清水理史の「イニシャルB」

タブレットでも使える新UI「DSM 5.0」搭載 多機能で高性能なNAS「Synology DS414」

 海外では、NASの売上げランキングで常に上位をキープするSynology。そんな同社の最新モデルとなるのが4ベイNASの「DiskStation DS414」だ。「DiskStation Manager 5.0」と呼ばれるグラフィカルなUIも搭載可能となった注目の製品だ。

Synologyの4ベイNAS「DS414」と付属品

毎回楽しみなDiskStation Managerの進化

 Synlogyは、数あるNASベンダーの中でも、常に新鮮な驚きを与えてくれる企業の1つだ。

 今では他メーカーでも同じようなUIをよく見かけるようになってきたが、「DiskStation Manager」(以下DSM)と名づけたデスクトップライクなUIをいち早く採用し、PCとNAS間のファイル同期ソリューションなども早い時期から提供している。

 高いパフォーマンスや豊富なパッケージで機能を追加できる自由度の高さ、ユーザーコミュニティによるさかんなサポートやカスタマイズなどで海外を中心に高い人気を誇るが、その先進的な取り組みにはいつも感心させられてきた。

 そんなSynologyから、メジャーバージョンアップした最新版のファームウェア「DSM 5.0」が3月に正式リリースされた。従来のグラフィカルなUIをフラットデザインでさらに進化させ、機能面でもQuickConnectと呼ばれる外出先からのリモートアクセス機能をより手軽な設定で利用可能としたり、上位モデルで複数のNASを統合管理できる中央管理機能も搭載された。

 昨年10月に発売された最新モデルの4ベイNAS「DS414」を使って、その魅力に迫ってみよう。

各所にちりばめられた工夫

 まずは、ハードウェアの概要からチェックしていこう。今回、利用した製品は、前述した通り、DS414と呼ばれる4ベイのデスクトップタイプの製品だ。

 中小企業向けとなる小型のNASで、そのスペックは1.33GHzのデュアルコアCPUと1GBのメモリを搭載。1000BASE-T対応のLANポート×2、USB3.0×2となっている。最近では、4ベイクラスのNASでも2ポートのLANを搭載している製品が多くなってきたが、本製品もこのおかげで片方のネットワークに障害が発生しても通信を維持したり、2系統のLANを統合して転送速度を向上させることが可能となっている。

 筐体は樹脂製で、箱から取り出すときに、あまりにも軽く、少々不安に感じてしまったが、これがなかなか完成度が高い。

正面
側面
背面

 まず、驚かされるのがHDDを取り付けるためのトレイだ。通常、トレイにはネジでHDDを固定するのが一般的だが、本製品はネジ不要でHDDを固定することが可能となっている(3.5インチのみ。2.5インチはネジ留め必要)。

 具体的には、トレイの側面に取り付けられている細長いカバーを取り外し、トレイにHDDを設置。ネジ穴にカバーの突起を合わせるようにして、パチリとカバーを固定する方式となっている。

 あまりの手軽さに、これで大丈夫か? と少々不安になるが、トレイを本体のHDDベイに差し込むと本体内部の金属製のレールが上下からカバーをさらに固定する形となり、しっかりとHDDが固定されるようになっている。もちろん、カバーを紛失したり、破損したときの対策として、ネジで固定することも可能となっている。

 HDDの脱着は、さほど頻繁にするものではないが、こういった部分もユーザビリティを考慮した工夫がなされているのは、さすがと言える。

HDD用のトレイ。側面の取り外し可能なカバーでHDDを固定する仕組みとなっている
トレイを収めたところ。カバーの部分が本体側のレールで挟まれるためしっかりとHDDを固定できる

 振動対策にも抜かりがない。前述したHDDトレイには、HDDと接触する部分にゴムが配置されており、振動を吸収するように工夫されている。樹脂製の筐体を採用したNASは、振動対策がおろそかだと、カタカタという不快な音やうなるような共鳴音が気になる場合があるが、本製品ではそういった低級音は一切ない。

 背面のファンも2基搭載されているわりには非常に静かで、動作中の音はまったくと言って良いほど聞こえてこない。静音性という意味でも、トップレベルにあるNASと言っていいだろう。

 本製品は実売で8万円程度となっているが、高い完成度のハードウェアとなっており、割高感を感じることがない。

ブラウザーから数ステップでリモートアクセスまで設定可能

 初期設定もよく考えられており、非常に手軽にできるようになっている。ユーティリティなどは使う必要がなく、同一ネットワークに接続されたPCからブラウザーを使って「http://find.synology.com」にアクセスすると、ネットワーク上のNASが自動検索される。

 ここからNASに接続すると、初期設定のウィザードが開始されるが、その手順は以下のように非常に簡単だ。

1.接続
 http://find.synology.comからNASを検索して接続。評価時点では間に合わなかったようだが、本来は製品の画像が中央に表示される

2.ファームウェアのインストール
 付属のメディアかsynologyのサイトから最新のファームウェア(DSM 5.0)をダウンロードしてインストール

3.管理者アカウントを設定
 管理者アカウントとなるadminのパスワードを設定

4.インストール開始
 HDDの自動構成(SHR:Synology Hybrid RAID)とインストールが実行される

5.ログオン
 インストール完了後、NASにログオンする

6.QuickConnectを設定
 アカウントを作成し、外出先から接続する際に指定する名前を設定

7.利用可能
 設定が完了し利用可能となる。HDD構成はバックグラウンドで実行される

 通常のNASでは、リモートアクセスに必要な設定はオプションの機能としてセットアップ後にユーザーが実行するが、本製品では初期設定で一緒に設定されるようになっている。もはや、NASというよりも、クラウドストレージといった方が近いかもしれない。

 なお、セットアップでディスクが自動構成されるが、本製品ではSHR(Synology Hybrid RAID)と呼ばれる方式で初期設定される。装着したディスクの数や容量を自動的に判断して無駄なくボリュームを作成できるようになっており、通常のRAIDに比べて無駄が少ないのが特徴だ。

 たとえば、3TB×2ではRAID1相当で構成され実容量は3TBとなる。3TB×4ならRAID5相当で実容量は9TBだ。ここまでは通常のRAIDと同じだ。しかし、3TB×2+4TB×2のような構成をすると差が現れる。通常のRAIDでは容量の少ない3TBに合わせる形でRAID5の9TBとなるが、SHRでは4TBディスクの差分となる1TBもしっかりと活用し、10TBの容量を確保できる。

 どういう構成でどれくらいの容量を確保できるかは、同社のサイト(http://www.synology.com/en-global/support/RAID_calculator)で確認できる。画面上にディスクをドラッグするだけで構成と容量を計算できるので試してみるといいだろう。

SHRの構成はWeb上でシミュレーションすることができる

 ちなみに、ディスクの追加も簡単だ。たとえば、3TB×2でスタートし、後から4TB×2を追加する場合、稼働中のDS414にHDDを装着して認識させた後、ストレージマネージャからボリュームを選択して、「管理」からボリュームを拡張すればいい。こちらも数手順のウィザードを進めるだけで、NASを稼働させたまま、簡単に容量を拡張することが可能だ。

ディスクの増設はNASを稼働させた状態のままでも可能。多少時間はかかるが、手軽に容量を拡張できる

高いパフォーマンス

 気になるパフォーマンスだが、CrystalDiskMark3.0.3aの結果は以下の通り、非常に高い値となった。

 最近では、書き込みで、有線のほぼ上限となる100MB/s(800Mbps)を実現するNASもいくつか見られるようになってきたが、本製品では読み書きともに100MB/sオーバーで、ランダムの512Kも70~80MB/sと非常に高い値が出ている。

 ディスクのキャッシュが有効になっていたり、Windows向けのSMB2.0が標準で有効になっているなどの設定が標準でなされており、ユーザーが何も設定しなくても高いパフォーマンスが出せるようになっている。このクラスのNASとしては、トップレベルのパフォーマンスを誇ると言っても差し支えないだろう。

CrystalDiskMark3.0.3aの結果

 ただ、実際に利用を開始するにあたっては、いくつか自分で設定しなければならない点もある。ユーザーを作成するのは一般的なNASと同じだが、共有フォルダも標準では作成されないため、これも作成しておく必要がある。

 また、SynologyのNASではパッケージと呼ばれるアプリケーションによって機能を拡張できるが、これも標準ではほとんどインストールされない。推奨のパッケージとして、Download Station、Audio Station、Photo Station、Video Station、Cloud Station、iTunes Server、Surveillance Station、メディアサーバーが表示されるので、必要に応じてパッケージもインストールしておこう。

 もちろん、使わないパッケージを追加すると、それだけリソースを消費することにもなるので、やたらとインストールすることは避けた方がいいが、個人的には少なくともDLNAサーバーのメディアサーバーくらいはインストールしておくことをおすすめする。

共有フォルダの作成やパッケージのインストールは後から手動で実行する。パッケージは豊富だが、必要なものを選んでインストールすることが肝心

スマートフォンから手軽にアクセス

 前述したように、DS414では、初期設定時にリモートアクセスの設定まで完了させることができるため、ローカルで使えるようになったら、すぐに外出先からも利用することが可能になる。

 PCからは「http://quickconnect.to/[QuickConnectID] 」でアクセスすることができるが、スマートフォンでも「DS File」と呼ばれるアプリをインストールし、同様にQuickConnectIDを設定することで、すぐにNAS上のファイルを参照できる。

 通常、外出先からのアクセスでは、ルーターで特定のポートをフォワードするなどの設定が必要になるが、本製品ではNASからの通信によってインターネット上のサーバーとの間の経路を確保しているため、これらの設定は一切不要だ。リモートアクセス環境を整えたくても、設定が面倒で避けてきたユーザーにおすすめの機能と言える。

 同様のリモートアクセス機能は、前述したAudio StationやPhoto Stationなどでも利用可能となっており、同じくアプリをダウンロードしQuickConnet IDを設定すれば、すぐに音楽や写真などもスマートフォンから参照できるようになる。

 また、Cloud Syncをインストールすれば、PCやスマートフォンとの間でファイルを同期させることもできる。Cloud SyncはNAS同士のファイル同期もサポートしており、企業などで活用すれば拠点間でファイルを同期させたり、災害対策などにも活用することができる機能となっている。このあたりは、機会があれば、別途、詳しく紹介していきたいと思う。

AndroidやiOS向けのアプリ「DS File」。初期設定が済んでいれば、アプリからすぐにリモートアクセスが可能。スマートフォンのファイルも簡単にアップロードできる

中央管理が可能なSynology CMS

 最後に、DSM5.0で追加された目玉の機能の1つであるSynology CMSについて少し触れておこう。残念ながら、今回取り上げたDS414では未対応で、企業向けのシリーズ向けのパッケージとなっているが、非常に便利な機能なので紹介しておこう。

 この機能は、ネットワーク上のNASを統合的に管理できる機能だ。社内の部門単位やWAN経由での拠点に分散配置されたSynology製のNASを1つのUIからまとめて管理可能となっており、社内に導入した全NASの稼働状態やHDDのステータスなどを管理したり、ポリシーとしてプリセットした共通の設定を全サーバーに配信したり、遠隔地のNASのコントロールパネルをリモートから表示して、ユーザーや共有フォルダの設定をするといったことが可能となっている。

企業向けのモデルに提供されるSynology CMS。複数のNASを集中管理可能。画面は3台のNASを管理しているところ
ポリシーの設定によって、遠隔地のNASに設定を適用することが可能。共有フォルダやユーザー管理なども一カ所から実行できる

 管理用のNASさえ対応機種を利用すれば、非管理対象はSynology CMSに未対応でもかまわないため、たとえば今回取り上げたDS414を各部門に配置し、管理部門にSynology CMSに対応した上位モデルを1台設置すれば、全NASを管理できることになる。

 これまで、中堅以上の環境で複数台のNASを導入する場合、個別に設定を登録したり、各NASが正常に稼働しているかを確認することは、非常に手間のかかる作業となっていた。しかし、この機能を使えば、無料で、複数台のNASを効率的に管理することができる。企業ユーザーであれば、これだけもSynologyのNASを選ぶメリットがある。個人的には、今回イチオシの機能だ。

 以上、Synology DS414と最新のDSM 5.0について紹介したが、完成度は非常に高い製品と言える。多機能なので、すべての機能を把握するのが大変だが、それも楽しみの1つと言える製品となっている。今回のDSM 5.0で、初心者でも扱いやすくなったが、既存のNASに満足できないハイエンドユーザーに、ぜひ試して欲しい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。