10代のネット利用を追う

夏休みに子どもと話し合うきっかけに――「SNS東京ノート」改訂の意義と使い方

「SNS東京ノート」は、冊子版が東京都の公立校において配布されているほか、PDF版は東京都教育委員会(教育庁)のサイトでダウンロード公開されている

 東京都教育委員会は、2015年11月に「SNS東京ルール」を定め、児童・生徒によるSNSの適切な利用促進をしてきた。取り組みの成果として、家庭などでルールを決めている割合は約6割となり、2年前より約2割上昇。インターネット利用時において、トラブルや嫌な思いをした児童・生徒の割合は減少し、7%程度となった。決めたルールを守っている児童・生徒の割合は約6割となっているという。

 2017年3月には、LINEとの連携事業により、補助教材「SNS東京ノート」を全面改訂している。LINE株式会社公共政策室の浅子秀樹氏に、改訂内容、改訂の背景と問題点などについて聞いた。

カード型教材を採用し、参加型教材に

 LINEが改訂に参加した経緯はこうだ。同社が東京都に別件で訪れたとき、当連載でもご紹介したワークショップ(2015年4月28日付関連記事『小学校の授業で「LINEワークショップ」実施――コミュニケーションに正解はないこと、児童に伝える』参照)などの取り組みを評価され、担当部門の紹介を受け、連携することになった。「東京都教育委員会がもともと、子どもたちに使わせないのではなく、いかに適切に使わせるかを模索していたところだった」のも理由だ。LINEが参加したのは、補助教材であるノートの改訂と青少年の利用実態調査部分だ。

 主な改訂内容は以下のようになる。

 3分冊から5分冊に変更した上、発達段階にきめ細かく即した内容とした。3分冊のときは小学校低学年用、小学校高学年用、中学生・高校生用だったが、5分冊の現在は小学校1・2年生用、3・4年生用、5・6年生用、中学生用、高校生用となっている。「小学生は1学年違うだけで理解度が大きく違うなど、発達段階に応じてきめ細やかな対応が必要」(浅子氏)と考えたためだ。

 さらに、ワークショップのカード型教材を全面的に採用。巻末には実際にカード教材を付け、児童・生徒同士の話し合いを活性化する内容としている。また、保護者向けの啓発資料を掲載し、家庭で保護者が子どもと話し合ったり、保護者会などで活用したりできるようにした。

 「小学生でも端末を所持しているなど、低年齢化が最近の一番の傾向。それに合わせたコミュニケーションが必要であり、保護者の意識も重要」と浅子氏は語る。「補助教材を利用した1年生の授業も見たが、立派に授業になっていた」という。生まれたころからスマートフォン/タブレット端末などを使っている世代には、SNSや端末の使い方も身近なテーマになるというわけだ。

LINE株式会社公共政策室の浅子秀樹氏

発達段階と利用度に合わせた内容に

 具体的に冊子ごとの違いを見ていこう。

 1・2年生向けはイラストから学ぶように作られている点が特徴だ。歩きスマホや自転車に乗りながらスマホを使うなど問題ある使い方をしている人たちが書いてあるイラストを見て、気になるところを見つけさせる課題に代表される。カードは通常5枚だが、1・2年生向けのみ3枚に減らしている。

 3・4年生向けからはカードが5枚に増える。内容としては、3年生くらいからゲームを使う子どもが増えてくることを受け、「使いすぎ」という観点を多く取り入れている。ルールも意識させており、使いすぎないようにルールを決めようという内容となっている。

1・2年生向け「SNS東京ノート1」の内容例

 5・6年生向けからは、インターネットの特性やテキストコミュニケーションの難しさなどの内容も入ってくる。「このくらいの学年では、6割くらいはLINEを体験したことがある印象」(浅子氏)というくらいSNSの利用度が上がってくるため、実際の利用シーンを想定した内容となっているのだ。アプリのダウンロード、個人情報、著作権など、利用する割合が増えてきたならではの具体的な内容に踏み込んでいる。

 保護者向けにかなりページを割いているのが全体としての特徴だ。相談先などの情報提供や、知識としてネットの特性に触れたり、フィルタリングの紹介などもある。

「SNS東京ノート」に盛り込まれている保護者向けページの例

グループトークや写真公開時の危険チェックも

 中学生向けからは、問題が起きたときにはどう対処するかというクライシスマネジメント(危機管理)的要素も入ってくる。「気を付けていてもトラブルに巻き込まれることがある。対処法を身に付けておくことが大切」と浅子氏は説明する。

 用意されたカードの中には、LINEのグループトーク版もある。それぞれ、「2組クラス(34)」「陸上部1年生(22)」「2組元・南小(8)」「塾メンバー(15)」「2組なかよし(6)」など、属性と参加人数が異なるグループによるグループトークが想定されている。なお、カッコ内の数字はグループの参加人数を意味している。トークの受信時間も「18:37」から「23:41」までとさまざまであり、やり取りされている内容も異なる。

 これらのグループトークを見て、問題ないものからトラブルになりそうなものまでを、晴れ・曇・雨・雷という4段階で判断するというものだ。グループの属性、参加人数、トークの内容、受信時間など着目点が人によって違うので、特に意見が分かれるという。

 中には夜中の23時半過ぎに「誰かまだ起きてない?」という問いかけがあるものなどもある。この時間にトークに答えてしまうとやり取りが続き、眠る時間が削られる可能性も出てくる。しかし、このようなトラブルになりそうなケースへの対応に答はない。そこで、自分の考えた対応をカードに書かせて他人に評価してもらうという仕掛けも用意している。「評価コメントを見て予想外という子どももおり、人によって違うという気付きも得られる」。

 「同じカードワークを行っても中高生の方が鋭い」と浅子氏は言う。「大人はトークの内容だけを見て判断するが、中高生は誰が言ったのか、何時か、どういうグループか、トークとトークの間の時間なども見ている。男女で言えば女子のほうがグループワークでも意見が多いし鋭い」。

 自撮りが増えているため、カード教材には、自撮り写真で公開してもいいかどうか考えさせるものもある。「1-Bサイコー!」というピースした女生徒3人組、「バスケ楽しかった(^^)/」という集合写真、「ミナの家で勉強中www」という女生徒3人が部屋でくつろいでいる写真、「いつものお店!なう(^^)」という首から下の写真と食べているものの写真、「たかしといっしょ(ハート)」という彼氏と自撮りしたツーショット写真が並ぶ。

 首から下と料理しか写っていない写真などは、「顔が写っていないから掲載してもいい」と考える人は多いだろう。しかし、写真をよく見ると、メニュー部分の店名が写っていたり、「なう」というコメントから今いることが分かってしまう。さらにテーブルに置いたスマホケースから、他の写真と照らし合わせて個人が特定されることも考えられるという。写真は情報量が多く、いくつかを照らし合わせることで簡単に個人が特定されたり、危険が身に及ぶ可能性があることを学べる教材となっているのだ。

「経験した嫌なこと」と「されたら嫌なこと」は違う

 高校生版では、情報端末をどう活かしていくのかというプラスの側面も入ってくる。カード教材を作って小学生・中学生に教えるというワークも高校生版ならではのこと。「実際、ある高校で小学生にSNSの適切な使い方を教える『スマホミーティング』を行った。教えることで(自身も)考えるので、学びになる」。さらに、災害時の活用についてなど、大人でも参考になる内容となっている。

 LINEで高校生を対象として行った調査結果も掲載されている。「LINEで経験したことのうち嫌だと感じたことは」「LINE上でもしされたとしたら嫌だと感じると思うことは」という2つについて聞いたものだ。LINE上で実際に経験した嫌なことは「既読無視をされた」「話の最中にスマートフォンや携帯を触っていた」「未読スルーをされた」「スタンプを連打された」などが多い。

 一方、もしされたとしたら嫌だと感じるものは、「噂を広められた」「LINE上で自分の知られたくない情報が流された」「写真を勝手に公開された」「入ってないグループトーク内で自分の悪口を言われた」「グループトークから一方的に外された」などとなっている。実際にされた経験がある子どもは少ないが、このようないじめ的なことをされると嫌と感じていることが分かる。授業などでこのような感じ方の違いをテーマに取り上げても盛り上がるはずだ。

高校生向け「SNS東京ノート5」の内容例

学校現場での活用がポイント

 LINEでは情報モラルのワークショップや講演を行っているが、現在は小学校から高校までの依頼があり、中でも中学校からの依頼が一番多いという。「高校では講演形式のことが多いが、スマホを使い始めたばかりの高校1年生のときが一番トラブルが多い。最初にトラブルをどう回避するかが大切」。

 補助教材については、「学校の先生がどう活用するかがポイント」と浅子氏は言う。「イメージさえつかめれば授業ができるはずなので、カードを使ったワークショップにぜひトライしてほしい」。また、今後は効果測定もやりたいと考えている。教材で学んでどうしたのか、学校でどう教えているのかなどをデータとして取り、来年以降の改訂につなげたい考えだ。

指導者向けの「SNS東京ノート活用の手引」も用意。「SNS東京ノート」を授業で活用する際のポイントがまとめられている

親子間コミュニケーションのきっかけにしてほしい

 すでに述べたとおり、補助教材では保護者向けページを用意して、親子コミュニケーションがとれるようになっている。保護者世代には、「SNSなどよく分からない」という不安がある人が少なくないだろう。しかし、「教材を使って子どもと話し合うことで、子どもの考えを知ったり、危険を感じたりもできる。子どもとのコミュニケーションするきっかけとして使ってもらえれば」と浅子氏は利用を勧める。高校生を対象とした調査結果を話のきっかけとしたり、カードワークを一緒にやってみると子どもの新しい面の発見があるかもしれない。

 また、「親子でコミュニケーションをとるのが重要」と浅子氏は強調する。子どもたちは、何かトラブルがあったときに他人に相談しない傾向にあるという。相談する相手で一番多いのは友だちだが、それよりも多かったのは「何も行動しない」という子どもたちだった。「外国ではもっと相談する割合が高いが、日ごろからそういう話をしているかどうかという違いではないか。日常的なコミュニケーションがトラブルが起きたときに生きてくるので、そういう環境づくりが必要」。

 子どものスマートフォン・SNS依存が近年、問題視されている。「スマートフォンなどの端末は持ち始めが肝心。欲しがっていた子どもが端末を持ち始めたら一気にはまってしまうことも。特に夏休みは時間が余っているので、ゲームなどにはまることもある。家庭でルールを決めて使ってほしい」。

 「SNS東京ノート」は、冊子版が配布されているのは東京都の公立校のみだが、東京都のサイトではPDF版が誰でもダウンロードできるようになっている。前述のように発達段階に合った内容となっているので、自分の子どもの年齢と合った教材をダウンロードして活用するといいだろう。ぜひ、子どもとコミュニケーションしたり、家庭でのルール作りのきっかけとしてほしい。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/