清水理史の「イニシャルB」

セキュリティが特徴のトラベルルーター Buffalo「WMR-433W」

 Buffaloから、「セキュアな高速Wi-Fi」と名付けられた小型の無線LANルーター「WMR-433W」が発売された。従来モデルの「WMR-433」とも比較しながら、何が「セキュア」なのかに迫ってみた。

「つなぐだけでVPN」とかはどうだろう?

 「セキュアな高速Wi-Fi」といううたい文句を見て、てっきりVPNクライアント機能でも搭載されたのかと思った。

 ホテルなどの出張先のインターネット環境につなげば、それだけで自宅や社内のルーターとVPNのセッションを自動的に確立し、Wi-Fiで接続した配下のPCやスマートフォンから安全に社内のリソースやインターネットを利用できる。

 あらかじめVPNのユーザーアカウントなどをどう設定するかが、メーカーの腕の見せ所だが、BuffaloならAOSSなどのしくみも持っているので、それを拡張して、ボタン一発で、無線の接続設定などと一緒にルーター側のVPN設定を送ってしまうなどというのも不可能ではなさそうだ。ただ、そうなると紛失したときに、かえって危険なので、その対策をどうするか……。

 などと妄想していたが、何のことはない、ただWAN側に無線LANも使えるようになっただけだった。

 同社のAirStationシリーズの中には、VPNサーバー機能を搭載している多機能な製品もラインアップしているのだから、そろそろ製品間の横のつながりを強化したり、複数製品を組み合わせたソリューションとしてサービスを展開したりしても面白そうだが、まだそういう時期ではないのかもしれない。

 海外出張の多い人と話をすると、海外のWi-Fiを使うときはVPNサービスを使っているという例もちらほらと耳にする。自宅や出張のときは、会社のVPNにつなぐなどというのも、もはや当たり前だ。そろそろ、そんなところを狙った製品が出てきても面白いのではないかと、個人的には思う。

WAN側に無線LANを利用可能

 さて、話がそれたので本題に戻すことにしよう。

 個人的な期待は妄想に終わったが、本製品は、「あれ、そうだったの?」ということをあらためて認識させてくれた製品だ。

 Buffaloから発売されたトラベルルーター「WMR-433W」は、旅行先や出張先のホテルでインターネット接続を利用するための超小型の無線LANルーターだ。

 幅45×高さ45×奥行き15mmで、重量15gという極めてコンパクトなサイズの本体に、有線LANポート×1、最大433MbpsのIEEE 802.11ac準拠無線LANを内蔵し、USB給電によって無線LANルーターとして稼働させることができる。

Buffaloのトラベルルーター「WMR-433W」
本体は非常にコンパクト
上面
側面
反対側面

 同社のトラベルルーターではWMR-433という製品が先行して発売されていたが、本製品は、この改良版に位置付けられるモデル。以下のように、サイズや無線LANのスペックはまったく同じだが、動作モードとして新たに「ワイヤレスワン(Wireless WAN)モード」、「ローカルモード」が追加されている。

 WMR-433WWMR-433
実売価格4,4802,660
IEEE 802.11ac433Mbps
IEEE 802.11n150Mbps
LAN100Mbps
サイズ45×45×15mm
重量19g
カラーバリエーションホワイト、ブラックホワイト、ブラック、イエロー、ピンク
対応モードルーター、ワイヤレスワン、ブリッジ、ローカルルーター、ブリッジ

 モード名だけではわかりにくいので、各モードの動作を解説すると以下のようになる。ルーターモードは、WAN側が有線でLAN側が無線という一般的な無線LANルーターと同じ動作モード。ブリッジは、これとは逆で有線LANにしか対応していない機器(デスクトップPCやレコーダー)などを無線LANに対応させるときに利用する。肝心のワイヤレスワンモードは飛ばして、ローカルモードはインターネット接続なしでLAN側に無線と有線の両方を使うモードとなる。

 新たに追加されたワイヤレスワンモードは、WAN側、LAN側ともに無線LANを利用するモードだ。最近のホテルなどでは無線LANによるインターネット接続サービスが提供されていることがあるが、これを利用してインターネットに接続する際のモードとなる。

 わざわざ、ホテル側が無線LANを提供してくれるのだから、それをそのまま使えばいいじゃないか? という疑問もあるかと思うが、ホテル側の無線LANで端末同士の通信が許可されてる可能性もある。暗号化なしで誰もが接続できるとなれば、接続したPCやスマートフォンが危険にさらされる可能性は否定できない。

 これに対して、WMR-433Wを利用すれば、自分の機器が接続されたネットワークとホテル側のネットワークを分離し、逆方向の侵入を禁止できる。

 ホテル側が暗号化なしの場合、本製品で暗号化を設定しても、本製品とホテルのアクセスポイント間の通信が暗号化なしになるため、この部分の安全はHTTPSなどより上位の層で確保する必要があるが(だから「つなぐだけでVPN」的発想の製品なのかと思ったのだが……)、最低限の安全性は確保できることになる。

 個人的に驚きだったのは、これって今までサポートされていなかったの? という点だ。

 過去に使ったことがあるホテル用と言われているルーターは、NECプラットフォームズのAtermW500Pだが、これには普通に同じ機能(公衆無線LANなどにも接続可能なWi-Fi SPOTモード)が搭載されていたので、むしろ今までサポートされていなかったことが意外だった。

 実際、同様の製品を調べてみると、確かにWAN側にも無線LANを使える製品はあまりない。従来モデルのWMR-433と比べると、実売価格が倍近くなるうえ、カラーバリエーションも少ないが、ホテル側の環境が必ずしも有線であるとは限らない以上、本製品を選ぶメリットは大きいと言えそうだ。

思い切った設定画面

 とは言え、使い方は、まだまだルーターモード(WAN側有線)がメインと考えられているようで、出荷時はルーターモードで動作する。

 そのままWAN側が有線でいいなら特に設定は必要ないが、ワイヤレスワンモードで使う場合は設定画面から動作モードを変更する。

 たびたび引き合いに出して申しわけないが、NECプラットフォームズのAtermW500Pは、このモードを本体のスイッチで切り替えることが可能なため、行く先々で接続方法が違っても、さほど設定に手間取らない。

 本製品の場合、ウィザード形式で簡単になっているとは言え、モードを切り替えるのにわざわざ設定画面を呼び出さなければならないのが若干面倒だ。

 実際に使ってみて驚いたのは、設定画面のシンプルさだ。画面デザインがシンプルということもあるが、そもそも設定できる項目が少ない。設定画面から実行できるのは、前述した動作モードを切り替えるためのウィザード(ウィザード内でSSIDや暗号キーなども設定可能)、ファームウェアの更新、ステータス表示(設定モードやIPアドレスなどの表示)の3つのみとなっている。

 結構、このあたりの割り切りは同社内でも議論があった部分なのではないかと思う。ルーター製品として見れば、詳細設定などとして、さらなる設定項目を用意するのが、今までの常識だったが、本製品では実際にユーザーが使う機能のみに絞り込まれている。個人的には少しさみしい気もするが、外出先でインターネット接続に使うだけと考えれば、確かにこのシンプルさは迷わずに済むので、メリットも多そうだ。

シンプルな設定画面。ウィザード形式でモードを切り替えられるだけ

今後の進化に期待

 以上、Buffaloから登場したトラベルルーター「WMR-433W」を実際に使ってみたが、この手の製品について、あらためて考えさせられた。ワイヤレスワンモードの搭載によって、トラベルルーターとして十分な実用性を手に入れたWMR-433W自体は、かなりコンパクトなサイズと相まって魅力的な製品ではある。しかし、せっかく「セキュア」という点をウリにするなら、もう一歩進んだ工夫があってもよさそうだ。

 もちろん、メーカーとしていろいろな計画があるだろうから、今後に期待したいところだが、Googleが通信機器もサービスとして提供するようになれば、今までの常識や価値観がひっくりかえる可能性もある。国内のコンシューマー向け通信機器メーカーも保守一辺倒ではなく、そろそろ攻めに転じてもいいのではないだろうか。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。