清水理史の「イニシャルB」
コンパクトな11ac対応ポータブルルーター
NECアクセステクニカ「AtermW500P」
(2014/3/10 06:00)
NECアクセステクニカから登場した「AtermW500P」はIEEE802.11ac準拠のWi-Fiポータブルルーターだ。先行して発売されたAtermW300Pの上位モデルに相当する製品で、最大433Mbpsでの通信に対応する。その詳細をチェックしていこう。
出張先や旅行先のホテルの通信環境として
おそらく、今回登場した「AtermW500P」のようなポータブルルーターを事前に準備しておいた場合と、そうでない場合とでは、出張先での仕事環境整備にかかる時間は1時間以上も違うのではないだろうか?
最近のホテルでは有線LANや無線LANでのインターネット接続が提供されるケースが珍しくなくなってきた。このため、出張でも、旅行でも、宿泊先でのインターネット接続に苦労することはなくなった。
しかし、その一方、スマートフォンやタブレット端末の普及で、つなぐ端末が増え、宿泊先での接続作業に思いのほか時間がかかってしまうことも珍しく無い。
PCは何とか有線でつないだとしても、提供されている宿泊先のSSIDとパスワードを調べて(施設によってはこれがなかなか見つからない)、スマートフォンを無線LANに接続し、同じ手順で今度はタブレット、さらにポータブルゲーム機も――なんてことにもなりかねない。
環境によって違うつなぎ方を調べ、そこに少なくとも2台、多ければ4~5台、さらに同室の家族や同僚がいればさらに2倍、3倍と、次から次へと端末をつなぐ作業は、宿泊先に到着してホッとするヒマさえないほどだ。
そこで活用したいのが、今回取り上げる「AtermW500P」のようなポータブルルーターだ。ホテルなどの宿泊先で使える小型の無線LANルーターだが、事前に自宅や会社で、PCやスマートフォン、タブレットなどに、ポータブルルーターの接続設定を登録しておけば、現地では、ポータブルルーターに有線LANのケーブルをつないで、USBなどから給電するだけ。端末側の接続設定をまるごと省略できる。
もしも、出張で同室になった同僚がいても苦労することはない。ボタン設定やQRコード、さらにAtermW500PならNFCでのセットアップもできるので、「このボタン押して」、「カメラでこれ撮って」、「ここにかざして」。この一言で、接続のための指示が完了。面倒なレクチャーや設定代行から解放される。
出張先や旅行先で、いかにムダな時間と作業をなくすか。これを真剣に考えるなら、ポータブルルーターはぜひ持っておきたいアイテムの1つと言えるだろう。
11ac対応で新登場のAtermW500P
では、実際に製品を見ていこう。以前、本コラムで「AtermW300P」という製品を取り上げたが(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/20131203_625645.html)、今回のW500Pはその上位モデル。2.4GHz帯専用でIEEE802.11nの300Mbps対応だったW300Pに対して、2.4GHz帯のIEEE802.11n/g/b(最大150Mbps)と5GHz帯のIEEE802.11ac/n/a(最大433Mbps)を切替えて利用することができる(標準は2.4GHzなのでスイッチによる切替が必要)。
その分、サイズはW300Pより、少しアップし、幅58×奥行き58×高さ15.8mmで34g。並べるとやはり大きく感じるが、スペック上は幅こそ約14mmほど大きいが、奥行きはわずか0.4mm、高さも2.5mmと、わずかなサイズアップにとどまっている。
出張や旅行のお伴と考えると、サイズは重要だが、鞄に邪魔にならずに収まり、外出先でも置き場所に困らないレベルなら、この手の製品としては問題ない。今回の製品では、専用の収納ポーチも付属しており、ここに本体、ACアダプタ、LANケーブルを入れて一緒に持ち運ぶこともできるので、携帯性は問題ないと言えそうだ。
なお、無線の最大速度は前述の通り433Mbpsとなるが、あくまでも11ac対応クライアントを接続した場合の速度となる。具体的には、NEC製のノートPCやMac BookシリーズなどのIEEE802.11ac準拠867Mbps対応製品、433MbpsのIEEE802.11acに対応した比較的新しいAndroid搭載スマートフォンなどで、これらの対応デバイスであれば433Mbps(MIMOなし80MHz幅の11ac)で接続できる。
一方、IEEE802.11ac非対応製品の場合、AtermW500PのIEEE802.11nの速度が2.4GHz、5GHz共に150Mbps(いずれもMIMOなし40MHz幅)となるため、300Mbps/450Mbps対応のPCなどでも上限は150Mbpsとなる。
もちろん、LAN側の有線ポートの速度が100Mbpsとなるため、いずれにせよインターネット接続では100Mbpsで頭打ちになってしまう。最大433Mbpsというのは11acの対応PCやスマートフォンを接続した場合の無線区間の速度ということを覚えておこう。
ボタン、QRコード、NFCと豊富なセットアップ
扱いやすさに関しては、さすがAtermシリーズといったところだ。無線LANの接続設定方式として、らくらく無線スタート/WPSのボタン設定、カメラを使ったQRコード設定、さらにNFCを使った「らくらく『かざして』スタート」と3種類の方式を用意している。
これにより、端末側の環境合わせて、設定方法を選ぶことが可能だが、基本的にはWPSによるボタン設定がもっとも簡単なので、Windows搭載PCやAndroid端末はボタンで設定することをオススメしたい。
iOS端末はWPSにもNFCにも対応していないため、QRコードを使った設定となる。あらかじめ「らくらくQRスタート」アプリをダウンロードする必要があるが、Safariで「http://qr.aterm.jp」にアクセスすればアプリを探す手間も省ける。
注目は、NFCを使ったセットアップだろう。詳細については、AtermWF1200HPのレビュー(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/20140224_636583.html)で紹介したので、そちらを参照して欲しいが、NFCに対応したスマートフォンでは、都合2回ほど、付属のNFC用設定シートに端末をかざせば、簡単に設定できるようになっている。まとめると、以下のような設定がおすすめだ。
Windows 7/8/8.1 | WPSボタン設定 |
Android(3.x以上) | WPSボタン設定 |
Android(NFC対応の4.0以上) | NFC設定 |
iOS端末 | QRコード設定 |
Mac OS X | 手動 |
冒頭で触れたように、AtermW500Pをホテルなどで使うときは、基本的に家で接続端末を事前にセットアップしておくことをおすすめするが、上記の方法なら、現地で新しく購入した端末をつないだり、同室の家族や同僚の端末を接続する必要があっても、Mac OS Xを除けば、いずれも手軽に設定が可能だ。
もしも、家族や同僚がMac OS X搭載端末をつなぎたいと言った場合は、本体背面の暗号キーを読み上げてあげよう。
家ではコンバータとして活用
このように、11acの速度と豊富なセットアップによる手軽さが特徴のAtermW500Pだが、旅行や出張以外のシーンでも活用できるのも特徴だ。本体側面のモード切替スイッチを「CNV」に切替えると、子機モードとして動作させることが可能で、有線接続の端末を無線化することが可能となる。
設定は簡単だ。以下のように、子機モードに切替えてからWPSで既存の無線LANルーターに接続すればいい。これで、有線LANの端末から、AtermW500P経由でインターネットに接続できるようになる。
1.本体の電源オフ
2.本体のスイッチを「CNV」に切替え
3.本体の電源オン
4.背面の「SETボタン」を長押し
5.PWRランプ点滅を確認
6.無線LANルーター(親機)側のWPSボタンを長押し
7.接続完了
なお、WPSに対応していない無線LANルーターに接続する際は、同社のサイトで公開されているAtermW500Pユーザーズマニュアルのこちらのページ(http://www.aterm.jp/function/w500p/guide/quickweb_cnv.html)を参考に、「SETボタン」を押しながら本体の電源を入れると、設定画面にアクセスして接続先の情報を登録することができる。
LAN側が100Mbpsまでなので、残念ながら11acの433Mbpsをフルに活かすことはできないが、普段は家でコンバーターとして使いながら、外出時はルーターとして持ち運ぶという使い方ができるのは大きなメリットだ。
ちなみに、前述した側面のスイッチを「WiFi SPOT」に切替えると、WAN側の接続環境として公衆無線LANを利用することができる。BBモバイルポイント、ワイヤレスゲート、エコネットの設定がプリセットされており、ログインIDやパスワードを設定するだけで利用可能となっているが、この機能を利用する場合は1点注意が必要となる。
同機能は本体のスイッチを5GHzに設定することで5GHz帯でも利用可能だが、AtermW500Pは5GHz帯の設定が標準でW52となっているため、法律上の制限で屋外での利用ができない。屋内で利用する場合は、まったく意識しなくてかまわないが、屋外で利用する場合はあらかじめ設定画面で屋外利用可能な「W56」に切り替えておく必要がある。
もちろん、WiFi SPOTモードに限らない話だが、おそらくWAN側に有線LANを利用する場合は屋外で使う機会はまずないので、WiFi SPOTモードのときだけ注意するといいだろう。
プラス2000円の価値は十分にある
以上、NECアクセステクニカから新たに登場したWi-Fiポータブルルーター「AtermW500P」を実際に使ってみたが、非常に使いやすい製品だと感じた。11ac対応が特徴の製品ではあるが、むしろ豊富なセットアップ、コンバータモードでも使える多彩さが、本製品の魅力と言えそうだ。
価格的には実売で5000円前後となるため、実売3000円を切るAtermW300Pなどと比べると割高感はあるが、その分、前述した使いやすさを備えている上、しっかりと作り込まれており、安心して使える製品となっている。
もちろん、価格も製品選びの重要な基準だが、本製品に限ってはプラス2000円前後の価値が十分に提供されていると言える。1台持っておくと、出張や旅行、さらに自宅でのコンバータ用途に何かと便利なので、購入を検討してみたい製品と言える。