清水理史の「イニシャルB」
コンパクトな2ベイ筐体に詰め込まれた高性能 Btrfsにも対応したSynology「DS716+」
(2016/1/18 06:00)
Synologyから登場したDiskStation DS716+は、コンパクトな2ベイタイプながら、高い性能を追い求めた最先端のNASだ。次世代NASの本命とされるファイルシステムBtrfsにも対応し、速さと安全性を両立させているのが特徴だ。その実力に迫ってみた。
小さな優等生
2ベイNASと言えば、家庭向けのリーズナブルなエントリーモデルというイメージが一般的かもしれないが、見た目とは裏腹に、その中身は「超」が付くエリート。今回、Synologyから登場したDiskStation DS716+(以下、DS716+)は、まさにそんなイメージのNASだ。
搭載されるCPUは、Quad-coreで1.6GHz動作のIntel Celeron N3150。Arm系の採用が多い同社のラインアップの中では、Intel製CPUを搭載したモデルは企業向けのラックマウントタイプが中心となるが、コンパクトな本製品も、Celeronではあるものの同じIntel製CPUを採用している。
その恩恵が現れるのは、ズバリ、パフォーマンスだ。単純なアクセス速度が向上するのはもちろんだが、CPUにインテグレートされたハードウェア暗号化エンジン(AES-NI)やハードウェアトランスコードエンジンを活用することで、さまざまなシーンでのパフォーマンス向上が期待できる。
中小規模の企業やデザイン関連の事務所などでは、容量よりも、むしろパフォーマンスを重視する傾向が強いが、そんなシーンでの活用が見込まれる製品と言えるだろう。
もちろん、パフォーマンスだけでなく、機能面でも大幅な進化を果たしている。次世代のファイルシステムとして、最近採用が進んでいる「Btrfs」に対応し、データの自動修復機能やスナップショットへの対応など、データの安全性を大幅に向上させている。
最先端の機能が詰め込まれた小さな優等生。いわば、そんな製品と言ったところだろう。
相変わらずよくできた筐体
それでは、実際の製品を見ていこう。まず、本体だが、何度も触れているように2ベイタイプのコンパクトな筐体となっている。
サイズは高さ157×幅103.5×奥行き232mmで、重量は1.75kg。デスクの端やちょっとした棚に収まるサイズは、小さなオフィスにちょうどいい。実売価格も7万円台前半と、中小規模の企業や部門単位で無理なく決済できるあたりもちょうどいい。
フロントのHDDベイは、付属の鍵でロックも可能なタイプで、マイナンバー対策などで物理的な盗難対策が必要な場合にも対応できる。HDDの装着も、ネジを使わないSynology独自のタイプで、セットアップや交換しやすいのも特徴だ。
最近のNASは、どれも静音性は高いが、本製品も同様にファンの音などはほとんど聞こえない。静かなオフィスの一角に設置されていてたとしても、おそらく気がつかないだろう。
インターフェイスは、フロントにUSB 3.0×1、背面にUSB 3.0×2、eSATA×1となっており、バックアップ用HDDや拡張用のエンクロージャーを接続可能となっている。たとえば、別売りのDX513/DX213を利用すれば最大56TBまで拡張することが可能だ。2ベイの容量でスタートし、企業規模の拡大とともに容量を増やしていくといった運用も可能だ。
Celeron搭載ということで、HDMIが搭載されていてもおかしくはないが、今のところSynologyはNASの画面出力には消極的なようだ。今後、どうなるかはわからないが、現状は、むしろ裏方に徹するための利便性を追求するというスタンスなのかもしれない。
リンクアグリゲーションでトータル200MB/sを実現
それでは、注目のパフォーマンスをテストしていこう。
今回のDS716+は、背面に2つの1000BASE-Tポートを搭載しており、これを組み合わせて利用することでトータルスループットの向上や負荷分散、冗長性の確保ができるようになっている。
最近のNASは、すでに1Gpbsというネットワーク速度がボトルネックになり、ネットワーク1系統だけでは、その実力を判断できない状況になっているが、特に今回のDS716+のようにビジネスシーンでの利用が想定される場合は、複数台クライアントからのアクセスをさばく必要があるため、その性能を判断するためにはリンクアグリゲーションでの評価が欠かせない。
そこで今回は、LANポートを1系統のみ使った場合に加え、IEEE 802.3adで2つのLANを束ねたリンクアグリゲーション環境での速度を計測してみた。
具体的には、リンクアグリゲーションに対応したスイッチ(BUFFALO BS-GS2024)に、PC1、PC2の2台のPCを接続し、DS716+のLAN1のみをスイッチに接続した場合(グラフの1系統のみ)と、DS716+のLAN1とLAN2の2系統を接続した場合で、PC1とPC2から同時にファイルを転送した際の速度を計測した。
なお、リンクアグリゲーション構成時はDS716+だけでなく、スイッチ側の設定も必要になる。実際に利用する場合は設定を忘れないようにしよう。
(単位:MB/s) | PC1 | PC2 | 合計 | |
1系統のみ | リード | 55 | 66 | 121 |
ライト | 44 | 75 | 119 | |
802.3ad | リード | 112 | 118 | 230 |
ライト | 43 | 82 | 125 |
結果を見ると、やはりDS716+のLAN1しか利用しない場合は、速度が1Gpbsに制限されてしまうためPC1、PC2でそれぞれ50~60MB/sの速度しか実現できない。
一方、802.3ad構成の場合、ライトは1系統時とさほど変わらないものの、リードに関してはPC1、PC2ともに100MB/s以上の速度がきっちり出せており、トータルで230MB/sのスループットを実現することができた。
NAS上に保存した大きな動画ファイルを複数のユーザーで同時に編集するといった用途も、これなら現実的と言えそうだ。
暗号化や動画トランスコードも高速
続いて、暗号化のパフォーマンスを計測してみた。DS716+では、共有フォルダー単位での暗号化を設定することが可能となっており、機密情報だけを選んで暗号化することができる。
この機能を使って、暗号化なしと暗号化ありの2つの共有フォルダーに対してCrystalDiskMarkを実行したのが以下の画面だ。
両者を比べてみると、書き込み全般とランダムのリードに関して、暗号化ありの方が若干速度が低下することわかるが、それ以外の値は、あり・なしで大きな差がなく、ハードウェアによる暗号化処理支援が効いていることが実感できる。これくらいの差で済むなら、暗号化を積極的に使ってみようという気になるだろう。
このほか、動画のトランスコードも高速だ。Web Stationというアプリを利用することで、PCやスマートフォンからNAS上の動画を再生する際に、再生環境に合わせて動画のサイズや形式をリアルタイムにトランスコードできるが、この際にCPUのアクセラレーションを利用可能となっている。
実際に、H.264の4K動画をPCのブラウザーで再生する際に、動画の品質を「低」に変更し、リアルタイムトランスコードを実行させてみたが、非常にスムーズに動画が再生できたうえ、その際のCPU負荷は25%前後と低く抑えられていた。ソフトウェアトランスコードだと100%近くに達し、ほかの処理がなにもできなくなるうえ、動画もまともに再生できないので、この恩恵は大きいだろう。
先行してBtrfsを利用可能
ここまで、DS716+のパフォーマンス面について紹介してきたが、パフォーマンス以外の特徴として、Btrfsを利用できるメリットも大きい。
Btrfs(B-tree file system)は、2007年に発表されたLinux向けのファイルシステムで、コピーオンライトや優れた耐障害性、修復機能を備えているのが特徴だ。2015年あたりから、採用するNASが増えてきたが、SynologyのNAS製品でも、現在ベータテストが実施されている次期バージョンで採用する計画になっており、2016年1月にベータユーザー向けに公開される予定となる、DSM 6.0 beta 2からのサポート予定となっている。
DS716+では、このBtrfsを本稿執筆時点のDSM 5.2でも利用可能となっており(ボリューム作成時にBtrfsを選択可能)、以下のような恩恵を受けることが可能となっている。
・メタデータのミラー化
フォルダー構造、ファイル名、アクセス権、ファイルの場所などのメタデータを二重化できる
・破損の自動検出と修復
Bit rot腐敗のようなひっそりと進行するエラー対策が可能。データとメタデータのチェックサムを作成し、読み取りプロセス中に確認し、誤りを検知したら自動的にデータを修正できる
・スナップショット
ストレージの現在の状態をスナップショットとして保管可能(しかも少ない容量で保管可能)。複数のスナップショットを保管し、データを任意の時点に復元可能になる
新しいファイルシステムということで、敷居が高そうに思えるが、実際の運用は非常に簡単だ。
例えば、スナップショットの取得や復元などは、「Data Protection Manager(DSM 6.0 beta 2ではスナップショットと複製)」を利用することで簡単に実行できる。共有フォルダーごとに、現在のスナップショットを作成可能なうえ、時間を指定して自動的にスナップショットを作成することもできる。
この機能が便利なのは、取得したスナップショットをクライアントから手軽に復元できる点だ。取得したスナップショットは、DS716+の管理画面からも確認できるが、Windowsのエクスプローラーからフォルダーのプロパティを開き、「以前のバージョン」を選択することでも参照できる。このため、わざわざ管理者に依頼しなくても、ユーザー自らがデータを復元することができる。
管理者としては、バックアップの手間が減るだけでなく、復元の手間も軽減されるというわけだ。
DSM 6.0 beta 2でさらに使いやすく進化
このように現状のDSM 5.2でも先行してBtrfsを使えるDS716+だが、もちろん、だからと言って次期OSであるDSM 6.0 beta 2を使うメリットがなくなるわけではない。
DSM 6.0 beta 2では、さまざまなアプリの強化も予定されており、いわゆる付加機能が大幅に使いやすくなる予定だ。
例えば、同期やバックアップなどに便利な「Cloud Station」の機能が強化される。現状のDSM 5.2でもサポートされている機能で、PCやスマートフォンのデータをNAS上特定のフォルダーにリアルタイムに同期させたり、PCのデータをNAS上に簡単にバックアップできるもので、NASの同期機能の中では非常に完成度が高いソリューションだが、これをよりビジネスに活用しやすくなる。
新たに登場予定のCloud Station 4では、3.x系から速度が大幅に向上し、同期で最大870%、初期同期で150%ほども高速になるとされている。また、同時接続数も10000までとなり、複数ユーザーで利用した場合などでも余裕で対応できるようになる。
しかも、ユーザーごとに同期を許可できるのはもちろんのこと、IPアドレスによって同期を制御できるようになる。これにより、例えば端末がLANに接続しているときだけ(社内にいるときだけ)同期を許可するといったことができる。
このほか、同期に使える帯域を制限したり、2段階認証を利用して安全に使えるようにするなど、細かな改善がなされているうえ、Btrfsでの利用によって従来のext4よりもディスク容量の消費が少なくなり、履歴管理などで必要な容量が半分程度になる。
SynologyのNASの良いところは、こういったソフトウェアの改善が、かゆいところに手が届くように細かく、しかも頻繁に行われることだ。このため、使い込んでいったときに、ガッカリすることがあまりなく、あったとしても改善されることが多い。
これ以外にも、共同作業やドキュメントの共有に便利なSpreadSheet、Document Viewerなどのアプリも新たに追加される予定となっている。
SpreadSheet
NAS上で表計算シートを利用できるアプリ。グラフが使えないなど、Excelとまったく同じに使うことはできないが、コメントを入力することなどもできるので、社内外でデータを共有するのに便利。最新バージョンでは、サポートされる関数が200以上増え、378になったほか、データの入力規則、条件付き書式、データフィルター、スペルチェッカーに対応したり、暗号化によるシートの保護機能もサポートされる。
Document Viewer
WordやPowerPoint、PDFなどのファイルを表示できるアプリ。File Stationなどからファイルを指定して表示できる。Google DocsやOffice Onlineなど、外部のサービスを使わずに内部だけで完結するためセキュリティ上有利。
中小環境に最適なNAS
以上、Synologyから登場したDS716+を実際に使ってみたが、パフォーマンスが非常に高いうえ、Btrfsで安全に使えるため、中小規模の環境に最適なNASと言える。容量よりもパフォーマンスが重視される環境には、非常に適した製品だろう。
また、DSM 6.0 beta 2へのアップグレードによって、Cloud Stationの機能が非常に使いやすくなるのも大きなメリットだ。特に、IPアドレスでの利用が制限できたり、帯域を集中管理できるあたりは、OneDriveやDropBoxなどのクラウドサービスにはないメリットと言える。ようやく、容量以外に、NASの同期ソリューションを積極的に選ぶ理由が出てきたと言えそうだ。新規導入はもちろんだが、既存のNASからの買い換えにも適した製品と言えるだろう。