10代のネット利用を追う

“自画撮り”によって自分の裸がLINEやネットに流出する危険性、被害に遭わないためには「撮らないこと」

リベンジポルノ被害の相談、10代では6割が自画撮り

警察庁と文部科学省が出した共同メッセージ「夏休みを迎える君たちへ~ネットには危険もいっぱい~」(PDF)の冒頭部分

 “自画撮り”被害が増えている。自画撮り被害とは、だまされたり脅されたりして自分の裸体を撮影させられ、メッセージなどで送らされる被害を指す。警察庁と文部科学省は6月、「夏休みを迎える君たちへ~ネットには危険もいっぱい~」(PDF)という、自画撮り被害の怖さを訴える共同メッセージを出している。

 この共同メッセージによると、2016年の児童ポルノ事犯において自画撮り被害に遭った子どもは480人で、前年比104人の増加。そのうち7割強がスマートフォンを利用してコミュニティサイトにアクセスしたことによるものだ。自画撮り被害に遭った子どもの内訳は、中学生が52.7%、高校生が39.2%、小学生が5.8%で、中学生が半数以上を占めている。

 ところが、今の法律では、自画撮り画像を求めただけでは罪には問われない。そこで、東京都が対応を進めている。自画撮り画像を求めた時点で取り締まれるよう、条例改正を含め、2017年2月より青少年問題協議会で検討(第31期東京都青少年問題協議会緊急答申「児童ポルノ等被害が深刻化する中での青少年の健全育成について」(PDF))。夏ごろまでに結論を出す予定となっている。

 こうした自画撮り画像は、リベンジポルノ(本人の意思に反してネット上に掲載された私的な性的動画像)として流出してしまう危険性もある。ネット上の違法・有害情報の通報窓口を運営している一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)によると、同窓口に寄せられたリベンジポルノの相談のうち、10代は自画撮り動画像の流出に関する相談が多いという。SIAで違法有害情報対策部リサーチャーを務める吉井まちこ氏に、状況を聞いた。

2つのホットラインで違法・有害情報の通報を受付、掲載サイトへ削除依頼

 SIAは、インターネットビジネスに携わる企業の有志によって2013年に設立。「インターネット・ホットラインセンター」「セーフライン」という2つのホットラインを運営している。

 インターネット・ホットラインセンターは警察庁からの受託事業であり、インターネットユーザーからインターネット上の違法情報の通報を受理し、警察への通報やプロバイダー/サイト運営者などへの削除依頼を行う。

 一方、セーフラインでは、同様にインターネットユーザーからインターネット上の違法・有害情報について通報を受け付けているほか、児童ポルノなどの違法情報に関してはSIA自身がインターネット上のパトロールも実施。通報やパトロールで発見した情報は、警察へ通報したり、プロバイダー/サイト運営者などには削除要請も行っている。

「インターネット・ホットラインセンター」のサイト
「セーフライン」のサイト

 さらにセーフラインの特徴として、リベンジポルノにも対応していることが挙げられる。リベンジポルノ被害者向けの窓口サイト「リベンジポルノの被害にあわれたら」を開設しており、被害者本人からの通報(相談)を受け付けているのだ。これは、児童ポルノなどとは異なり、リベンジポルノは第三者からではリベンジポルノなのかどうか判断できないためだ。被害者本人からセーフラインに通報(相談)があって初めて対応に動き出すことになるが、海外のプロバイダー/サイトなどに対する削除依頼も含め、SIAが被害者本人に代わって行ってくれる。

リベンジポルノ被害者向けの窓口サイト「リベンジポルノの被害にあわれたら」

 つまり、インターネット・ホットラインセンターでは、国内のわいせつ関連、児童ポルノ関連、薬物関連、振込詐欺関連、不正アクセス関連など、刑事罰の対象となる違法情報を中心に対応。一方、セーフラインではこれを補完するかたちで、リベンジポルノやネットいじめといった立場の弱い個人に対する権利侵害や、公的活動では対象としにくい遺体や殺害行為などの有害情報まで扱うということになる。

「セーフライン」の通報フォーム。「個人へのいじめ」「リベンジポルノ」にも対応する

管理者が放置しているサイト以外は、ほぼ削除可能

 インターネット・ホットラインセンターとセーフラインが通報を受けたりパトロールすることで把握した情報の総件数は、2016年の1年間で約30万件に上る。インターネット・ホットラインセンターでは、大半が一般からの通報で情報を把握しているが、セーフラインの方は一般通報とパトロールが半々くらいだ。

 そのうち、SIAのガイドラインに基づいて違法または有害情報に該当すると判断されたものは、違法情報が約4万7000件、有害情報が約2000件。内訳は、インターネット・ホットラインセンターではわいせつ情報が81%、児童ポルノが10%。セーフラインでは、児童ポルノが89%と約9割を占めており、次いでリベンジポルノが7%となっている。

「インターネット・ホットラインセンター」「セーフライン」が違法・有害情報と判断した情報の内訳

 そのうち、SIAが実際に削除依頼を出したものは約3万件となる。違法・有害情報と判断された件数と削除依頼数の間に2万件近くの開きがあるのは、掲載されていたサイトの規約違反などにより、SIAが削除依頼をする前にすでに削除されたためだ。

 SIAでは削除依頼はするが、表現の自由の問題もあり、違法・有害の線引きは難しいため、「策定したガイドラインに則って判断するほか、弁護士などの第三者に相談して決定している」という。ガイドラインは、新しく大きく状況が変わるものが出てくる度に話し合って定め直している。例えば、リベンジポルノは以前も対象だったが、2013年に東京都三鷹市で起きたストーカー殺人事件を受けて法制化されたときに定義し直している。

 違法・有害情報の掲載サイトの所在地を見ると、国内が42%に対して国外が58%と海外のほうが多い。削除率(削除依頼した違法・有害情報が、掲載先のプロバイダー/サイトで削除された割合)を見ると、国内が98%、国外が95%、全体では97%と、国外サイトにおける削除率も非常に高くなっている。

 児童ポルノの削除率は97%、リベンジポルノの削除率も91%と非常に高い。そもそも児童ポルノは世界的に禁止事項に当たっているため、どの国でも削除対応してもらいやすい。また、リベンジポルノは投稿されているのが一般サイトであることが多いため、アダルト動画像自体が規約に違反しているということで削除対応してもらえることが多いという。

 一方、違法薬物は日本では違法だが海外では違法ではないものもあり、「この国では違法ではないので削除しない」と断られることもある。また、無修正の裸の画像も国によっては違法ではないため、削除対応にならないこともあるなど、国による違いはある状態だ。

「インターネット・ホットラインセンター」「セーフライン」による違法・有害情報の削除依頼数と削除率

 削除に至らない3%は、管理者が放置しているサイトだという。しかし、対応や連絡がなくても、一定期間で再度連絡を送るようにしている。97%というのは削除依頼を出してから5日間での削除率なので、その後で削除されているものもあるという。

リベンジポルノ被害者からの相談、10代は“自画撮り”のケースが6割

 2016年にセーフラインに寄せられたリベンジポルノに関する相談を見ると、女性からの相談がほとんどであり、年齢別に見ると、10代と思われる人物からが2割、20代が6割近く、30代以上が2割となる。10代では自画撮りをしていることが多く、自画撮りした動画像の流出に関する相談が約6割に上る。一方、20代以降は、相手に撮ってもらっているものが多い。

 自画撮りのほとんどはスマートフォンによるものだ。「自撮りだと可愛く見えるように撮ろうとするので、より情報が多くなり、他人から見ても顔がはっきり分かるものが多くなっている」という。

 リベンジポルノ動画像が掲載されていたサイトは、動画投稿サイトが約4割、SNSやアダルトブログが約2割だ。アダルトブログなどは互いに連携しており、1つのブログに掲載されたコンテンツはほかのブログにも掲載する仕組みになっていることが多いため、そういうサイトに掲載されていたら1つ1つすべてに削除依頼をかけていく。

 リベンジポルノの中には、元交際相手やネット上のみの知り合いに送った動画像が流出してしまうケースもある。知り合いが共通のLINEグループに投稿してしまったり、Twitterに掲載してRTで拡散してしまうケースもある。

 中でも自画撮り動画像に注目すると、嫌がらせや悪ふざけによって送信されたり流出するケースが多い。例えば、元交際相手やネット上で知り合った人などが嫌がらせ目的でSNSなどに投稿する。そのほか、LINEなどでグループ宛てに送られた動画像を別の人に送ってしまったり、悪ふざけで掲示板などに投稿されてしまう例もある。

 「セーフラインでは誰でも見られる状態になっているものしか対応できず、LINEグループなどは対応できない。ただし、そのような情報が外に出た段階では対応できるようになる」。

 中には、脅迫やわいせつ目的で送信させられ、流出するケースもある。例えば、ネット上で親切な人を装い、悩みなどを聞いて親しくなって聞き出した個人情報などを盾に、「裸の写真を送らないと個人情報をばらまく」などと脅迫して被害者から動画像を送らせているケースもある。身体の相談や裸の画像の交換など、脅迫や強要ではないやり方で送信させているケースもあるそうだ。

 そのほか、機種変更やアプリの設定ミスなどで、自分や交際相手が保存していた動画像を送信してしまったり、外部から閲覧できる状態にしてしまったりして、それを発見した第三者にSNSなどに投稿されたという例もある。男性から寄せられる相談は、このケースに該当することがほとんどだ。

「セーフライン」におけるリベンジポルノの対応状況(相談数、削除依頼数、削除率)

「撮らない」ことが、被害を防ぐ最大のポイント

 加害者の手口はほぼパターンが決まっている。お茶の水女子大学教授の坂元章氏によると、執拗に要求する、脅迫する(性的写真をネタに要求したり、顔写真を出会い系サイトなどにばらまくとか、援助交際などの虚偽情報を掲載すると脅迫)、金銭や物品(スタンプ、チケット)を渡すと約束する、同性や魅力的な異性になりすます、加害者から性的写真を送る、要求をエスカレートさせていく、大勢の子どもにアプローチする――などだ。典型的な手口のパターンを知っておくことは、被害を防ぐために大切だろう。

 「自画撮り被害を防ぐためには、裸の写真など、他人に見られては困る動画像はそもそも撮影しないことが大切」と吉井氏は語る。未成年者の場合は、自分の裸を撮影しただけで児童ポルノ禁止法の「製造」に当たるため、そもそも撮影すると処罰の対象に該当することになる。

 また、困ったらすぐに大人に相談することも教えておくべきだろう。ただし、問題の性質上、保護者や学校には相談しづらいことが考えられる。そのようなケースに備えて、セーフラインなどの相談窓口や自治体の青少年の相談窓口などの相談機関の存在を子どもに伝えておくといいだろう。

一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)違法有害情報対策部リサーチャーの吉井まちこ氏

 すでに紹介したように、自画撮り動画像やリベンジポルノの大半はサイト上に掲載されても削除は可能だ。ただし、一気に広がってしまうと削除しきれないこともあり、掲載されたサイトの数が少なければ少ないほど対応しやすい。なるべく早めにセーフラインに相談することが大切となる。「学校とか保護者には言わないし、必要最低限の情報で対応する。掲載されたくない動画像がサイトに掲載されてしまった場合は、なるべく早くセーフラインに相談してほしい」。

 もちろん、削除したから問題がすべて解決するというわけではない。サイト上に載っているものは削除できるが、第三者がPCなどに個人的に保存したものは消せないし、再度アップロードされる可能性もある。そこで、SIAでは東京都ウィメンズプラザと協力し、心の悩み相談にも乗ってもらえるようにもしている。「セーフラインは掲載されてしまった情報の削除ができ、ウィメンズプラザでは相談ができる。それぞれで協力してこそ全体がカバーできる」。

 今は、ほとんどの情報が削除できるようになっている。あきらめず、被害に遭ったらできるだけ早くこのような相談機関に相談することの大切さを感じた。

高橋 暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/