清水理史の「イニシャルB」

「MU-MIMO製品の市場導入も間近」技術で市場をリードするネットギアの未来とは

~ネットギアCEO Patrick Lo氏インタビュー

 ネットワーク機器やストレージ製品の世界的なトップベンダーとして知られるネットギア。そのCEOを務めるPatrick Lo氏が来日した。彼が明らかにしたのは「IoT」時代の到来を見据えた「MU-MIMO(MultiUser MIMO)」対応製品の計画だった。ネットギアが目指す未来とは、どのようなものなのか。Patrick Lo氏に話を伺った。

時代は「IoT」

ネットギアCEOのPatrick Lo氏

 国内では「ReadyNAS」ブランドのNASやスイッチのベンダーとしての知名度が高いネットギア。世界的には、ワイヤレス製品、ホームオートメーション分野(カメラなど)と、ネットワーク関連の幅広い製品を取り扱っており、その技術レベルの高さと信頼性の高さが高く評価されている企業となっている。

 そんな同社は、現在のネットワーク機器市場をどう見ているのだろうか。

 Patrik Lo氏は、次のように分析する。「現在、ネットワーク製品の世界的なトレンドは大きく2つあります。1つは、より高速なインターネット接続環境を求める傾向です。4Gなどのモバイル環境の高速化も進んでいますが、家庭やオフィスなどでWi-Fiの利用が進み、より高速な環境が求められるようになってきました。たとえば、世界的に人気のある無線LAN製品は、IEEE802.11acの1300Mbpsと2.4GHzのIEEE802.11nの600Mbpsの組み合わせた1900Mbpsの製品となっています」。

 「もう1つのトレンドは、いわゆる『IoT(Internet of Things)』です。たくさんの機器がネットワークにつながる時代になることは確実です。そんな状況を見据えて、我々は米国の4月3日に、Qualcomm社と共に『MU-MIMO』と呼ばれる新技術を発表しました。これにより、Wi-Fiのスピードを3倍以上にすることができます」と語った。

 MU-MIMO(MultiUser MIMO)とは、IEEE802.11acで定義されている同時通信の技術だ。無線LANの通信を細かなタイムスロットで見ていくと、その通信はアクセスポイントとクライアントの1対1で行なわれている。複数のクライアントが同時に通信しているように見えるのは、この1対1の通信を非常に短い周期の時分割で順番に行なっているからに他ならない。

 MU-MIMOは、この常識を覆す新技術だ。IEEE802.11acではビームフォーミングと呼ばれる技術によって、特定の端末に向けて電波の届き方を最適化することができるが、これを応用し、一度の通信で、同一空間上の異なる複数台のクライアントに別々のデータを送信することができるようになる。

 IEEE802.11acでは最大4台、つまり1対4の通信(AP→クライアントの下り方向)が可能となっているが、現状の現状の最大1300Mbpsとなる3ストリームのMIMO(アンテナ3本)であれば、同時に1対3の通信が可能となるため、その速度が3倍以上となるわけだ。

 なお、Qalcommの発表はこちら(http://www.qualcomm.com/media/releases/2014/04/03/qualcomm-innovates-optimize-spectrum-usage-revolutionary-mu-mimo-wi-fi)で確認できる。Patrick Lo氏のコメントも掲載されているので、興味のある方は参照するといいだろう。

 MU-MIMOは、非常に興味深い技術ではあるが、日本では、まだ「IoT」と言われてもピンと来ないのも事実だ。しかし、Patrick Lo氏の話によると世界の状況は、MU-MIMOのニーズはすでに高まりつつあると言う。

 「欧米では、現在、ホームオートメーションの市場が非常に高い注目を集めています。照明、温度センサー、カメラなど、いろいろな機器をインターネットに接続することで制御したいというニーズが高まっています。今まで、家庭内でWi-Fiに接続するデバイスはPCやテレビなど、せいぜい4~5台の機器といったところでしたが、ホームオートメーションの時代が本格的に到来すれば、このデバイスの数が40~50にもなることが考えられます。そうなると、MU-MIMOで複数のデバイスが同時にアクセスでき、かつ高速な速度を実現できるWi-Fi環境が非常に重要になってくるのは確実です」とのことだ。

1900Mbps対応製品「Nighthawk R7000」は5月に国内投入

 では、このような製品をいつ我々は手にすることができるようになるのだろうか?

 「私たちは、移り変わりの早い世界の中で、無線の技術で常に一番になることにこだわって事業を展開してきました。実際、海外ではIEEE802.11acの1900Mbpsの無線LAN製品、LTE Advance cat6(最大300Mbps)のService Provider向け製品を米国とオーストラリアでもっとも早くリリースしてきました。MU-MIMOの製品に関しては、おそらく来年の初めにはリリースできると考えています(Patrick Lo氏)」とのことだ。

 Patrick Lo氏によると、同社の強みは、「最新の技術」であり、それが企業としての生命線であるという。1900Mbpsにしろ、MU-MIMOにしろ、常に一番早く最新の技術を市場に投入し、そこからボリュームを確保していくのが、同社ならではのビジネスモデルとなっている。

 同社のビジョンは、「60億人すべてをつなぐこと」であり、「すべてのデバイスをいつでもどこでも、ハイスピードでインターネットに接続できる環境を目指している(Patrick Lo氏)」とのことだが、それを技術力という武器で実践しているのが、ネットギアというわけだ。

 もちろん、国内でのリリース時期となると、また別の話になりそうだが、利用する周波数が同じで、技術的にもビームフォーミングの延長線上にあることから、チップの共有体制さえ揃えば国内でもさほど遅れることはないのではないかと考えられる。このあたりには、大きな期待をしたいところだ。

 Patrick Lo氏は、「日本では、認可の関係でなかなかタイムリーに製品を出すことができないこともありますが、1900Mbps対応の製品(Nighthawk R7000)に関しては来月の5月には発売できる見込みとなりました」と話してくれ、その言葉通り、インタビュー後となる4月16日に「Neighthawk R7000」の国内発売が発表された。MU-MIMOはまだ先としても、とりあえず1300Mbps+600Mbpsの1900Mbpsの製品「Nighthawk R7000」については、5月下旬には実機を入手できることになったわけだ。

1300+600Mbpsの11ac対応ルータ「Nighthawk R7000」。ビームフォーミングプラス技術搭載により、電波の到達範囲を広げると同時にスピードを最大化する

国内でもホームオートメーションやサービスプロバイダー向け事業を展開予定

 続いて、国内での今後の展開について聞いてみた。現状、同社は国内の事業として、家庭、およびSMB向けに、スイッチ、ワイヤレス、ストレージを主に展開しているが、Patrick Lo氏によると、「来年以降は、日本でもホームオートメーション機器やサービスプロバイダー向け事業を積極的に展開していく予定です」とのことだ。

 ホームオートメーションは、現在、米国向けに小型のバッテリー駆動のカメラ(VueZone)が発売されているが、これらは日本でも発売されれば広く受け入れられそうな魅力的な製品となっている。カメラだけでなく、接続先のワイヤレス環境や映像を保存するストレージなど、トータルのソリューションとして提供できるのも同社ならではの強みと言えるため、この分野の本格展開は大いに期待したいところだ。

 また、ISPやCATV事業者など、サービスプロバイダー向けの事業も強化していくとのことだ。現状、日本でも一部のCATV事業者向けにゲートウェイを提供しているが、これを強化し、海外で提供しているようなモバイルルーター(海外ではモバイルホットスポットと呼ぶ)などの製品の展開も考えていると言う。

 4Gのモバイルルーターでネットギアブランドの製品を目にすることも、来年以降は期待できそうだ。

現場レベルで売れている10G製品

 このほか、既存の製品の動向について聞いてみたところ、意外だったのが、10ギガビット製品の動向だ。

 個人的には、まだまだ10Gは大企業の一部のネットワーク向けだと考えていたのだが、意外にもSMBや個人のハイエンドユーザー向けの売れ行きが好調とのことだ。

 現状、同社では10Gに対応したスイッチやNASを販売しているが、中でも10G対応の6ベイデスクトップ型NAS「ReadyNAS RN716X-100AJS」と、8ポートのアンマネージスイッチ「XS708E」に関しては、どちらもAmazon.co.jp経由で気軽に購入できることから、クリエイター系の事務所など、小規模な環境や個人ユーザーへの販売実績が伸びているとのことだ。

 実際、Amazon.co.jpで調べてみると、両方同時に購入しても60万円以下、在庫があるタイミングなら当日配送で購入することができてしまうことに驚いた。

 10G製品と言うと、通常はリセラー経由でソリューションとして購入するというイメージがあったが、実はすでに身近に入手できるようになっており、実際に稼働させているオフィスや個人が多く存在することは意外だった。このあたりは、追って、レビューしていきたいと考えているので、期待して欲しい。

 このほか、マルチメディア系の製品として、Push2TV PTV3000も好評で、特にKindle HD Fireの画面をテレビに表示するCMの効果もあり、販売実績を伸ばしているとのことだ。このあたりの次世代製品にも、今後は期待したいところだ。

 以上、ネットギアのCEO Patrik Lo氏に、現状と今後の展開について聞いてみたが、今後は、海外と同等の多彩なラインナップとアグレッシブな新製品の登場が期待できそうだ。中でも、MU-MIMOは、来年以降の無線LAN製品のトレンドとして、非常に大きな注目を集めることが期待できる。この製品をいち早く国内投入できるかどうかが、同社のさらなる飛躍につながるかどうかの1つのポイントとなってきそうだ。

 ワールドワイドではロゴやWebのデザインなども一新され、親しみやすいイメージにもなってきた。これは、3角形のピースが1つにつながった1つのネットギアを表しており、これまでホーム、ビジネス、サービスプロバイダーと展開してきた事業が統合されたことを示していると言う(Patrick Lo氏)。

 今年から来年にかけて、実際に各分野で革新的な製品がリリースされることで、このロゴやイメージが日本でも定着し、その知名度がさらに向上することを期待したいところだ。

取材にご協力いただいた米NETGEAR社CEO パトリック・ロー氏(左)とネットギアジャパン合同株式会社社長 杉田哲也氏

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。