10代のネット利用を追う

IT業界のパパ・ママは、自分の子どもにネットをどう使わせてる?

「Safer Internet Day 2018シンポジウム」レポート

 「Safer Internet Day 2018シンポジウム~インターネット上の諸課題と解決策の共有に向けて~」が2月6日に行われた。Safer Internet Dayとは、世界100カ国以上で官民が協力して安心・安全なインターネット利用に向けた啓発などの活動を行う取り組みのことだ。

 児童ポルノやリベンジポルノといった性被害対策や、事業者と相談機関の実効的な連携、児童のインターネット利用における家庭の役割など、多岐にわたるテーマについて、NGO、教育関係者、関係省庁など多様な主体が集い、議論する場となっている。

 当日は、IT企業や各省庁、NGOなどから多くの参加者が登壇して盛り上がった。IT業界のパパ・ママたちによるネット子育て座談会も行われたので、当日の様子をレポートしたい。

官民の協力が大切

 公益財団法人日本ユニセフ協会専務理事の早水研氏によると、Safer Internet Dayシンポジウムは、事業者や省庁との連携が進んでいることやこれからの連携の仕方を話し合う場として開催したものであり、今回が2年目となる。日本の取り組みは注目されており、ストックホルムで2月中旬開催の「End Violence Solutions Summit」でも報告予定だとした。

 一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)の吉川徳明氏(違法・有害情報対策部長)は、「ネットの情報は消せないというのは昔のこと。削除してほしいという願いが事業者に届けば、消すことができる。3万件の削除依頼のうち97%が削除されている」と明言。

 一方、削除依頼を出すことは難易度が高く、相談者と事業者にギャップがある状態なのも事実。そこで、間に入る相談機関と事業者との連携が重要になってくる。削除のみでなく、対応方法に関する情報を提供したり、心身のケアも大切であり、連携して課題を解決する必要があるというわけだ。

 法務省人権擁護局には、子どもの被害についての相談が来る。それに対してSIAは、「違法性は分からなくても削除依頼はできる。依頼すれば事業者が自主的に消してくれる。違法性を調べるには慎重であるべきだが、その部分は法務省がしてくれる」という。

 SIAは、NPO法人人権取引被害者サポートセンターライトハウスとも連携している。同代表の藤原志帆子氏によると、ライトハウスには、アダルトビデオへの強制出演問題、自画撮り被害、援助交際、児童ポルノなどさまざまな被害の相談が来るという。

 同事務局長の坂本新氏は、「流出している画像の削除を希望する人が多い。業者が消すための仕組み作りの部分で、SIAに協力してもらっている」という。

事業者による主体的な取り組み事例

ヤフー株式会社の佐川英美氏

 ヤフー株式会社の佐川英美氏(マネージャー)によると、0~3歳までにスマートフォンなどを使ったことがある幼児の割合は82.7%に上る。「スマホ育児という言葉の定義がはっきりしないうちに言葉がひとり歩きしているのでないか。親が手が離せないときに使わせてるから、ネガティブに感じられるのでは」。

 また、「理想的なインターネットデビューとは、自転車の乗り方を教えるときと同じ」という。自転車は安全な場所で安全に配慮されたものでスタートするが、ネットも同様に教えていけばいいという。また、子どもの見本となる使い方を気にしている保護者は80.4%に上る。保護者向けのチェックリストも公開中だ。

 グーグル合同会社の前田恵美氏(公共政策カウンセル)は、インターネットの安心・安全を守るための同社の取り組みについて紹介した。Googleの考えるアプローチは「3E」で表される。すなわち、年齢にあった設定を決められるツールを用意している「Empower」、学校や家庭などでも学べるものを用意している「Educate」、自分で何がいいか考え行動するための「Engage」である。

 株式会社メルカリの齋藤良和氏(リーダー)は、同社の安心・安全への取り組みについて紹介した。例えば、児童ポルノ作品流通撲滅のために自主的に削除するほか、自撮り画像などの決済手段としてのフリマアプリの利用禁止、青少年保護のための取り組みなどがあるという。

グーグル合同会社の前田恵美氏
株式会社メルカリの齋藤良和氏

 Twitter Japan株式会社の服部聡氏(公共政策本部長)は、同社の安全面に関する取り組みについて紹介した。特に児童の性的搾取への対策に力を入れており、例えば世界の児童の性的搾取アカウントの80%はTwitter社によって自主的に凍結されている。また、自殺関連語句を検索したユーザーに対して、相談窓口として東京自殺防止センターの連絡先を表示しているという。

 Airbnb Japan株式会社の山本美香氏(公共政策部長)は、Airbnbにおける安全性を担保するための「安全性」「透明性」「サポート」についての仕組みについて解説した。

Twitter Japan株式会社の服部聡氏
Airbnb Japan株式会社の山本美香氏

IT業界のパパ・ママも、子どものネット利用に悩んでる

 「IT業界のパパ・ママたちによるネット子育て座談会」は、クロサカタツヤ氏(株式会社企代表取締役)がモデレーターを務め、五十嵐悠紀氏(明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科専任講師)、江口清貴氏(LINE株式会社公共政策室長)、別所直也氏(ヤフー株式会社執行役員)、飯村由香理氏(総務省情報通信国際戦略課)が参加した。

クロサカタツヤ氏

 全員が子どもを持つパパ・ママだ。クロサカ氏は、小学4年・1年女子の二児のパパ。別所氏は中学3年男子のパパ。五十嵐氏は、小学3年男子・幼稚園年長男子・保育園に通う3歳女子の三児のママだ。飯村氏は、中学1年女子と小学2年男子という二児のママ。江口氏は、小学5年女子のパパという立場だ。

 クロサカ氏は、「子どもにネットやスマホを使わせるかどうか悩んでいる」と告白。「どんどん使わせるか禁止するかで悩んでいる。1つの正解が出るような話ではない」。

 メンバーの中で、五十嵐氏は『AI時代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55』という著書も出しており、デジタル教育の専門家。

 一方の江口氏は、子どもが小さいころから端末を渡しており、「基本放置」。自分も小さいころから触れてきて好きが高じて専門家になったこともあり、飽きるまでさせるというポリシーだという。やってはいけないものを示すのではなく、「こう使ったらおもしろい」と示してきたそうだ。

子どもにデジタル機器を持たせた年齢と機器は?

 ここからは、お題に合わせた内容について聞いていった。最初のお題は、「子どもにデジタル機器を持たせた年齢と機器は?」だ。

飯村由香理氏

 クロサカ氏の小学4年生の娘さんは、昨年秋に「パソコンがほしい」と言い出した。「パパが楽しそうに使っているから」というのが理由で、キーボードを叩いて何かするのがかっこよく見えたらしい。結局、iPadにキーボードを付けてクリスマスにプレゼントした。

 娘さんは現在、キーボードトレーニングをしたり、検索サイトで調べたりしている。ペアレンタルコントロール的に考えて、検索サイトはYahoo!を選んだ。「どの端末、どの環境、どのアプリ、どのサイトならいいのかすべて悩む」。

 YouTubeでは次々に動画がお薦めされるので、「娘が思ってもいない動画を見ていたことがあった」というクロサカ氏。「YouTubeに関しては、父母が履歴を見せるように言ったら見せるよう言っている。ただ、これが正解かどうかは分からない」。

 飯村氏が上の子にスマホを持たせたのは小6の終わりだ。ルールとして、アプリは親が入れ、1つ入れたら1つ削除するようにしている。「YouTubeを見すぎている点は心配」という。上の子はうまく制限できても、兄弟が多いとどうしても下の子は利用を開始するのが早くなりがちだ。飯村氏の家も、下の子は乳幼児のころからiPadでYouTubeや音楽ゲームを楽しんでいる。「放っておくとどんどん見てしまうので、親が利用を見るべきと思いつつもできていない」。

別所直也氏

 別所氏の場合は、幼稚園児のころにニンテンドーDSを持たせたのが最初だ。ネット接続もできたが、パスワードなどはすべて親が管理していた。小学校ではケータイを使っていたが、中学校では「iPhoneが欲しい」と言い出した。「みんな持っているし、Androidだと馬鹿にされるので、iPhoneがいい」と言われたそうだ。iPhoneではダウンロードを制限した上で、Safariも使えないように制限。利用は夜の22時までとして、充電は別の部屋で行い、朝まで触れないようにという約束になっている。

 五十嵐氏は、長男は最初がお古のiPod touch、次男はiPadを与えたという。2人とも2歳くらいから利用し始め、長男はフリック入力を覚えたが、次男は音声入力を覚えたそうだ。長男は「ScratchJr」を使っていたが、「パソコンがほしい、『Scratch』がいい」と言い出すように。最近は、検索したりプログラミングをしたりしている。

 「YouTubeの履歴は時々確認している」という五十嵐氏。「最初の動画だけ英語で検索したら、英語の動画しか出てこなくなるからいいよ」とママ友に勧められて実行したところ、英語の動画のおかげで子どもの英語の発音がよくなったそうだ。

 ただ、末の娘さんのころには自由にYouTubeを見せるようになってしまい、「娘は『はい、ここから開けてみます』とYouTuberのマネをしている」。Nintendo Switchも、「友だちが持っているから欲しい」と言われて購入した。「家では1人だけど、友だちと日曜の何時からと決めて同時に遊んでいる」。

江口清貴氏

 江口氏は、発売日にApple製品を買っては、次々とお古を子どもに渡している。iPhoneやMacBookも含め、制限などはせずそのまま渡しているが、「自由だから悪事をするわけではない。子ども自身、自分なりのルールは守って使っている」という。「自分自身は、ダメと言われたことこそ見たいという経験がある」。

 江口氏は、「スマホの制限を解除しようと勝手に初期化して使えるようにしたとしても、『知恵がついているのだからある意味いい』と考える。自分自身は、命がとられるなどのクリティカルなことが起きなければ、基本、見守るポリシーだが、家族には怒られている」。

IT業界のパパ・ママのネットトラブル事例

 次は、「これは困った我が家のネットトラブル事例」がお題として上がった。

五十嵐悠紀氏

 五十嵐氏の例は興味深い。名前や住んでいるところを入力するアプリがある。それを使っていた子どもが本名を入力し、『東京都ってどうやって書くの?』と聞いてきたという。結局、「正確な住所ではなくて、『公園の隣』とかでいんだよ」と伝えたそうだ。「このときは、なぜ個人情報を入力してはいけないかを話すきっかけになったが、気付ける距離で使わせたい」。

 また、子どもが何でもかんでも分からないいと「検索して」と言ってくるようになったことも気になっているそうだ。「調べる方法は、辞書や図鑑でもいい。ネットで調べた方が分かりやすいこともあるが、それだけにならないように工夫すべき」。

 クロサカ氏も、娘が折り紙を折ってと言ってきたときのエピソードを紹介。親なりに夜中に練習したが、結局できなかった。ところが、動画で見せると一発でできたという。「子どもが折り紙の折り方を身に付けるだけなら動画でいい。でも、親子の関係で『パパもがんばったけれど、ここまでしかできなかった』と見せる意味が消えている」。

 飯村氏の息子は、休日にDSを持って遊びに行くことがある。そのとき、ポケモンキャラクターが取られる事件が起きた。無理やり「交換しよう」と大きい子に言われてしまったのだ。「ネットだけでなく、友だちとのやりとりなどコミュニケーションを気を付けることも大切と思った事例だった」。

 江口氏は、「端末にパスワードを設定していても、3日もあれば子どもに解除されてしまう。指紋を読み取って解除したことも」という。娘さんがYouTubeを見てパスワードロックを解除する方法を学んでおり、「観念した」そうだ。「やりたいことありきで試行錯誤して出た知恵だからいいかなとポジティブに考えているが、僕のスマホのパスワードも解除されて、写真を見られて大変なことになった」と苦笑していた。

 別所氏は、「息子はネットにつながったデバイスをエンタメのためと割り切っており、ゲームなどにしか使っていない」という。利用時間も、平日は夜の10時までと決まっている。ただし、長い休みは利用時間を伸ばしている。「ある時、友だち数人で夜中ずっとゲームをやり続け、生活リズムに影響を受けてしまった」。

親が率先すると、子どもも自ら律せるようになる

 最後のお題は、「自らを律する方法は?」。

 五十嵐氏の家庭では、子どもがデジタルデバイスを使っていることに両親とも賛成というわけではなく、夫は反対派だ。だから子どもにも、「ママが見ている間は使っていいが、パパがいる前ではダメというルールができた」。パパが帰ってきたら終わりにするというルールだ。しかし、利用を隠すのではなく、自分が作った絵本をパパに見せたりしているという。

 五十嵐氏自身も、「晩ごはんの間はそばにスマホを置かない、メールもしない」というルールを自分に課している。「自分を律するのは難しいが、子どもには『親子で守ろうね』と言っている」。

 これを聞いて、「ぐさぐさ刺さっている」とクロサカ氏。「メールを1通でも返したいので、朝ごはん作りながら返したりしている」。

 それに対して五十嵐氏は、「『そのくらいいいのか』と子どもに思わせてしまう。『朝は子どもの時間』とするなど、メリハリをつけるべき。『私にはダメと言っているけど、お母さんは自分では守ってなかったよね』と言われるのはよくない」。

 五十嵐氏は、「子どもはネットの利用において、『どうすればいい、次どうすればいい』と聞く。しかしそうじゃなくて、お母さんも分からないし試行錯誤していると見せることも大事」とした。

 クロサカ氏は、「今日から律するはできなさそうだが、今日からも子どもに教わることならできるのではと思っている」とまとめた。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/