可能となっている。
このほか、デジタルアーツのフィルタリングサービス「i-フィルター for BUFFALO」への対応、BitTorrentによるダウンロード機能なども利用可能となっており、とにかく全機能を列挙するだけでも大変な無線LANルータだ。
それでは、従来の「WZR-HP-G300NH」と何が違うのかというと、本製品ではUSBポートに接続できる機器として新たにデータ通信アダプタがサポートされた。これにより、WAN回線にADSLやFTTHなどの固定回線だけでなく、モバイルブロードバンド環境を利用することが可能となったわけだ。
正面。ピアノブラック調の高級感あるデザインや折りたたみ式アンテナも健在 | 側面にはギガビットイーサネット対応のWAN/LANポートに加え、USBポートを搭載する |
●外ではモバイルPCで、家では無線LANルータで回線共有
背面のUSBポートにデータ通信アダプタを装着可能。モバイルブロードバンドによるインターネット接続を無線LAN経由で共有できる |
それでは早速、データ通信アダプタを接続した使い方を見てみよう。まずは対応製品だが、今回試用した製品は発売前の試作機ということもあり、対応するデータ通信アダプタはイー・モバイル製に限られていたが、製品版ではNTTドコモのL-02A/L-05A/A2502、イー・モバイルのD23HW/D22HW/D21HW/D12HW/D21LC/D31HW、ソフトバンクモバイルのC01LC、IIJmioのD02HW。ウィルコムのAX530S/HX003ZT/RX420AL/RX420IN/RX410INに対応予定となっている。詳細はバッファローのWebサイトで確認できるのでこちらを参照してほしい。
今回は、この中からイー・モバイルの「D02HW」を利用してテストしてみた。「D02HW」自体は、本製品のイー・モバイル対応機器リストには含まれていないが、イー・モバイルのMVNOでサービスを提供するIIJmioの対応機器に含まれている点からもわかる通り、問題なく利用することが可能だった。
まずは、初期設定を実行する。と言っても、接続はPCにつなぐときと同じでUSBケーブルを背面のポートに接続するだけで良い。この状態で本体の電源をオンにし、無線LANまたは有線LANで接続したクライアントPCのWebブラウザを起動すると自動的に設定画面に転送されるので、WAN回線を設定するための「インターネット@スタート」を実行。これまでの製品では、WANポートにLANケーブルをつないで設定していたが、これがUSBポートとデータ通信アダプタに変わっただけで、初期設定の方法としては従来とまったく一緒だ。
「インターネット@スタート」によって初期設定も簡単にできる。データ通信アダプタを装着してクライアントからアクセスすればウィザードで設定可能 | 試作機ではイー・モバイルの接続先のみがプリセットされていた |
実際の使用感としては、接続操作の必要がない分、手軽にインターネットを楽しめる。本製品にはPCからデータ通信アダプタの接続/切断を制御できるユーティリティソフトも同梱される予定だが(今回は試用版のため未使用)、基本的に無線LAN、もしくは有線LANでルータにつながっていれば回線を意識することなくインターネットに接続できる。
もちろん、無線LANが利用可能な製品であれば、「iPod touch」やゲーム機などもモバイルブロードバンド回線を使ってインターネットに接続することができる。こういった製品をインターネットに接続したいというユーザーにも最適だろう。
ただし、速度は環境次第といったところで、基本的にはPCにデータ通信アダプタを直結した場合と同じ使用感と考えて差し支えない。例えば、筆者宅の場合、PCにアダプタを直結した場合、「DWR-HP-G300NH」を利用してPCを無線LANで接続した場合、同じくPCを有線LANで接続した場合のいずれも、インターネット上の速度測定サイトの計測で下り1.5Mbps前後、上りで100kbps前後の速度となった。
拡張設定を利用することで、プロファイルの自動切り替え(複数のデータ通信アダプタの使い分け)、自動切断などの設定も可能 | WAN側がボトルネックになるため、有線LAN、無線LANのどちらで接続しても回線速度はほぼ同じだった |
ただし、本製品には先端にマグネットを内蔵した1.5mのUSB延長ケーブルが同梱されている。このため、アダプタを窓の近くなど電波状況の良い場所に設置することができれば、PCにアダプタを直結した場合よりもパフォーマンスが向上する場合もある。
モバイルブロードバンドサービスに加入したものの、外出先では使えるが、家では電波が弱くて使いにくい、などといった場合にも利用価値がありそうだ。
1.5mのUSB延長ケーブルが付属。窓際などの高いところにデータ通信アダプタを設置することもできる | 延長ケーブルの台座部分にはかなり強力なマグネットが内蔵されている。ラックなどに貼り付けて利用することが可能だ |
●固定回線も併用できるが……
このように、モバイルブロードバンド環境を家庭内のさまざまな機器で共有できる「DWR-HP-G300NH」だが、本体にはWANポートも搭載されているため、当然のことながらADSLやFTTHなどの固定回線でも利用できる。
もちろん、固定回線があるなら、データ通信アダプタをつなぐ必要はないのだが、一応、併用した場合にどのように動作するのかを確認してみた。
本体をルータモードに固定し、前述したイー・モバイルの「D02HW」で初期設定を済ませておく。これでインターネットに接続できることを確認してから、WANポートにKDDIのFTTHサービス「ひかりone(DHCP接続)」を接続してみた。
データ通信アダプタと固定回線の併用テストの概要 |
この場合、WANポートに回線が接続されても状態に変化はなく、そのまま「D02HW」で接続が維持された。つまり、後から固定回線を接続しても接続は切り替わらないわけだ。
それでは、「D02HW」を取り外したらどうなるだろうか。この場合、WAN側のリンクがなくなると同時に、「DWR-HP-G300」がインターネット接続を自動的に再設定しはじめ、数十秒ほどでWANポートに接続した「ひかりone」での接続に自動的に切り替えることができた。
この状態で、再び「D02HW」を接続するとどうなるのかというと、これは自動的に「D02HW」へと回線が切り替わる。USBポートに「D02HW」を接続すると、30秒ほどでアダプタの認識と接続が完了し、WANポートに接続されたFTTHは無視され、「D02HW」でインターネットに接続された。
まとめると実は単純な話で、常にUSB接続が優先されるというわけだ。このため、FTTHのバックアップ用としてモバイルブロードバンドを利用するといった運用はできない。もちろん、手動では問題なく可能だが、FTTHとUSBの両方を接続しておいて、普段はFTTH、FTTHにトラブルが発生したらUSBで、という使い方はできないことになる。
ソフトウェアの対応で何とかなりそうだが、現状は固定回線がないユーザーがデータ通信アダプタを共有するという使い方が想定されているため、こういった回線の自動切り替えのような使い方はできないというわけだ。
なお、固定回線を利用せず、「D02HW」だけで運用している場合、通信中に「D02HW」を取り外すと、Webブラウザでインターネットにアクセスしようとしたときに「インターネット@スタート」を使った接続の再設定画面が表示される。
データ通信アダプタを取り外すとインターネット接続ができないというメッセージがクライアントに自動表示される |
外出時にアダプタを取り外し、忘れたまま接続しようとしたときなどでも、エラー画面でなく、再設定画面が表示される点は有り難いが、例えば「アダプタの接続を忘れてませんか?」といったようなもう少しソフトで、わかりやすいメッセージが表示してほしいところだ。
もちろん、取り外した後にアダプタを忘れずに接続しておけば、自動的に再接続され、PCから何事もなかったかのようにインターネットに接続される。このあたりの処理は実にうまくできていると言えるだろう。
●通信アダプタでリモートアクセスは使えるか?
電源供給可能なUSBハブを利用すれば、USB接続型のHDDやメモリなどの共有とデータ通信アダプタの装着が同時に可能 |
冒頭で本製品は「WZR-HP-G300NH」と同等の機能を備えていると紹介したが、本体に1つしかないUSBポートを通信アダプタで占有してしまうと、「せっかくのNAS機能などが使えなくなってしまうのではないか」と思うかもしれないが、この心配はない。
「WZR-HP-G300NH」のレビューの際もレポートしたが、本製品ではUSBハブの利用に対応しており、通信アダプタやUSBメモリ、USBメモリなどを同時に接続して利用することが可能となっている。なお、接続するUSBハブはAC電源で駆動させる必要がある。
このため、普段はデータ通信アダプタとUSBメモリをつないでおいて、外出するときに、この両方をさっと取り外して出かけ、帰ってきたら再び装着して、PCから利用するというのはなかなかスマートな使い方と言えそうだ。USBメモリに写真などが入っていれば、PCやゲーム機のDLNAクライアント機能を使って見るという使い方もできる。
ただし、実際に試してみたところ、ファイル共有中に通信アダプタを抜き差しすると、ルータが処理中になり、USBメモリやUSB接続型のHDD上の共有フォルダへのアクセスが中断されることがあるので併用は若干の注意が必要と言えそうだ。
一方、リモートアクセスなどの機能はどうかと言うと、これらの利用にも注意が必要だ。本製品はPPTPサーバーやダイナミックDNS、BitTorrent、Webアクセスなどの機能も搭載されているが、インターネット接続にデータ通信アダプタを利用した場合、これらのサービスは標準では無効になる。回線速度に依存するのに加えて、従量課金タイプのサービスを利用した場合に不用意に課金されることを防ぐためだ。
ただし、標準で無効に設定されるだけなので、設定画面で有効にすれば、これらの機能を利用することは可能だ。試しに、DDNSとWebアクセスの機能を有効にし、別のネットワークからUSBハードディスクのデータにアクセスしてみたが、機能としてはとりあえず利用することができた。
回線速度に依存したり、通信料に影響がありそうなサービスは標準では無効になっているが、設定画面から使えるように設定できる | 外出先からアクセス可能なWebアクセス画面。自宅側の上りが遅いため、画面表示などに時間がかかる。ただし、外出先からのアップロードは比較的快適だった |
しかしながら、今回の試用環境の場合で回線速度が下り1.5Mbps、上り100kbpsと遅い関係で、外部からアクセスした場合、上り100kbpsという速度がかなりのボトルネックになる。Webアクセスで接続した場合、初回のアクセスでは画面が表示されるまでかなりの時間がかかる上、フォルダの展開やファイルをプレビューするといった操作で時間を要してしまった。
外部からファイルをアップロードする場合、本製品から見た下りの1.5Mbpsがアップロードする側の上りとなるため、ファイルのアップロードはさほどストレスを感じないのだが、ダウンロードなどには向いていない印象だ。このため、これらのサービスは、あくまでも固定回線に変更したときのための機能と割り切って考えるべきだろう。
●割り切れば固定回線がなくても困らない
以上、バッファローのデータ通信アダプタに対応した無線LANルータ「DWR-HP-G300NH」を実際に試してみたが、確かに速度的な制約はあるものの、データ通信アダプタを共有できるメリットは大きいと感じた。可能であれば、下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsと速度のあるモバイルWiMAXサービスにも対応して欲しいところだが、これは今後の対応を期待したいところだ。
最近では1人暮らし世帯などを中心に、自宅に固定回線を持たないケースも珍しくないが、本製品を利用すれば音声とメールは携帯電話、PCやゲーム機はデータ通信アダプタの共有と、より割り切った使い方ができることになる。PCでの利用頻度がさほど高くなく、速度にもあまりこだわらなければ、もはや固定回線がなくても困らないと言えそうだ。
もちろん、データ通信アダプタを利用できる無線LANルータは本製品以外にも存在するが、機能的にはあまり高性能とは言えない。それを考えると、通常の無線LANルータとしても多機能で高機能、しかもNASとしても使える本製品でデータ通信アダプタが使えるというのは大きな魅力だ。
データ通信アダプタを活用したいユーザーにおすすめできるのはもちろんだが、通常の無線LANルータの購入や買い換えとしても良さそうだ。価格が下がった「WZR-HP-G300NH」を狙うのも悪くはないが、もう少し予算を追加して、データ通信アダプタも使える「DWR-HP-G300NH」も検討してみても良いだろう。
関連情報
2009/10/13 11:00
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