第431回:AndroidスマートフォンからNASを使える
バッファロー「WebAccess A」


 バッファローから、同社製のNASをAndroid端末から利用できるアプリ「WebAccess A」が登場した。手元のスマートフォンから、NASのデータを読み書きしたり、動画をストリーム再生できるのが特長だ。その使い心地を検証してみた。

1つのクライアント機として真正面からスマートフォンに取り組む

 個人的には、そろそろ「外出先から」という説明はいらないのではないかと考えている。

 何の話かというと、バッファローから登場したAndroid搭載スマートフォン向けのアプリ「WebAccess A」のことだ。

 同社製のNASにアクセスするためのアプリで、以下のようにスマートフォンからNAS上のデータを参照したり、音楽や映像をストリーム再生したり、ファイルのアップロードや転送ができるようになっている。

【WebAccess Aの主な機能】
 ・ファイルの表示とダウンロード(PDF、オフィス文書など)
 ・ファイルの再生(写真・音楽・映像)
 ・ファイルの転送(一時URLの生成とメール送信)
 ・ファイルのアップロード(写真・映像・文書など)
 ・ファイルの操作(削除・移動・コピー・名前変更・フォルダー作成)

Android端末からLinkstationシリーズにアクセスできるアプリ「WebAccess A」

 本コラムでも以前にiPhone/iPad版「WebAccess i」を取り上げたが、基本的にはこのAndroid版となるものの、音楽ファイルの連続再生機能やファイルのダウンロードなどの機能が強化されているのが特長だ(WebAccess iも同様のバージョンアップが実施済み)。

 で、なぜ「外出先から」と説明する必要性を感じないのかというと、これは単純な話で、家でも使っても便利だからだ。

 これまで、この手のソリューションを紹介する場合、家や会社のPCを中心とした世界観が前提となっていた。PCでファイルを作成し、これをNASに保存、共有するという世界だ。このため、「このPC中心の世界に、外出先から、それも手元のスマートフォンからアクセスできたら便利でしょ」とするのが、説明しやすかったし、わかりやすかった。

 しかし、Pogoplugの影響も少なからずあるのだが、実際に端末や場所を問わずにNASなどのストレージが使える世界を体験してしまうと、LANやWAN、ローカルアクセスとリモートアクセス、オンプレミスとクラウドという概念を区別することが意味をなさないものに思えてくる。

 実際、WebAccess Aを使えば、NASに保存されている文書、動画、音楽を外出先だけでなく、自宅のリビングなどからも気軽に利用できる。すると、今までPCを使っていたことが、「何だスマートフォンやタブでも良いのか」と思えてくるわけだ。

 要するに、今回の「WebAccess A」は、NASにリモートアクセスするためのアプリと考えるのではなく、もっと広い意味で、Android端末をNASのクラアイアントとして使うためのアプリと考える方がしっくりくる。実際、WebAccess Aを利用すれば、PCとNASの間でできることのほとんどがスマートフォンからも実現可能になる。

 こういった世界を見せられると、コンシューマーの世界だけでなく、企業向けPCの世界でスマートフォンやタブレットが主導権を握っていくのかもしれないということを実感させられる。

 もしかすると、数年後には、NASのパッケージに「PCからも使える」などと記載される日が来るかもしれない。

ハードルはルーター設定

 前置きが長くなってしまったが、本題に入ろう。

 まず、今回リリースされたWebAccess Aだが、利用環境が限られている点に注意が必要だ。NAS側の対応が必要なのは当然だが、Android用と言ってもすべての機種で使えるわけではない。

 最新情報はバッファローの「WebAccess A」対応製品一覧ページで確認してほしいが、Android 2.1以降を搭載した端末が対象となるものの、最新製品でも対応していない機種も存在する。実際に動作しない機種もあるようなので、事前に確認してから利用するといいだろう。

WebAccess A、WebAccess iWebアクセスに対応したNASが必要。写真は2台のHDDを搭載した高速モデル「LS-WV4.0TL/R1」

 使い方は決して難しくはないのだが、この手の技術の宿命とでも言おうか、ルーターのNAT越えがハードルとなる場合がある。NASの設定画面でWebアクセス機能を有効にするのだが、ルーターの機種や構成によってはこの設定がうまくいかない。

 よって、どうしても自動設定できないときは、手動でポートを転送する必要がある。利用するポートはWebアクセス詳細設定の画面で確認できるので(外部ポートに49779、内部ポート9000)、静的IPマスカレードでポートを指定して転送するといいだろう。

設定画面からWebアクセスを有効にする。画面は詳細設定の画面。簡易設定ならBuffalonas.comネームを指定するだけと簡単ルーターの自動設定ができないときは手動でポートを転送する

 ちなみに、比較して申し訳ないが、Pogoplugでは、このあたりの設定を一切意識する必要がない。UPnPは設定方法として環境に左右され過ぎる印象があるため、そろそろこのあたりを根本的に改善するような方法を検討すべきではないかと思える。

 ルーターの設定後、Webアクセスを有効にしたら、続いてアクセス可能なフォルダーを選択する。Webアクセスでは、フォルダーごとにアクセス制限がかけられるようになっており、「アクセス制限なし(ユーザー認証なしでアクセス可)」、「登録グループ/ユーザーのみ」、「共有フォルダー設定と同期」が選択できる。

共有フォルダーのアクセス権をNAS側と同期できる。ユーザーアカウントとアクセス権の管理をPCとスマートフォンで共通化可能

 個人的には、この機能は高く評価したい。というのも、今後、PCやスマートフォン、タブレットなどの異なるデバイス、異なるOSが混在する環境が当たり前になったとき、ユーザーアカウントをどう管理するか、アクセス権をどう制御するかは非常に重要な課題となるからだ。コンシューマー環境も例外ではないが、特にビジネスシーンではマルチデバイス環境でアカウントをどう管理するかが深刻な課題になるはずだ。

 その点、バッファローのNASとWebAccess A(i)では、前述した設定で「共有フォルダー設定と同期」を選択することで、PCとスマートフォンの両方のアカウントやアクセス権をNAS上でまとめて管理できる。このため、PCとスマートフォンが混在する環境でのアカウント登録や変更、アクセス制御や設定などの運用の労力が少なくて済むわけけだ。

 もちろん、理想はActive Directoryと連携することだが(ADFSでオンラインサービスまですべて連携すればより良い)、残念ながら現状はこの機能は実装されていない。

 もしくは、スマートフォンやタブレットが主役なる可能性があることを考えると、むしろGoogleアカウントでNASを利用できるようになるという選択肢もありそうだ。あながち冗談ではなく、本当に搭載されれば、面白い存在になるかもしれない。

ファイルはアプリに受け渡し

 NAS側の設定が完了したら、Android端末でアプリをダウンロードし、接続の設定をする。とは言え、必須となる設定は、識別するための名前とNASのWebアクセス登録時に設定したbuffalonas.comネーム程度だ。

 アクセス制限を設定している場合は、ユーザー名とパスワードを設定する必要があるが、空欄のままの場合でも、アクセス制限なしのフォルダーがあれば、そこにアクセスすることが可能だ。

Android側では自宅のアドレスとなるBuffalonas.comネームを指定するだけでOK。アクセス権を設定している場合はユーザー情報も登録できる

 同一LAN内で利用した場合、アクセス速度も速く、ファイルの参照やダウンロード、アップロードなども快適に可能だ。

 ちなみに、写真に関しては、アプリ内にビューワーを内蔵しているが、オフィス文書などは外部のアプリを使って表示する形式となる。このため、ワードの文書やエクセルの表などを開きたいときは、ThinkFree OfficeやDocuments to Goなどのアプリをインストールしておくといいだろう。

オフィス文書を開くためのアプリをインストールしておけば、NAS上のファイルを表示することが可能ファイルのダウンロードやコピー、ダウンロード用アドレスを生成した共有も可能

 ファイルは、そのまま開いた場合、徐々に読み込みながら内容を表示できる。もちろん、3G回線で、数十MB単位のファイルを開こうとすると、それなりに待たされることになる。事前にダウンロードすることもできるので、無線LANなどの高速なインターネット接続が可能な場所でダウンロードしておくなどの工夫をすればいいだろう。

 写真については、専用のビューワーで徐々に読み込みながら表示できるうえ、タッチ操作で快適に観られる。もちろん撮影した写真をアップロードすることも可能だ。また、音楽もフォルダーを開いた状態でメニューボタンから再生を開始することでフォルダー内の音楽ファイルを自動的に再生できる(順番は名前順)。

 このあたりはなかなか快適で、外出先から使うというよりは、Galaxy Tabなどを使って家庭内のどこでも音楽を聴けるようにしたり、以前に撮影した写真を眺めるといった使い方をすると次第に手放せなくなる。もちろん、音楽を再生しながらWebを閲覧するといった使い方も可能だが、この場合、3G回線で、しかも電波状況があまり良くないところでは、Webの画像読み込みの際などに、若干音楽が途切れる場合も見られた。

写真用のビューワーは内蔵している。タッチ操作で次々に閲覧したり、スライドショーで再生することもできるフォルダー内の音楽を連続再生可能。プレイリストが作れるようになるとさらに便利なのだが……

 最後に動画についても触れておこう。動画の再生については、Androidが再生できるフォーマットの映像さえ用意できれば快適だ。ストリーミング形式での再生になるため、LAN環境なら即時、3G経由でも、再生開始から20~30秒前後で再生が開始される。画面の大きなタブレットを利用すれば画面もかなり見やすく、動画ビューワーとして使うのに最適だ。

動画を選択するとプレーヤーを選ぶ画面が表示される。多くのファイル再生に対応したプレーヤーをインストールしておくのも手だ

 形式については、基本的にMP4で用意しておくと良いが、変換ソフトなどを利用して動画を用意した場合、そのままでは再生できない場合がある(ストリーミング用に変換しないと再生できない)。

 もしくは、Android側に対応フォーマットの多いプレーヤーをインストールしておくというのも1つの方法だ。WebAccess Aでは、動画ファイルを開くと、どのアプリで再生するかが表示される。開いたファイルの再生に対応したプレーヤーを指定すれば、再生が可能になる(動画形式によっては再生が重い場合もあるので注意)。

PCレスでも使えるNASを目指すべき

 以上、バッファローの「WebAccess A」を実際に使ってみたが、スピードや操作性など、なかなか完成度が高いアプリとなっている。

 ただ、個人的にはもっと便利使えるようになってほしいという印象だ。簡単なところでは、深い階層のフォルダーにアクセスするのが手間なので、フォルダーのショートカットやお気に入り的なものを作れるようにしてくれるとありがたいところだ。ファイルの検索機能なども実装されると便利だろう。

 また、これは将来的にそうなってほしいという希望に過ぎないが、文書管理のようにファイルの履歴やバージョンを管理できるようにしたり、その文書のレビューを他のユーザーにワンタッチで依頼できるようになることを期待したい。

 というのも、PCでできることが、Androidでもできるというだけでは、今後の発展が期待できないからだ。むしろ、スマートフォンだけ、PCレスで使えたり、もしくはPCよりスマートフォンから使った方が便利だと思えるくらいの機能が、今後は求められるだろう。

 これは、NASやホームサーバーだけでなく、すべての周辺機器を手がけるすべてのメーカーに提案したいのだが、実験レベルの話でかまわないので、一度、PCのことは忘れて、スマートフォンとタブレット端末から使うことのみを想定した製品を設計してみてはどうだろうか?


関連情報

2011/3/1 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。