第460回:Windows Developer Preview登場!
USBで携帯するWindows 8「Windows To Go」を試す


 次期Windowsとなる「Windows 8」の開発者向けプレビューリリース「Windows Developer Preview」の提供が開始された。軽快な動作と斬新なUIに注目が集まっているが、興味深いのはUSBメモリでWindowsを持ち歩ける「Windows To Go」だ。同バージョンを使って実際に試してみた。

期待が高まるWindows 8

 「もしかすると、Windows 95のときのような盛り上がりもあり得るんじゃないか?」。今月のBUILDカンファレンスに続いて公開が開始されたWindows Developer Previewを実際に使ってみると、Windows 8と呼ばれているこの次期Windowsに、大きな期待をしたくなる。

 スマートフォンやタブレットの登場で、少し影が薄くなりつつあるPCの世界だが、タッチでの操作性が格段によくなったUI、低スペックのハードウェアでも軽快に動作するスピードと、現状のプレビュー版でもその完成度は高く、マイクロソフトという会社の底力を思い知らされた印象だ。

 筆者も、早速、手持ちのONKYOのスレートPC(TW317A5)にインストールしてみたが、ATOM N450、メモリ1GB、32GB SSDというスペックのわりに軽快に動作させることができた。

ONKYOのスレートPCにインストールしたWindows Developer Preview

 特に、Windows Phone 7.5のようにスムーズなスクロール、画面の左端をフリックすることでページをめくるようにアプリケーションを切り替えられる操作など、タッチならではの操作性は非常に「気持ちがいい」印象だ。

 「http://msdn.microsoft.com/en-us/windows/home/」から誰でもダウンロードして利用することができるので使っていない予備PCなどがあったら試してみることをおすすめしたい。個人的には、タブレットPCへのインストールを推奨したい。

 VHDブートにも対応し、Windows 7とほぼ同様のやり方でインストールすれば、Windows 7とのデュアルブート環境も簡単に構築できるので、気軽に試すことができるだろう。

 

USBメモリでWindows環境を持ち歩ける「Windows To Go」

 UIに加え、いくつかの新機能も搭載されたWindows Developer Previewだが、個人的に注目したいのは、やはり「Windows To Go」だ。

 Windows To Goは、USBメモリなどのポータブルメディアからブート可能なWindows環境だ。果たしてリリース時点で、どのような提供形態とライセンスで提供されるのかはわからないが、USBメモリに自分のWindows環境をインストールしておき、外出先などさまざまなPCをそのUSBメモリで起動することにより、いつでも自分の環境で作業ができるというものだ。

 BUILDのプレゼンを見ると、在宅勤務や外部協力企業、共有PCなど、エンタープライズ環境で”アンマネージド”のPCを利用するシーンが想定されていたが、OSの環境をハードウェアと切り離して管理できるメリットは確かに大きい。デスクトップの仮想化とどう棲み分けするのかが気になるが、比較的小規模な環境では、Windows To Goのシナリオの方がメリットがありそうだ。

 このようなWindows To Goの特徴は、既存のPCの環境に一切変更を加えないこと、そしてアーキテクチャの異なるPCであっても問題なくブート可能な点だ。

 もちろん、起動時にBIOSなどのメニューでUSBブートを選ぶ必要はあるが、PCに装着されているハードディスクに変更は一切加えない。既存の環境とは完全に切り離された環境で利用できる。

 一方、アーキテクチャに関しては、USBメモリからの初回ブート時にPCの構成を判断し、自動的にドライバなどを組み込んで起動することができる。そして、この情報はPCごとの固有情報(SMBIOS UUIDなどで区別)としてUSBメモリに保存される。このため、自宅や会社など、異なるハードウェア構成のPCに装着したとしても、それぞれの設定で瞬時に起動させることができる(初回起動は時間がかかる)。

 実際、筆者は作成したWindows To GoのメディアをLenovo Think Pad X200(Core 2 Duo P8600/Intel GM45/RAM8GB)、自作PC1(Core i7/Intel P55/RAM 8GB)、自作PC2(Core i3/Intel H55/RAM 8GB)のそれぞれに装着してみたが、いずれも問題なくブートさせることができ、どのPCでも同じデスクトップ、同じデータを利用することができた。

 AMDのプラットフォームで試すことができなかったが、環境を選ばずに自分の環境を使えるというのは非常に便利だ。

 

imagex.exeを使ってUSBメディアを作成

 具体的にWindows To Goの環境の作成方法を見ていこう。おそらくリリース時には、もっとスマートな方法が提供されると思われるが、現状はimagexなどのツールを使って、手動で環境を構築する必要がある。

 準備するのは、Windows 7用のAIK、Windows Developer Previewのイメージ、32GB以上のUSBストレージだ。USBストレージに関しては、最終的にイメージを書き込み、データなどを保存することを考えると、16GBを超えるので、32GB以上のものを用意しておくのが無難だ。また、詳しくは後述するが、一般的なUSBメモリは実質的にアクセス速度が遅いため実用にならない。

 BUILDのデモではSupertalentのRAID構成のUSBメモリが使われていたので、USBメモリであれば、このクラスの製品を用意した方がいいだろう。実際には、2.5インチのUSBハードディスクやSSDをUSB接続用のケースなどに入れて使うのがおすすめだ。

1)Windows Developer Previewをインストール
 まずは、作業環境を準備する。Windows 7でも途中までの操作はできるが、最終的にブート用の設定を書き込むためにWindows Developer Preview環境が必要になる(Bcdbootで新しい/fオプションを使って構成する)。まずは、物理環境にWindows Developer Previewをインストールしておこう。

2)AIKからimagex.exeを入手
 続いて、Windows AIKに含まれるimagex.exeを用意する。Windows AIKをダウンロードして(http://www.microsoft.com/downloads/ja-jp/details.aspx?FamilyID=696dd665-9f76-4177-a811-39c26d3b3b34)、Windows 7環境にインストールし、「\Program Files\Windows AIK\Tools\amd64(またはx86)」にあるimagex.exeを取り出し、Windows Developer Preview環境の作業用フォルダ(c:\tempなどを作成)にコピーしておく。

イメージの展開用にimagexを入手する必要がある。Windows 7用のAIKをダウンロードして入手しよう

3)install.wimを準備
 さらに、imagex.exeで書き込むイメージを用意する。BUILDのプレゼンではWindows ADK(Assessment and Deployment Kit)のイメージを使っていたが、これはMSDN subscription会員でないと利用できない。そこで、海外のブログなどの情報を参考に、Windows Developer Previewのisoイメージに含まれるイメージを利用した。今回は試していないが、WinPEなどを使ってインストール済みのWindows Developer Previewからimagexで抽出したイメージも使えると思われる。

 Windows Developer PreviewのisoイメージからDVDを作成したり、Microsoft Storeからダウンロード可能なWindows 7 USB/DVDダウンロードツール(http://www.microsoftstore.jp/Form/Guide/downloadTool.aspx)を利用して、「sources」フォルダにある「install.wim」を同様に作業用フォルダ(c:\tempなど)にコピーしておこう。

 なお、作業環境としてWindows Developer Previewを利用している場合は、isoファイルをドライブにマウントできるため、ここからコピーするのが早いだろう。

Windows Developer Preview上で作業するか、Windows 7 USB/DVDダウンロードツールでUSBにISOを展開するsourcesフォルダのinstall.wimを抽出する

4)USBメモリを初期化
 ここまで準備ができたら、書き込むUSBメモリを準備する。Diskpartを使って、ブート可能なNTFS領域を作成しておく。具体的には、コマンドプロンプトを管理者権限で起動し、以下のコマンドを実行する。なお、Windows Developer Previewには従来のスタートメニューがないため、「Search」からcmdを検索するか、「c:\windows\system32\cmd.exe」を管理者権限で実行するといいだろう。

diskpartを起動後、「list disk」でUSBメモリのディスク番号を確認。「select disk 2」で操作対象を変更し、「clean」で初期化(操作対象の内容が消えるので要注意)。「create partition primary」でパーティションを作成し、「active」でアクティブに設定。「format fs=ntfs quick」でフォーマットする

 ちなみに、BUILDに参加した人の記事を拝見すると、現地で配布されたUSBメモリは、FATとNTFSの2つの領域が作成されているとなっている。筆者が試したところ、1GBのFAT32領域とNTFS残りという2パーティション構成にしても、後述するbcdbootでFAT32領域にブート設定を書き込めば、Windows To Goの利用が可能だった。

 ただし、FAT+NTFSという構成は、おそらくBitLockerによる暗号化を想定した構成だと思われるが、これも詳しくは後述するが、BitLockerの設定時に自動的に起動用の領域を確保することができる。このため、ここでは何も考えず、1パーティションで作成してかまわない。

5)イメージを書き込み
 最後の仕上げは、イメージの書き込みとなる。「c:\temp」などの作業フォルダに「imagex.exe」と「install.wim」を配置。管理者権限で実行したコマンドプロンプトから以下のように作業する。

「cd \temp」で作業ディレクトリに移動。「imagex /apply c:\temp\install.wim 1 d:\」でc:\temp\install.wimのイメージをd:(USBメモリ)に展開。「bcdboot d:\windows /s d: f/all」でd:のUSBメモリの領域に対して、d:\windowsから起動する設定を書き込み。「f/all」はファームウェア種類の指定オプションで、allにするとBIOS、UEFIの両方の環境でブート可能になる

 なお、画面を見てもわかる通り、USBメモリを利用した場合、この展開には非常に時間がかかる。筆者が利用したUSBメモリでは103分で完了したが、環境によっては2時間越え、3時間越えの可能性もある。

 これに対して、2.5インチのHDDなどを利用した場合は十数分ほどでイメージの書き込みが完了する。この点を考慮しても、USBメモリでの利用は現実的ではないことを覚悟しておくべきだろう。参考までに、以下に筆者が利用したUSBメモリのCrystalDiskMarkの結果(100MB時)を掲載しておく。このレベルだと実用は厳しい。

 

ブート時間を考えるとHDD/SSDでの利用を推奨

 USBメモリの作成が完了したら、PCに装着して起動するだけだ。BIOSの起動メニューなどを表示し、USBメモリを指定して起動すればいい。

 今回利用したinstall.wimの場合、OSのインストール用と同じイメージが書き込まれるため、初回はセットアップが起動する。ライセンスへの同意、アカウントの設定、デバイスの準備などが実行されるため、ここでも数十分の時間がかかる。

 筆者が試した限りでは、USBメモリの場合でセットアップの起動まで19分、初期設置後、OSが使えるようになるまでにさらに16分、合計35分の時間がかかった。HDDの場合、この待ち時間は短縮され、トータルで6分ほどでOSが使える状態になったので、USBメモリの場合はここでも気長に待つ必要がある。

 初期セットアップが完了すれば、ブートに関しては、その時間はかなり短縮されるが、ブート開始からログオン画面が表示されるまでは50秒と早いものの、パスワードを入力して使えるようになるまでには2分50秒ほどかかった。

 実行中の動作もアプリの起動は速いものの、書き込みが発生するようなケースで数秒~数十秒待たされることもあった。さらにはシャットダウンにも3分近く時間がかるため、結構ツライ印象だ。

 一方、HDDの場合はかなり実用的になる。以下は、3台のPCで初回起動時(ドライバ導入プロセスあり)、2回目の起動(純粋な起動)の時間を計測したものだ。HDDに関しては、起動後の使用感も、内蔵のSATAドライブとほとんど違いがない印象で非常に軽快だ。HDD、もしくはSSDでの利用を強く推奨したいところだ。


USB HDDを利用したWindows To Go起動の様子(BitLocker適用済み、Pictureロック設定)

 

Bitlockerを有効にする

 最後に、Windows To Goでの利用に欠かせないと思われるBitlockerも試してみた。結論から言えば、Windows 7のときと同様にTPMなしでの利用を有効にさえすれば簡単に暗号化を設定できた。

 「Search」から「gpedit.msc」を検索するか、「c:\windows\system32\gpedit.msc」を起動し、「Computer Configurarion」-「Administrative Templates」-「Windows Components」-「BitLocker Drive Encrtyption」-「Operationg System Drives」にある「Require additional authentication at startup」を「enable」にし、「Allow BitLocker without a compatible TPM」にチェックが付いていることを確認すればいい。

TPMなしでBitLockerを利用するための設定

 これで再起動するか、ポリシーを強制適用すれば、BitLockerが有効になり、Windows To GoのUSBストレージも暗号化することが可能となる。Windows To Goで起動後、BitLockerの設定画面から起動ドライブを暗号化すればいい。

 設定後は起動時にパスワードの入力が求められるようになり、USBストレージを他のシステムに接続しても暗号化されているために内容が見られないように保護できる。

Windows To GoではBitLockerが必須と言える

 Windows To Goの場合、データだけでなく、OSの設定、ブラウザ経由でアクセスしたオンラインサービスのアカウントなども保管されていることを考えると、BitLockerの併用は必須と言える。暗号化に時間がかかるが、必ず設定しておくことをおすすめする。

 なお、暗号化したドライブをWindows 7なども含めた別のPCに接続すると、BitLocker To Goと同じ動作をする。接続後、表示された画面にパスワードを入力すればストレージの内容にアクセス可能だ。

 このため、外出先でUSBブートができるPCがなかったとしても、データだけを参照することもできる。安全にデータを持ち運べるストレージとしても活用できるだろう。

使いやすいツールと柔軟なライセンスでの提供を

 以上、Windows Developer Previewに搭載されたWindows To Goを実際に試してみたが、この機能は非常に面白いうえ、かなり実用的な機能と言える。

 ただし、実際にユーザーが常用できるようになるかは、前述した設定を自動的にできるようなツールの提供、そして何よりライセンスの問題がポイントになりそうだ。インストールしたPC以外でもOSを使えることになるので、このあたりのライセンスがどうなるのかが非常に気になる。DSP版では、USBメモリやUSB HDDとのセットでないと事実上使えないような気もする。

 個人的にはボリュームライセンス、SA向けのみの提供になりそうな気もするのだが、企業内個人の生産性を向上させるためのツールとして有効なので、個人向けのライセンスでも使えるようにしてほしいところだ。このあたりは、ぜひ柔軟な対応をマイクロソフトに望みたいところだ。


関連情報

2011/10/4 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。