第412回:ハイパーロングレンジで省電力、USB共有もOK
NECアクセステクニカ「AtermWR8370N (HPモデル)」
NECアクセステクニカから、IEEE802.11n/b/gに準拠した無線LANルーター「AtermWR8370N」が発売された。無線300Mbps、有線1Gbpsという高いパフォーマンスに加え、長距離伝送に強いハイパーロングレンジ仕様、賢くなったオートECOモード、USBポートを利用した簡易NAS機能を搭載したコストパフォーマンスの高いモデルだ。その実力を検証してみよう。
●リーズナブルなハイスペックルーター
本体のみの実売価格で1万円前後、小型化された新型のUSB子機(AtermWL300NU-GS)付きでも1万3000円前後。その性能と機能を考えれば、今回、新たに登場したNECアクセステクニカの「AtermWR8370N(HPモデル)」の価格は、なかなかリーズナブルなのではないだろうか。
今回登場したAtermWR8370Nは、これまでに発売されていたAtermWR8300Nの後継にあたる製品となっており、IEEE802.11n/b/g準拠で、Gigabit対応の有線LANを搭載する点は同じだが、新たにデザインが一新され、さらにUSB機器の共有にも対応した。
NECアクセステクニカのAtermWR8370N、およびこちらも新型のUSB子機「AtermWL300NU-GS」 |
同社製の無線LANルーターには、IEEE802.11n/a/b/gフル対応の「AtermWR8700N」、IEEE802.11n/b/g準拠で有線100Mbps対応の「AtermWR8170N」がラインナップしているが、8700Nと比較して5GHz対応が省かれている一方で、8170Nに対してはGigabitの有線というアドバンテージを備えており、ラインナップの中でもちょうど中間に位置するモデルとなっている。
このため、これまでのモデルの良いところを採用しつつも、前述したようなリーズナブルな価格設定がなされており、非常にコストパフォーマンスの高い一台に仕上がっている。
PCやゲーム機、スマートフォンなどを主に接続するのであれば、2.4GHz帯のみでも十分に対応できるので、同社製品の中ではもっとも購入しやすいモデルと言えるだろう。
●ハイパーロングレンジで十分な性能
それでは、実際の製品を見ていこう。本製品には、通常仕様のSTモデルと、指向性に優れた高性能アンテナを搭載したHPモデル(ハイパーロングレンジモデル)の2種類が存在するが、今回、使用したのはHPモデルで、しかも子機付きのUSBスティックセットとなる。
このため、外観はHPモデルの特長でもあるブラックとなっており、非常に精悍なイメージに仕上がっている。
正面 | 側面 | 背面 |
また、同社製の無線LANルーターの特長のひとつでもあるが、アンテナが本体に内蔵されており、外観が非常にスッキリとまとめられている。アンテナを外に出すか、内蔵するかというのは、メーカーによって方向性が分かれている点ではあるが、内蔵の場合、デザイン上のメリットに加え、ユーザーがアンテナの方向を調整しなくて済むというメリットがある。
無線LANの利用に慣れているユーザーであれば、ユーティリティなどで電波の状況を確認しながら、アンテナを調整することも可能だが、これはなかなか難易度が高い。そういった手間をかけたくないのであれば、最初から一般的な環境に最適化されている内蔵タイプを選ぶメリットがあるだろう。
実際、パフォーマンスは優秀で、有線、無線ともに非常に高い値を実現できている。まずは、有線だが、以下は筆者宅の環境で計測した結果だ。1Gbpsのauひかりを利用し、有線LANで接続したPCからインターネット上の速度測定サイト(Radish)を利用して計測した。
auひかりの場合、レンタルされるルーター(BL190HW)を無効にすることができないため、多段ルーターの状況となり、上限がBL190HWのスループットに依存してしまうのだが、それでも実効で700Mbpsを超えるスピードを安定的に実現できている。
同社の製品情報によると、有線のスループットはローカルルーターで907Mbps、PPPoEで875Mbpsを実現できるとされているため、Gigabitの回線を利用した環境で、十分なスループットを発揮できると考えられる。安定性でも定評があるAtermシリーズだけに、ネットワークゲームなど、レスポンスが要求されるシーンでの利用にも適しているだろう。
auひかり(1Gbps)を利用して有線LANでアクセスした際のスループット |
一方、無線LANのスループットだが、以下のグラフが木造3階建ての筆者宅で実際に計測した結果だ。AtermWR8370Nと同時にリリースされた新型のUSB子機(AtermWL300NU-GS)と、PC内蔵の無線LAN(ThinkPad X200内蔵)の両方の環境で計測してみた。
速度としては1階の同一部屋内で110Mbpsを超える実効スループットが確認できているうえ、3階でも下りで40Mbps以上、上りで20Mbps以上を実現できている。ハイパーロングレンジならではの特性の良さが現れたと考えて良さそうだ。
※クライアントにはThinkPad X200(Core2Duo P8600/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7 Ultimate 64bit)を使用 |
なお、結果を見ると、AtermWL300NU-GSの値が低かったが、速度差が大きいのは1階と2階で、3階ではノートPC内蔵の場合と遜色のない結果が出ている。今回のテストでは最大速度が出にくかったようだが、長距離での伝送性能は良好で速度が落ちにくいため、離れた場所などで使う場合でも安心だ。
従来モデルよりも小型化されており、持ち運びに便利で使い勝手が良いので、IEEE802.11nに対応していないPCなどを接続する場合などに活用するといいだろう。
このほか、セキュリティ機能も万全で、マルチSSID機能によって、AESとWEPのように異なるセキュリティレベルの2つのSSIDを利用可能なうえ、それぞれの通信を遮断する「ネットワーク分離機能」も利用できる。インターネット上の悪質サイトへの通信を遮断する「インターネット悪質サイトブロックサービス」にも対応し、安心して使えるのも大きなメリットだ。
●手軽にファイルを共有できる簡易NAS機能
続いて簡易NAS機能について見ていこう。「簡易」という通り、市販のNASなどと比べると機能は最低限のものとなるが、その分、シンプルなので、NASを使ったことがないような人でも使いやすい機能となっている。
使い方は非常に簡単だ。本体の側面にUSBポートが搭載されているので、ここにUSBメモリーやUSB HDDを装着すればいい。AtermWR8370Nには、標準で「ATERM-XXXXXX(macアドレスの一部)」というコンピューター名が設定されているので、PCから「ネットワークコンピュータ」を参照すれば、装着したストレージを参照できる。
側面のUSBポートにUSBメモリーやUSB HDDを装着することでデータをネットワーク上で共有できる |
FAT/FAT32でフォーマットされたストレージを利用可能。ルーターの設定画面からフォーマットすることもできる | ユーザー認証、およびアクセス権の設定も可能だが最低限のものとなっている |
装着したストレージがまるごと共有されるうえ、アクセス権もパスワードによる保護と書き込みの許可が設定できる程度のため、個人的なデータが含まれるUSBメモリーなどを装着するとそのまま公開されてしまうが、このような特性を理解し、割り切った使い方をすれば、これはこれで便利だ。
【簡易NAS機能を使う上でのポイント】
・ドライブがまるごと共有される
・ユーザー認証によるアクセス制限は1ユーザーのみ
・アクセス権は「READ ONLY」と「FULL ACCESS」の2通りのみ
・認証やアクセス権設定は全メディア共通の設定
たとえば、数人のユーザーが存在するオフィスなどで全員で共有したい文書などを保存しておけば、いちいちメールで全員に送信したり、USBメモリーをバケツリレーのように手渡ししながらファイルをコピーする必要もなくなり、手軽に文書を共有できるようになる。
FAT/FAT32でフォーマットされていれば、USBメモリーだけでなく、USB HDDも利用可能なうえ(USB給電では動作が難しいため外部電源が必要)、メディアサーバー機能も搭載しているので、500GB程度のHDDを装着しておけば、音楽や写真、映像などを保存しておくのにも活用できるだろう。USB HDDの場合、USBメモリーよりも書き込みが高速なためパフォーマンス的なメリットもある。
要するに、NASのPublic共有などのように、気軽に共有するフォルダーとして考えれば良いわけだ。共有したいものだけを保存し、共有したくないものは保存しなければいいのだから、小規模なオフィスや家庭で使うなら、むしろシンプルな運用ができるだろう。
USBメモリーにはA-DATA C801(8GB)を使用。USB HDDは2.5インチ160GBを外部給電で利用 100MBのZIPファイルをコピーしたときの時間を計測(秒) 有線LAN接続(1000BASE-T)のThinkPad X200にて計測 |
なお、AtermWR8730Nには、ブラウザーファイル共有機能も搭載されている。これは、共有したUSB機器のデータにウェブブラウザーを利用してアクセスする機能だ。機能を有効化後、ポート15789でウェブブラウザーからアクセス(http://web.setup:15789)すると、USB機器上のデータがウェブブラウザーに一覧表示される。
現状はBIGLOBEのサービスのみだが、DDNSにも対応しているので、これらの機能を組み合わせれば外出先からUSB機器のデータにアクセスすることも可能だ。
ウェブブラウザーからのアクセスも可能。外出先からファイルにアクセスすることもできる |
ただし、iPhoneやAndoroidなどのスマートフォンからは、うまく利用できない。実際に試してみたところ、ファイルの一覧を表示することはできるものの、ファイルを開いたりダウンロードすることはできず(PDFなどウェブブラウザーで表示できる一部のファイルは可能)、アップロードもできなかった。
専用のアプリが提供されることを期待したいところだが、個人的にはWebDAVに対応して欲しいところだ。WebDAVに対応しれくれれば、iPhoneのGoodReaderなどからアクセスできるようになる。
将来的に、いろいろな機器がスマートフォンに対応するようになってくると、おそらく我々は、それぞれに個別に用意されたアプリを大量にインストールしなければならず、しかも、それを使い分けなければならなくなってくる。いや、もうすでにそうなっているという人も少なくないかもしれない。
しかし、WebDAVに限らず、機器やサービスが汎用的な技術に対応しれくれれば、気に入った1つのアプリでさまざまな機器にアクセスできるようになる。これは実に効率的だ。専用アプリを提供するのも1つの方法だが、すでにある定番的なアプリに機器やサービスが対応していくというのも、面白いアプローチになるのではないだろうか。せっかくなので、同社には、こういった進化を期待したいところだ。
●ECOもより手軽に
最後に、ECOについても触れておこう。ECOモードについては、従来のAtermシリーズにも搭載されていたが、この機能がAtermWR8730Nではさらに進化している。
まず、ECO設定が1つが追加された。これまでの設定は無線LANと有線LANの動作の組み合わせだったが、ここにさらにUSB機器の動作が組み合わせられ、3つの設定から選択できるようになった。これにより、夜間などに完全に停止させることに加えて、無線LANやUSB機器も使いながら、消費電力を抑えることが可能となった。
【ECOモードの動作】
設定1:無線LAN停止、有線LAN100Mbps、USB停止
設定2:無線LAN65Mbps、有線LAN100Mbps、USB停止
設定3:無線LAN65Mbps、有線LAN100Mbps、USB動作
また、新たに「オートECO」モードも搭載された。これは、あらかじめ設定した時間や動作ではなく、利用状況に応じて自動的に電力を節約する機能だ。具体的には無線LANの利用状況を監視し、端末がつながっていないときなどに自動的に速度を65Mbpsに制限することができる。
有線やUSBはそのままの動作となるため、節約できる電力は大きくないが、設定3よりもさらに利便性を維持しつつ、消費電力を抑えるモードとなる。
ECO設定を強化。設定が3つに増えたうえ、オートECOによって自動的に消費電力を抑えることが可能となった |
実際に使ってみると、ECOモードにしていることをまったく意識せずに利用できた。普段は300Mbpsで接続され、有線LANやUSB機器もそのまま利用できるが、PCを終了すれば自動的に無線LANが省電力モードに切り替わる(内部的な動作なので利用者は確認できない)。LANポートの給電も未接続の場合は自動的に遮断されるようになっているので、ほぼ自動的に電力の節約が可能だ。
家庭などでは、夜間は使わないといった割り切った使い方ができるが、オフィスなどではなかなかそうはいかない。しかし、このモードなら、利便性がまったく犠牲にならないので、効率的な運用が可能だろう。
以上、新しく登場したNECアクセステクニカのAtermWR8370Nを実際に使ってみたが、無線LANルーターとしての基本性能がしっかりと押さえられた非常に手堅い製品だ。安定した動作で高いパフォーマンスを発揮しながら、それでいて自動的に電力も節約するなど、余計なことを意識せずに利用できる。
冒頭の繰り返しになるが、1万円前後の実売価格を考えると、なかなかお買い得な製品ではないかと言えそうだ。
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2010/10/19 06:00
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