清水理史の「イニシャルB」

品質は? サービス内容は? 
月額1000円以下で維持可能なMVNO通信サービスを比較(前編)

 NTTドコモの3G/LTE網を利用したMVNO通信サービスが活況だ。各社がこぞって月額1000円以下で維持可能なサービスへと参入してきたうえ、そのサービス内容も競争の激化によって充実の一途をたどっている。そんなサービスの中から主要な5サービスをピックアップして、その使い勝手を検証してみた。

古いスマートフォンやSIMフリー端末の活用に

 解約した古いスマートフォンやタブレット、海外で入手した技適マーク付のSIMフリーiPadなどをリーズナブルに活用したい……。

 そんな使い方を考えているのであれば、各通信事業者から登場してきた1000円以下で維持可能なMVNO通信サービスは、なかなか良い選択肢と言えるだろう。

 音声通話やSMSが利用できないうえ、通信速度も各通信事業者が定めた制約に縛られてしまうため、大容量の通信には要注意だが、ちょっとWebを見る、メールをチェックする、通信機能が必要なアプリを楽しむといった使い方であれば、十分な使い方ができる。

 どこでも通信できるスマートフォンやタブレットを持ち歩けるというのは、もはや言うまでもなく、とても便利なものだが、そこに月額数千円のコストをかけ続けるとなると、負担も小さくない。しかし、月額1000円以下のMVNOサービスであれば、数分の1のコストで、この環境を実現できるわけだ。

 サービス内容を考えると、メインで利用する端末としては、その制約が大きいことがネックになるが、使用頻度のさほど高くないサブ端末と割り切って使うのであれば、スマートフォンやタブレットの通信手段として選ぶ価値は高い。場合によっては、複数端末を維持するための方法として活用するのも手だろう。

月1000円以下で運用できるMVNOのSIMを利用することで、古いスマートフォンやSIMフリーのタブレット端末などを活用できる

どのようなサービスなのか?

 「そもそもMVNOって?」という人もいるかもしれないので、まずはその概要から解説していこう。MVNOは、Mobile Virtual Network Operatorの頭文字を取った略で、日本語では仮想移動体通信事業者と訳される。

 通信サービスを提供するためには、利用する周波数帯の免許を取得したり、実際にサービスを提供するための基地局などの設備を用意しなければならないが、これらは限られた大手通信事業者しか実現できない。

 そこで、大手通信事業者が所有している設備を借りる形で、他の通信事業者が通信サービスを提供するのがMVNOということになる。

 今回、注目を集めているのは、このMVNOの中でも、NTTドコモの3G/LTE網を利用したサービスだ。全国に広く敷設された高品質なネットワークを利用できるのが特長で、音声通話などを省いたデータ通信用のサービスに特化させることで、本家NTTドコモよりも低価格にデータ通信サービスを提供することができる。

注目を集めているNTTドコモのネットワークを利用したMVNO通信サービス(写真は楽天ブロードバンド LTE 980円)

 具体的に、本家のサービスと何が違うのかというと、一部例外もあるが、一般的には以下のような点になる。

  ・音声通話ができない
  ・SMSに対応しない
  ・NTTドコモが提供するコンテンツ配信サービスなどを利用できない
  ・利用条件によって通信速度が100~200kbps前後に制限される

 通信速度が100~200kbpsでは、まともに通信できないのではないか? と疑問を持つ人もいるかもしれない。実際、この速度では、Webページが表示されるまで数分待たされるなどということも当たり前だし、動画などのサービスの利用も現実的ではない。

 そこで、多くのサービスでは、標準で付与する数十~数百MBの転送量や後からユーザーが有料で追加した転送量を消費するまでは、LTEの下り最大112.5Mbps、上り最大37.5Mbps(3Gは14Mbps/5.7Mbps)での通信を可能にしている。

 つまり、普段は低速な状態でメールなどをやり取りし、画像などが多いWebページや動画など、大容量のサービスを利用する際に、速度を上げるという使い方ができるというわけだ。

 もちろん、MVNO事業社によっては、100kbps前後で速度を固定している場合やLTEの転送量を消費したら通信できないようにするプリペイドタイプのメニューもラインナップしているが、今回、主に取り上げるのは、上記のように100~200kbpsの低速通信と3G/LTEの高速通信を使い分けることが可能でありながら、月額1000円以下で維持できるサービスとなる。

6社のサービスをピックアップ

 今回、サービス内容や使い勝手を比較したサービスは、IIJmioの「高速モバイル/D ミニマムスタートプラン」OCNの「モバイルエントリー d LTE 980」、BB.exciteの「モバイルLTE 3Gコース(SIM 1枚)」、日本通信の「b-mobileスマートSIM 月額定額980」、楽天ブロードバンドの「LTE 980円 エントリープラン」、DTIの「Serversman SIM 3G 100」の6サービスだ。

月額1000円以下で契約できるサービスのうち6社のサービスを契約してみた

 DTIの「Serversman SIM 3G 100」のみLTE網ではなく、3G網を利用するサービスとなるが、月額料金が500円以下と低いため、今回の対象として加えてある。

 なお、掲載した情報は2013年6月時点のものとなる。2013年に入ってから、各社ともに他社のサービスに追従する形で、サービス内容の充実や価格の改定を繰り返しており、本稿の掲載直前にもいくつかの内容が変更されている。今後、さらにサービス内容が変更される可能性もあるので、最新の情報については各事業者のウェブサイトを参照してほしい。

各社サービスの概要
IIJmio
高速モバイル/D
OCN
モバイル
BB.excite
モバイル LTE
日本通信
b-mobileスマートSIM
楽天ブロードバンド
LTE 980円
DTI
ServersMan SIM
プラン名ミニマムスタートプランエントリー d LTE 9803Gコース(SIM 1枚)月額定額980エントリープラン3G 100
月額料金945円980円787円980円980円490円
初期費用3150円3150円3675円3150円4200円(キャンペーン3150円)3150円
ネットワークLTE/3GLTE/3GLTE/3GLTE/3GLTE/3G3G(Xi端末非対応)
音声通話××××××
SMS×××××150円/月(手数料3150円)
SIM枚数1枚1枚1枚1枚1枚1枚
SIM種類標準/micro/nano標準/micro/nano標準/micro/nano標準/micro標準/micro標準/micro
最大速度112.5/37.5Mbps112.5/37.5Mbps112.5/37.5Mbps112.5/37.5Mbps112.5/37.5Mbps7.2/5.7Mbps
制限時速度200kbps200kbps200kbps150kbps100kbps100kbps
標準転送量500MB/月30MB/日--200MB/月-
転送量追加料金100MB/525円-100MB/525円100MB/525円100MB/525円100MB/263円
追加転送量期限3ヶ月-購入月+3ヶ月末180日90日6ヶ月
速度切替えWeb/iOS/Android-WebWeb/Android-Web/iOS/Android
通信制限366MB/3日30MB/日366MB/3日360MB/3日、1.2GB/月非公表非公表
プロトコル制限なしなしなしP2PアプリなどP2PアプリなどP2Pアプリなど
最低利用期間課金開始月の翌月末なし2ヶ月なしなしなし
解約手続きWebWebWebWebカスタマーセンターWeb
解約時SIM返却要返却要返却要返却要返却要返却要返却

 まずは、サービスのポイントについて整理していこう。

月額料金

 月額料金については、前述したように、3G対応のDTIのサービスが490円と最も安い。この価格であれば、古いスマートフォンやタブレットなど、3G対応端末を毎月無理なく運用できるだろう。通信速度を上げるためのチャージ料金も100MBあたり263円と単価は最も安いのもメリットだ。

 LTE対応のサービスの中では、初期費用が若干高いものの(6月1日の改定で若干引き下げられた)、BB.exciteが月額787円と低価格を実現している。制限時の通信速度も200kbpsと高く、リーズナブルな価格設定と言えそうだ。

 他のサービスは900円台でほぼ横並びだが、IIJmioのサービスが月額料金も945円と若干安い。このサービスは、6月からサービス内容が強化され、月間500MBの転送量のクーポンも付与されるようになったため、コストパフォーマンスという意味でも高いと言えそうだ。

月額490円で利用できるDTIの「Serversman sim 3G 100」
BB.exciteの「モバイルLTE 3Gコース(SIM1枚)」も月額787円と低価格を実現している

加入手続き

 加入手続きについては、先にSIMを入手する方式と、サービス申し込み後にSIMが送られてくる方式の2通りがある。

 前者は、Amazon.co.jpなどでSIMを購入できるOCNや日本通信のサービスだ。SIMを購入後、発信番号や製造番号をWebページから入力すれば利用可能になる。場合によっては、当日、翌日配送で手に入れることができるので、すぐに使いたいという場合は、これらのサービスを利用するメリットが大きいだろう。

 その他のサービスについては、Webサイトから必要事項を入力して申し込みをすると、後からSIMが送られてくる。筆者の場合、BB.exciteのみ開通まで2週間前後かかってしまったが、おおむね1週間前後で使えるようになるはずだ。

 通常のスマートフォンやタブレットのように、店頭で手続きをするわけではないので、その方法や利用開始までの期間にも注意するといいだろう。

日本通信の「b-mobileスマートSIM 月額定額980」。Amazon.co.jpから購入できるため購入から数日で利用可能
OCNや日本通信のサービスでは、先にSIMを入手後、オンラインで加入手続きをすればすぐに利用できる

対応サービスと提供SIM

 対応するサービスと提供されるSIMは、装着する端末に合わせる必要があるため、サービス選びの重要なポイントの1つと言える。

 対応サービスに関しては、3GのみのDTIに注意が必要だ。FOMA端末用のSIMとなっているため、Xi対応端末に装着しても利用できない。

 提供されるSIMは、今回取り上げたサービスは、どれも1枚のみとなる。IIJmioやBB.exciteでは1契約で複数のSIMを提供するサービスも存在するが、今回の低価格プランでは1枚のみの提供となっており、SIMは追加できない。

 一方、SIMの種類だが、ほとんどの通信事業者が標準SIM、またはmico SIMのいずれかの提供となっているのの対して、IIJmioとBB.excite、OCNは、nano SIMも提供している。SIMフリーのiPhone 5やiPadなどを利用する場合は、これらのサービスを選ぶ必要があるだろう。

 基本的には、市販の数百円のアダプタを利用すれば、大きなサイズに変換することが可能なため、なるべく小さいサイズのSIMで契約しておくと、後々の面倒がないだろう。

 なお、いずれのサービスもサービス解約時にSIMを返却する必要がある。このため、SIMをカットするなどして形状を変更することはできないが、唯一、DTIのみ自己責任でSIMのカットを許可している。同社に問い合わせたところ、「解約時にSIMが返却されればかまわず、カットされていても、追加の請求などは一切発生しない」との回答を得た。

 カットによる故障などの責任はすべて自分で負う必要があるが、加工してもかまわないというお墨付きが与えられているのは心強い。

 また、今回のサービスの中では、オプションではあるものの、唯一DTIがSMSに対応している。さほどニーズが高いわけではないが、検討する価値はあるだろう。

IIJmioの高速モバイル/D ミニマムスタートプランのSIM。iPad miniなどに装着可能なnano SIMも選択できる

通信速度と転送量

 実効速度については後述するので、ここではスペック上の速度について触れていこう。まず、速度については、標準で付与された、もしくはユーザーが追加したクーポンなどで制限が解除された状態と、これらの転送量を使い切った際の制限された速度の2種類がある点を確認しておきたい。

 制限が解除された状態は、DTIは7.2/5.7Mbpsとなるものの、そのほかのサービスはLTEの最高速度となる下り112.5Mbps、上り37.5Mbps対応(利用する端末の性能やエリアに依存)となる。

 一方、制限がかけられた状態の速度は、比較的速いのが200kbpsのIIJmioとBB.excite、OCNで、150kbpsの日本通信、100kbpsの楽天ブロードバンドと続く。

 実際の使用感としては、やはり100kbpsが上限のサービスを常用するのは結構厳しいが、200kbpsのサービスは、多少のガマンは必要だが、Webやメールであれば常用は可能という印象だ。また、PINGによって計測される遅延時間が短いサービスは、レスポンスが良好で、音声通話アプリの利用なども快適に使える印象があった。単純な速度だけでなく、このあたりも重要な判断基準として考えた方がよさそうだ。

 転送量の違いは、実際の利用シーンで大きな影響を与える。やはり100~200kbpsの速度では、Webページを見るのにも待たされるうえ、利用できるサービス自体も限られてしまうため、追加料金なしで、どこまで高速な通信ができるのかが重要になる。

 最も有利なのはIIJmioだ。サービス内容の改善で、月額945円の最安プランでも月間500MBまで、速度制限なしで通信できるようになった。ヘビーな使い方では、使い切ってしまう可能性もあるが、動画の再生を避けたり、アプリのダウンロードやアップデートを回避するといった最低限のポイントに気をつければ、十分に実用的な転送量だ。1000円以下で、ここまで使えるメリットは大きい。

 OCNのサービスも転送量制限が1日単位という点を考慮すると、使い方次第では選ぶ価値がある。30MBの転送量は、Speedtest.netなどの速度測定3~4回で使い果たしてしまう僅かな転送量だが、メールやメッセンジャーサービスのやり取りであれば、何とか一日持たせることも可能な転送量となる。

 ポイントは、他のサービスは標準の転送量を使い切った際に、翌月まで待つか、転送量を有料で追加しなければならないものの、OCNであれば一晩待つだけでいい点だ。わずか30MBと言えども、最低限の使い方には十分なので、これを毎日消費できるのは非常に大きなメリットだ。

 ただし、OCNは、標準の30MBの転送量を使い切っても、転送量を追加できない点が欠点となる。緊急処置的に高速な通信が必要な場合は、公衆無線LANなどを探さなければならないだろう。

OCNのモバイル エントリー d LTE 980。1日単位で30MBの転送量を使えるユニークな使用。サービス改定で制限速度が200kbpsになり、実用性が高くなった

 残りのBB.exciteと日本通信は、標準で提供される転送量は0MBとなる。自分で追加し、うまく分配していく必要があるだろう。ただし、日本通信は、追加した転送量の期限が180日と長く設定されている。利用頻度が低い場合でも、追加した転送量をムダにしなくて済むのがメリットだ。

 このほか、転送量を追加する方法や追加した転送量を利用して高速な通信に切替える方法についても各社ともに違いがある。詳しくは、後編でご紹介しよう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。